表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オールウェイズ  作者: 光牙飛鳥
全ての始まり 冒険の始まり 何かの終わり
7/100

全ての始まり 全ての終わり

ギルド章

1.これを持つ者はギルド宿舎に宿泊することを認める

2.仕事の為に人物運送有料馬車を無償で使用する権利を認める、対価として馬車の護衛をする事

3.これは仕事の遂行の証拠として、魔物の死を記録する

4.船等の交通費を補助する

5.全ての国境を越える権利を有する

6.自らが死した時、言葉を残す事が出来る




小さな窓から外を見ると、馬車が林の近くを走っているのがわかった。

あの後ギルドについて話をしてもらっていたら、いつの間にか夜になっていた。

「明日の為に寝ろ」と言われ十秒で入眠、爆睡し、暫く眠っていた。

目が覚めた時にはすっかり朝で、寝坊したかと思って慌ててしまった。

食事にとギルド支給だという栄養パンをもらい、ちまちまかじっていたら、もうすぐつくと言われて急いで食べるはめになった。

もったいない、折角だからゆっくり食べて満腹になりたかった。

またオムライスを食べたいな~、と思っていたら、隣りのロキが溜め息をついた。


「困ったなー」

「どうかしました?」


時間に間に合わないのかと思い、正面に見える山を見る。

大した高さの山では無く1000mギリギリ位、なだらかな地形なので登るのに苦労はしないだろう。

じゃあ何が、と隣りを見ると、ロキは急に立ち上がり外を睨む。

見えない敵でもいるかのようだった。


「…来る」


その途端、何もなかった場所から急に獣が現われた。

1匹では無い、それは数を増していく。

姿から低級魔物、『ハウンド』のように見受けられる。

だが、何故出現がわかったのだろうか。


魔物は基本、この世界とは違う、魔界から現われる。

異世界からこちらへ来る時には空間の狭間である『ディウス』を通り、現われる機会を窺っているのだ。

その姿は見る事も感じる事も難しいと言われている。

それをこうも簡単に予測…いや、感知するとは異常なほどのセンスだ。


けれども、驚いている暇は無い。

車内は、突然の魔物の襲来にパニックに陥りかけている。


「魔物がぁ!」

「喰われるなんてごめんだ!!」

「ママー!」


馭者も慌てているのか、馬が慌てているのか、馬車は真直ぐに走れなくなっていた。

ふらつく中をロキは止まる事無く先頭まで走る。

フィールはそれについて行けずに、ただ立ち尽くす。


「おい!オレらが降りるからお前らは止まらず馬を走らせろ、全力でだ!」

「!あ、あなたは!」


怒鳴りつけるようなロキと、怯えている馭者の、驚きと安堵の声が聞こえる。

ギルド員とはそれほどにまで頼られているものだったのか、と初めに感じた自分の嬉しさを後悔した。

自分達が乗ると言う事にはちゃんとした意味と、責任があったのだ。


「フィール!」


呆然としていると、前から声がかかった。

駆け寄って来たロキは、扉の閂に手を掛ける。


「馬車から飛び降りるぞ!あいつらを追い払わねぇとな」

「っ!は、はい!」


目の前の事をどうにかする事が先だ、戸惑う暇も、悔やむ暇も無い。

二人は開かれた扉から真直ぐに飛び降りると同時に、武器を取り出していた。

フィールは剣をロキは二丁の魔銃を、着地すると共にそれぞれ手近なハウンドを吹き飛ばした。


「お前は自分を守ってろよ?オレは馬車を追う奴をやる」


未熟なフィールには急な戦いだが、出来ないとは言っていられない。

なんとかうなずき、飛び掛かって来たハウンドを切り上げて弾き飛ばす。

相手は三匹、このぐらいなら街に行くまでに何度か戦った、大丈夫だ。

フィールは手近なハウンドへ切り掛かった――


面倒な事になった。まさか最初で大当たりするとは災難な奴だ。

馬車を降りた瞬間に振り返り、馬車を追う形でハウンドを撃つ。

その弾丸は後ろから頭を打ち抜き、一発で息の根を止める。

フィールにその場を任せる事になったのは心配だったが、初撃を見た様子ではなんとかなるだろう。

『剣の腕はちゃんと上がっている』

魔力を使い自分のスピードを上げる、それは全力の馬車に追い付く事など、造作も無い速度だった。

馬を狙う個体の急所を走りながら打ち抜き、横から爪で自分を狙うハウンドを左手の銃でいなし、蹴り飛ばす。

それは狩人の動きであり、確実に攻撃は外さない。

ハウンドは不運な事に『紅の魔術師』の乗っている馬車を襲ってしまった。

それは、彼らが確実に餌にありつけない事を意味した。


減って行く仲間を見て諦め、自分達の空間に還る者達もいた。

ハウンドとしては賢明な判断だったと言えよう、残った者達には死しか許されないのだから。


(さっさと片付けるか)


馬車を諦め、邪魔をするロキを取り囲むハウンド達、数は16、7と言ったところか。

みな牙をむき出しにして襲いかかるタイミングを量っている。

並の冒険家ならひとたまりもないだろう。

そんな獣どもにも臆せず、手で銃を弄びながら、声色だけは真面目に最後の警告を放つ。


「自分の判断をあの世で後悔しな」


二丁の銃を宙に放り、宙より新たに剣を取り出した時、一陣の風が吹き抜けた。

その風が収まる頃、地面には17体のハウンドが横たわっていた。

おそらく彼らには何が起こったのか分からなかったであろう。

だがロキが行なった事は単純な事、彼らには知覚出来ない速度による斬撃である。

ただ、それだけとはいえ簡単なものではない。


「さーて、フィールはどうしてるかな」


流石に死んではいないだろうな。

武器をしまい、空を見上げる。

大気に耳を澄ませ、魔物の気配を探る。


「ありゃ?」


だが、探り当てるより早くフィールの姿が見えた。彼ははこちらに走って向っていた。

逃げているのか、片付いたからロキを探しているのか、まあどちらにしろ探す手間が省けた。


「お~い」

「あ!ロキさんいた!」


フィールは笑顔でこちらに駆け寄って来る、どうやらちゃんとハウンドを倒して来たようだ。

怪我も無さそうだ、思ったよりは強いと考えていい。


「おつかれさん」


新米なのに馬車に乗っていきなり魔物に襲われるとは、労うくらいしか出来ない。

本心で言ったのだが、フィールは途端に怪訝な顔になる。


「僕は三匹だけでしたから大丈夫ですよ、それよりなんですかこの数!」


怒ってる…?

理由もよく分からずに怒られるのはしゃくに障る、一体なんなんだ。


「大した事ねぇよ」

「ある!」

詰め寄ってロキの目を見据えるフィール。

「心配するじゃ無いか!…まだまだ役に立たないかもしれないけど、一緒に戦わせてくださいよ」


成る程、あの場に置いて行った事を怒っていたのか。

置いて行った方が安全かと思ってやった事だが、どうやらフィールをなめていたようだ。

と言うか、新米が言う事か?

新米ならもう少しわきまえるというか、自分の事だけ考えるというのが普通だ。

しかし、経験的な考えとは裏腹に、ロキは自分が喜んでいる事に気付いた。

顔に手をやると、無自覚に微かにニヤけている気もする。


「聞いてます?」

「え?ああ、聞いてる聞いてる。次は一緒にな」

「まったく、本当にわかってるのかなー」


腕組みし、ジロジロ見て来るフィール。

それは、記憶の友とうりふたつだった。

思わず、目の前の少年の頭を撫でる。嫌そうにしているが、振り払わずに様子を見ている。

…懐かしい、立場は、逆だが。


「…わかってるさ、ま、新米に言われる事じゃねぇがな」

「う、そうですけど」

たじろいでいる、分かりやすい奴。

「とにかく、これから頑張りますよ」

「ああ、期待しとくぜ」


きっと、こいつは強くなる。

それまでは、死なせない。

昔した、誰にも言わなかった忘れない誓い。

馬車の走って行った方向を見、次に目的の山を見上げる。

予定していたより随分離れたところで降りてしまった。これからどうしたものか。

歩いて行けないわけでは無いが、今晩中に頂上を目指すとなると少々時間が心配だ。

仕方なく歩き出そうとした時、何かが走る音が聞こえた。


「あ!馬車戻って来ましたよ!」


空は、相変わらず晴れている。

彼方の夢に、叶う時は来るのか。

誰にも分からない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ