全ての始まり2
ミディア歴3068の年、4の月10日。
今日、人生の縁に立っている者がここに一人。
短い茶髪は寝癖なのだろうか、ぴょんとはねている。簡易な旅装束を着てはいるが、旅慣れている様には見えない。どこにでもいるようなただの少年である、空腹である事以外は。
路銀が尽き、宿を取る事も出来ず、それどころかたった30ペリンの食事にすらありつけない。
そんな状態の彼は自らの貧乏を嘆く。
一週間、たった一週間でここまでなるとは思わなかった。
両親が騙されて作ってしまった500万ペリンという多額の借金。
住んでいた村で働いても一生払えそうにない借金を自分に取り立てるようにしてもらい、大きな街で働くと宣言して出て来たのがちょうど一週間前。
都会なら仕事ぐらいすぐに見つかるだろう、と考えたのだがどうやら甘かったようだ。
確かに賑わいは村の比ではない、たが話は簡単にはいかなかった。
街の警備は兵士の仕事で簡単になれるものではなく、薬師や絵描きのような専門職が出来る技術もない。
ほとんどの店は既に十分な働き手がいるか、元々多くの人を必要としない売り場だけだ。
それでも働き口が無いわけでは無いが、そういう所にはあまりにも低い賃金と、恐ろしい用心棒が必ずいた。
持ち前の足の早さでどうにか逃げのびてはいるが、まともな食事をする余裕もないまま動き回った上、旅立つ前から大した食事が出来ていなかったフィール。
そのため滞在三日目にして、軽く命の危機を感じている。
「お腹、すいたなぁ…」
そう言うと同時に、盛大に腹の音が鳴る。
本人の意向などまったくくまない腹は、一昨日の朝から鳴り止まない。
宿に泊まるような金など最初から無く、街中で野宿をしながら仕事探しをしていたが、限界の様だ。
せめて食事にありつきたい。
途方に暮れて、それでも仕方なしに歩く。
既に背筋を伸ばす余力もなく、猫背になりながら嫌々進む。
このままではどうにもならない、最後の手段を取るしかないだろうと腹をくくったのだ。
最初に街に入った時に一応道を確かめ、それでも行く事はないだろうと思っていた石畳の道をゆっくり歩く。
「いくらなんでも街中で餓死は…嫌だしね」
最後の手段はギルドへ入会する事。
ただし、一度入ってしまえばどうこき使われるかわからないという条件つきである。
危険と、力と、金の世界。
何が待っているかわからない。
村を出る時友達に何度も言われた事を思い出し、歩みが鈍る。しかし、止まる事は無かった。
怖い用心棒にどやされながら働くよりは、はるかに高収入になるとも聞いていたからだ。命の危険性に変わりは無いようだったが、まだましなはず。
誰も知らない事であり、知る時が来るのは随分後になるのだが、この時彼は自らの運命の場所へ歩んでいたのだった。