戦いと休息2
どんどん近寄ってくるブルースライムを『ムーヴ』で押し返すが、大した修行を積んでいないフィールは簡単に疲れてしまう。
すぐに魔力を使いきり、また纏わりつかれそうになる。
それを焦りの表情も浮かべないクライドが槍で切り裂いてくれた。
誰かしら纏われたら誰かが切る、そんな構図が出来てはいたが、いつかは限界が来る。
一時退却も考え始めたその時、微かに誰かの声が聞こえた。
幻聴が聞こえたらもうダメなのかもなぁ、と思うよりも早く、目の前が紅蓮に染まった。
いきなりの爆音が耳鳴りを生む、思わず耳を押さえてしまうが、すぐある事に気付いた。
「この魔法…」
上級火魔法…大爆発を引き起こす『エクスプロージョン』だと、思われた。
そんな高位の魔法を扱える人物など…三人の中にはいないはずだ。
ばっ、と声の方向を向く。
そこには炎の色と同化しかけている人物が見えた。
「ロキさん!!」
「やーっと追い付いたぜ、大丈夫か?」
火炎が鎮まり、辺りは初めに見た状況へと戻っていた。
スライム達は全て焼け、蒸発していて、名残もない。
「流石にちょいとかかっちまってな」
彼は『寝坊して遅れました』とでも言うかのように軽く言う。
しかし、そんな簡単な話ではなかった気がする。
「ちょっとちょっと!あんたこそ怪我ない?大丈夫??」
キーラが慌てて駆け寄って来る、無事な事には驚きがないようだが、無傷には驚いたようだ。
狭い通路でシェイカーと対峙していたロキは、そんな様子をおくびも見せない。
「ああ、ねぇよ。それより…」
かなり大それた事のはずだが、置いとかれてしまう。
ほぼ確実に戦って来たのだろうが、彼には大した事では無いらしい。
なんとも複雑な気分だ。
ロキはクライドの方を向き、その存在に驚くこともなくただ不思議そうにしている。
「道中の魔物の傷跡から、お前がいるかもしれねぇとは思ってたが…まさか一緒にいるとはなぁ」
「………」
クライドは何か言うかと思ったら、まただんまりを決め込むようだ。
何がしたいのかよく分からない。
何のために探していたのやら。
とは言え三人でなかったら、あっさりブルースライムにやられてしまっていただろう。
いてくれてよかった、気もする。
「…経緯はよく分からねぇが、世話になったみたいだな。助かったぜ」
「!」
今まで怒り以外の表情を見せなかった彼が、驚きとも喜びともいえない表情を見せた。
いや、正確に言うならば感じた、が正しい。
一瞬だけ心の声を感じたのだ。
彼は何か言いたそうたが、結局口を開かなかった。
「さ、さっさと採って帰ろうぜ」
「うん!」
警戒もなしに、走って薬草の元まで行ってしまった。
流石にこれ以上スライムは現れないだろうが、少し気になってついて行く。
シェイドは真黒な薬草だった。
暗闇に紛れてしまいそうで、実際に生えている数はよく分からない。
キーラは、こちらも真っ黒な瓶を取り出し、スコップで土ごと掘り出してゆく。
「瓶、真っ黒だね」
「こうしないと外で出した時、太陽光に当たっちゃうからねー。名前らしく、シェイドは太陽に弱いのよ」
ザクザクと土を掘り、取り出したシェイドを黒い瓶につめる。
金属の蓋をしっかりと閉め、トゥルフでしまった。
「これでOK~」
彼女は随分ご機嫌だ、さっきまで緊張をしているようだったから、落ち着いたようで良かった。
緊張の原因がフィールにあるとは露とも思わず、気楽に考える。
「戻ろー?」
「あ、うん」
楽しそうに歩いている彼女を見ていたら、つい立ち止まっていた。
人が楽しそうにしているのを見るのは良い、故郷ではあまり見られなかった光景だ。
二人の所へ戻ると、何とも言えない空気が漂っていた。
何を話すでも無くただ待っていたが、お互い相手が気になるようでチラチラ見ている。
関係がよく分からないので、本当は仲がよいのか、喧嘩をしそうなのかまったくわからない。
身長だけみるとクライドがかなり大きい為、つい悪者に見えてしまう。
そんな空気にキーラが突っ込んで行く。
「採れたよー!早く帰ろ!」
「ああ、こっちだぜ」
何か起きないか、とハラハラしたが特に何も起こらない。
だが歩き始めても、二人の緊張感が無くならない。
いたたまれなくなり、小声でロキに問う。
「あの…クライドって人と何かあったんですか?」
「!」
気になっていたことを聞いただけなのだが、何故かかなり驚いている。
「…あいつ、名乗ったのか…」
答えるわけでは無く、呟いた。名乗るだけのことに随分驚いているようだ。
まああの性格なら名乗らなくても違和感は無い、自分の事を話したがらないようだから。
「…何ってわけじゃねぇよ、最近話さなくなったってだけさ」
彼はどう話して良いか悩んでいたらしい、それだけ言うと黙ってしまった。
だけ、と言うがそれにしてはよそよそしい。
クライドにも聞いてみたかったが、どうやら自分は嫌われているようなのでやめておく。
静かに歩いて行くと、あの十字路が見えた。
そこにシェイカーの姿は無い。
「ねーねー、シェイカーはどうしたの?」
「ん?倒した」
「…軽く言ってくれるわねー」
狭い中で巨大な相手と戦う難しさは、フィールには分からない。
だから凄いと分かっても、実際の苦労は分からない。
―分類としてはシェイカーは上級魔物となる。
生息地も少ないため、出会う事も少ないが、一度居着くと離れない。
その分地の利もあり、ある程度の知性も持ち合わせている。
新米が出会うには、あまりにも早すぎる存在である―
なんてことをフィールは全く知らない。
知らぬが仏、とはよく行ったものだ。
それ以上何も無く、あっさりと洞窟を抜けた。




