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Life 109 先輩と、おねえちゃんと、後輩と

お盆休みの前の週末。金曜日ともなれば、いつの時代も、華金とは言ったもんだ。

プレミアムフライデーとか言うのがあったけど、あれはどこに行ってしまったんだろう。


知ってるけどさ、二人はスイミングの日だから、僕一人なんだよ。

いいよなぁ。運動した分、美味しいご飯を食べてくる。作らなくていいのはありがたいけど、一人で夕飯を食べるのが、なんか寂しいんだよなぁ。

思えばちょうど5年。一人から二人で夕飯を食べるようになって、2年前からは三人で食べるようになった。不思議なもので、一人で食べる夕飯がしょっちゅう起きるようになって、結局富士そばや松屋に行くようになってしまったのは、誰でもいいから、一緒に夕飯を食べている人が欲しいんだろう。人恋しい?そうかもね。




と、オトーサンが思ってるだろう今日は、スイミングの日。最初に来た時は冬だったけど、夏になり、屋内プールと言えど、予約が取りづらいらしい。

この前の話の通り、先輩さんが一緒に来る。おねえちゃんのプライベートレッスンというやつらしい。頭を空にして体を動かすのは、デスクワーカーには必要だと言って誘ってみたらしいけど、おねえちゃんはストイックだからなぁ。初心者向けじゃないんだよ。

「お待たせ。暑かったでしょう。入って待っていればよかったのに。」

「居づらいというか。あ、本当に来たんだ。」

「お久しぶりです。おねえちゃん。」

「だから、そのおねえちゃんってやめてよ。あなたのほうが年上で、先輩なんだから。」

「でも、おねえちゃんなんです。」

「面白い関係よね。なんで、この娘がおねえちゃんなわけ?」

「先輩を、私が勝手にお姉さんだと思ってるんです。先輩の妹さんだから、おねえちゃんになるのかなって。」

「独特の解釈過ぎて、分からないよ。」

「同意するわ。でも、今のあなた、会社にいるより楽しそう。誘った甲斐があったわ。」

「楽しいです。お二人とご一緒出来るだけで、私は楽しい。」

出た、悪魔の笑み。そっか、やっぱり私達には心を許してるんだな。しかし、強引なおねえちゃん解釈、ごまかし方は下手だと思った。人間性が出るなぁ。

「さ、今日は目標1500mよ。ビシバシ行くから、ついてきなさい。」

「言ってるだけだからね。私達はマイペースで泳ごう。」

「はい.....、でも、水着になるのは、やっぱり恥ずかしいです。」

「レジャープールじゃないし、そんなに気にならないよ。あ、私に見られるのが嫌だったりする?」

「あなたは立派な体だからいいじゃないですか。私、他人に見せられるような体型じゃないですよ。」

そうは言ってるけど、私は忘れてないよ。あの朝、おねえちゃんそっくりな下着姿だった。まさかと思うけど、これで体型までおねえちゃんにそっくりだったら、私達と関係があってもおかしくないぐらい、他人の空似が過ぎる。

「騒いでてもしょうがないわよ。私の裸を見たら、安心するから。自信を持って、ね。」

「はい。先輩が言うなら。って、裸?」

「水着に着替えるんだから、裸になるわよね。あれ、おかしい?」

「更衣室ですよね?」

「あ、見られたくないんだ。まあ、私も最初はそうだったけど、慣れだよ。気にしなくて大丈夫。それに、ここに来る人は結構ガチ目の人が多いから、ボディラインもキレイだよ。」

「そんなところに連れてこないでください。ああ、どうしよう。恥ずかしい。」

「あなたも狼狽することがあるのね。でも、予約取ってるし、無心になって泳げば、そんなことは忘れるわ。私じゃ、安心出来ない?」

「先輩の話でも、安心出来ないことがあるんです。」

「おねえちゃん、個人の更衣室ってあるんだっけ?」

「あんまりおすすめはしないけど、トイレかな。」

「じゃあ、そこで着替えます。着替え終わったら呼びます。一人にしないでください。」

「だって、おねえちゃん。」

「おねえちゃんが、私をおねえちゃんって呼ぶな。......一人にしないから、行こう。」



まあ、私達もまだ半年しか通ってないけど、本格的な水泳コースなだけあって、3レーンの予約が取れたのが、お盆休みの直前になってしまった。

セキュリティもしっかりしてるし、入口で予約照合までするから、利用者とスタッフさん以外は、入れない。大会とかなら別なんだろうけどね。


私達は、更衣室に着いた。

「う~んと、トイレは、ロッカーを3つ超えて左側の突き当りだね。」

「でも、私達以外、誰もいないわよ。恥ずかしがることないんじゃない?」

手際よくロッカーに荷物を入れ、水着とゴーグルにキャップを出し、服を脱ぎ始めるおねえちゃん。

「え、え、ここ、入口に近いですよ?」

「うん、帰る時に便利でしょ?」

受け応える間に、もう下着姿。あ、今日はソフトブラの日か。

「隠してくださいよ。恥ずかしいです。」

「あら、そう?でも、私の裸、見てみたいと思わない?」

まだ、Cカップで騒いでる時のテンションだな。結局、Cの日とBの日があるというだけで、違いはわずかに約2センチ。その2センチの増減で、おねえちゃんのブラカップが変わるけど、ソフトブラをしてるということは、Cに近いBの日だな。オトーサンには、見分けがつかないだろうなぁ。

そして、後輩さんを無視したおねえちゃんは、下着も脱いで、裸になっていた。そっちに視線が言ってるうちに、私も下着姿になってた。このまま見つからないで、私は着替えられそうだ。

「どう?あんまり人様に自慢できるような体型じゃないけど。」

「......キレイ。先輩、40代って嘘ですよね?」

「生物学上は42歳よ。10月で43。」

「世の中には、信じられないことがあるんですね。私と比べることなく、私が理想にしている体型です。」

「じゃ、その理想に近づくためには、私にも体を見せてくれないと。」

「はいはい、そこまでにしようか、おねえちゃん。」

水着に着替え終わった私が割って入る。急いで着替えて良かったよ。

「か~っ、相変わらず、卑しか体ね。」

「おねえちゃん、すごい。グラビアアイドルの水着姿そのものです。」

「えへへ、ありがとう。ほら、トイレに行って、着替えてきたら。」

「はい、ありがとうございます。行ってきます。」

「ちゃんとキャップとタオルは持ってきてね。」


「悪ふざけが過ぎる。さっさと水着着なさいよ。」

「私の体を見たら、自分の体に自信が持てるとおもったのにね。」

「おねえちゃんさ、一応行っておくけど、おねえちゃんの体つき、常人のそれじゃないよ。イタリアの石像とか、美容外科のサンプル写真とか出せるレベル。」

「いいことを聞いたわ。フリー素材で、顔を映さないように、全身の写真を取られたら、いくら貰えるかしら?」

「それって、デジタルタトゥーになるよ。オトーサンが一番嫌がるやつ。」

「さすがに末代まで恥を晒すことはしたくないわよ。あ、水着着るからちょっと待ってて。」


少しして、彼女が水着姿で出てきた。あ、スパッツタイプ。スクール水着のような感じがする。

しかし、そうは言ったけど、私があの時に見た通り、やっぱりほぼおねえちゃんとスリーサイズが変わらない感じ。脱いでも凄かったら、男性まで群がりそうだ。

「お待たせ...しました。」

「あら、可愛いじゃないの。わざわざ買ったの?」

「いえ、大学で、プールの授業があった時に買った水着です。クロール200mで単位を落としかけましたから。」

「泳げるわよね?」

「あ、それは大丈夫です。」

「アンタさ、隣のレーンだから、最初は慣らしていって。私が最初に教えた感じにやれば大丈夫よ。」

「うん、分かった。行こう?誰も見てないからさ。」


プールに入る前に準備運動。そしてキャップをかぶり、プールに入った。もうおねえちゃんは始めてる。

「じゃあさ、とりあえず真ん中まで、自由形で泳いで、休憩して、もう半分を泳ごう。」

「私が溺れたら、おねえちゃん、助けてくれます?」

「当たり前だよ。でも、私も溺れちゃったら、ごめんね。」

「その時は先輩がたすけてくれますよね。」

「監視員さんもいるから、安心だよ。それに、無理だと思ったら、コース上で立っても大丈夫。2時間は貸し切りだし、ゆっくりと全身運動をしよう。」


...嘘だよね?大学の授業、課題をクリア危うかったとか、絶対に嘘。

息継ぎがうまく出来ないみたいだけど、普通にクロールで50mを泳ぎきってしまってる。200mって時間設定があったのかな。

「泳げるじゃん。」

「泳げましたね。自分でもびっくりです。」

「バタ足でもたついてた私に比べて、これだけ泳げるなら問題ないよ。」

「でも、息継ぎで水を飲んでしまうんですよね。それが嫌で、50m息継ぎなしで泳げるかなと試してみたんですけど。」

試すって。足が付くから溺れることはないと思うけど、彼女の場合、なんか無理してでもやってしまう癖みたいなのがありそう。

「無理は良くないと思うし、普段は体を動かしてるんだっけ?」

「動かしてるといえば、通勤が2時間ぐらいかかりますから、それだけで運動かもしれません。」

「え、2時間ほぼ立ちっぱなし?」

「はい、帰りはさすがに座れますけど、朝は立ちっぱなしです。」

運動と言うには怪しいけど、普通の女の子だと、それで十分なんだと思う。

私は食の細いオトーサンのほぼ2倍食べてるから、運動しないとダメだけど、彼女もそれほど食べる方じゃなさそうだもんね。

「そっか。これから帰るの、大変だよね。」

「いえ、母に話したら、運動不足だから、しっかり泳いできなさいと言われました。」

さすが、美容とかに厳しそうなお母さん。あんなにキレイなまま、おねえちゃんと年齢が変わらないんだから、今の時代は本当にわからない。私の親の40代は、もっとおばさんだったよ。

「ちょっと上がって休憩しよう。10分したら、また一往復。それを繰り返してると、あっという間に2時間経っちゃうよ。」

「はい。頑張りましょう。おねえちゃん。」


「やっぱり、あなたって基礎体力高いのよ。私達と一緒にトレーニングしましょうよ。」

「先輩にも、娘さんにも、私は及ばないです。私はもう限界ですよ。」

「私も限界なんだから、同じぐらいだと思うよ。私は1年近くトレーニングして、これが今の限界なんだから。」

三人でシャワーを浴びてる。相変わらず、おねえちゃんはこういう時に出る色気がすごい。競泳水着に隠された、鍛えられた体に、童顔なのに大人の表情、ちょっといやらしい仕草。おねえちゃんだけが持つ唯一無二の、特別な色気を、ここでは惜しげもなく披露する。私達しか見てないけどね。

そして、後輩さんは、手を胸に当てて、ホッとした表情でシャワーを浴びている。雰囲気に合うなぁ。しかし、体型を見ると、パッと見でおねえちゃんと瓜二つとも言えるほど。確かに手足は引き締まってるような感じではなく、女性らしい丸みを帯びているから、好みは分かれると思う。女性らしさで言えば、彼女のほうがそう見える。おねえちゃんはなんの気なしに見ると普通だけど、よくよく見ると、本当にアスリートっぽいパーツしてるもんね。

「どうかしました?ジッとこっちを見てますよ?」

「あ、ついつい、キレイだったもので、見とれちゃった。」

「水着を着てますけど、見せ物じゃないんです。シャワーぐらい、静かに浴びさせてください。」

おねえちゃんがシャワーを止めて、私達に近づいてきた。

「やっぱり、キレイな子は、ボディラインもキレイよね。運動してるの?」

「いえ、通勤に2時間ぐらいかかるので、あんまりしてません。」

「えっ、そんなに遠かった?あちゃー、なんか、誘って、深夜に帰らせるのは心配ね。」

「大丈夫ですよ。ご飯を食べたら、すぐ帰れば間に合います。」

「食べたいものある?私の奢りだから、多少は高いものでもOKよ。」

「私はとんかつ。」

「アンタはとんかつ以外、なんかないの?」

「じゃあ、バーキン。マックでもいいよ。」

「却下。まだとんかつのほうが体作りにはいいわ。」

脳筋か。この前オトーサンとも話したけど、お酒に卑しいのに、食べ物は和食派なんだよなぁ。カロリーコントロールしやすいから?お酒に合うから、和食派?とんかつって和食?

「私は先輩の行きたいところなら、どこでもいいです。」

「私が付き合わせてるんだから、ワガママ言っていいのよ?」

「それじゃあ、オムライス。好きなんです。」

そういうことだったのか。あの時は、本当に我慢出来なくて、先に食べてしまった?あれ、私のイメージが、少しずつ崩れてる?

「オムライス、いいね。カツのせられるかな?」

「出来るわけないでしょ。トルコライスじゃあるまいし。」

「トルコライスですか?聞いたことないです。」

「たしか長崎のご当地料理よね。オムライスじゃなかったかしら。チキンライスかも。」

「カツはいいから、オムライス食べに行こう。着替えたら調べるよ。」

「そうしましょう。しかし、雰囲気があるわよね。何着ても似合うってこういうことかしら。」

「あの、先輩。ずっと気になってるんですけど。」

「うん、どうかした?」

「あの、その、先輩、ずっと胸の形、水着から浮いてますけど、恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしくないと言えば嘘になるけど、トレーニングする時は、出来るだけ素の状態になりたいの。あくまで泳ぐのが目的。まあ、私を目当てに、周りが男性だけになったら、それは考えるわよ。さすがに男性にはジロジロ見られたくない。」

「それは、旦那さんにもですか?」

「あの人は私の裸なんて、もう見飽きてるんじゃない。この娘にバカップル認定されてるし、あなたが思ってるより、ずっとエッチなことしてるわよ。」

「家族がいる前で、そういうこと話すかなぁ。」

「大胆になれる相手がいるって、羨ましいかも。」

「おっ、少しは進展があったのかしら?その話は、ご飯を食べながら聞きましょうか。」



更衣室は私達だけ。彼女はトイレで着替えてる。堂々としてるのはおねえちゃんだけ。私は下着までなら、まあなんとか。

「ねぇ、私達って、恥知らずなのかしら?」

「誰もいないから、別にいいと思うけど。私達は一緒にお風呂に入ってるからって言うのもあるんじゃない。」

「我が家は風紀が乱れてるのよね。私が言う事じゃないけど。」

「風紀を乱してる張本人だもんね。娘を放置して、エッチしてる親なんて、寝静まってからやれっての。週に何回してるの?」

「あの人次第だけど。その気になると、たまに恐ろしいわよ。だけど、短期集中型だから、バレずに済んでることも多い。」

「聞きたくないよ。それに、コスプレエッチするなら、もっと着た服を隠す努力ぐらいして欲しい。」

「ついつい洗濯機に入れちゃうのよね。それくらい、許して。」

オトーサンがなんとなくAmazonで注文する→それをおねえちゃんが見て嫌がる→オトーサンがおだてる→おねえちゃんが試着しちゃう→事後ってパターン、多すぎなんだよ。

せめて空気の入れ替えぐらいして欲しいよね。空気清浄機があっても、匂いまでは消せないの、分かってるよね。その前に、娘が帰って来るのに、情事中なのもどうかと思う。定時退社して、家でエッチしてから、さも普通に夕飯を食べてる二人が、やっぱりおかしい。


「お待たせしました。」

「髪の毛、乾かしたほうがいいわね。今のあなた、キレイな顔が台無しになっちゃう。」

「私が乾かしてあげるよ。さ、座って。」

更衣室の洗面台って、どこでも椅子があるけど、ドライヤーは珍しいのかな?

「あの、一人で出来ます。」

「そう言わないでよ。私も、ロングヘアーのお手入れ、ちゃんとしてるんだから。」

「おねえちゃんがそういうなら、ちょっとだけ甘えてみます。お願いします。」

私はオトーサンほどドライヤーをかけるのはうまくない。だから、どうしても乾かし方にムラが出来てしまう。

「ごめん、あんまりうまく乾かせなかったかも。」

「それじゃあ、今度はおねえちゃんの髪、私が乾かします。」

「ありがとう。お願いします。」

そうは言ってくれたけど、やっぱりロングヘアーの扱いは難しいのかな。彼女も乾かし方にムラがある。自分でやると、そうなってしまうのかな。

「私も、あまり人のことを言えませんね。」

「いや、何も言われてないけど。ロングになると、自分で乾かすのは難しいのかな。」

「どうなんでしょう。ここのドライヤーのせいもあるかもしれないですね。私の使ってるドライヤーって、風量が普通のより強いんです。」

「なるほど。私は家族でナノイードライヤーを使ってる。けど、自分で乾かすことって少なくて、オトーサンにやってもらってるんだ。」

「お父様、確か先輩の髪の毛も乾かすって。美容師なんですか?」

「そんなわけないよ。こればっかりは、オトーサンが昔から得意で、任せちゃってるんだよね。」

「お父様も多才なんですね。独特な雰囲気だから、納得します。」

「あ~、うん、そうなのかな。」

そこに、待ってるおねえちゃんが、スマホの画面を見せながら、

「全然知らなかった。オムライスにとんかつがのってる料理、ボルガライスって言うらしいわよ。」

「あるんだ。え、なんて?」

「ボルガライスですか?強そうな名前ですけど、日本の料理ですか?」

「福井の御当地料理みたいね。トルコライスみたいなものだけど、あれかしらね、いもフライみたいなもの?」

「いもフライ?天ぷらじゃなくてですか?」

「栃木だと、お惣菜コーナーに並んでるところが多いけど、見なくなったよね。」

「あれも、私達の住んでた地域とは、若干離れた場所の御当地グルメよね。」

「そうなんだ。だから、オトーサンの実家で、おかーさんが作ってくれるんだ。」

「その話は帰省してからでいいわ。しかし、知らないものね。オムライス専門店なら、トッピングにカツって、意外にスタンダードなのね。」

「未知の料理ですね。メニューにあったら、私も食べたい。」

「もちろん。若いうちは、我慢しないで食べたほうがいいわよ。特に揚げ物はね。」

「おねえちゃん、あれほどオトーサンを馬鹿にしてたのに、揚げ物に弱くなってきたんだね。」

「そうなのよね。内臓は歳を取っているのかしら。」



そう都合よくオムライスが出てくる洋食屋さんなんて、この近くにはなかった。なので、結局はファミレスでご飯を食べてた。おねえちゃんは、もちろんビール。

ワイワイと三人で好きなものを食べて、酒のつまみやら、デザートを2つ頼むやら。オトーサン、ごめん、三人で1万もファミレスで食べることなんて、普通はないよね。

そして、楽しい時間が続けば、時間経過を忘れる、私達の悪いクセに繋がってしまったことは明らかだった。

「あれ、後輩さん、終電大丈夫?」

「えっ、今って何時ですか?」

「ごめんなさい。全然見てなかった......、って、ええ、23時半。」

「どうしよう。もうここからだと、終電に間に合いません。ホテル、空いてるかな...。」

思いっきり不安そうな顔してるけど、それもまたキレイ...って言ってる場合じゃないな。

「あ、じゃあ、うちに来なさいな。見知った顔だし、あなたも気兼ねなくいられるでしょ?」

「そうしよう。無理して高いタクシー代やホテル代払うの、もったいないよ。」

「......お邪魔になりませんか?」

「大丈夫よ。まあ、旦那がいるけど、別の部屋に寝てもらうから。」

「いえ、そこまでしていただくなら、タクシーで帰ります。」

「タクシーだって、捕まるかわからないし、オトーサンも自分の布団で寝られるから、そこは安心して。」

「そう...ですか。じゃあ、お言葉に甘えて、泊まらせてください。お願いします。」

頭を下げてきたけど、そうならないように注意しなきゃいけないのは、私達だったんだよなぁ。ついつい、いつもの感覚で食べてたし。

「あ、じゃあ、お母様には連絡しなさい。うちなら、まだ電車で帰れるから、先に連絡して。」

「はい、ありがとうございます。」



成り行きとは言え、彼女が家にやってきちゃう。大丈夫だろうか。



つづく

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