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Life 112 僕が好きだったあなたと、僕を好きだった君

「本当に写真のまま。え、これで私と同じ歳なんですか?」

「そうなんです。私もどうなったら、こういう風になってしまったのか、分からないんです。」


僕が好きだったあなたと、僕を好きだった君が、お互いの立場を認識して、最初に交わしたやり取りだった。


「おねえちゃんは実在してるんですよ。信じてもらえました。」

「それはもちろん信じてます。一度お会いしているんですから。でも、その時より若いと思います。1年経って、印象が変わったのかもしれませんけど。」

「それはあるかも。おねえちゃんも色々あったんです。今も去年も、ふたりとも同じ歳。でも、おねえちゃんは恋する乙女になったんだよね。」

「いらないことを言わなくていいの。」

「まあ、そう驚かれても、僕も困るんだよなぁ。今の僕の妻は、彼女だ。君が幸せでいられるように、僕も幸せをしっかり掴めた。それでいいじゃないか。」

「そういうところ。複雑なんだよ、女心は。」

僕のことを鈍いと言った張本人だから、その言葉は核心を突く。僕はそういうところ、本当に鈍いんだよなぁ。

「でも、これで私も、あなたに胸を張って挨拶出来る。私が、この人の妻です。」

「お似合いです。妹さんも、二人を自慢してましたし、もっと自信を持っていいと思います。これは結婚生活の長い女性としてのアドバイスだと思ってください。」

「実感ないんだよなぁ。僕は、二人とただ楽しく生活しているだけなんだ。」

「だから、にぶいの。でも、そういうところ、変わらないね。」

「なんか、妬けるわね。私も嫉妬深いのかしら。」

「気にしないでください。彼は、本当にまっすぐで、周りがあまり見えないし、感じないだけ。だから、私は好きになったんです。」

「結構ひどいこと言ってるけど、そこが好きっていうのも、君らしい。」

「あの頃は、私も狭い世界を生きていた。夫と結婚して、子供が出来て、もう上の子は高3。私達のあの頃と、同じ年齢になったんだよ。夫を愛しているけど、好きなのは君、だと思う。本当に変わらない。」

大胆な告白をしてくるけど、彼女はどこかぶっきらぼうなところがあって、こういう表現をする子だった。言われるたび、僕の隣の女性は、なんとなく肘をつついたりしてる。


「この人の高校時代...と言っても、高3だけ同じクラスだったんですよね?」

「あんまり目立つ人間ではなかったですけど、ある漫画をきっかけに、彼は色々な人と話すようになった。私もその一人です。」

「ってことは、オトーサンに魅力があったわけではなくて、なんとなく好きになったってことですか?」

「そうじゃないの。彼が、私に違う世界を見せてくれた。だから、好きになれた。妹さんも同じじゃないの?」

「私はオトーサンがいなかったら、本当に生きていなかった可能性がありますから。でも、おねえちゃんほど理由はないんです。ただ、オトーサンが好きなだけ。やっぱり、娘ですね。」

「娘なんだ。ここぞとばかりに恋人だって言わないだけ、立派になったもんだよ。」

「社会的に死にたいの?同じ屋根の下で、不倫してるようなもんよ。あなたもよくそんな口が訊けるわね。」

まあ、社会的にはそういうことになるんだろうな。僕は結婚こそしてるけど、未だに三角関係の中にいるし、事情が分からなければ、社会的には殺されるか。

「私は、ただ流されるまま、高校まで進んでしまったんです。しっかり考えたことがないとも言いますけど、進路の面談があったとき、当時の担任から、主体性がまったくないと言われました。でも、その時の私には、未来を考える想像力はなかったと思う。」

「意外ですよね。私達の時代って、まだ学歴社会が強かったし、私は親にいい大学に行って、いい会社に入って、いい相手と結婚して、幸せになれると教えられてきたから、それが真実だと思ってたところがある。失礼ですけど、ご両親はそういうことを言わない人だったの?」

「私の両親は、ほとんど未来の話をしませんでした。相談することもないし、助言もなかったです。三者面談でも、特に担任に相談をするようなこともありませんでした。こと流れ主義の家系なんでしょうかね。」

クスッと微笑む。なんか、懐かしい感覚。表情の緩み方も変わってない。でも、柔らかい表情になった。人の親になったからなのか、接客業だからなのか。

「でも、どうして留年してまで、高校を卒業したんですか?」

娘も高卒認定合格者ではあるが、高校を卒業したわけではない。そこに疑問があったのだろう。

「それが、私と両親との約束でした。なんであれ、私は2回も停学処分をされてしまった。それを言い訳にして、高校を卒業しないのは、私の未来に関わるからと話してくれました。あのとき、私が君にけじめをつけると言ったのは、自分自身の意思。だけど、両親がそう言ってくれなければ、私はあのまま引きこもりになっていたかもしれません。」

「そうならなくて済んだのは、本当にいいことだと思う。で、それからどうしたの?」

「あ、そうか。話したことなかった。私は栄養士の資格を取ろうと思って、専門学校に通ったの。」

「意外だね。代アニとかじゃないんだ。」

「私は作る側の人間じゃないとわかってたし、受け手だから、君と楽しくお話が出来て、君に惹かれたの。」

「この人に惹かれる要素があまりないですよね。私は物好きだからこの人と暮らしてますけど、この人が見せた違う世界が、どうして栄養士だったんです?」

「理由というには不十分ですけど、私が趣味で作ったお菓子を、彼が美味しいって言ってくれたことがきっかけです。お菓子を作って、それを美味しいって言ってもらえたことが、すごくうれしかった。それとともに、彼といろいろな漫画やアニメの話をしていて、食事のシーンがよくあるじゃないですか。やりたいことはなかったですけど、料理は好きでしたから、いつかああいう料理を作れる人になりたいと思ったんです。」

面白い発想だと思ったけど、僕が彼女の人生にきっかけを与えていたとは。素直に生きてみるものだな。

「私達の高校は、調理科もありましたけど、留年後にわざわざそっちに編入することは出来ないし、だからといって、自分でお店を持って、料理を振る舞うようなことも考えていなかった。でも、留年したのだから、本格的に進路を考え出した。調べていくうちに、宇都宮に調理師の専門学校があることを知って、そこには栄養士の専門学校も併設されていたんです。栄養士はカリキュラムをこなさないと取れない資格だったので、先にその資格を取ろうと思ったんです。」

「そんな学校あったんだ。オトーサンは知ってた?」

「初耳。そもそも興味のないジャンルだから。」

「高校の担任の先生は、学校側の配慮があったのか、翌年も同じでした。事情を知っている人だから、色々手伝っていただけた。両親も、やりたいことが見つかったなら、それを最後までやり通しなさいと言って、進学費用を出してくれたんです。もっとも、両親は大学に進むものだと思っていたらしいので、準備はしていた。具体的な方向性を私が見つけたことで、うれしかったのだと思います。」

「ご両親は、やり切ることを重要視されているんですね。聞いてる?やり切ることよ、あなた。」

「どうせ中途半端に投げ出しますよ。あれ、でも、それでどうして喫茶店の店長になれたの?」


「栄養士の資格を取ったところで、就職先がなかったというのが正しいのでしょうか。あなた方より1年早く専門学校を卒業していますけど、資格があったところで、特に仕事の斡旋があるわけではないんです。君が言ってた代アニだって、就職率99%というけど、異業種合わせて。栄養士の資格は、今でこそ引く手あまたかもしれませんが、そこも就職氷河期の影響があったんでしょうね。」

「オトーサンは就職浪人だっけ?そんなに厳しかったの?」

「今もそうだけど、履歴書を数十枚は書いたよ。それでも単なる大卒、しかも経済学部なんて引っかかる要素はなかったし、むしろバイト経験のほうが重要視されてたりしてたからね。今でも、新卒でどこかに入っていたらどうなってただろうと考えることはある。でも、僕の人生が面白くなったのは、その先だったからね。」

「立派な趣味人はいうことが違うわね。それで、就職したのが喫茶店だったってことですか?」

「パートで入ったんです。一人暮らしするほどの余裕もなかったし、お金を貯めなきゃって思ったけど、就職活動をしているうちに、私も疲弊していたんでしょうね。なんとなく立ち寄った喫茶店の求人の張り紙を見て、メモを取って、後日面接を受けることになったんです。それが、この喫茶店です。」

前回会ったときには、たまたま会ったから、休憩時間で話をしただけだったけど、今回は彼女が予定を合わせて、その喫茶店を指定してきた。聞けば、ここが本店なのだという。純喫茶とはお世辞にも言えないけど、駅ナカと同じように、スイーツが中心のお店。確かに、空気はどこか忙しない。でも、店長さんがご厚意で、予約席を用意してくれたようだ。

「ということは、21歳のときから、もう20年以上も喫茶店で働いてるんだ。」

「あ、そういうことになる。私、考えたこともなかった。」

「あの、気になったんですけど、なんでオトーサンと話すとき、ちょっと口調が違うんですか?」

「秘密です。強いて言えば、あの頃の感覚のまま話すからだと思いますよ。」

「あなたにはもったいない人だったわね。勝手なことを言うけど、この人と別れたことで、あなたは幸せを手に入れたって思えますよね。」

「再会してから、時々妹さんから連絡を頂くたびに、君のことを想うようになった。けどね、今は君より、私の家族のほうが大切。さっきも言ったけど、君のことは好きだけど、その気持ちを持っていて、時々思い出すぐらいで十分だと思ってる。家族とは毎日...夫が特殊な職業なものでして、毎日全員が揃うということはないんですけど、子供達と話して、仕事をして、そして夫が帰ってきて、家族団らんになる。この生活が幸せだと思えるのは、そんな些細なことが続いているからなのかもしれませんね。」

「些細なこと、か。」

「なんなのよ、不満?」

「いや、僕らの生活は、些細なことが続いているのかなって。」

「昔、毎日がスペシャルって曲がありましたけど、確かに毎日違うことが起こるから、スペシャルなのかなって。スペシャルも重ねていけば、些細なことになってしまう。だから、日々をスペシャルと考えたほうが、幸せだと思える人もいる。私は日々平穏を好む人間ですし、さすがにスペシャルだと思っていたのは、子供が生まれたり、学校に入学したり、あとは夫が自腹で映画を撮った時ぐらいでしたね。何も起こらないことが、私にとっては幸せの指標。些細なことが幸せだと思えるかどうかは、それぞれ違うと思います。」

「おねえちゃんが幼く見えるよ。そんな考え方が出来るって、やっぱり大人の女性だと思えます。」

「ふふ、ありがとうございます。」

「ま、信じがたいことが次々と起きていれば、毎日がスペシャルになってしまうものか。」

「いいと思う。君が些細なことだと思っていたのは、過去の話でしょ。両手に華、スペシャルになるよ。」

「そういうことか。うん、そうかもしれないね。」

「うらやましいわ。そういう考え方、今の私には出来ないもの。やっぱり、色々背負うものがあるって、大変なのね。」

「徐々に慣れていきます。それに、あなたにはその若さ、見た目の話とはいえ、同じ女性として、衰えていく感覚を感じる年齢になると、複雑な気分になりますけど、それを保てている。これがどんなにすごいことか。」

「私は育児もしたことないですし、ずっと窓際社員みたいなことをやらされてきていて、女性としての幸せをどこか諦めているところがあるのかもしれないですね。」

「彼と結婚して、幸せじゃないですか?」

「どうでしょうね。いつまで経っても、あの頃と雰囲気は変わらないし、豆腐メンタルだし、厄介さはあなたが知っているこの人よりずっと上ですよ。加えて、私にはこの娘にも責任を持たなければいけない。一種の息苦しさもあります。」

「息苦しいと思えること、それも幸せだと私は思います。本当に辛い時、お二人に頼れる立場にいるのでしょう?私も、夫や子供に頼り切りですけど、頼れる相手がいるのも幸せ。苦境に立たされるのも幸せ。私が、お店を任された時にも不安はいっぱいありました。けど、周りが支えてくれる。私はそれが幸せな環境だったと思えるんです。」

「苦難の末に掴む幸せってやつ?」

「苦難も幸せのうちってことだよ。にぶい。素敵な奥さんを悩ませる要素があるとすれば、そのにぶさ。いいところも悪いところも、君はにぶいところが魅力。」

大人の女性に写っていた。僕が好きだったあの人は、大人になってしまった。僕が子供だからそう思えるのだろう。年齢ばかり重ねても、本質的なものが変わらないのが僕。彼女は、もう僕の好きだった子ではなく、一人の大人として、堂々と生きている。寂しさと、置いて行かれたような疎外感を感じてしまった。


「去年、わざわざ宇都宮駅まで来て、フルーツサンドを買ってもらったとき、この姉妹の先に、私の知っている何かがあると感じたんです。お正月に、妹さんと君が一緒に来て、それがはっきりした。私の直感は、勘違いでなかった。そんなことだって、私には幸せなことなんだよ。」

「一喜一憂を楽しんでいますよね。おねえちゃんとはちょっと違う。」

「彼がどこまで話しているかわかりませんけど、彼がかばってくれて、漫画やアニメとは言え色々な世界を見せてくれて、そして人生で初めて告白された。もし、彼がいなかったら、私は家庭を持って、育児や仕事をしているかだって分からなかった。留年が良いとは言いませんけど、私の人生は、彼と離れて、多分明るく照らされるようになった。そして、前向きになれたことが、今のこの感覚につながってると思うんです。両親が高校の留年を許してくれたこと、そこで私がとりあえず行動を起こしたこと、この喫茶店で働くことになったのも、たまたまだけど、行動してみたことの結果。留年して止まってみることも、幸せになるためには必要なことだった。そして行動することが出来た。私にはそう思えるんです。」

「留まる勇気も大事ってことか。進む勇気、戻る勇気、留まる勇気。毎日ドラクエやってるようなもんだよ。人生は。」

「たとえが君っぽい。それでこそ、君だよ。カッコいいね。」

「あら、モテるのね。この人、変人の割に、いろいろな人間に好かれることが多いんです。惹きつけられる要素があるんですか?」

「それに惹きつけられたから、結婚したんじゃないんですか?」

「いや、そうなんですけど...。それにしては、私の会社の同僚にも好かれるし、人間関係で揉めるようなことがないんですよね。」

「理由は簡単です。彼が、彼らしい生き方をしている。だから、人目を惹くんです。旦那さんをそう言われるのは嫌かもしれませんけど、変だから魅力的に見えるんです。」

「納得出来る。オトーサンは浮世離れしてるのに、なぜか生きていられる感じあるもんね。」

「えっ、そんなにおかしい?」

「空気感が独特。声を掛けるのは容易いけど、あくまでも自分の空気を保ち続ける。これだけで不思議と目に付く要素になるよ。好き嫌いはその後。」

「知れば知るほど不思議な人だものね。変人だから好かれる。好かれるのは、この人の人柄か。」

「あのさ、褒められてる?」

「はぁ、やっぱりにぶい。そのままでいて欲しいけど、それにしても、にぶすぎる。」

「気をつけるよ。とは言ってもね。」

「やっぱり、たかだか3ヶ月ぐらいの初恋と、1年近い初恋じゃ、見えてる場所が変わるものなのね。私より夫を知っている気がします。」

「買いかぶり過ぎです。それに、もう結婚して2年なのに、初々しい恋人でいられるのも、私には羨ましく思える。私は母親を20年近くやっているし、夫とも半生を過ごしています。家族だけど、夫とは何でもわかってるけど、ドキドキするような関係ではなくなってしまった。さっき、些細なことが続くことが、私の幸せと言いましたけど、私がわがままなのか、やっぱりいつまでも恋はしていたい。私にこんなことを言う資格はないですけど、それでも私は君が好き。このまま、つながりが切れたとしても、ずっと君のことは好きなまま。」

「生きるためには、必要な感情ですもんね。恋する感情って。」

「妹さんはまだ若いし、彼を好きなのは知ってますけど、離れて生活することもいいと思います。でも、彼が駄目になりそう。」

「僕のことを何でも知ってるんだね。この娘が、告げ口してる?」

「毎回、家族で撮った日常の写真を送ってくれるけど、それで読み取れる。奥様が強い分、君は妹さんに注意が行き過ぎてる。でも、いなくなったら、その視線はちゃんと奥様へ向けられる?そういうところだよ。」

「私達3人は、あなたの手の内ってことなのかも。母は強しと言うけど、いろいろな見方も、考え方も出来るものなんですね。私はこの人の妻だけど、やっぱり恋人が前にでちゃう。」

「それが幸せなら、立場なんて考えなくていいと思いますよ。ただ、好きなだけ、一緒にいたいだけ、私が高校3年のときに思ったこと。それが、今のあなたには出来るんです。一緒にいるだけでいいじゃないですか。」

「ま、そういうことかな。僕は一緒にいて、幸せだよ。」

「そうそう、しばらく、三人で幸せに暮らしていこう。」

奥様が、知らないうちに涙を流していた。うれし涙なのかな。それとも、色々分かり合えた涙かもね。



「取り乱して、申し訳ありません。私は、この人の妻として、生きていきます。」

別に取り乱してもないけど、完璧主義者はそう感じるのか。この宣言は、僕にとっても心強い。

「違いますよ。この人と一緒に、です。あなたが彼の奥様でも、恋人でも、一緒にいるのは同じ。いらないなら、私が浮気しちゃいます。」

「...案外、冗談をいうんだね。」

「長く生きてると、こういう会話も出来るようになる。それは君も一緒。ただ、あのときは君が先に行ってただけ。今は私が前にいるのかも。」

「降参だ。そのうち、君の家族とも会って話をしてみたい。特に、旦那さんには興味があるよ。」

「君に似てる。夢追い人だから、自主制作で映画を作っちゃう。そういう人だよ。気が合うかもね。」

「ありがとうございます。あなたとまた会えて、ちゃんと話が出来て、私はすごく有意義な時間を過ごせた。あなたは、私の考え方を変えてくれた人になると思う。」

「そんなにおおごとに捉えないでください。それに、あなたには羨む外見がある。君は、それを守らなきゃいけない。甘えるのもいいけど、守るのも君の仕事だよ。」

「うん、分かってる。君の想いには応えられなかった分、僕は二人を守って、守られて生きていくよ。」

「やっと分かってくれた。もどかしさが恋だとしたら、理解されたら愛になるのかな?君を好きなまま、私は私の家族と生きていく。君は、目の前の人と生きていって。」

「......なんか、今生の別れみたいになってますけど、またお正月に初詣に来ますよ?」

「妹さんには分からない感覚かもしれないですね。私達は、ただ現実を確かめあっただけなの。もう少し大人になったら、きっと分かるようになる。焦らなくて大丈夫。」

「お姉さんというよりは、お母さんの感覚ですね。私も、母親はあまり知らないから、こういう感じなのかなって。」

「うちの家族に来たら、長女になっちゃうけど、いいの?」

「私はおねえちゃんの妹で十分です。立場上、娘だけど、おねえちゃんでもあって、母親っぽくなってきてる。それを感じることが出来るのも、うれしいんです。」

「立派な答えですね。一緒にいられるうちは、そばを離れないであげてください。だけど、離れるという意思は、絶対に自分で思わなきゃ駄目です。これも、私の両親から受けた、大切な思いです。そうして、家族は代々続いていくものなのでしょうね。」

「大人の答えですね。二人といると、どうしてもわちゃわちゃしちゃってるから。」

「わちゃわちゃ出来るときは、それでいいんですよ。なんとなく離れて行くのは駄目。私は結婚という目的のために、両親から離れたけど、今でもつながりはある。多分、ただただ一人暮らしがしたいと言って家を飛び出したら、今の幸せにはならなかったし、両親とのつながりも途絶えてしまったかもしれない。そう感じるのです。」

説得力のある言葉だった。僕とは大違いだ。ただ大学に通うために一人暮らしを始めて、ここまでなんとなく生きている。それでも彼女は、僕を好いてくれる。君の人生観を変えたのが僕だとしたら、今の君は、僕の人生観を変えてくれた人になる。やっぱり、君を好きになってよかった。

「満足そうだね。どうしたの?」

「僕と君は、このままいい関係で生きていけるのかなって。」

「いい関係じゃないと、ここまで話さないよ。また、にぶい君に戻ったね。」



つづく

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