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オールウェイズ  作者: 光牙飛鳥
全ての始まり 冒険の始まり 何かの終わり
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全ての始まり6

中は見た目より広さがあり、30人程乗っても多少のスペースを得られそうだ。

乗り込んでいる人数は10数人なので、随分余裕がある。

二人は扉近くの壁際へ座り、発車を待つ。

何も喋らずにいるのも気まずく、他愛も無いない事を聞く。


「ロキさんはギルド長いんですか?」


だが、簡単な内容であるはずの返答にはしばしの間があった。


「そう…だな、随分いる。ここ十年はこの街のギルドで仕事してた」

「それなのに若そうに見えますね~、何か秘訣があるとか?」


間の意味も気にせずに質問を続けるが、ロキに困ったような顔をされてしまった。

不味い事を聞いたかな、と思い始めた時馬車発車の合図が鳴り響いた。

手綱の音と共に馬が走り出す。馬車にはいくらかの揺れと人々の話し声が生まれ出した。

その中、ロキは急に真面目な顔で話し出した。


「小さな頃から周りの奴にうとまれててな、よくいじめられてたんだ」

「え?」


それは今の印象からは意外な話で。


「住んでた町一人で追い出されて、若過ぎて仕事も無かった。だから戦って金を稼ぐしかなかった…それだけさ」


聞いては行けない事を聞いた、そう感じた。

ロキはうつむき、視線を合わせない。

出会って一日も経っていない人に話すような事では無いが、質問の答えとして手っ取り早かったのだろうか。

実際の年はそんなに上では無い、と暗に告げているようなものだ。


「だから上手く仲間とか作れなかったんだ。けど今、お前と仕事すんのが楽しみでさ、早く先輩とかやめて仲間でいたい」


仕事を急いでいたのは嫌だからなんかじゃなかった。

ただ、対等の立場になりたかっただけだったのだ。

この人となら、うまくやって行けるかもしれない。


「ロキさん、あの――」

「なーんてな」


話のお礼を言おうとした途端、軽く頭を叩かれた。

ぽかんとした間抜けな顔でロキを見てしまう。


「んな簡単に信じるんじゃねえよ」

つまり

「嘘なんですか!?ひどい…」

「お前人が良いから騙され易そうだな~、借金も自分じゃなく親の借金とか背負ってとかだろ?」


はっきりと言い当てられて言葉に詰まるが、なんとか言い返す。


「親の借金と騙され易さは関係無いよ!」

「どーかな、お前ティルト出身だろ?」


確かに入会の時ちゃんと出身した村を書いた、間違いは無い。


「ティルトは上下関係強いからな、実はいいように押しつけられたのかも知れねぇぞ?」

「そんなことは!」

「あからさまに『払えない』『稼げない』とか言われたりさ」


そう言われて、強く反論したかったが、ふとある事を思った。

何故あの日借金取りが、家族全員そろっている時に来たのだろうか?


(母さんも父さんも兄さんも僕もそろう時間なんてあまりない、いつも僕は仕事へ行っているから)


それなのに何故フィールがいる夜に借金取りが来たのだろう。

ティルトでは年長者が全て、家族の中であろうとも年長者には逆らえない。

だから家族の中で一番年下なフィールが借金を払うのは当然の事だと思っていた、この街に来るまでは。


キマーナに来てからは子供の大切にされ方に驚いた。

村では働き手になれる歳になるまではしっかりそだてられるが、それ以降はあまりかえりみられない。

大した食事も食べれなかったり、寝床が無い友達もいた。

だが、それは偏った考え方だったのでは無いか?


考え出したら止まらない。

自分の目の前であえて借金の話をして、年少者である自分が自ら背負うように仕向ける。元々仲のよくなかった親だ、それくらいの事はするのかもしれないと、その時は考え無かった。

もしかしたら――


考えているせいでずっと黙っているフィールが怒っていると思ったのか、ロキが慌てた風に話しかける。


「わ、悪いな。つい疑っちまう癖があってさ、そんなこともあるんじゃねぇかなって…えっと」

「…いいんです、そうなのかもしれませんから」


返答に不思議な表情をされたが、何か言われる前に言い切ってしまう。

どうせ、今更考えても仕方ないのだ。


「でも僕がお金を払うって書類書いちゃったし、もう遅いんですよ」


借金があろうとなかろうと、既に払う事になってしまった。

それは取り消せない。

馬車に揺られながら、自分の甘さを感じる。

実際に騙されたかははっきりしないが、自分だけで背負う必要はきっと無かった。

それに気付かせてくれたのだ、怒る気は起こらない。


「そうか…」

「はい」


気の毒に思われているのかはわからないが、この言葉はロキに何かを決心させたらしい。

もう遅い、その一言が。


「なら、払い終わるまで付き合ってやるよ」


面と向かってでもなく、さっきの真面目そうな顔でも無かったが、きっとこれは本心なのだろう。

何故かわからないが、昔から知っている言い方な気がしたのだった。

重くも無く軽くも無いただの言葉、深い意味があるわけでもない。

だが、気が楽になった。


(やっぱり、ロキさんは悪い人では無さそうだな。まあちょっと喰えない人でもありそうだけど)


この時彼は気付かなかった。

ロキは簡単に信じるなとは言ったが、自分の話全てが嘘だ、とは言わなかったと。

そして、他愛も無いはずの話の答えをはぐらかしたのだと言う事を――


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