1 聖なるインクに導かれた、清らかなる闇の魂
気がつくと――オレはそこにいた。
右も左も、上も下も、見渡す限りの深い闇。
その中を、たった一人で浮遊しているような、ミョーな感覚。
ここは……一体どこなんだろう?
――わからない。
とりあえず、腕を動かしてみる。
すると、手のひらに何かの抵抗を感じた。
まるで海やプールの底にいるような。
ってことは……これって……液体?
オレは液体の中にいるんだろうか?
それにしては、随分と長く息が続く。
おまけにここが液体の中だとすれば、かなりの深さだ。
フツーだったら、間違いなく溺れ死んでいる。
だが不思議と……息苦しくはなかった。
寒くもなければ、暑くもない。
それどころか、わりと快適。
周りがまったく見えない、真っ暗なこの状況以外は。
両手両足を動かしてみる。
問題なく、それは機能した。
ボーッと、その暗闇の中でオレはたたずむ。
何だろう……この無重力感……。
もしかしたら宇宙遊泳って、こんな感じなんだろうか?
まぁ、オレなんかが宇宙に行けるわけがないので、想像するしかないんだけど……。
さて――どうしたものか?
って言うか、ここはマジでどこだ?
見渡す限りの暗闇。
ってことは、ひょっとして死後の世界?
マ、マジか?
ひょっとしてオレ、死んだの?
いや、いや、いや。
しかしそうでなかったとしても、周りがあまりにも暗すぎる。
その時――突然、全身がフワッと舞い上がるような感覚に襲われた。
何かに引っ張られるように、オレの体が上昇をはじめる。
こ、これ……もしかして浮いてるの?
この謎の無重力感から遠ざかるように、オレはどんどん上へと吸い上げられていく。
一体、どのくらいの時間が経っただろう?
やがてオレの頭上に、歪んだ小さな光が見えはじめた。
あれが出口――なのか?
この液体の表面?
いや、そんなことはどうだっていい。
とにかくここはどこなんだ?
上に広がる歪な光が、どんどん大きくなってくる。
間違いない。
オレは、この暗闇から浮き上がっている。
オレは、生きてるんだろうか?
もし死んでいるのなら、あの光は天国への入口だろうか?
わからない。
だが少なくとも、こんな暗い場所にいるより、あの光の中に行った方が良いような気がした。
やがてオレの頭上に、まばゆい光しか見えなくなる。
真新しい光の中に、オレは吸い込まれていく。
「ぶふぁあ!」
ようやくオレは、その液体の中から顔を出した。
視界に広がる、きらびやかな光。
ここは……どこだ?
ただひたすらにだだっ広い、豪華な室内。
まるで美術館のように、花瓶や絵画がアチコチに飾られている。
が、外国の家?
って言うか、ホラーゲームとかによく出てくる謎のお屋敷?
オレの目の前に――一人の少女が立っていた。
ツルツルとした、ストレートの黒髪ロングヘア。
ちょっと、清楚な感じ?
彼女が着ているのは、真っ黒な洋服だ。
派手なのか地味なのかよくわかんない、ドレスみたいなやつ。
ゴス、って言うんだろうか?
ミニスカートから伸びる彼女の白い足が、部屋の照明でピカピカと輝いている。
その佇まいは、どう見たって……闇堕ち・中2病フルスロットル。
オレたちの――目が合った。
な、何だろう……。
この子、ちょっと肌が白すぎゃしないか?
何て言うか……少し病的なくらい……。
顔はどう見たって日本人。
つまり、セクシーではなく、可愛い。
オレがその場から動けないでいると、その子がニヤリと口の端を吊り上げる。
なんとなく、呪われそうな微笑み。
失礼だけど、ケッコー不気味だ。
えっと、あの……こ、この子、ひょっとして……ヤバい人?
つまり、アレな人?
オレが戸惑っていると、少女は不敵な感じでゆっくりと口を開いた。
「ようこそ。聖なるインクに導かれた、清らかなる闇の魂様」
う、うわぁ……。
これ、マジで、アレな人だ……。