Append Life 106.9 再会する前から恥を晒すのか
あの時の会話をふと思い出した。
僕が彼女と会う前、こんなことを聞いていたなんて、自分でもどうかしてたと思った。
「しかし、僕に惹かれる要素があるとしても、あなたにしかわからないと思うんだけどなぁ。」
彼女の会社の後輩が話していた内容を聞いて、素直に思った一言だった。
「私があなたの何を知ってるって言うのよ?私から見たあなたは、理想の恋人ではないわよ。理想の人生を一緒に歩んでくれる人だと思ってる。」
「あ、それを言っちゃうんだ。なんか嫉妬する。」
「アンタの立場も捨てがたいと思うわよ。恋する相手が父親って、同じような境遇じゃないの。」
「いや、そうなんだけどね、オトーサンと私は恋人であって親子だから、素直に人生を歩める時間は短い。おねえちゃんはよく添い遂げるって言うけど、私は添い遂げることが出来ずに、おいていかれてしまう存在なんだよ。」
「言いたいことはわかるけど、そんなことを考えてるより、今目の前に迫っている現実に立ち向かう君が、僕は好きだよ。」
「好きだって、いいでしょ?おねえちゃん。」
「何よ、理想の女性は私なんだから。ねぇ、君もそう思うでしょ。」
「僕が軽率だった。あんまりカジュアルに好きとか愛してるとか言ってると、こういうところで弊害が出るなぁ。若くないんだけどなぁ。」
「言ってくれないんだ。ケチ。」
「理想の女性が会社の後輩に僕を売るような真似をされたら、そりゃ理想でもなんでもないよ。」
「...本当にごめんなさい。でも、私にはそれしか浮かばなかったのよ。あなたを大切に思ってるけど、私も後輩たちを見捨てるような立場じゃないと悟ってしまった以上、そう言うしかなかったのよ。あなたを預けてみる?って言った私がすべての責任を背負うわよ。」
「うん、まあ、そこまで責めるわけじゃないけどさ、たかだか3回ぐらいしか顔を合わせたこともないし、延べ時間で言えば、もうひとりの子のほうが、あなたの失態を含めて長いと思うんだ。それだけで、どうして僕に惹かれるんだろうって?」
「単純に外面がいいからじゃないのかな?見た目じゃ絶対にかっこいいとは言われない。さっきの話を聞いてる限り、オトーサンは可愛いって言ってるみたいだし。」
「僕はパンダかなにかか?ミャクミャクみたいな存在だと思うぞ。」
「いろんなところを敵にする発言っぽいけど、それはともかくよね。う~ん、私の後輩たちは、あなたをこぞって褒めるけど、その良さが果たして何なのかが本当にわからないのよね。」
「僕、一応あなたの夫と恋人なんですけど、あなたがそれを言う?」
「だって、私達だけが、あなたと同じ景色を見たいと思った人間だと思うのよ。素敵な話と彼女たちは言うけど、あなたと同じ景色を見ることは一生ないと思うのよ。それは、あなたの天性の感覚が、私達にはないから。でも、それでも見られると思って、こうやって一緒にいるのよ。」
「緩急が激しいな。でも、あなたの言ってることも、やっぱり僕には理解出来ない。けど、あなたにしかわからない僕の良さが、きっとその感覚なんだろうと思う。」
「ま、鈍感だしね。またにぶいって昔の恋人に言われて見たらいいんじゃない?」
「あ、そうか。彼女がそれを一番知ってる気がする。いや、恋人じゃないし、まして人妻に聞くのはなぁ。」
「ちょっと待ってて。こういうときにLINEアカウントを交換しといて良かったよ。」
「え、聞くの?」
「あの人ともなんだかんだでたまに写真を送ったり、あの人の家族の写真をもらったりしてるんだよ。言ってないだけ。」
「...恋人まで行けなかった僕の好きな人が、自分の娘と仲良くLINEでやり取りしてるっていうのが、変な感覚になる。」
「そう言わないでよ。あの人も、今でも気にしてるんだよ。君のこと。」
「ま、いいか。返事が帰ってこなければ、この話はもういいよ。僕はミャクミャクと同類と考えるよ。」
「自分の夫がミャクミャクみたいな人です...とは言えないわね。なんかゆるキャラにしても、もう少し似てるキャラがいそうなのにね。」
数分後、あっという間に答えが返ってきたらしい。この娘がこの娘なら、彼女も彼女だ。
「よくわからないけど、すごく好きだったって。」
「趣味が合うとか、守ってくれたとか、そういうのじゃなくて?」
「ちょいまち...」
この娘の天性の能力というか、人の懐に入れるなにか、僕が見えている景色というのが、それに当たるものなのだろう。だから、無自覚にいられる。こういうことなのか。
「考えたこともなかったんだって。ただ、好きだったって。」
「なんか釈然としないけど、今の君を見ていてなんとなく理解出来た。理屈じゃないって僕も知ってたはずなのにね。」
「なんで私?オトーサン、もしかして惚れ直した?」
「いや、理解出来た。僕の妻が理想の女性なら、君は好きな女性だ。これでいい?」
「それって、私の魅力がないみたいにも聞こえる。」
「いいじゃないの。好きな女性よ。私は理想の女性。理想というのは、この人には都合がいいって意味合いもあると思うわよ。」
「そこまで打算的に考えなくてもいいと思うけど。」
「冗談よ。でもね、この娘は確かに好きにさせる魔力というか、誰からも愛されるような空気を持っているのは確かよね。」
「ふ~ん、それって、無自覚だけど、私にも魅力があるってこと?」
「アンタぐらい魅力的な女性だったら、本来なら逆ハーレム作れるわよ。ほんと、アンタの友人に感謝だわ。」
「魅力って自分で作るものじゃないかもね。ある意味、彼女の答えが的を得ているということだよ。」
「今度はちゃんと挨拶するわよ。だから三人で行きましょう。」
「ああ、その話ね。僕も、君を紹介しておきたい。そのときは、理想の女性だって堂々としてていいよ。」
「あなたが言うと嫌味にしか聞こえないものね。」
「う~ん、会った時に話してくれるって。」
「こんな遅くに付き合ってる彼女の身にもなろうよ。直接聞けば、信憑性は上がるだろ?」
「そういうことね。きっと、私達にはわからない、あなたの別の良さがわかるわね。」
「そうならいいんだけどね。う~ん、あの頃の僕と、今の僕。違いもなければ、何も成長していない気がする。逆に弱くなってるよ。」
「儚いところや繊細なところも、あなたの魅力よ。少なくとも、私にはそう見える。」
「敵わないな。やっぱり、あなたは僕の理想の女性だよ。」
「ねぇ、オトーサン、私は?」
「自慢の娘、かな。流石に自慢の恋人ですって言う勇気はない。」
「そういうところだよね。ちゃんと知ってるから、安心していいよ。」
「何を安心していいのやら...。寝よう、明日も日常だよ。」
「そうね。どうして、社会人になったら、こんなに規則正しい生活になってしまうのかしらね。」
「いいだろう。バイトしてるとは言え、まだ大学生だから、時間に余裕はあるんだから。」
「...いっそ、明日はズル休みでもして、部屋でゴロゴロしてようかな。」
「くだらないこと言ってないで寝るわよ。アンタはどうするの?明日は何限から?」
「明日は午後から。少しゲームしてから寝る。二人はつかの間の恋人ごっこでもしながら寝れば?」
「あら、それなら思いっきり喘いで、アンタを嫉妬させてあげるわよ。ねぇ、あなた。」
「僕を巻き込まないで欲しい。僕はせめて向かい合って寝るぐらいしかしないよ。」
「抱きしめあいながら寝るぐらいしてもいいんじゃないの?」
「バカップルめ。とっとと寝ればいいのに。どうせ、朝起きれば、離れて寝てるんだから。」
まあ、その後は、特に何もなかったけど、朝起きたら、娘が背中に引っ付いて寝てた。きっと、嫉妬深い奥様は、悔しい顔をしてたんだろうなぁ。
思い出したら、なんか嫌な汗をかくな。彼女が娘を通じて、どこまで僕らの関係を知っているのか、もう怖くて聞けない。
つづく




