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Life 98 もう一人のお姉さん。

1月3日。昨日は、オトーサンが高校時代に好きだった人と、巡り合ってしまった。

思わず初恋って言っちゃったけど、初恋は私達なんだよね。辻褄合わせとはいえ、本人は気づいていなかった。にぶいと言われたけど、確かに、変なところにこだわるくせに、割と重要なところは気にしないんだよね。にぶいというより、察しが悪いというか。でも、私達は本音が言えちゃうし、おかしなところも指摘出来る関係。だから、そんなに気にする必要もないのかも。強いて言えば、私もにぶい感じがあるってところだよね。私、そんなに察しが悪いだろうか。

「どうしたの?」

「昨日、言われたことを少し考えてた。私、にぶいかな?」

「にぶい?ああ、分かる気がする。だって、今のアンタ、無自覚でフェロモンを撒き散らすような、いやらしい娘だもの。」

「なんか、悪いことみたいじゃん。魅力の一部だって思うんだけど。」

「魅力じゃないのよ。アンタの場合、もう魔力みたいなもの。多分、一度目を奪われたら、目を離せないぐらい、印象が強いわ。だから、人の目に気をつけてって言ってるのよ。その方も、アンタを心配して、そう言ってくれたのかもね。あの人の鈍さは、察しが悪い感じだけど、アンタのにぶいは無自覚。覚えておきなさい。」

「ふう~ん、そういうことなんだ。なんか、納得した。おねえちゃんを久しぶりに見直した。」

「聞き捨てならないわね。アンタ、私がライバル宣言してから、母親扱いしてないもんね。」

「だって、オトーサンの恋人は、私だもん。おねえちゃんとは、戸籍上の関係で、恋人じゃないもんね。」

「まったく、私のほうが、求められる回数が多いからいいもん。より大人の関係よ。恋人ごっこしてなさいな。」

「なにお~、彼は、私の体に溺れてるんだもんね。回数の問題じゃない、彼を溺れさせることが、おねえちゃんに出来るのかな?」


「......、終わった?なんか、私、入りづらくて。」

「あ、ごめんなさい。待ってたはずが、待たせちゃった。」

「本当だよ。あ、はじめまして、......です。あなたのおねえちゃんの、お友達かな?」

「こちらこそはじめまして。姉が...あ、母が、お世話になっています。」

「知ってるから大丈夫だよ。本当におねえちゃんなんでしょ?そりゃ、そっくりにもなるよね。あ、でも、娘ちゃんのほうが、大人っぽいか。」

「悪かったわね。どうせ小娘よ。」

「違うって。いつも、写真を送ってくるけど、本物は大人っぽかったって意味。私だって、髪型が同じだったら、多分双子って思ってもおかしくないよ。」

私には、この人の記憶がある。信じてもらえないにしても、7年前に、同じ中学を卒業した人だし、おねえちゃんは忘れてたようだけど、美術部の部長をやってたし、3組の人だったのに、なぜか5組にいる人だった。あれから、この人は27年経っても、同じような空気がある。オトーサンのいう、楽しい話し相手というのは、的を得ていると思う。


「いや~、やっと会えた。私のかわいい娘ちゃん。」

「なんであなたの娘なのよ?仮にも、私の妹なのよ?」

「あなたの妹、対外的は娘だったよね。だったら、親友の私も、この子の親ってね。」

「理屈がわからない。どうしてそういうことになるのよ。確かに、私がお腹を痛めて産んだ娘じゃないにしても、私の娘なんだから。」

「大切にされてるねぇ。姉妹喧嘩してるように見えて、じゃれ合ってるようなものだったんだね。」

「私はいつもなんで、気にしたこともないです。でも、母親になってくれるときもあるし、姉としてアドバイスをくれるときもある。もちろん、人生の先輩として、色々知らないことを教えてくれる、私の自慢の母...ってことでいいですか?」

「言い切りなさいよ。まあ、私も、最初から姉と呼ばせて、もう3年ぐらい経つんだっけ。この娘の成長が、楽しみでしょうがないのよね。」

「成長ねぇ...。娘ちゃんさ、ナンパとかされないの?」

「あ、やっぱりそういう感想になるんですね。ナンパされたことはありますけど、一応、オトーサンが恋人ってことで、あしらっています。」

「最近、いろんな人に、無自覚過ぎるって言われてるのよ。私達が、同じ年齢のときに、こんなにいやらしい感じだったのかしらって思うのよね。」

「う~ん、私も、どっちかと言えば、あなた側の人間じゃない。性格は違うけど、多分脱いだら、あなたと変わらない気がする。むしろ、私がおばさん体型かも。だから、親心として、心配しちゃう気持ちは分かるなぁ。一方で、こういう感じだったら、私はどうしただろうって思うかな。」

「私って、そんなに魅力的なんですか?なんか、昨日も同じことを言われて。」

「写真だと分からないけど、会ってみて、こんなに可愛いのに、体つきもそうだけど、雰囲気がいやらしい感じがする。君の父親代わりとも、エッチしてるんでしょ?」

「......おねえちゃんさ、どこまで話してるの?」

「包み隠さず。だって、隠してても、会ったらバレると思って。それに、一応あの人の恋人を名乗ってるんだから、堂々すればいいのよ。」

「家族ってくくりじゃない関係だから、私は別にいいと思ってるよ。シェアハウスで、みんなで集まって乱交してるようなのに比べたら、まだイメージがいいよ。」

「色々問題になってるけどね。まあ、形見の狭い想いをしてるのは、あの人だけど、3人で暮らしてて、三角関係みたいなものだからね。」


「そうそう、それが聞きたかったんだよね。あのあと、彼とはどうなったの?」

「私は、妻だけど、恋人になりました。いっそ、一度離婚しようって提案したのよ。この娘とどっちかを選んでもらおうと思ってね。」

「でも、おねえちゃんは、私の母なんです。だから、そうもいかないってことで、対外的に、私は娘なんです。妹でもいいけど、妹になれるほど、何も知らないんです。」

「複雑なのよね。あの人と暮らしてた時間は、この娘のほうが長い。だけど、あの人は私と同じ時間を生きて、老いていきたいって言うのよ。で、私は、この娘の想いも知ってるし、あの人を支える立場でもある。だけど、屋台骨にはなりたくないのよ。あくまで、私も女だから、あの人に選ばれてる以上、女であることを貫こうかなって。」

「かっこいい。そういうことがスラスラ言えちゃうから、好き。で、私に連絡をくれた時は、もっと焦ってたじゃない、あの時は?」

「う~ん、実はね、あの人、ちょっと重いうつ病になりかけたのよ。今も、それに関係した、精神的な発作が起きるし、精神安定剤も服用してる。そこで、私は体験したことのなかった、母性みたいなものが目覚めてしまって、寄り添うことを選んだのよ。」

「ふむふむ。子供を産んだからと言って、母性本能が出てくるわけではないからね。別に、変なことじゃないと思うけど。」

「ところが、私が1週間寄り添っても、彼は怖がるばかりだったの。その時、理由が分からなかったのよね。で、この娘の出番と。」

「私が、オトーサン、彼と暮らしてた経験を元に、昔の生活に戻ってみたんです。違う点は、私が守ってあげたこと。ずっと、彼に守られて、育てられてきました。その逆を、私がやってあげればいいのかなと思ったんです。」

「私はその時、一旦距離を置くのと、仕事を1週間テレワークしちゃったんで、会社の近くのホテルに泊まり込みをしたの。だけど、この娘は、あの人のことを、たった6時間で開放してしまったのよ。本能的に、この娘に女性として負けてしまっていると思った。その思いが、だんだん私を、みだらな女にしたの。そのときに、相談に乗ってもらったのよ。」

「いやぁ~、それで、なんか声に焦りがあったんだね。でも、好きだって言ってもらえて、ちょっと舞い上がってたじゃん。」

「恥ずかしいわ。女として負けてもなお、彼に必要とされてる。その想いに、私の恋愛が、また始まっちゃったというわけ。40過ぎて、恋愛しちゃって、しかも体は若いまま。もう、恥ずかしいぐらいに、私は淫乱な女になってた。その直前に、あなたと話したというわけ。」

「私も、気持ちがわからないわけではないんだよね。子育ても一段落して、あとは息子の成長を見るのが楽しみなんだけど、同時に、女として見て欲しい自分が出てくる時がある。若いうちは、当然女として見られたい。でも、子供が生まれても、その気持ちを諦めきれずに、前の旦那とエッチ。子育てしながら、エッチなことをしてる。すごく矛盾してるように思えたけど、私は女として充実してたと思う。そりゃ、20代じゃ、そう思うんだよね。でも、彼は子供の認知をせず、徐々に実家から帰ってこなくなったと思ったら、エッチしたいときに帰ってくる。求められてうれしい私がいる。そんな関係だから、破綻して、離婚したんだよ。さすがに、子供を犠牲にしてまで、女のままでいられなかった。」

「私は出産もしてないし、この娘もこんな感じで素直に大人になってくれた。だから、安心と言ったら変だし、私の身体がそう出来てる以上、多分一生、女として求められたいと思ってしまうのよ。あの人は、私と年老いて行くのが、これからの楽しみだと言ってくれた。だけど、私は本当に年老いて行けるのか、正直疑問に思ってる。現に、私はこの娘よりもずっと身体能力は高くなってしまっている。半分は私のトレーニングの問題なのかもしれないけど、若いこの娘が付いてこれないとなると、自分にはどこまで体力があって、この身体を維持してしまえるのか?そこがわからないのよね。」

「そういえば、そもそも、なんで18歳から身体が成長しなかったの?」

「あ~、そうか。変な話をするけど、いい?」

「二人の存在がもうすでに変だから、気にしないよ。」

「軽いわよねぇ。私、実は18歳の時に、失踪といえばいいのかな、神隠しと言えばいいのかな、そういう体験をしているのよ。おそらくは、それがきっかけなんじゃないかと思ってる。」

「えっ、ちょっとわけがわからないけど、どういうこと?」

「う~ん、簡単に言うと、私には、18歳の8月の記憶が、8日間しかないのよ。残りの23日は、この世に存在しなかったと言えばいいのかな?」

「簡単に言えば、やっぱり神隠しってことだよね。時空乱流ってやつなのかな。普通、体験したなら、生きてないとか、そういう類の話にならない?」

「そこなのよね。私を生かす代わりに、私は残りの成長と老化を取られてしまった。まあ、髪の毛は伸びるし、爪も伸びる。だけど、肌年齢は20代前半と診断されたし、いくら食べても、ダイエットと称して動いても、全く身長も体重も、スリーサイズすら変わらない。つまり、私は本当にあの当時のまま、知らずに20年以上も生きてきたわけだ。」

「だからずるいんですよ。私がいくらトレーニングしても、おねえちゃんにはなれないと思うんです。オトーサンが見惚れるのは、おねえちゃんであって、私の身体ではないんですよね。」

「なるほどね。男性には難しいね。娘ちゃんは、彼を振り向かせたいけど、その前には、この人がいるわけだ。う~ん、もう、存在自体がチートみたいなものだからね。42歳なのに18歳の身体を持ち、トレーニングに明け暮れた成果が、今のあなただもんね。ま、もちろん娘ちゃんにも、勝てる要素はいくらでもあるよ。」

「本当ですか?」

「例えば、その胸のサイズとか、お尻の形とか、無自覚だけど、男の本能をくすぐる要素はいくらでもあるんだよね。ただし、それは時限性だよ。彼女が言っている通りに話が進むと、その良さは、一気に崩れていくよ。年齢って、そういうものなんだ。私はどうか分からなかったけど、少なくともエッチしたくなるような身体つきだった。だから前の旦那に女として愛された。自慢なの。」

「ということは、今のオトーサンとエッチなことしてる私は、十分に彼を魅了しているってことですか?」

「多分...なんというか、娘ちゃんには、今が女盛りというか、そういう空気を纏ってる。無自覚にフェロモンが出てると言われてるのも、あながち嘘ではないと思う。でも、相手は彼だけ。独占欲が、そうさせたんじゃない?」

「なるほど、そういう考え方もあるか。スキだらけかと思いきや、実は特定の人にだけ向けられた妖艶さか。」

「ま、私が、もし彼だったら、きっと二人共愛してしまうだろうなぁ。だから、3人暮らし、やめないんでしょ?」

「お互いに好きな気持ちだけで、共同生活出来てるんだから、私達は立派なのかもね。」

「なんだかんだで、おねえちゃんもしっかりお母さんしてるときもあるし、私は両親にも、家族にも恵まれたと思ってる。私の存在が、家の中で異質なら、私が変わったほうがいいんだよ。」

「それはダメ。先に生きてきた私達を冒涜してるわ。あなたの良いところは、素直なところなんだから、自分から変わろうと思うのであれば、あの人へのアプローチぐらいにしておいたほうが良いわよ。彼女にも一緒。少なくとも、私達は女性としての経験が豊富だから、迷うようなら、相談してくれるとうれしいのよ。」

「そうだね。あ、私が人の家庭に口出しするのはどうかと思うけど、彼にも、お母さんにも言えないことだってあると思う。娘ちゃんの友人に相談して解決するのもいいだろうとは思うけど、どうしても答えがわからないとき、私が相談に乗ってあげる。私も娘ちゃんが隠したいことは、この人たちには言わないから、安心して頼っていいよ。」

そうか、この人が、なぜオトーサンの共犯関係だったのか。それは、自分との関係は不当に扱われようが、守秘義務は必ずはたしてくれたからだ。大した内容じゃなくても、信用出来る相手だったから、オトーサンと彼女は、共犯関係になることが出来たんだ。でも、守秘するということは、本心を明かさないことになるから、二人は惹かれていた可能性もあったのに、お互いにその先の関係を望まなかった。15歳の私は、彼を好きになっていた。けど、この人は、15歳の時点で、彼への感情を隠した。もし、この人があのときに、本気でオトーサンを好きになっていたら、きっとオトーサンは、今とは違う生き方をしていただろう。

だから、この人は、私にも、おねえちゃんにも、本心をあまり明かさない代わりに、色々なおしゃべりを通じて、色々考えることが好きなのだろう。それを知ってて、一緒に乗ることが出来るのがオトーサン。ある意味、私達より、オトーサンはこの人に心を預けているのだろう。男女の信頼関係って、ちょっとうらやましいかも。


「でも、自分で変わるっていう割に、よく分からないところが多いのよね。アンタはすべて本心で話してるのかもしれないけど、私には、ちょっと疑っちゃうことがあったりするのよ。親なのに、娘を疑うのは、やっぱり良くないのかなとは思ってるけど、私に気を使うことはないのよ?」

「う~ん、気を使ってたら、オトーサンとエッチしてないと思うよ。」

「まあ、二人ともだけど、少しは周りの目を気にして話をすべきかな。事情を知ってる私でも、なんか変なことを言ってるような気がするよ。」

「自覚がないのかなぁ。やっぱり、私達はちょっと浮世離れした生活を送ってるんですよね。」

「だったら、彼をいつものようにオトーサンって呼んで、エッチしたなんて言わないと思う。そこは、彼とエッチしたでいいと思うよ。」

「私が悪いのかしらね。親なのは理解してるつもりなんだけど、私はこの娘のこと、さっきも言ったけど、どこか俯瞰しちゃってるのよね。思い入れも強いはずなのに、俯瞰するというのは、相当な矛盾よね。」

「それだけ素敵な女性になってきたってことだよ。娘ちゃんは娘ちゃん以上になれないし、それを周りが認めていってあげればいいんじゃない。私も、息子には期待をしちゃう反面、あの子のことを信用してきてるから、外に出て働けるし、安心して旦那に預けてる。認めてあげるってことは、何も分からない人には、自信を与えてあげられると思う。」

「その、安心して預けてる旦那さんはどうなのよ?」

「彼は、おばさんでバツイチ子持ちの私を、今でもちゃんと女性として見てくれる。未だに、なんでこの人は、私が好きなんだろうな?って思うことも多いけど、それ以上に、息子が楽しそうに生活してるのを見て、信用出来るし、家族になれたんだなって思ったの。普通、恋人の両親と住む、恋人には子どもまでいる、それでも私を好いて、プロポーズされてしまったら、私も断れないよ。」

「知ってて、なお好きで、しかも相手の家族と生活しても、全く不満を言わないってことなんですよね?」

「今は、私の家族も好きみたいだね。年下というのもあるけど、私の両親が、息子と同じぐらいにかわいがってくれてるのが、彼には居心地の良い場所になっているのかもしれないね。私、そんなに彼の昔の話とか、バックボーンには触れてないの。それを知っても、彼には何もしてあげられない。だけど、今は、彼にしてあげられることは、色々ある。そちらほどではないにせよ、私も体を求められる時もあるし、それには応えてあげる。彼が気を使ってるような素振りがあれば、私が家族から守りながら、なんとか関係を取り持つ。それを繰り返して、今に至るというわけだね。だから、今は、彼は私の両親も、私と同じような接し方になってる。今ある家族に、別の人を入れて家族を作ることって、実は一番ストレスを感じちゃいけないことなのかなと、私は実体験で思ってる。喧嘩になったこともあるけど、私は、彼に無理をさせるぐらいなら、身を引くタイプの人間だけど、家族になってくれる人には、本音を言えないといけないと思って、喧嘩したよ。」


「ケンカねぇ。したことないわ。やっぱり、どうかしてるのかしら。」

「それで、彼はやられてしまったって可能性はあると思う。ああ見えて、実は人の話をよく覚えてるし、自分が不快だと思っていても、それをひた隠しにするよね。私との関係ぐらいであれば、それを上辺だけでかわすことを平気でする。でも、二人との関係を聞いてると、お互いに気を使ってたにせよ、やっぱり2人分の本音を一人で受けることって、多分出来ない。自分は気づかないだけで、本当に無理を続けてきてたから、急にダメになったんじゃない。」

「私達二人の話を聞き続けることに、負担があるってことですよね?」

「それは本人じゃないと分からないけど、かまって欲しいわけでもないのに、誰もいないと淋しくなって不安になる。特に、二人で行動してることが多くなってきて、自分では気づかない疎外感を感じてしまってるんじゃないかな。私も、旦那と息子の関係に、私は入り込めないかもしれないと思う時があった。疎外感とは違うけど、存在を忘れられることが怖いのかな。私の場合、それは杞憂であって、今はむしろそれを見るのが楽しみになってる。でも、彼はそう思う?」

「自分で気づかない上に、気づいてしまった時には、もう蝕まれている状況になってる。あの人には、そのバランスの取り方が分からないのかもね。あなたの言ってること、多分合ってると思う。一人暮らしを長くやっていても、この娘がそこに入ったことで、彼の不安は徐々に和らいでいたけど、そこに私が入って、不安だと思うことが次第に変わっていって、そこで私達が一緒に行動するようになってきて、一気に決壊してしまった。自分では情けないとか言ってるけど、責任感や不安から来る自身の思いだった、そういうことなのかな。」

「彼は、私とすごく似た人間であると思ってるの。だから、上辺だけでも、親しくなることが出来ていたのかな。変なことを言うけど、彼は手の内を絶対に見せない人だった。その人が、二人には話す。ということは、もっと近しい人間。私が三人を家族だと思っているのは、その距離感の近さと、思いのぶつけ方だと思っているの。」

「距離感が近すぎて、私達には普通の会話であっても、実はオトーサンには重くのしかかってた言葉もあるってことですね。」

「理解力が高い娘ちゃんで助かるよ。さっき言ったけど、彼は聞き流すことと同時に、その会話にキーワードがあることを分かる人間なの。人の話を聞いて会話をする時に、私達には10を10で返すことが出来ないの。でも、それが普通であって、そこは経験や、お互いの関係なんかが埋めて、10を20にして返すことが出来る。だけど、彼は本当にどうでもいい話であっても、そのキモになる言葉を理解することが出来るの。初対面の相手であっても、10を8ぐらいで返せてしまう。本来、興味がなければどうでもいいことを、彼はそこで自分の知識として蓄えることが出来るのかも。彼の話が回り道になっても、本質的にずらさず、別の話をすることだって出来てしまうと思う。現に、この前会った時、随分と長い雑談をしても、最後にはちゃんと二人で話していた話題に戻せるから、無意識レベルで出来ているのかな。」

「あなたって、案外ロジカルな話をする人なのね。あの人が喋る相手にうってつけなわけな理由が分かってきたわ。」

「そうかな?まあ、私の話はどうでもいいけど、彼が問題なのは、そのキーワードで植え付けられるイメージが、なかなか払拭出来ないことだと思うの。結果、かまって欲しいけど、それを我慢するし、疎外感を感じる。これって、本当に些細なことを二人で話している時、勝手に聞いてることで、拾い上げたキーワードを、鵜呑みにしてしまっているから、かまって欲しいとも言えず、さみしいとも言えない。話術において、能力は凄いのに、そこで犠牲となる感情も持ち合わせている。」

「それって、オトーサンはすべて会話を聞いているうちに、イメージを変えたりすることが出来るんですか?」

「出来たら、彼は壊れなかったんじゃないかな。例えば、彼女が大黒柱で家庭を支えているとは口で言ってるけど、本来は男である彼の役目だと、勝手に自分で思っていた。だから、今までは甘えることをや、不安をさらけ出すことが出来なかったんじゃない。でも、本人は絶対に言わないだろうけど、自分の失態を二人に見せてしまった。そして離れていく恐怖に駆り立てられて、一時的に自分が分からなくなってしまったってところかな。」

「でも、一理あるわよね。今のあの人は、怖いことを怖いと言えるし、嫌なことは嫌と言える。前は絶対に言葉を飲み込んでいたし、成り行き任せなところもあった。今も主体性があるとは思えないけど、少なくとも私達には自分の意志を伝えられるようになった。変わりつつあるのかもしれないわね。あの人。」

「だと、つまらない人になりそうで嫌だなぁ。私は彼と上辺だけの会話をしたいのに。軽口を軽口で返す楽しさって、同性だと難しいんだ。ついつい本音をのせて話しちゃう。」

「あら、いいじゃないの。別にあの人を好きになって欲しいとは思わないけど、話し相手にちょうどいいと思うなら、その関係は続けていっていいと思うわよ。」

「それに、オトーサンは、あなたのことは、やっぱり特別だと思っているんです。オトーサンには、友人がすごく少ないし、私達といたって、会話も多くない。寡黙とまでは言わないですけど、自発的な会話は、本当に必要最低限しかしないんです。そういう人だから、あなたのことを、オトーサンは信用して、色々話したいことをためてるのかもしれないです。私達家族は面白くないけど、オトーサンがそれを楽しみにしているなら、私達は口出し出来ないです。」

「ありがとう。娘ちゃんは優しいね。本当に、絵に書いたような優等生。今、楽しい?」

「楽しいです。だって、私の好きなオトーサンと、私の尊敬するおねえちゃんと、三人で暮らせてる。それだけで、私は幸せ者なんです。」

「尊敬...ねぇ。ま、でも、私もそれには同意出来る。あの人がいて、この娘がいるから、私も家庭を背負う価値がある。今はそれでいいし、この娘がどこかへ行ってしまっても、私は彼を支え続けていくだけ。それで、私も幸せよ。」

「良かったね。あの時は、どうしたものかと思ったし、今日も今日とて、最初から言い合いをしてたから、少し心配してたんだ。」

「ごめんなさい。私達二人でいると、どうしてもそういう会話になりがちで。」

「いいよ。仲良しだって分かってる。だけど、大きな声で話すことじゃないからね。二人は、どうも周りが見えなくなることがあるけど、それが彼絡みなのは知ってる。知ってるけど、それは少なくともファミレスで話すことじゃない。これは、私と二人との約束。」

「なんか馬鹿にされてるような気がするけど、確かにいい大人がすることじゃないわね。反省します。」

「でも、私達、オトーサンに夢中で、周りが見えなくなるんだって。やっぱり好きな気持ちは、秘めておけないのかも。」


私は、この人とLINEのアカウントを交換した。

必ず、二人に相談出来ないことは出てくるし、この人はオトーサン以上に洞察力や言葉の選び方が凄い。持って生まれた才能だと思う。この人なら、私が無意識にしか思っていないことを、言語化して、解決出来ることだってあるかもしれない。今はああでも、オトーサンをここまで理解出来て、それでも話し相手だと言えるのだから、また凄みを感じてしまう。私には、二人に追いつくことは出来ないけど、私にしか出来ないことだってあるはず。そのヒントをくれる人は、一人でも多いほうがいい。

「しかし、話したねぇ。面白かったよ。」

お店を出た時には、もう20時を回っていた。オトーサンはともかく、あの二人に、私達は怒られるかな。怒られるってことは家族って証拠だし、それはそれでうれしいかも。

「ずるいわよねぇ、自分の話は最小限にして、私達の事ばかり聞き出してくるんだから。」

「喋っちゃうそっちが悪いんだよ。ほんと、素直だね。」

「私のことを言ってる?私は、多分押しに弱いだけ。素直ではないわよ。」

「認めちゃえって。今のあなたは、思った以上に素直で、可愛い。若い子に声を掛けられないように気をつけるんだよ。」

「私の親かっての。でも、忠告は聞いておく。私も、自分を小娘だと思っちゃいけない年齢だしね。」

「それはそうと、あなたと娘ちゃん、あり得ないことではあると思うけど、同じ人だよね?」

えっ、どうしてそれが分かったんだろう?少なくとも、私達の会話に、そんなボロが出るようなことがあったとは思えない。

「なんで、そう思うんですか?」

「簡単だよ。二人共、同じ方向を見ていて、全く同じ考え方をする。あれこれ違いはあるんだけど、言ってることは全く同じに聞こえる。私のカンってやつかな。」

「まあ、親は一緒だし、好きな人も一緒。そう思われても、仕方ないか。」

「それでも、おねえちゃんは私のお母さんなんです。母親と同じ人を好きになっているのはおかしいかもしれないですけど、それが私には許されてるから、私は私だと思っていたいです。」

「母親か...。そうね、最初は母親を演じる必要があると思ってたけど、もうこの娘と目線が変わらなくなってるし、確かに同じ人なのかもね。」

「私の名推理ってところかな。私がそう思っただけで、二人は違う人間だから。あんまり気にしないでね。」

その秘密にたどり着いた人は、今までいなかった。やっぱり、この人は少し違う感性を持っている。これが、この人に与えられたギフトなのだと、私は確信した。まさか、あんなに現実離れした夢で聞かされたことは、私達だけしか持っていないものだと思ってたけど、中にはこうやって無意識に使っている人もいる。不平等だよね。

「あの、一つお願いを聞いてもらっていいですか?」

「ん?いいよ。私の娘ちゃんになっちゃう?大歓迎だよ。」

「そうじゃなくて、その、お姉さんって呼んでいいですか?」

「ねぇ、私がおねえちゃんで、彼女がお姉さんって、何かの当てつけ?」

「おねえちゃんは自分発でしょ?それに、私の母親なんだからさ。この人は、私が尊敬できる人。だから、お姉さん。ダメですか?」

「別にお母さんでもいいぐらいだよ。でも、彼女の立場を奪っちゃうのはよくないよね。うん、分かった。お姉さんって呼んで。」

「ありがとうございます。そのうち、お姉さんに相談することが増えるかもしれません。その時は、」

「その時は、本当の娘として、あなたの相談、一緒に考えてあげる。でも、答えは必ず自分で出す。それなら、いくらでも相談して。」

「厳しいこと言うのね。私と話してると、ズバズバっと答えを言ってくれるのに。」

「娘ちゃんに足りないとすれば、経験だけだと思ってる。その経験を得ている私達の話をして、そのとおりにしても、娘ちゃんにとって正解にはならないよ。だから、一緒に考えて、参考にして、自分で答えを導き出す。それは、母親のあなたも、同じように考えないとダメだと思うよ。」

「う~ん、この娘、私達の娘としては出来過ぎなのよ。困らせることもしないし、わがままも言わない。だから、どんな悩みを抱えているのか見当がつかないのよ。それに、外部のあなたのほうが、この娘には私情を挟みにくいでしょ?頼りにしてる。」

「それじゃ、任されたよ。知らないぞ、うちの子になってても、恨まないでよ?」

「それを軽く返せる話術、私も身につけようかしら。あの人、やっぱり凄いって分かったわ。」



こうして、私には二人の姉が出来た。姉?一人はそもそも私だけど、その秘密に近づいた人が、もう一人、私の相談相手になってくれる。

きっと、中学生の時に、友人になっていても、私はこの人の凄さには気付けなかった。今だから分かる。タイムスリップしたことで、少し接点のあった人との関係が親密になる。私にしか体験出来ないことだし、それすら飲み込んで、私の味方になってくれる大人の女性。オトーサン絡みとは言え、この2日で、私はいい出会いが出来た。


「あ、でも、私に身体のこととか相談されても、考えられないよ?」

「さすがにそれは自分でなんとかします。いつまでも無自覚でいられないと思うんで。」




つづく

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