第五話
王城に戻った私は、騎士たちに案内されながら豪華な館へと向かっていた。途中、城内の廊下で見かける貴族たちや使い走りのメイドたちは、私に気づいて頭を下げたり、軽くお辞儀をしたりして通り過ぎる。まるで王族になった気分である。...王族なんだけど。
「敬われるって良い気分かも…」
自分の周りに漂う高貴な空気を感じながら、私は思わず口元を緩ませた。そのまま、騎士に案内されていく先には、広大な玉座の間が広がっていた。
「姫様、どうぞお座りください。」
騎士の案内で、私はその美しい玉座に腰をかけた。王宮の威厳が漂うこの空間で、私はまさに支配者のような気分を味わっていた。しかし、この場所で、次に何をすべきかはまだわからなかった。
「さて、これからどうしようか。」
その時、突然、玉座の間の扉が開かれ、一人の女性が入ってきた。彼女は、長い黒髪をひとつに束ね、優雅で落ち着いた雰囲気を持った貴族のような服装をしている。彼女の美しい容姿と、穏やかながらも威厳を感じさせる目が、私をじっと見据えた。
「姫様、お待ちしておりました。」
その声には、どこか冷静な響きがあった。しかし、私の目にはその女性の姿が非常に魅力的に映った。彼女の整った顔立ちと、優雅な立ち振る舞いには、何かしら計り知れない強さを感じさせるものがあった。
「あなたは?」
私はその女性に問いかけた。彼女は少し微笑みながら、静かに答えた。
「私はアリア・ヴァレンティス。王国の大貴族で、国王陛下の甥にあたります。姫様が眠りから目覚めたと聞き、こうしてご挨拶に参りました。」
アリアという名前。彼女の言葉に少し驚きながらも、私は内心で警戒心を抱いた。王室に近しい人物が現れたということは、何か大きな事情があるのかもしれない。
「要件はそれだけではないでしょう?」
私の問いに、アリアはわずかに頷くと、周りの騎士たちに目をやった。騎士たちは敬礼をすると、玉座の間から静かに退出した
アリアは冷静な口調で続ける。
「私はかつて、異世界に行ったことがあります。しかし、戻った後、あの世界での経験を活かす方法を見つけることはできませんでした。」
「え?」
その言葉に私は驚いた。異世界に行った経験があるということは、私と同じように何か力を持っているということなのだろうか?もしそうなら、私は何かを学べるかもしれない。
「あなたが戻ってきた理由は、権力のためですか? それともその時間停止の力のためですか?」
私の嫌な予感は的中してしまった。この女...どこまで知っている?
「権力が欲しかった...それも理由の一つかもしれません。力に関しては分かりません。私のような淑女にそんな力はないかと」
その言葉を聞いたアリアは、静かな目で私を見つめ、少しだけ口元を上げた。
「なるほど…あくまでも力のことは隠したいと...。しかし、強大な力には代償が伴います。あなたがもしその道を選ぶなら、決して楽な道のりではないでしょう。」
その言葉には、深い意味が込められているようだった。私は少し興味を持ちつつも、警戒心を解くことはなかった。
「代償…?」
「はい。力を手に入れるためには、必ず何かを犠牲にしなければならない。あなたの時間停止の力にも、何かしらの制約があるはずです。」
その瞬間、私の心の中で一つの疑問が湧き上がった。時間停止の力には、確かに何も制限はないと思っていたが、アリアの言葉が頭にこびりつく。
「もしかして…私の力にも、制限があるのか?」
その考えが頭をよぎったが、それと同時に、アリアの言葉にはただの警告ではなく、何か重要な真実が隠されているような気がした。
「姫様…もしあなたが勇者を目指すのであれば、私と手を組むのはどうですか?」
アリアがその提案を口にした瞬間、私はその真意を確かめるべく、じっと彼女を見つめた。彼女の目には、冷静さの中に強い意志が込められていた。それが、単なる助言なのか、それとも何か大きな陰謀の一部なのか…。
「手を組む…?」
私はその言葉に迷いを感じつつも、すぐに答えた。
「いいでしょう。でも、その代償について、もう少し詳しく教えていただけますか?」
アリアは微笑みながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「もちろん、詳しくお話ししましょう。」