全ての始まり3
歩く事30分、我ながらよく辿り着けたと感心しながら目的地の前に立つ。
ギルドとは様々な依頼が集まる場、多くは魔物狩りの仕事だが中には薬草採取や洞窟探検、さらには店の短期アルバイトのような物もあるらしい。
とは言え全ては聞いた話、まずは入ってみなければ何もわからない。意を決して扉に手を掛け、押そうとするとーーー
「あ!」
先に内側から開けようとしていた人物がいた。ちょうど同じ方向に扉を開けたので、少年は前につんのめってしまった。
「ん?悪りぃな、誰かいたのか」
転ばずにすんだのは、軽く身体を支えてもらったからだ。慌てて体制を戻すと、支えてくれた人がこちらの顔をじっと見る。
紅いその瞳は、とても綺麗だ、なんて場違いなことを思う。
そんな彼は、赤いコートを纏った男性のようだ。
パッと見女性なのではないかと思わせる長い銀髪を束ねた、小柄な人物である。
「見ねぇ顔だな、依頼者か…もしくは新米か?」
「あ、はい。新米予定です。すみませんでした」
だが、言葉遣いからして男で良いらしい。
赤いコートの人物は、面白そうにこちらを見続ける。その様子は、こちらを見定めているかのようだった。
時間にすればほんの数秒の事であったのだろうが、初見の人物に見られれば緊張してしまう。
そのせいか何分もその状態だった気がした。
突然納得したようにギルドの中に戻ろうとする赤いコートの人物は、少し進んで振り返り、少年を中へ手招く。
何か恐い事でもされるのではないかと思わず身構える。だが、かけられたのは優しい言葉だった。
「ならこっちに来な、案内してやる。いや、まずメシか?」
フィールは瞬間的に答えた。
「お腹空きました!」
昨日も一日中歩き続けた体は、空腹しか訴えてはいない。後の事などまったく考えていない反射的な答えを笑うこともなく、コートの人物は彼を中へ誘う。
「わかったわかった、奢ってやるから入れよ」
自分はついている、こんな風に思ったのはいつぶりだろう。
食べ物の誘惑に誘われるまま、ふらふらと建物の中へ入る。
中は酒場と食堂を混ぜたかのような場所になっていて、奥の方にはイスの無いカウンターがある。
まだ朝食の時間なため人が多く、あちらこちらから良い匂いが漂い、空腹中枢をこれでもか、というくらい刺激する。
何人かのグループで食事をしているのを思わず見てしまい、テーブルの上の物を全て平らげたい欲望と戦った。
なんとか欲望に勝ち、導かれたイスに座った後、注文を取りに来たウェイトレスの声をぼんやりと聞く。
はっきりとした記憶がないが、どうやらコートの人が注文もしてくれたようだった。
至れり尽くせりとはこの事だろうか、もしかしたらこの後法外な代金を請求されるのではないか、微かにそんな考えが頭をよぎるが、彼にとってはもはやどうでもよくなっていた。
少年が世界で一番恐いものは空腹だったのだ。
たった七日で貧乏一直線
日々の暮らしも綱渡り
願うはささやかなもの
毎日をお腹いっぱいに生きたい
けれど時は流れ
願いは大きく変わる
願うだけでは無く叶える物へと
強く、なりたい