Life 118 プレゼントを渡せる関係?
「あ、おねえちゃん、こっちですよ。」
おねえちゃんかぁ。この人のほうが歳上なのになぁ。
「おまたせ。あ、なんかいつもと違って、ちょっと可愛いね。」
そう、彼女は私に比べて、凛々しい。けど、なぜか私達家族には可愛い表情をしている。あのオトーサンにすら可愛い顔で笑いかけるんだよ?
「そんなことないです。おねえちゃんのほうがずっと可愛い。けど...」
もう一人、本当に可愛い、というか幼いような、一番歳上の女性が、私達の前には存在する。
「あなたにもそう言われるのが一番恥ずかしいのよね。まあ、私もあなたの姉って立場になってるから、可愛いってのはやめて欲しいわ。」
「可愛いですよ、先輩。あ、今日はお姉さんでいいんですよね。」
「なんなのよ、あなたってそんなに私を困らせるような子じゃなかったじゃないの。」
「よく甘え方が分からなくて...、でも、お姉さん、本当に可愛いですよ。」
「いいじゃん、おねえちゃんは私達の中で一番可愛いと思うよ。そう、可愛いんだよ。」
「アンタに言われるのが本当に腹立つ。アンタだって私なのに。」
「あの、お姉さんたち。目立ちますから、そろそろ行きましょう。二人とも、同じ顔で、可愛いですよ。」
この子が一番強い。そして凛々しく、美しい。私達とは綺麗さのベクトルが違う。誰もが振り返るほどの美女。こんな人でも、彼氏がいる。そう、今日は、その彼氏のために渡す誕生日プレゼントを一緒に買いに来て欲しいと頼まれたわけ。う~ん、ちょっと複雑。
「で、もう1年ぐらい付き合ってるわけよね。最初のプレゼント?」
「はい。いつも会っても、ただ雑談しているだけですし、二人で割り勘って決めてますから、実は彼からもプレゼントをもらったこともないんです。」
「それって脈ナシなんじゃないの?でも、あの頃よりはあなたは彼を好きになってる?」
「...好き...ですね。でも、私はお二人のほうが好きかもしれないです。」
「なんかなぁ...それって恋じゃなくて、好意だよね?」
「やっぱり私の気持ちが付いていけてないんでしょうか?」
不安そうな顔をしても綺麗だよなぁ。う~ん、彼女って何をしてても綺麗だよね。ずるいよなぁ。おねえちゃんが可愛がるよね。
「ま、彼氏さんがちゃんと家に帰してくれるなら、あなたを大切にしてるのよ。逆に戸惑ってるのかしらね?」
あ、そうか。お互いに奥手ってこともあるか。さすがおねえちゃん。いや、おねえちゃんって私だけど、私って奥手だったっけ?オトーサンにだけなのかも。
「まあ、こんな綺麗な人が恋人ってだけで、彼氏さんも緊張してたりするのかもね。で、何をプレゼントしようと思ってるの?」
「それを決めかねてるから、お二人に来てもらったんです。お父様に色々プレゼントしたり、されたりしてるのかなと思って。」
私達は考えてしまった。確かにApple Watchを家族3人で付けるようになったのは、最初に私達がオトーサンにプレゼントして、それを使った結果、オトーサンが私達にプレゼントしてくれたものだったりする。でも、それってただのフィードバックで、実は本心でプレゼントなんてもらったことは...あ、私は二人で暮らしてた時に、ちょいちょい服を買ってもらってたりしてたけど、それはおねえちゃんと暮らすようになって、一気にブランド化しちゃったもんなぁ。
「...なんか、プレゼントは毎日もらってるような気がする。あの人が家事をしてること自体がプレゼントみたいなものよね。」
「確かに。掃除も料理もオトーサンがやってるし、私達は洗濯乾燥機のスイッチを入れて、取り出して畳むだけだもんね。」
「あ、そうだ、私はこの身体をプレゼントしてる。」
「それはおねえちゃんの性欲処理じゃん。」
「あの...、お姉さんだとは思いますけど、案外そういうところはオープンですよね。恥ずかしくないんですか?」
なんか...天然だよなぁ。おねえちゃんにトドメを刺しにいってるもん。
「恥ずかしいと思うことすらなくなったわよ。日課というか、私もあの人の身体なしでは、今の心のバランスを保つのは無理ね。それに、ここにもっといやらしい女がいるじゃないの?」
「おねえちゃんですか?いやらしいんですか?可愛いと思いますけど。」
この反応は意外だった。というか、嬉しいかな。私の周りは、私をずっといやらしいと言っているけど、私はそう思わないんだよなぁ。あ、彼を溺れさせる身体なのは認めるよ。
「まあ、バカなことを言っていてもしょうがないし、とりあえず何を買うか決めてからにしよう。さすがに寒い時期になってきたしね。」
「奢るわよ。どうする?オムライスがいい?それともとんかつがいい?」
「う~ん、僕が恋人だったとして、もらったら嬉しいものか。なんだろう?」
私達が三人でいると、必ずファミレスに入ってしまう。私はどうかと思うけど、彼女はいつも嬉しそうだし、おねえちゃんは昼間からビールだし。この関係はなんか面白い。ま、それはそれとして、オトーサンに意見を求めているのが今。もっとも、オトーサンのセンスもちょっとおかしいから、変な答えが帰ってきそうな気がする。
「二人は気を悪くしないでほしいんだけど、昔同棲してた女性がいたって話をした時あったよね。今頃の時期だったかな。僕にちょっとおしゃれな手袋を買ってくれたんだ。嬉しかった。で、お返しとばかりにウールのロングスカートを買ってあげた。その時の彼女は複雑そうな顔をしてたけど、一緒に出かけるときには、僕は手袋、彼女はスカートを必ず身につけていたよ。ま、その4ヶ月後に僕は振られるわけなんだけどさ。」
意外と普通の答えが帰ってきた。ウールのロングスカートって発想がオトーサンにあったことも驚きだし、それをプレゼントしちゃうあたり、オトーサンもその人を結構好きだったんだろうなと思ったりした。おねえちゃんと暮らす前ってそんな感じだった気がするけど、あの頃はオトーサンもだらしなかったからなぁ。しかも、本当に一緒に住んでただけだったしね。
「お父様はどうしてお返しにそれを選んだんですか?手袋とは釣り合わない気がするんですが。」
「君は鋭いよね。簡単だよ。彼女が冷え性の割にゴシックファッション...今だと地雷系っていうのかな。あんな感じのファッションが好きで、事あるごとに帰ってきて寒かったって言うんだよ。そういうポリシーを持ってる人だったから、僕もなるべく雰囲気を損なわない程度に黒いウールのロングスカートを選んだ。たまたま気に入ってくれたんだよ。」
「それで、お父様はその手袋はどうしたんですか?」
「多分取ってあると思うけど、もう付ける理由がないよ。今の僕は、二人を愛してるからね。君も、そのうち彼にそう思えるようになってくるよ。」
「え~、捨てなさいよ。未練がましい。」
「あなたの言い分もわかるけどさぁ、一応僕の人生の中で、女性にもらった数少ないプレゼントだし、なかなか捨てるってことが出来ないんだよ。」
「言うわよね。そんなことをいいつつ、人のパンストを勝手に破ったり、私が捨てるぐらいに下着を汚すくせに。」
おねえちゃんは何を言ってるのだろうか。それ、おねえちゃんも喜んでやってるじゃん。むしろおねえちゃんのほうが楽しんでるのに。
「なんでお父様がお姉さんのパンストを破ったり、下着を汚したりするんです?」
「う~んと、二人に任せる。ちょっと言い訳しといて。」
そのまま通話は切れてしまった。オトーサンも流石に純粋に聞かれて、真面目に答えるのが辛いのだろう。
「じゃあ、お二人に聞きますけど。」
「簡単な話よ。あなたもムラムラすることがあるでしょ?私とあの人がそうなった時に、格好に見境なく二人でしちゃうからよ。半分は私のせい、でも、その格好で襲ってくるあの人も半分は悪いってだけ。」
「全然説明になってないと思う。だけど、そんなことを聞いちゃう子だよ?ムラムラすることなんてあるわけないよね?」
「え、ありますよ?なんとなく寝付けないときとか。」
あ、そこは相応の女性だった。いやいや、性欲のまったくない人もいるってぐらいだから、彼女にはないのかと思ってた。想像がつかない。こんな凛々しい顔の綺麗な女性が、どんな顔をしながら慰めてるのだろうか。その行為自体が綺麗なものに見えそうで怖い。
「しかし、二人は両極端よね。慎ましい美人と愛嬌のある可愛い娘。二人で並ぶとバランスがいいけど、個人として振り切りすぎなのよね。」
「おねえちゃんに言われたくないよ。」
「そうですね。お姉さんは私達より若く見える上に、経験値が高いんですよ。そんな女性がいること自体、ずるいんですよ。」
「ああ、まあ、それを言われるとね。それはともかくとして、恋愛事情もまるっきり対照的。私が一番マトモかもしれないと思うのよ。」
昼間っからファミレスでビールを飲んでるおねえちゃんがそれを言うのか。おかしいと思うけど、言われてみると確かに25年越しの初恋を実らせた当人だし、オトーサンを振り回しつつも、本当に献身的に愛してるんだって分かる。私には好きだっていうけど、オトーサンとの関係は、完全に夫婦のそれだと思う。愛人の目だけどね。
「お姉さんって、お父様にプレゼントってしたことあるんですか?」
「え、どうだったかしら。Apple Watchを買ってあげたぐらい?プレゼントというか、私は勝手にあの人の趣味のものやお下がりを使ってるし、変な意味で言えば、実は本当に利害関係の一致だけで夫婦みたいになってる一面があるのよ。私の使ってるiPhoneだって、これはSE2だっけ?なんか、あの人が飽きたから使ってるし、ワイヤレスイヤホンも適当に使っていいって言うから、会議とかに使ってるのはあの人のお金で買ったもの。そういう意味で光熱費や通信費なんかもあの人持ち。だからこの娘の援助が出来てる側面もあるのよ。言われてみると、あの人が私を理想の女性って言う理由って、本気で都合のいい女だからって意味合いのほうが強いのかも。」
「それはないよ。それに、オトーサンはそんな利害関係だったら、月に何度もおねえちゃんとしてないしね。駅に一緒に行くとき、レッドブルを飲んでる日も少なくないしね。」
「それは反省。あの人が一番体力ないのにね...って、そうじゃなくて、アンタは何かプレゼントしたことあるの?」
「私はプレゼント、あげたことがないかも。だって、オトーサンにとって、私がプレゼントみたいなものだってよく言うし。」
「おねえちゃん、それは、娘としていてくれてるから、プレゼントだって言ってるんですよ。決してものみたいな例えではないです。」
「聡明な女性よね。こういう妹がいると、私の生活はすごく楽になるのかしら?」
「それは会社という組織だけの話です。お二人の知る通り、私のプライベートはこんな感じですし、お父様にも迷惑を掛けてばかりですし。」
「オトーサンは嬉しいみたいだよ。自分に素直で、周りがペースを合わせてあげれば、きっと大成するって言ってる。それが難しいよね。」
「周りに私がいるから、ソレ込みの評価よね。私は嫌だけど、私の役目はきっとあなたに回ってくる。他がちょっと、やっぱり弱いのよ。あなたは敵が多いけど、その分支えてくれる人も多い。大丈夫よ。」
「で、私の評価の高さは嬉しいんですが、問題は私が彼に上げるプレゼントなんです。」
「良くないわよね。私達、三人とも堂々巡りで話をするクセ、いい加減直さないとね。」
「いえ、私は楽しいですよ。ただ、おねえちゃんがなんかイラッとしてる顔をしているので。」
気づかれたか。やっぱり見てるよね。
「おねえちゃんの悪い癖、まあ、うちの家庭はみんなそうか。なんか脱線することが美学みたいな。」
「みたいな、じゃなくてそのとおりじゃないのよ。」
「彼女が困ってるじゃん。」
「ごめんなさいね。姉として失格。」
「そう思うならビールなんか頼むなよ。まったく。」
しかし、私達の答え合わせは進まなかった。理由は色々あるけど、一番の問題点は、「誰も自分の彼にプレゼントをあげた経験がない」ことだった。
おねえちゃんですら、オトーサンにプレゼントしたことは、Apple Watchだけ。さっきおねえちゃんが言った通り、むしろ私達の食費と家賃ぐらいで、あとはオトーサンが全て支払いをしている。まあ、いいことも悪いこともあるけど、安月給とは言え、お小遣い=公共料金の余りなのが、可哀想な気もする。それでも趣味にお金が使えるのだから、いいよなぁ。
つまり、我が家の3人は、おねえちゃんを除けばプレゼントなど出来るほどお金をもらっていないし、そのおねえちゃんも、私のために貯金を切り崩して大学へ行かせてくれている。ということは、「誰も自分の彼にプレゼントをあげた経験がない」という結論になってしまう。
おねえちゃんの前の彼氏は、プレゼントをもらうばかりだと聞いた記憶がある。仮に「自分の彼にプレゼントをあげた経験」があるとすれば、おねえちゃんがその時にやってしまった永久脱毛ぐらいなのだろう。プレゼントと呼べるのかはよく分からないけどね。
「まさか、女性3人集まって、彼氏にプレゼントを上げたことがほぼないというのも、結構な問題よね。」
「おねえちゃんと一緒にしないでほしい。それに、今でも一人で東北へ人に会いに行くじゃん。元気な顔を見せるのがプレゼントともいえなくないか。」
「そうは言いますけど、私は彼へのプレゼントを一緒に探して欲しいってお願いしてるんです。笑顔で済むのであれば、私もなんとかしたいですよ。」
「あら、まだ彼氏には、その可愛い笑顔を見せたことないのね。」
後輩さんは、はにかみながら答える。
「この顔、どうやったら出来るのかよくわからないんです。母は、お姉さんたちとは親しくなってる上に、自分の失態まで分かってくれているから、自然と出るものだと言ってます。このあとどうなるかわかりませんけど、彼に知ってほしくないことだらけです。結婚するなんて、夢のまた夢という感じです。」
「いい意味であなたの容姿の凛々しさと近寄りがたさは、圧倒的な武器なのよね。一方で、女性として責務は果たすが、弱みや女性特有の悩みは見せたくない。完璧主義ゆえの問題ね。私もそういうところがあるから、分かる気がする。」
「お姉さんも今でこそ...、あれ?その割にしては、先輩には本音を言ってましたよね。」
「アイツにしか言える人間がいなかったのよ。知っての通り、備品係は今でこそ総務部に戻ったけど、あなたが入社したときにはもう引っ越したあとで、私たちは手書きの帳簿をExcelデータを手打ちして、総務部に棚卸しとして1ヶ月に1回提出するような作業ばかりだったし、暇はいくらでもあったのよ。でも、あの子の聞き役がほとんどだったから、断片的にプレゼントを上げたという話を聞いても、実際に何を送ったりしてたのかとかは興味がなかったのよね。今になって必要になるとはねぇ。」
「おねえちゃんはそういうこと、なかったんですか?」
「う~ん、私さ、この時代に来た時から、オトーサンとずっと暮らしてるし、極貧な生活からおねえちゃんと3人で暮らして、ようやく余裕が出来た。けど、オトーサンに何か必要かと聞いても、十分にもらってるって言うだけなんだよね。あげてるというか、オトーサンを甘えさせてるだけというか。二人でただイチャイチャしてるだけだけどね。」
「あのさぁ、それが出来てるなら苦労はしないのよ。彼女は未だに彼には心を開けない、ここに問題があるわよね。そして、近づくために渡そうとするプレゼントを選ぶのが、今回の私たちの使命って感じよね。あなたも、そう思ってる?」
「お近づきって感じではないですけど、やっぱり恋愛に興味があっても、彼を好きという気持ちにはなってないんです。だけど、彼の反応を見て、もしかしたら近づけるかもしれないって思うんです。」
彼女の目は真剣だった。だけど、不思議なのは、ここまで努力する恋ってある?ってこと。私やおねえちゃんがオトーサンを無条件で好きな理由と、彼女が彼氏さんに求めている好きな理由は大きく違うと思う。むしろ、恋愛を知りたいから、彼にプレゼントをしてみるって感じがする。
「ま、寒い時期だし、マフラーとか手袋とか...、これだから40代のおばさんだって感じるわね。もっと実用的なもののほうがいいのかしら?」
「とネットにも書いてあるね。あ、予算とか教えてくれるんだ。AIってすごいね。」
「プレゼントからは少しズレるけど、せっかくなら、ディナーにでも誘ってみたら?私たちが暴れてるようなところじゃなくて、上品でちょっといいところ。」
「逆に緊張しちゃうと思いますし、彼もそういう堅苦しい感じのところ、あんまり好きじゃないみたいです。」
「さすがに1年半だっけ?付き合いも長くなると、知ってくるものね。1年前とは違う。恋してるかは別として、しっかり相手を見てる。いい傾向ね。」
「新宿まで来たわけだし、なんでもあるよ?価格帯も自由だし、好きなのを選び放題だと思う。」
「そう...ですね。」
「あれ、どうしたの?」
「おねえちゃんに話したこと、多分ないんですけど、私って人にものを尋ねるタイプではないから、その辺がリサーチ不足で。」
「いや、観察眼で、堅苦しいのが好きじゃないって分かるぐらいになった。成長してるわよ。私みたいにあの人に弱点握られてばっかりだと、案外辛いわよ。」
「ほら、私たちはなんだかんだでオトーサンがいないと生活できないとは行かないまでも、多分後輩さんが来たくない部屋に住むようになっちゃうと思うんだよね。加えて、おねえちゃんは、好きで自分から女の部分を晒してるから、色々大変なんだよ。」
「おねえちゃんはどうなんですか?」
「私はオトーサンが求めてくれば、受け入れるだけ。おねえちゃんみたくしょっちゅういろんなことを求めてくると、私に逃げたくなるんじゃないかな。でも、それでプレゼント代がラブホだったりしてるのかもなぁ。」
「父親としても好き、恋人としても好き、忙しいですね。」
「伊達に6年近く同居してないよ。でも、やっぱり料理ぐらい作れたらいいんだろうなぁ。」
「いいのよ、あの人はそれでメンタルを保ってる。日頃のルーチンが、あの人には安定剤のようなものなのよ。」
「その安定剤に、自分との行為も含まれてるって考えてるあたり、おねえちゃんも可愛いよね。」
「だって、私はあの人の理想の女性ですもの。うらやましい?」
「それなら、私だって、彼を溺れさせる女性だよ。うらやましい?」
気まずそうな顔をした後輩さんに目が行ってしまった。反省。
「でも、そういうことなんですね。人に好かれるのも大変ですけど、好きになるのは、もっと大変なのかもしれません。」
「そんな感じでもないよ。私みたいに、15歳のオトーサンが告白してくれて、たった2年で今のオトーサンと暮らせるようになる。告白がきっかけとはいえ、やっぱり心に来るものがあると、好きになっちゃうんだよ。」
「そうねぇ。今となっては、あの時の告白の意味も、どうして同じ景色を見たいと思い続けているのかも、全部理解できるようになった。恋って理屈じゃないって言うけど、やっぱり少しは理屈もあるのよ。それを、今はあなたが探してるところ。それに、ダラダラと長く続けて、いつしか家族のような空気感になるのも、恋人としての幸せではないけど、パートナーといられるしあわせにはつながる、ここが一夫多妻制だったら、あの人は少しだけ幸せだったかもね。」
「私も父とは死別してますから、今のところお父様か、彼か、二人しか基準がないんです。二人とも同じような空気というか、いつまでも待っててくれる空気はあるんです。」
「なるほどねぇ。あの人はそんな感じを自然と出してる。しかも超受動型。しかもあなたにはデレデレしてるし、本人もあなたのことをこの娘と同じように可愛がっているものね。」
なんか、オトーサンを褒めると、後輩さんも喜ぶんだよなぁ。秘密を知られている以上、オトーサンを好いているのは間違いないと思うけど。
結局三人で話していてもあんまり意味ないことが分かった。私たちは新宿の街を歩いていた。
「どうしようか。本当に何にも考えてない。」
「こめんなさい。こういうときはあまりに無力なのよね。」
「いえ、お姉さんが悪いわけではないです。私が決められないのが悪いんです。」
「そうは言っても、参考にならないよね。私たちだってオトーサンにプレゼントをあげるとして、何を選ぶ?」
「何って言われると、あの人は好みがよくわからないものね。まあ、ハンドタオルとかは喜びそうよね。あの人はハンカチじゃなくて、ハンドタオルを持っているのよ。」
「おお、おねえちゃんって実はオトーサンのほうをよく見てるんだね。さすが奥さん。」
「普段よく使っているもの...、あ、彼、本が好きなんです。例えばちょっといいしおりとかをいくつか買ってあげれば、喜ぶでしょうか?」
「珍しい方なのね。本が好きなんて。」
「彼、学生時代から、調べ物はまず本でするタイプの人だったんです。すごく珍しくて、私も最初は驚いたんです。いつも話を聞いていると、私の拙い話の次に、本のことを話すことが多いんです。私も勧めてもらって、実はKindleで読書してるんです。通勤時間も長いですし、彼は色々な本を読んでるから、私の好みも分かるみたいで。」
彼氏さん、すごい努力してるんだなぁ。好みが分かるんじゃなくて、後輩さんが好みそうな本を勧めてるんだと思うんだけど、まあいいか。
「いいんじゃないかしら。本が好きな彼に本をプレゼントしてもしょうがないけど、落ち着いたしおりを見て、あなたを思ってくれたら、それで幸せかもしれないわよ。」
いやいや、おねえちゃんさ、彼はもう後輩さんのことが好きなんだから、本を読んでても、多分後輩さんのことを思ってるよ。
「...うん、いいと思う。でも、奇抜なのはいやかもね。あくまで少し豪華で、後輩さんのイメージに合いそうなしおりとか、あ、ブックカバーもどうかな?」
「いいかもしれません。さすがおねえちゃんですね。」
私も変な男性を好きになったのだなと思った。私はおねえちゃんのように、彼と同じ目線で見える世界を求めていない。ただ、彼が並んで歩んでくれる世界を望んでしまっている。
二人が羨ましいと感じた。彼を好きになるキッカケから私が望んでいた世界のように結婚して、私の親になったおねえちゃん。男性に興味がなかったところから、興味本位で付き合い始め、好きになろうとしている健気な後輩さん。
ああ、私をオトーサンが見つけてくれなければ、この生活もなかったと思うけど、今の私は今のオトーサン、今の彼を好きになっている。親だからかもしれないし、5年も同居し、お互いにケンカすることもあるけど、それはおねえちゃんには出来ないこと。私は、昔の私、昔のおねえちゃん、17歳の夏休みまで同じ記憶を持った人間でありながら、もう一人の私とは違う「好き」を思ってしまっている。
「どうしたの?なんか、顔色悪いわよ?」
「気分が悪くなったんですか?少し休みます?」
「ごめん、ちょっと考え事しちゃった。思ったより、ブックカバーって色々あるよねって。サイズも色々だし。彼氏さんはどのサイズをよく読んでるの?」
この気持ちに気づいたことを、二人に悟られてはダメだと思った。せめてもの抵抗だったかもしれないけど、私は、私に溺れてくれる、今のあの人が好き。
これじゃ、今のおねえちゃんと同じだ。私たちは今のあの人を本当に好きになってるんだ。オトーサン、ああ見えて、今が一番カッコいいかも。
つづく




