山に登る2
一時間後、林の中を進んでいた馬車は、平らな道の終わる地点に辿り着いた。そこから先は狭い山道になっていて、人の歩く幅しかない。
二人は馬車を降り、道を見る。
「馬車はここまでが限界です」
「そーだな、それにしても随分助かった」
本来は林の外で降りる予定だった為、距離はかなり縮まった。
フィールは目の前の樹々の生い茂る山道を見て、登りにくそうな山だと感じた。
登るのに使う体力を考えると、少しでも楽が出来て良かったはずだ。
「本当にありがとうございました!」
「いえ、運ぶのが私達の仕事ですから」
もし歩いてここまで来たら、とてもやる気を無くしていた気がする。
本心からお礼を言うと、笑顔で返された。
すると、視界の端にこの大きな馬車を支える馬達が見えた。
「君達も、ありがとう」
襲われた上に、走りにくい林を頑張って走ってくれた彼らにもお礼を言い、振り向くとロキがいない。
置いて行かれたかと思い慌てるが、すぐに馬車の側面で何かをしているのが見えて、走り出しそうになった足に急ブレーキをかけた。
何かと思い近付くと、ロキは赤いチョークで馬車の外壁に何かを書いているではないか。
「ちょっ、何やってるんですか!?」
「まじない」
手を止めずにその一言だけ言い、書き続ける。
書いている字や図形を見ても何の事だかサッパリわからない。
一応『領域方陣』らしき形ではあるがまじないと言うよりは、子供の落書きのように見える。
隣りに来ていた馭者も、止める事もせずに驚いている。
いきなりこんな事をされたら誰でも驚くしかないだろう。
そんな事を思っていたらまじないとやらは書き終わったらしく、ロキは手に付いた粉を払っている。
「こ、これは…!」
声も出せずにいた馭者が叫ぶ。
当たり前だ、どんな人でも商売道具に落書きをされたら怒るはずだ。
…その上、このチョーク少し触ってもとれない、水でも中々落ち無そうだ。
わざわざ運んでくれたのに何故こんな事をするのか、と怒ろうかと思った瞬間。
「『セーフティスペース』の領域方陣!!」
…えっと?