Life 94 日常に帰ってきた
それからの僕は、1ヶ月の休職を経て、無事復職することになった。復職とは言え、なにか環境が変わるわけもなく。いや、むしろ悪化しているようだった。
「おお、大将。無事に復帰か。」
「申し訳なかった。今日から、またよろしくお願いします。」
「固いねぇ。俺等、もっと適当な言い回しで仕事してなかったっけ?」
「そうだっけ?よく覚えてないけど、なんとなく仕事が溜まってる感じかな?」
「いやぁ、愚痴を吐く相手がいなくて、こっちまでやられるところだった。ま、とりあえず営業資料は、この部署で作らないようになったから、安心しとけって。」
「君はよくそこまで押し返したね。まあ、一人いないだけで、実は社内SEなんてもんは、回らなくなるもんな。」
「今までレンタルサーバーにおいてたWebページを社内のサーバーに戻すとか言い始めてるから、会社自体が末期なのかもな。」
「それは困ったな。復職直後に転職活動って?」
「覚悟しといたほうがいいとは思うけど、それよりどうやって社内のサーバーにWebコンテンツを置くか、そっちのほうが問題。」
「大体にしろ、あんなUPSも付いてないような、NASに毛が生えた程度のスペックのやつ、アクセスに耐えられるのかね?」
「Apacheの設定が出来て、ルーターに穴開けて、ドメイン先を変更するだけでいいんだろう?いや、NASのデータまで持っていかれそうだ。」
「大人しく新しいNAS買って、そこに移植したほうがいい。僕が適当にお金を出してもらうよ。」
「お前の交渉力、というか謎の力、会社のどんな弱みを握ってるんだ?」
「大したことじゃない、僕が昔いた会社のアカウントが死んでない関係で、社内PCをリプレースするとき、帳簿上は定価を表記しているけど、実際は僕の前にいた会社の法人価格で導入して、浮いたお金を少額ながら横領していると、税理士にバラすって脅してるだけだよ。僕も罰を受けるだろうけど、実は税理士に密告してある。だから、帳尻合わせは出来ている。知らないのは、お国柄な人たちだけだ。」
「俺は犯罪者と仕事をしてるってことか?まあ、なんであれ、金を引き出す材料があるのは強いな。それで、休職出来たってわけね。」
「休職したところで、会社は腹が痛むわけじゃない。保険組合から休業手当が出るだけだし、それも来月の話だよ。多少、総務がめんどくさがるかもしれないけど、組織ぐるみの不正を暴かれる方が、よほどダメージがでかい。まして、この業界は狭いし、そんなことで潰れたら、僕らの行き場もなくなる。大ごとにせず、自分の居場所を確保するには、こういう方法を取るのがベストだったってだけだよ。君は知らないフリをし続けて欲しい。」
「未練はないが、仕事がなくなるほうが問題か。それもそうだな。とりあえず、お前のいなかった1ヶ月で、ウマ娘はだいぶ状況が変わった。ウマ娘に専念するために、まずはハード調達をしといてくれ。俺はウマ娘をやる。」
「せめて仕事しながらやってくれ。と言っても、ウチは直販とかやってないから、Webページもすぐに移行出来るだろう。ネットワーク周りは任せる。」
「はいよ。じゃ、今日もエイシンフラッシュ育てるかな。」
「......反応に困る。まあ、いいや。」
「そう言えば、お前さんの奥様、あれ本当に40代か?」
「ああ、そう言えば動く彼女を見たのは初めてだったっけ?」
「昔、写真を見せてもらったことがあったけど、娘さんと同じ顔してると思ってたが、あれじゃ、本当に若奥様だろ。」
「褒めてもらえるうちはまだいい。彼女は異常だ。だけど、なぜ異常なのか?その理由は、ある程度分かった。」
「病気とか?だとしたら、悪いことを言った。」
「そうじゃない。強いて言えば、この世には、信じられないことがある。彼女は、たまたまそういう人間になっただけだよ。」
「そっちのほうが聞きたいけど、知る必要もないか。」
「君のところの家族のほうが、よほど現実的だ。ウチには親より成長している娘がいる。もう、どちらが親か分からない。」
「とはいえ、奥様に頼まれたからな、お前の世話。ウマ娘のついでに、見てやるよ。」
「ソシャゲのついでとはありがたい。いつも君には助けられてばかりだけど、もう少し世話になるよ。」
「それにしても、一家の大黒柱が休職で、家族は大丈夫だったのか?」
「ああ、僕は大黒柱じゃないから。その、可愛い奥様が大黒柱。勤めてる会社で、部長代理をやっているらしい。」
「なんかおかしな話だな。現実問題、お前なしでも、家族は問題ないって?」
「ないわけじゃない。例えば、僕の口座に携帯料金が入ってなければ、連絡もできなくなる。いわゆる、公共料金の支払いは、僕の役目。」
「電気、ガス、水道、ネット回線、携帯料金、そんなもん?」
「あとはサブスク代かな。と言っても、Amazon Primeは年会費だし、PSNは娘にアカウント譲渡した。Netflixは奥様が入ってるのかな?」
「案外、ややこしいことになってるな。」
「それを全部払っても、一人暮らしよりはよほど安い。家賃は、奥様が出してる。娘は自分の学費を稼いでいるけど、足りない分は奥様の貯金から出てる。」
「お前さんは?」
「僕?そんな金ないよ。大体、娘と二人で暮らしてた時に、借金までしたんだから。」
「連れ子じゃないんだっけか?」
「ああ、そうか。その辺の事情を話してなかった。娘は、とある事情で、あの娘が17の時に、僕が引き取ったんだ。色々ややこしくなるんで、養子縁組とかはしてないけどね。」
「なんか、お前の家庭、闇を感じるんだが。」
「今は、娘がやりたいことをやれれば、それでいいと思ってるし、現実に大学にいくために高卒資格も取った。自力で、自分のお金で取った。大学の入学金も自分で準備した。よく出来た娘だから、僕が親をやる必要もないんだけどね。」
「親が必要な時があるんだろう。それとも、彼氏役とか?」
「......よく分かるな。女子大だけど、最近は言い寄られることも多いらしく、おじさんと付き合ってるって言えば、大体の輩は自ずと引いていくんだと。」
「パパ活を逆手に取ってるのか。たくましいと言うか。お前は、それでいいの?」
「まあ、現実に17から育ててるということは、リアルにパパ活をしているようなものだ。」
「行動力には感服する。ま、無理するな。大将。」
「無理をすると、また休職かな。あんまり、体は強くないものなんで。」
「で、私がパパ活してるって?もう5年ぐらいパパ活してれば、彼氏に昇格してもいいんじゃない?」
たくましい娘とは、まさにこういうところなんだろうな。平気で立ち位置をホイホイと変えてくる。それでいて、俯瞰出来るのだから、手に負えないわけだ。
「いや、君がそう言ってるだけで、ずっと彼氏なんでしょ?対外的にはパパ活でもいいわけ?」
「う~ん、まあ、いいんじゃないかな。だって、私達の関係なんて、話したところで、誰も信じてくれないよ。だったら、一番オトーサンが身近に感じる位置にいるのが、やっぱり自然じゃない?あ、オトーサンって呼び方が、パパ活っぽい?」
「まあ、いいんじゃない、って、なんかオウム返しになってるね。納得したよ。」
二人で笑ってるその横で、一人おかしいと思っている人間がいる。
「いやいや、おかしいでしょう?大体、アンタもアンタよ。女子大に通ってて、パパ活してるって、どんだけ遊んでる女に見られるか。」
「そうかな?あ、友達には、ちゃんと彼氏って言ってるよ。私の彼氏だもん。ね~。」
「うん、断る話でもないしね。一応、君の彼氏だからね。」
「あなたも、軽いのよ。そういうところよ、この娘がつけ上がるじゃないの。」
「そう?あなたは、もっと上の位置にいるじゃない。戸籍にも認められてる、妻なんだよ?」
「そういう意味じゃないわよ。いい、自分の父親代わりと結婚するなら、まだ話としてはありかもしれないわ。だけど、私がいるのに、対外的に彼氏って紹介されたとき、私は誰っってことになっちゃうじゃない。本当のことを話したら、あなた、社会的に死ぬわよ?」
「そう言われると、確かにそうなんだけどさぁ。」
「あ、ヤキモチだ。おねえちゃん、やっぱり私がオトーサンのこと、取っちゃうと思って、ヤキモチ焼いてるんでしょ?」
「ヤキモチでもいいわよ。だけど、自分を貶めるような言い方は、やっぱり良くないわよ。まして、アンタにはまだまだ未来があるし、私達はアンタの未来を見たいのよ。それなのに、パパ活してるって噂されてみなさいよ。やっぱり、先行するイメージが悪いわ。日本は、世間体とメンツの世界だから。」
「気のない男に彼氏がいると言われても、ワンナイト的なことを言われる。それを撃退するには、パパ活やってるぐらいしか、私には思いつかないよ。」
「気のない男のあしらい方か。自分の彼女ですとは、確かに世間体的に言えないね。僕の娘ってことには出来るけどさ。」
「じゃあ、こうしよう。家の中では彼女、もしくは娘。オトーサンって呼んだら、娘だと思って。君って呼んだら、彼女だと思って欲しい。」
「外は?」
「二人の時は、彼氏。三人で出かけるときは、娘だよ。ね、納得したでしょ?」
「うん、別におかしいことはないと思うけどね。でも......あなたはなんか納得行かない?」
「あったりまえよ。私とあなたが二人なら、恋人同士。この娘が入ると家族。そこには問題ないけど、アンタがこの生活、どういうふうに伝えてるのか。」
「じゃあ、私達、全員で友人と会ってみたらいいんじゃない?私も、二人を紹介したいよ。」
「友人に両親を紹介するってのはどうなの?まあ、親としては安心するけどね。」
「それより、体よくなんか奢らせるための口実でしょ?まあ、アンタ一人ぐらいならなんとかなるけどさ。」
「あ~、じゃあ、家に呼ぶのは?それなら、別に二人がいてもおかしくないでしょ?」
「いいよ。あ、僕一人で男になっちゃうのはどうかと思うけど。」
「あなただけで済むならいいわよ。ま、彼氏とか連れてこないなら、別にいいわよ。」
「あなたは混ざれるからいいんじゃない。実物を見て驚くでしょ?」
「いやねぇ、私だって、歳のことは考えるわよ。さすがにあなたと同じ42歳よ?」
「ねぇ、あなた、ビール。エビス残ってなかったっけ?」
「お姉さん、いけるじゃないですか。あ、お父さん、私氷結で。」
「ごめんなさい、この子、普段から酔っ払うとこんな感じなんです。」
「ああ、ウチにも酔っ払いはいるし、大丈夫だよ。君も楽しんでね。」
「お父様、慣れてますね。そっか、......の父親ですもんね。」
なぜ、ウチに友人を連れてくる?そして、ウチの奥様、なぜ馴染んでる?
「オトーサン、二人にお酒を出すの、もうやめたほうがいいよ。それよりごめんね、巻き込んじゃって。」
「ううん、私達が会ってみたいって思ったから。にしても、迷惑ですよね?」
「大丈夫。ウチは、もうこのマンションだと、ちょっと異彩な人たちだって扱いだから。ハハハ...、はぁ~。」
「困らせてるよ。やっぱり、引っ張って帰るよ。」
「ちょっと、ビール遅いわよ。あなた、もしかして私に出すお酒がないってこと?」
「お父さん、私は大丈夫ですよ。ガンガン持ってきてくださいね。氷結、氷結。」
「あ~、はいはい。ちょっと待っててね。」
おかしいな。僕、つい半月前ぐらいまで、精神的にやられてたんだけどな。
「それにしても、お姉さん?なの、お母様じゃなくて?」
「おねえちゃんって、見た目があんな感じなんで、お母さんって呼んで欲しくないって言ってるんだよ。」
「あの人は母親役が出来るような人じゃないしね。驚くほど若いでしょ?」
「はい、世の中には、信じられないことが多いって思います。本当に......を生んでるんですか?」
「あ、そうか、おねえちゃんも、オトーサンも、私の親じゃないんだよ。」
「え、私、その話聞いていいの?」
「そうだな、何を話したらいいんだろう、この娘、あの人の親戚というか、いとこというか、そんな感じなんだけど、わけあって、この娘を預かってたんだ。もう5年近いかな。」
「あ、察した。もしかして、良く言ってる彼氏って、もしかしてお父様?」
「うん、本当に彼氏なんだよ。ねぇ~。」
手を引っ張って、自分のものだと誇示するような娘。
「そういうことにしといてもらえるかな、立場的に、親だけど、男女の関係ってことになってる。おかしな関係でしょ?」
「でも、奥様いらっしゃるじゃないですか。その点はどうなんですか?」
「どうなんだろう?オトーサンとおねえちゃんも、戸籍上は夫婦だけど、もっと恋愛してるような感じだよね。」
「恥ずかしながらね。あ、これは内緒にしておいてね。」
「はぁ~、......の彼氏が、お父様で、既婚者。私の想像が追いつかない。」
「ごめん。説明することになると、こうなっちゃうから、家に呼んだの。嫌いになった?」
「う~ん、私は彼氏を作ったことがないからさ、どうであれ、彼氏持ちのアドバイスは知りたいよ。」
「ありがとうね。私、いくらでも相談に乗っちゃうよ。ほら、もう裸の付き合いだしね。」
「あ、君達が、この前この娘と旅行に行ったって話てた子達なんだね。ごめんね、この娘が迷惑掛けちゃったね。」
「いえ、お父様は知ってると思いますけど、この子の珍しい面も見れましたし。その、フェロモンがすごいですよね。」
「同性でもそう思うんだ。やっぱり、君も気をつけないとダメだよ。だけど、僕が彼氏っていう話は、やっぱり強引かな。」
「そう?彼氏じゃん。別に気にすることじゃないし、私がおじさん好きってことでいいじゃん。」
「ですって。変な娘でごめんね。これからも迷惑掛けるかもしれないけど、よろしくね。」
「はい。この話は、ちゃんと黙っていますし、この子の彼氏になってあげてください。」
「まいったなぁ。友人公認で、不倫を許されてるようなもんなんだけど。」
「あ、そう言われると、不倫ですね。」
「ちょっとあなた、おつまみ、確かチーズあったよね。あれ、この子にも持ってきてよ。」
「お姉さん、ありがとうございます。お父さん、お願いします。チーズください。」
「...やれやれ、楽しそうでなによりだ。」
「じゃ、解放してあげる。頑張れ、オトーサン。」
彼女は、頬にキスをして、送り出してくれた。まあ、キッチンだけどね。
「いいの?絶対に叶わない恋ってやつじゃないの?」
「う~ん、そうなんだけど、私はオトーサンのこと、大好きだからさ。やっぱり、ずっと一緒にいたいの。」
「私が何か言える立場じゃないんだけど、......が幸せなら、いいと思う。彼氏の話をするとき、すごく楽しそうな理由が良く分かった。」
「私、嫌われるんじゃないかって思ってたんだ。不潔とか、不純とか、そう言われても仕方ないと思ってた。あっちは...まあ、おねえちゃんと楽しくやってるから、もういいや。」
「本音を言うと、そう思う。でもね、お父様も真剣な顔してたし、楽しそうにしてる顔を見て、本気だって分かったら、なんか、許せてきちゃった。」
「本当にありがとう。あんまり隠し事出来ない性格だから、なんか騙してるのは嫌だったんだ。」
「知ってる。だけど、この前は驚いたなぁ。脱いだら、あんなにいやらしい体だったんだってね。」
「その話はもうやめてよ。私だって、こんなに成長するとは思ってなかったんだよ。」
「羨ましいけど、その体の作り方、やっぱり彼氏がいると、色々成長するんだね。私も、彼氏欲しいなぁ。」
「大丈夫だよ。必ず、その人に会えるって。私もそうだったし、オトーサンとは運命的な出会いをしてるしね。」
「お腹いっぱいだよ。その話はまた今度しよう。それよりさぁ...。」
「あなた、ちょっと何か作ってよ?夜食よ、夜食。あなたも食べるでしょ?」
「あ、いただきます。お姉さん、すごくいい旦那さんですね。ラブラブですか?」
「そう、ラブラブよ。私の美貌で、あの人も溺愛よ。愛され体質、身につけたほうがいいわよ。」
おねえちゃんは何を言ってるのだろうか?普段、あんなにそばにいて、色々尽くすタイプなのに。
「あはは...、う~ん、ま、いいか。今日は泊まっていくでしょ?」
「いいの?じゃ、私もお姉さんに色々お話聞きたいなぁ。」
「おねえちゃんの話?まあ、興味本位で聞くのはいいと思うけど。」
「はい、残り物だけど、パスタに入れてみた。ごめん、こんなものしか出来なくて。」
「あら、おしゃれじゃないの。こういうのを作れるのが、この人のいいところよね。大好きよ。」
「お姉さん、うらやましいなぁ。私の彼氏、こんなことしてくれないですよ?」
「出来る人とできない人がいるし、彼氏も育てていくものよ。一緒にやってあげれば、彼の自信にもなるし、いい事ずくめよ。」
「お姉さんはいい旦那さんと暮らしてるんですね。あの子も、素直に育ってるわけだ。素直で、いやらしい子。モテますよねぇ。」
「あの娘、本当にいやらしいわよね。身内でもそう思うわ。誰に似たのかしら。」
「はいはい、あの娘の話はそこまでにしよう。さ、食べて食べて。」
しかし、僕は彼女に育ててもらって、ご飯作れるようになったわけじゃないのにね。自分はほとんど出来ないのに。大体、一緒に料理して、自信がついた覚えなんてないけどね。
「それじゃ、僕は駅前のホテルに泊まってるから。」
「えっ、大丈夫だよ。オトーサンはベッドで寝てよ。」
「みんなは大丈夫だと思うけど、一人、おばさんが間違いを起こす気がするからね。用心のため。」
「ちょっと、私に襲われるっていうの?そんなことするわけないじゃないの。」
「そうだね。今はそう思ってるかもしれないけど、一緒にお風呂とか入ってきそうだし。」
「お姉さんって意外と大胆ですね。お父さん、羨ましいぞ。甘えちゃえ。」
「そうもいかないよ。この人、本当に大胆だし、ちょっと激しいからね。おじさんだと、もう辛いんだよ。」
「お父さん、悲しいこと言わないでよ。愛してるなら、頑張れって。」
「いやいや、君達がいる家の中で、お風呂でおじさんとおばさんがエッチしてるって、もうおかしいでしょ?」
「お父様、さすがにそんなことをなされたら、引きますよ。」
「それをやるのが、この人なんだよ。僕はホテルに泊まる。女同士、楽しくやって。また、明日朝ご飯買って戻って来るから。」
「オトーサン、ごめん。」
また、クセでこの娘の頭を撫でてしまった。
「いいよ。可愛い娘の友人と、奥様が安心出来るなら、安いものだよ。」
「ああん、気にせず、私と寝ましょうよ。大丈夫だから、ねぇ~。」
「いや、ダメだろうって。君の大丈夫は、必ずダメなことになる。客人に恥を晒して、後で後悔だけならまだしも、軽蔑されるのは、僕は嫌だね。」
「君って呼んでくれるのに。残念。それじゃ、若い子たちに、色々手ほどきを教えてあげちゃおうかしらね。」
「いいかい、嫌なら、警察を呼んでいいから。シラフな二人を信じるからね。」
「うん、ありがとう、オトーサン。また明日ね。」
「ご迷惑をお掛けします。お父様。」
「いいよ。気にしないでね。じゃあ、また明日。」
「恥ずかしがってる。可愛いわよね。」
「おねえちゃん、あんまり悪ノリしちゃダメだよ。オトーサン、また倒れちゃう。」
「えっ、お父さん、もしかして病み上がりだった?ごめん。」
「もしかして、私達やっぱり迷惑だった?今からでも、終電で帰るよ。」
「あ、大丈夫。オトーサンは、あれで照れてるだけ。楽しそうだったから、大丈夫だよ。」
「若い子に鼻を伸ばしてる感じでしょ。まったく、私がいるっていうのにね。」
「そう言いますけど、お姉さんが私達の中で、一番若いですよ?どうしてそんな歳の取り方出来るんですか?」
「えへへ~。いいでしょう~。秘密よ。でも、私は体が貧相だから、それと引き換えかな。」
「あの、失礼かもしれないですけど、お母様と......、そっくりですけど、義理の親子なんですか?」
「あ、さっきも言ったけど、私とおねえちゃんは、親子というより、いとこって言うのが近いのかな。いや、いとこでもないか。」
「そうねぇ、この娘と私の親は、同じ人なの。本当の意味で、姉妹なのよ。」
「じゃあ、お姉さんっていうのは、本当なんだ。」
「ね、私が若いって理由、分かったでしょう?」
「いやいや、全然理由になってないよ。う~ん、なんと言えばいいのかな。おねえちゃんを育ててる途中で、私達の親は失踪してしまった。その失踪している期間に私が生まれてるの。でも、それも私が17歳のときにまた失踪して、そこでオトーサンに助けられたの。」
「だから、この娘の彼氏というのは、あながち嘘じゃないのよ。あの人が、この娘の頭を撫でるクセ。あれも、5年近く一緒に住んでるから、一種の愛情表現なのよ。」
「さっきも疑問に思いましたけど、お母様は、お父様の奥様なんですよね。この子との関係ってどういう感じなんですか?」
「あ、確かに。お姉さんの旦那さんだけど、......の彼氏なんですよね。なんか、公然と浮気してるってこと?」
「そういうことね。私も、この娘も、お互いにあの人の恋人というスタンスをしてる。それに、この娘を育ててくれた恩と、この娘の思いの強さも知ってる。私は、母親役をしながら、時には恋敵で、時には相談に乗る。あなた達と同じ、友人に近いのかもね。」
「...やっぱり、引くよね。でも、二人には、私を育ててくれた両親を紹介したかったんだ。」
「私はいいと思う。お姉さんも、......も、お父さんに一途なんだなって思うよ。ま、三人でアレコレしちゃうんだろうけど、それは別としてかな。」
「さすがに経緯を聞いてると、不潔とは言えないですよね。お父様も、パパ活じゃ済まないぐらい、愛情を注いでますものね。この子がパパ活って良く言うから、どういう人かと思っていたんですけど、ずっと優しくて、温かい人でした。」
「やっぱり、パパ活って言葉、あんまり良くないのかな?」
「当たり前よ。アンタがパパ活してるって言ったから、彼女を心配させてたんじゃないの。ほら、謝りなさい。」
「ごめんなさい。もう、パパ活って言わない。その代わり、彼氏と同棲してるって言う。」
「極端だよね。でも、そっちのほうが、私は安心する。私も、同棲出来るぐらい、素敵な彼氏が欲しいなぁ。」
「ああ、同棲とか、夢だよ、夢。彼氏がいても、同棲に踏み切れるほど、現実は甘くないぜ。ねぇ、お姉さん。」
「そうねぇ、若い人の夢を壊すのはどうかと思うけど、私も、最初の彼とは、同棲出来なかった。させてくれなかったのよ。でも、その人は、女癖が悪い人だったし、最後には捨てられたの。一時は、私も彼と暮らす夢を見てたけど、彼はそう思ってなかった。それに、生活していく上で、ズレをどうやって修正するか、いつも考えてるわよ。」
「お父様、あんなに優しそうなのに、やっぱり食い違いとかあるんですか?」
「う~ん、あの人、なんというか、優しすぎて、生き残れない人間なのよ。だから、私が支えることにしたの。そう考えたら、私もどんどんあの人を好きになれた。また、恋人同士の仲みたいになってるのよ。私、尽くす女なのかもね。」
「いやいや、おねえちゃん、かなり暴君だよ。今日は、ちょっとやり過ぎだよ。」
「だって、楽しかったんだもん。久々に飲める相手がいて、嬉しかったのよ。」
「お姉さん、いい飲みっぷりだった。さすが、飲み方を分かってるよね。LINE交換しようよ。」
「あら、いいの?あなたの2倍生きてるおばさんよ?」
「お姉さんはお姉さんだよ。それに、色々教えてくれるでしょ?」
「相談は自由。でも、的を得た答えが出るかしらね?」
「大丈夫。それを考えるのが私の役目。お姉さんの答えをそのままやっても、多分ダメだよ。」
「賢いのね、あなた。私の娘になる?」
「何言ってるの?お姉さんの娘は、立派な子がいるじゃない。」
「立派だってよ。どうする、アンタ?」
「えへへ、そんなに褒められるとうれしいかな。」
「でも、事実として、......が一番恋愛関係も、人間関係も色々分かってると思うよ。私、友達でよかった。大好き。」
「これからもよろしくね。大好きだよ。」
「そちらのお嬢さんは...、あ、やっぱり浮気や不純を認めちゃう大人は、嫌よね。」
「いえ、お母様の愛情の深さも分かりましたし、この子の親なんだなって納得しちゃったんですよ。私も、LINE交換していいですか?」
「喜んで。やった、なんか、娘が増えたみたい。この前、新卒の会社の後輩からもLINE交換しちゃったし、まだまだ私も捨てたもんじゃないわね。」
「おねえちゃん、私の母親やらずに、みんなの母親役やってたらいいんじゃない。姉御肌だし。」
「いいわね。これからも、ちょくちょく、一緒に遊びましょう。なんなら、ディズニー行っちゃう?」
「オバサン、浮かれすぎ。まったく、おねえちゃんがこんな感じだから、オトーサンはホテルに泊まってるんだよ。自覚しようよ。」
「あ、じゃあ、女同士、これから気持ちよくなろうか。そっちも、色々教えられるわよ。」
「黙りなさい。この破廉恥。まったく。ごめんね、私達はベッドで寝るから、おねえちゃんは、オトーサンの布団で寝なさい。」
「え、いいの?あの人の布団、あの人の匂い。うれしい。声出ちゃったら、ごめんなさいね。」
「...お姉さん、もしかして、結構変態度合い高い?」
「隠す必要もないわね。やっぱり、旦那のことを思って、夜、なぐさめちゃうときもあるのよ。」
「その割に......は、あんまりそういうことしなさそう。彼氏さんに、しっかりしてもらってる?」
「私は、内緒。でも、ご覧の通り、私の彼氏は、おじさん。だから、ゆっくりと、愛してもらってる。私の、初めての人だしね。」
「じゃあ、3人でエッチなこともしてたり?」
「う~ん、してるかな。と言っても、お風呂に入ったりするぐらいだけど。」
「複雑な関係なのね。やっぱり、しばらく彼氏はいいかな。なんか価値観が少し変わった。」
「ごめんね、変な価値観をもたせちゃったよね。反省。」
「あ、違う違う。遅かれ早かれ、私にもそういう人と会えるかなって思ったの。自分の見る目も大事だけど、女の子だし、告白もされてみたし。」
「可愛いねぇ。大丈夫、アンタも十分に可愛い容姿なんだし、3年でゼミに入ったら、好みの男子を捕まえちゃえ。」
「そういう方法もあるね。前途洋々ってやつかな。待っててね、恋バナ出来るように、彼氏捕まえちゃう。」
「すごい意気込み。そういうのって、大事だよね。私も、オトーサンに教わったよ。」
「彼氏が教えてくれるって、なんか、やっぱり羨ましいぞ。私の彼、マジ体目当てなんじゃないってぐらい、恋愛観が麻痺してるからなぁ。早いとこ決着付けないと、ただのセフレ以下になる。私も愛されたいっての。」
「怖いこと話してるわね。でも、そういう男は振るのが一番。自分の体目当てなら、代わりに気持ちよくさせてくれる男を捕まえたほうが、いいわよ。」
「おねえちゃんも、アドバイスが雑なんだよなぁ。恋愛だって言ってるのにね。あ、ごめん、お風呂沸かすね。」
「ありがとう。もう遅いし、私達も3人でお風呂入ろうか。」
「彼氏いない割に、女同士の裸の付き合いは好きだよねぇ。もしかして、彼氏より、女同士のほうが興味ある?」
「ないとは言えないかな。それに、ねぇ、見たくない?」
「あ、見るだけじゃなくて、いたずらもしちゃう?自宅だし、リラックスしながらだと、また違うんじゃない?」
「私の裸は見せ物じゃないの。でも、入るだけならいいよ。狭いから、一人はシャワー浴びてる感じになるけど、それでいいなら。」
「ちょっと、私はどうするのよ?私だけ一人寂しく後で入れって?」
「おねえちゃんは、今日はお風呂は危ないよ。......の3倍はビール飲んでるでしょ?酔いが冷めてから、朝にでも入れば?」
「むぅ、痛いところを突くわね。仕方ない、じゃあ、布団を敷いて、先に寝てようかしら。」
「いい、水は飲んでもいいけど、冷蔵庫は開けたらダメだからね。多分空だと思うけど、これでまた飲み始めたら、布団にも匂いが付くからね。」
「はい。分かってます。あの人の布団だもの。そこまでバカじゃないわ。」
「関係性が良く分からなくなってきた。やっぱり親子じゃないなぁ。」
「でも、本当に親子じゃないんだし、こういう関係がいいんじゃないの。この子が無邪気で明るいから、両親も楽しそうだしね。」
翌朝
ガチャ
「ただいま~。朝ご飯買ってきたよ。」
あれ、まだ寝てるのかな。まあいいや、リビングでご飯食べよう。
ガラガラとリビングを開ける。やっぱりというか、そこには痴態を晒したような光景が広がっていた。パジャマや下着が散乱し、布団にも入らずに、裸で寝ている。お酒の失敗...なのかな。起こすか。
「おーい、起きてよ。君さ、すごく恥ずかしい格好してるよ。」
う~んと、なんだろこの変な感じ。この人、布団で寝るとこんなに寝相が悪いんだっけ?いや、それより裸で寝てるほうを咎めるべきなのかな。
「うん、う~ん、あ、あなた、おはよう。」
「うん、おはよう。まず服を着ようね。」
「やだ、引っ剥がして、起こしたでしょう。変態。ケダモノ。」
「そんなわけないだろ。周りに服や下着を脱ぎ散らかして、挙げ句、僕の布団で寝てるし、なんかあの娘たちにしたんだろう。」
「あの娘たちには、断じて手を出していません。私が手を出したのは、あなたの匂いでさみしくなった、私自身。やっぱり、一緒に寝てくれないと、私、おかしくなっちゃう。」
「分かった。今度は、君の部屋も取る...いや、ダブルルームでいいのか。これからは一緒に泊まろう。一応聞くけど、聞かれてないよね?」
「多分...。記憶が定かじゃないけど、布団に入ってるうちに、シャワーを浴びて雑念を消そうと思ったの。服はここで脱いちゃったし、シャワーを浴びながら、そのまま...。」
「疲れて、裸で布団にもロクに入ってなかったの?エアコン付いてるとはいえ、風邪引くよ?」
ガラガラっと寝室の扉も開く。あ、こっちはさすがに分別が付いていそう。若い人のが信用出来る。
「あ、お父さん、おはようございます。え、もしかして、朝から一戦交わってた?」
「それなら声が聞こえるよ。ごめんなさい、お父様、もうお戻りになってたんですね。」
「おばさんが迷惑掛けちゃって、ごめんね。さ、みんな、朝ご飯食べよう。」
「やっぱりやっちゃったかぁ。この人、本当にどうしたらいいんだろう。いいから、服を着てよ。恥ずかしいよ、まったく。」
「ねぇ、アンタのお姉さん、本当に42歳なの?若いモデルみたいな体つきに見える。キレイ過ぎ。」
「分かる、私も驚いた。お母様、私達より本当に若いよね。どうしてあんな感じなの?」
「そこはちょっとした秘密かな。言っても信じてもらえないだろうし、何よりそもそもの原因が分かってないしね。あ、でも10年以上、週の半分以上は、10キロランニングとかしてるから、その賜物なのかも。私は5キロしか走れない時間で10キロだから、速いよ。」
言ったって信じてもらえないよね。まさか、本当に18歳のままだって。でも、私達だけにそう見えてるわけじゃないんだね。おねえちゃん、やっぱりキレイな体つきなんだな。
「それに、お父さん、まったく驚くことなく、裸のお姉さんと話してるけど、あの人もちょっとおかしい人?」
「オトーサンはね、ああ見えて、すごくスケベで、エッチで、変態ないたずら小僧だから、裸はもう見飽きてるんじゃないかな。」
「見飽きてるって...、それにしては、お父様が淡白すぎるよ。あ、そうか、今も一緒にお風呂に入るぐらいの仲だもんね。」
「もしかして、アンタの家族、裸族だったりする?」
「裸族ではない。私を巻き込まないで欲しい。」
「けど、パジャマを脱いでるよね?私達がお風呂をいただいてたら、布団で寝てなかったっけ?」
「夜中にシャワーを浴びてたんじゃない?どうせ、酔いも冷めないままだから、ここで服を脱いで浴びて、そのまま戻ってきた感じじゃないの?ごめん、恥ずかしいところ見せちゃった。おねえちゃんに変わって謝る。」
「いんや、世の中にはすごい人がいるんだなって、逆に感心した。アンタのお姉さん、本当に普通の会社員なの?」
「ミセス紙でモデルとか出来ちゃうよ?お母様じゃなくて、本当にお姉様って感じ。うちのお母さんとそんなに年齢変わらないはずだけどなぁ。」
「おねえちゃんは、ずっと独身だったし、気苦労も今ほどなかったからじゃないかな。その分、自分磨きというか...、それにしても10キロのランニングを週に半分もやってるからこそなのかも。う~ん、でも、それとも違うような気がする。」
もぞもぞと脱いでたパジャマを着ていくおねえちゃんを横目に、
「ほら、若い人たちに、君のキレイな裸、見られてたんだよ。」
「あ、ごめんなさい。貧相な体、見せちゃった。」
「貧相?お姉さん、40過ぎて、その体はすごいです。どうなってるんですか?」
「いいでしょう?秘密よ、若さを保つ秘密。」
言ってることは立派なんだけどなぁ。格好がなぁ。下着も付けずにパジャマ着てるしさぁ。なんでそんなに堂々としてるんだろう。普段はそこそこ恥じらうんだけどなぁ。お酒が抜けてない?
「くだらないこと言ってないで、朝ご飯食べよう。君達も、食べるでしょ?」
「あ、ありがとうございます。お父様。」
「あ~あ、私の両親、やっぱり変だよね。どうしてこうなっちゃったかな。」
変だから、恋に落ちてるのかもしれない。変な三角関係だけど、三人だから、楽しいんだよね。...今は、恥ずかしいけど。
つづく。