四年ぶりの大好きを、今ここで。
放課後、職員室の扉を開けた瞬間、聞き覚えのある声が俺を刺した。
「ねえ、4年ぶりに戻ってきたのに、どうして声かけてくれないの?」
振り向くと、そこには美紀がいた。中学1年の秋に別れて以来、初めて見る彼女。ショートカットの黒髪が揺れ、華奢な肩が少し震えている。転入の手続きを終えた俺を、彼女は廊下で待ち伏せていたらしい。
透き通った瞳に怒りと悲しみが宿っていて、俺は一瞬で息を呑んだ。
「久しぶりだな、美紀。朝からバタバタしててさ、声かけるタイミングが…」
言い訳が喉に引っかかる。彼女は一蹴した。
「嘘だよ。ずっと私を避けてたの、見てたらわかるよ。幼馴染だし、彼女だったんだから。」
その鋭さに言葉を失う。確かにその通りだ。4年ぶりに会った彼女を前に、どうしていいかわからなくて目を逸らしてた。
「黙らないでよ。また逃げる気?」
美紀の声が割れる。瞳に涙が滲む。
「この4年、一度も君を忘れたことなんてなかったのに…!」
その一言が胸を抉る。4年前、親の都合で転校した俺は、彼女に「別れよう」とだけ告げて逃げ出した。それでも美紀は、俺を想い続けてくれたらしい。
「当時の俺、ガキすぎてさ…どうしたらいいかわからなかった。こっちに戻れるかもわからなかったし、お前を縛りたくなくて。悪かった。」
「ふーん。他に何か言うことある?」
美紀の視線が俺を貫く。逃げ場がない。
「あっちで…彼女ができた。でも…」
「何!?」
怒りに震える声が空気を裂く。
「お前さっき『彼女だった』って言ったけど、俺の中じゃ4年前に終わった話だ。あの時、別れようって言っただろ。」
「知らないよ…!私はずっと、ずっと君のことが好きだったのに…!」
美紀が膝をつき、涙が床に落ちる。
俺は思い出す。中学の帰り道、恋愛映画を見た後に彼女が呟いた言葉。「遠距離なんて、私には無理だな」。それが頭に焼き付いてて、彼女を苦しめたくないから別れを決めた。
でも彼女は、そんな俺の気持ちを無視して、4年間ずっと俺を待ってた。
「お前の気持ち考えて別れたつもりだった。お前が好きだったから、幸せになってほしかったんだ。」
「⁉何もわかってないよ…!告白してきた男、全部断って、君のことずっと待ってたのに…!」
そりゃそうだ。美紀は抜群に可愛い。ショートカットが似合う整った顔、華奢で儚い雰囲気。アイドルだって霞む透明感。男なら誰だって彼女に落ちる。
それなのに、彼女は俺だけを選んでくれた。
拳が震える。俺の選択、全部間違ってた。
「自分勝手すぎるけど…俺はお前が好きだ。あの時、お前が遠距離は無理って言ったの覚えてて、辛い思いさせたくなくて別れた。でもあっちで彼女作ったのは、お前を忘れるためだった。」
「で、忘れられた?」
美紀の声が冷たく響く。
「忘れられるわけねえだろ…!」
言葉が詰まり、俺は膝をついた。
「本当に、悪かった。」
美紀は俺を見下ろしてたけど、やがて掠れた声で言った。
「君のそういうとこ、嫌い…。ちゃんと、言葉にして。」
俺は顔を上げ、彼女の涙で濡れた瞳をまっすぐ見つめた。
「この4年、お前がずっと好きだった。忘れるために彼女作ったけど、無理だった。こっちに戻れるって決まった時、彼女と別れて、お前のいる高校に転入してきた。お前のことが、この地球上で一番大好きだ。」
顔が熱い。恥ずかしさに死にそうになる。
でも美紀は涙を拭って、4年分の悲しみを吹き飛ばす笑顔を見せてくれた。
「今回だけは許したげる。もうその代わり急にいなくなったりしないでそばにいて、私だけをみていて。」
4年ぶりに会った彼女は、やっぱり俺の好きな人だった。過去の過ちは消せない。でも、これから彼女を誰より幸せにすると、心の底から誓った。
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