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8 お兄たん、お願い! 街の人たちのために、あの悪魔を退治してあげて!

「ポ、ポルティア! 誤解だ! この人は、関係ない!」


「関係ない?」


「そう、まったく関係がない! ほら、悪魔が来てるだろう?」


「悪魔?」


「ほ、ほら、あれだ! あれが街を襲ってきたから、この人はオレを安全な場所に誘導してくれたんだよ! それにこの人は、さっきのお店のウェイトレスさんだ!」


「ひょっとして――こんなに真っ暗になってるの、あのヘンな黒いやつの仕業なの?」


「え?」


「あいつが来たから、街がこんなに暗くなっちゃってるの?」


「そ、そうなんですよね?」


 オレは、ウェイトレスさんに確認する。

 彼女はポルティアにビビりまくっていたが、何度も無言でうなづいた。

 オレは、ポルティアに訊く。


「って言うか、ポルティア。あの悪魔、キミの知り合いじゃないの?」


「知り合い?」


「いや、だって、ぶっちゃけ、キミ、この街の人たちに、あの悪魔の友だちだって疑われてるぞ?」


「え? 私が? アレと?」


「ですよね?」


 ウェイトレスさんに訊くと、彼女はアワアワと同意するように何度もうなづいた。


「ほら。ウェイトレスさんも、そうおっしゃってる」


「マジかぁ……で? お兄たんはどう思ってるの?」


「いや、でも、オレら、まだそんなに親しくないし……わかんないじゃん、そういうの?」


「親しく、ないって……」


 オレのその言葉に、ポルティアがいきなり放心した。

 持っていた果物の袋が地面に落ち、彼女は両手で自分の顔を押さえる。

 な、泣いてる?

 何にしても、オレごときのひと言で、こんなに傷つく人を初めて見た。


「ご、ごめん! あの、そ、そういうつもりで言ったんじゃないんだ! 何と言うか、その……」


「じゃあ……どういうつもりで言ったの?」


「いや、あの、そ、そうだ! く、黒だよ、黒! ポルティアって、黒い服着てるじゃん? だから、あの、空飛んでる悪魔と同じ感じだなって! お揃いだね、黒! お友だちだね! 的な? そんな感じの意味で言ったんだ! なんだかキミとはめちゃくちゃ親しくなってきたから、その、からかってみた!」


「だったらお兄たんだって黒じゃん? お兄たんだってお友だちじゃん?」


「いや、まぁ、それはそうなんだけど……オレはこの街に来るの初めてだし、キミはずっとここに住んでるわけだろう?」


「私、あんなダサいのと友だちなんかじゃないもん! 私の服、あんなに小汚い黒じゃないもん!」


「そ、そうだよね! みんな、失礼だよね! ポルティアが着てる黒は、ぜんぜんダサくない!」


「でもお兄たんも、最初は街の人たちと同じ感じで思ってたんじゃない?」


「いや、一瞬そう思ったんだけど、すぐに違うとわかったよ。よく見ると、ぜんぜん似てない。あいつのはダサい黒、ポルティアのは上品な黒!」


「ウソ! 黒は黒じゃん! 私が言ってるのは、黒を身に着けてる者の品格だよ!」


 オレは、いよいよメンドくさくなってくる。

 こんな話、すぐに終わらせてしまいたい。

 そう思った次の瞬間――オレは真顔で、ポルティアを見下ろしていた。


「まだまだだな、ポルティア……」


「え?」


 その言葉に、ポルティアは従者の瞳でオレを見上げた。

 思いつきで、オレは闇堕ち・中2病フルスロットル女子が好きそうなワードを並べていく。


「黒は……身に着ける者の魂によって、その色彩を変える。黒は黒だと言い切る貴様には、まだこの世界の本質が見えていない……」


「き、清らかなる闇の魂様……い、いえ、お、お兄たん……」


「精進しろ。魂の呼び声に耳を傾けるんだ。貴様が心から、真の魔術師になりたいのならばな」


「は、はい……申しわけございませんでした」


 兄妹の設定を忘れ、ポルティアは清らかなる闇の魂であるオレの説教にめちゃくちゃ感銘を受けている。

 よし、上手くごまかせた。

 さて……問題は、これからどうするか? だ。


「そんなわけで、あの、ウェイトレスさん」


 オレはあっ気にとられている彼女に声をかける。


「は、はい」


「ウチの妹・ポルティアは、あの悪魔の仲間ではございません」


「そ、そうなのですね……」


「まぁ、だからあの、こいつ、ただの子どもなんで。良かったら、今後こいつにもっとフレンドリーな感じで接してやってください」


「は、はい。わ、わかりました」


「じゃあ、あの悪魔がショボいコソ泥をはじめる前に、帰ろっか、ポルティア?」


「あの、お兄たん」


「何だよ? 早くしないと、あの悪魔が襲ってくるぞ? 早く帰った方がいい」


「いや、そうじゃなくて」


「何?」


「私、お兄たんにお願いがある!」


 涙をぬぐいながら、ポルティアがオレを見上げる。


「いや、お願いなら、お屋敷に帰ってからにしよう。まずは、あのコソ泥から逃げて――」


「お兄たんって、清らかなる闇の魂様なんだよね?」


「あ、あぁ。まぁ、拙者、いかにも」


「じゃあ……退治して」


「はい?」


「あの悪魔、この街の人たちにひどいことしてるんだよね?」


「まぁ、確かに、クソみたいな万引きって言うか、盗人行為を――」


「じゃあ、退治してあげて! 街のみんな、可哀想じゃん! 清らかなる闇の魂様の力、私、見てみたい!」


「ゑ……」


 その言葉を聞いたウェイトレスさんが、いきなりオレの肩を掴んでくる。

 彼女の顔は、必死だった。


「あ、あなた様は、ひょっとして魔術師様なのですか?」


「うん! そうだよ! お兄たんは、超すごい魔術師なんだ!」


 ポルティアが、無邪気に余計なことを言う。

 いや、ちょっと待てよ、ポルティア……。


 それは昨夜、便宜的に言っただけで……なんでオレが、清らかなる闇の魂なんだよ?

 学力で言ったら、オレ、ちょっとフツーより下回ってるぞ?

 まぁ、なんで学力を引き合いに出すのか、オレ自身もよくわかんないんだけど……。


「た、助けてください、偉大なる魔術師様! この街の人々は、みんなあの悪魔にどうしようもない仕打ちを受け続けているのです!」


「いや、でも、仕打ちって……作物を持っていかれたり、空を真っ暗にされたり、なんですよね? 万引きGメンとか、そういうのを雇えば……」


「皆、もはや我慢の限界なのです! 人々は平和な、何一つ波風のない生活を求めています! ここはどうか魔術師様のお力を!」


「お力と言われましても……」


「ねぇ、お兄たん?」


 ポルティアが、すがるような妹の瞳でオレを見上げる。


「な、何?」


「お兄たんは………ずっと死の森で暮らしてくれるんだよね? 私といっしょに」


 ポルティアの、無垢な瞳。

 何故かはわからないけど、オレを信じきっている表情。


 いや、ちょっと待ってくれよ……。

 キミみたいなチビッコ女子に、そんな目で見られたら……。


「ま、まぁ……」


「だったら――この街の人を助けてあげて! 私もずっとあの死の森で生きていくんだ! 街の人たちが困ったり悲しい思いをしたりするのは、絶対にイヤだよ!」


「だったら……キミがやればいいんじゃないかな? キミだって、その、魔術師だろ?」


「私はダメだ……まだ駆け出しの魔術師だから……悪魔には勝てない……」


「勝てないのかよ……」


「でも――清らかなる闇の魂様なら、絶対に勝てる! お兄たん、お願い! 街の人たちのために、あの悪魔を退治してあげて!」


 オレの肩を掴む、懇願するようなウェイトレスさん。

 涙を浮かべながらこちらに訴えかけてくる、なんちゃって妹。


 あの、これ、どう考えたって、もはや断れない状況なんですけど……。

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