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Life 110.5 知られたくないことぐらい知ってた

もうすぐ昼の12時ぐらい。よくもまあ、中年夫婦がファミレスで延々と話をしていたものだ。


ガチャ。

起きてないのかな?部屋が真っ暗だ。

「眠かったのかしら?起きてないわね。」

「あなたを基準に体力を考えちゃいけないよ。二人はあなたより少し長く休息と栄養が必要だよ。」

「私は寝て、食べて、あなたと一緒にいれば、それで大丈夫なのにね。」

「......重い愛だなぁ。」

「重いのはあなたも一緒じゃないの。っと、静かにしてないとね。」

リビングに入って、こたつにお弁当を並べる。が、明らかに特定の人向けのものが2つ、オムライスとヒレカツ弁当。

「彼女、オムライス好きとはいえ、頻繁に出すのもどうなの?」

「嫌なら、私かあなたのお弁当と交換すればいいでしょ?

と、寝室の扉が開いた。出てきたのは、眠そうに目を擦る、パジャマ姿の彼女だった。

「う~ん、起こさないでよ。お母さん。」

...寝ぼけてる?もしかして、寝起きが弱い?

「ごめんなさい。起こしちゃった?」

その気になって答えちゃう奥様。お姉さんだったり、お母さんだったり、忙しいな。

「あ、もうお昼?お昼何?」

「オムライスで良かった?あなたが好きなもの、あまり知らなくて。」

「知らな......いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

寝室に入り、扉を閉める。なるほど、失態というのは、本人の寝起きが関係してるんだ。

「あら、母親役にはなりきれなかったかな?」

「目が覚めたんだよ。会社の先輩を母親と呼んで、恥ずかしかったんでしょ?」

「先生にお母さんって言っちゃう気持ちかしらね。そんなの、誰でもあることなのにね。」

程なくして、娘の声も聞こえてくる。なだめてるんだろな。しかし、出てくるかな?


「取り乱して、大変申し訳ありません。」

キリッとした顔をしているものの、髪の毛は乱れ、パジャマ姿。素の彼女は、残念な美人だったのだろうか。

「いいって。あなたは、私とお母様を間違えてもおかしくないじゃない。」

「そんなことないです。先輩はもっと若々しいです。」

事実を言ってるんだけど、この人の若々しいは、君より若いと思うよ。

「まあ、落ち着こうって。私の家だから、誰にも見られてないし、話さないから。」

「嫌です。私、母に言って、先輩の家で暮らします。一生ここで家政婦として働きます。骨を埋めます。」

「それは困るのよね。会社で、あなたがいなくなると、みんな困るし、ここに住むとしても、旦那の役目がなくなっちゃうし。」

僕は家政婦扱いなのか。まあ、事実だけど。

「そんなに取り乱したところで、見られちゃったものはしょうがないよ。とりあえず、お昼ごはんを食べよう。」

「おねえちゃんは、私の失態を面白がってます。見せ物じゃないんです。」

「面白がってるなら、なだめるようなことを2回もしないけどなぁ。」

「......すみません。」

「落ち着くまでいてもいいよ。親御さんには連絡をして、もう一泊していってもいいし。」

「お父様にも迷惑を掛けられません。私、お昼ごはんを頂いたら、着替えて帰りますから。」

あ、お昼ごはんは食べるんだ。割と食べることに執着はあるな。

「さ、冷めないうちに、食べましょう。アンタはヒレカツ弁当で良かったわよね?」

「お、おねえちゃん、さすがだね。私が毎食カツでもいいって分かってる。」

「あの、私...。」

「あなたはオムライス。ごめんなさい、他に好きなものを知らなかったから。昨日はオムハヤシだったけど、今日はオムライス。」

「本当に気を使って頂いて、ありがとうございます。」

「いいのよ。あなたに母親として見てもらって、私も少しうれしかった。」

「......恥ずかしいですね。私、先輩のこと、お姉さんとして見てたのに、お母さんにも見えるなんて。」

「残念ながら、本当の母親じゃないのよねぇ。ま、プライベートのときには、お母さんと呼んでもらってもいいわよ。」

「やっぱり、お姉さんです。私には、尊敬する母がいますから。」

「よろしい。さ、食べた食べた。」

姉御肌を通り越してるよなぁ。明らかに母親の言動に近い。少なからず、娘がいることで、会社で後輩たちをそういう目で見るようになったのかもしれない。

適応能力の高さなのか、それとも本来持っていた母親としての感情が表に出てきたのか。家庭を持つことで、こんな一面を見られるのは、夫としてはうれしい。



つづく

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