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オールウェイズ  作者: 光牙飛鳥
全ての始まり 冒険の始まり 何かの終わり
19/100

出会い、そしてもう1つの出会い

幸い魔物に襲われることも無く、一日半程歩いた。

暫く前から林の中に入り、足下も平らでは無くなってきた。


「この辺まで来たらあとちょっとよ」


前を歩いていたキーラが、後ろを向きながら話す。


「魔物も来なかったし、順調ねー」

「それより前見た方が…」


危ないんじゃないかな、と思ったのだがすでに遅かった。

予想通り彼女は何かに躓いたらしく、ひっくり返ってゆくのが見えた。


「…いったーい!」


一コマ遅れて叫び声、昨日もこけていたから三日連続でこの調子だ。まるで一日一回はこけるのが日課なのかと思えて来る。

もう慣れてしまったので、慌てる事もなく手を差し出す。

昨日は何故か躊躇されたが、今日はすぐつかまれた。

そのまま引っ張り起こす。


「ありがと」

「うん、大丈夫?」

「なんともないよー」


怪我も無いようだし、元気なものだ。

じゃあ進もうか、と歩こうとしたが、ロキが動かない。

彼はさっきキーラが躓いた所を見ていた。

そこにあったのは…


「え…魔物?」

「の腕、だな」

「やっだー!あたしそんなのに躓いてたの?」


草に埋もれかかっていて分かりにくかったが、黄色い熊のような腕だった。

恐らく『ハニーベア』だ。

辺りを見回せば、近くに体もあった。

他にも三体ほど横たわっている。


「誰かが前を歩いてたんだな」


だから一度も魔物に出会わなかったのだろうか。

ずっと誰かの後ろを歩いていたのなら近くの魔物がそちらにいっていたのだろう。

魔物達が急に襲って来ないのは『ディウス』から様子をうかがうにしても、ある程度の距離まで生物に近付くと姿が現れてしまうからだ。

それを利用して大きな街には姿現の術がかけられていて、少し遠くの魔物も見えるようになっていたりする。

そのため前を歩いていた人物に反応して現れた魔物は、そのままその人を襲っただろう。

この様子なら返り討ちだが。


「誰だか知らないけど、近くにいるみたいね」

「誰か、か…」


死骸を見て回っていたロキは、何か考え込んでいるようだった。


「どうかしました?」

「いや、多分気のせいだ」


気のせいと言いつつも、何か気にし続けているように見える。


「悪いな、進むか」

「そうそう、行きましょー」


フィールが気にしていても仕方が無い、とは分かっているがどうにも気になる。

だが、何故か聞くのが憚られた。

すぐに教えてくれる内容では無いのだから、重要な事では無いだろう、と思う事にする。

それ以上話す事も無く、そのまま林の中を進んで行くと、開けた所に出た。


目の前には、ぽっかりと口を開けた奥が見えない空洞。

明かりは全く無く、これからここに入るのだと思うと少し怖い。

無論『シャイン』という灯魔法はあるが、フィールには使えない為、はぐれた時の事を考えると…。


「……一本道だと良いなぁ」


とても気が重くなった。


「残念ながらたくさん分かれ道あるわよー」

「やっぱり?」

「まあ入りゃ分かるさ」


三人は急ぎ足で洞窟の中へ入って行った。



洞窟の内部はやはり暗い、二人が使っている、灯である初級光魔法『シャイン』が無ければ何も見えないだろう。

キーラは灯をつける前からよく見えていたようだが、ロキに合わせてつけてくれた。

曲がりくねった道だらけだが、前を歩く彼女は迷い無く進んで行く。

こうして何度も来ているのだろう。


「にしても、静かね~」


未だ予想していた魔物の襲撃は無い、それどころか外のように時たま死骸を見掛ける。

もう随分進んで来たが、分かれ道は沢山あった。

それにもかかわらず前を歩いていた人が、ここまで同じルートを通っているのだろうか?

そうだとしたら虫の良過ぎる話だ。

ただ歩き続け、歪な十字路を通り掛かった時、ロキが立ち止まった。

合わせて二人も止まって振り向く。


「どうかした?」

「…お出ましだ」


それと同時に、地響きが鳴り出した。

咄嗟に音の方向、今から進もうとしていた道を見ると、洞窟の幅を一回り小さくしたくらいの大きさの、巨大な茶亀の姿をした魔物が見えた。


「『シェイカー』!?まさか会っちゃうなんてね!」


自分よりも遥かに大きい亀は、一歩ごとに地面を揺らす、まさに『揺らす者』だ。

しかも段々こちらへ近付いている。

あんな魔物は近付くだけでも怪我をしそうだ。


「ほら!護衛頑張って」


そういう彼女も、予想外の遭遇だったのか声に焦りが見られた。

徐々に迫って来るシェイカーは、震動と不安しか生み出さない。


「こいつは動きが遅い分堅いなー、逃げた方が早えーかもな」

「ええ!?」


熟練の彼ならてっきり倒し方を教えてくれるかと思ったら、逃げる提案をされて…。


「走って他の道を進んだ方がいいさ、なんたって急ぎだしな」


そう言うと、二人をシェイカーのいない道へと押す。

今回の目的は魔物狩りでは無い事を思いだし、逆らわずに走る。

キーラもすぐに納得したようで、あっさりフィールを抜いて行った。

シェイカーはゆっくりとこちらへ向かってくる。

ちらりと後ろを見れば、確かに逃げ切るのは簡単そうだ、と思った時。

急にシェイカーが、自身の体を後ろ足で支えられる、ギリギリまで持ち上げ、地面に叩き付けた。


「うわ!?」


地面が今までに無いほど揺れ、思わず足が止まった。

あまりにも強い揺れで、轟音が鳴り響き続けている。

だが、立ち止まっていたその背を、後ろから強い力で突き飛ばされた。


「痛!」


受け身も取れず思いっきり跳ね、地面に体を打った。

何をするのか、と問い掛けようと顔を上げたら、さらなる轟音と、震動と、土煙が舞い上がった。

煙を吸い込んでしまいむせていると、キーラが真っ青な顔をして駆け寄って来る。


「ちょっと!大丈夫なの!?」


随分と慌てている様子が、今のフィールには不思議に見えた。

キーラはフィールの答えを待たずに、身体のあちこちを触って来る。

そんな事をしなくても、転ばされただけなので大した怪我など無い。


…そうだ、どうして自分は突き飛ばされたのだろうか。


問おうと周りを見るが、そこに彼はいない。

あるのは、岩と土砂で埋まってしまった道だけ。

それ以外には何も、無い。

ここまで来て、フィールはやっと何が起こったのかを理解した。



新しくできた瓦礫による壁は厚い。

隣りで必死に叫んでいる彼の声は、届いてはいないだろう。

最後に見えた様子なら、コートの彼はここに埋まってはいない。

けれど、一人でシェイカーと対峙する事になってしまった以上、無事に会えるかは正直分からない。

そう考えながら、やけに冷静な自分に驚いた。そしてその理由にも。

分からないなんて思っておいて、どうしても、あの魔術師が死ぬとは思えないのだ。

何故かは、分かるはずもないが。


「…いきましょ、新米」

「何言ってるんだよ!?行けるわけないだろ!」


思ったとおりに突っ掛かられる。

悲痛な叫びは聞く方まで痛くさせる。

彼は瓦礫を掻き分けて、向かい側まで行きそうな勢いだ。

でも、今は、ダメだ。


「さっさと行って、迎えに行くのよ!」

「え…?」


きっと、この依頼を受けてから、あの魔術師は新米を気にしていた。

この洞窟が新米には危ないから、依頼人と同じ位に守ってあげなきゃいけないと思っていたんだ。


「あれぐらいで死ぬような人じゃないでしょ!」


それでも、急ぎの依頼にしては低報酬だったから、受けてくれたんだ。

ギルドでは誰も受けてくれないだろうから。


「早く行って、早く会って、安心させてやりなさいよ!」


きっと、心配している。

はぐれた以上、守る事は出来ないから。

彼は脱出ルートで会えるだろう、それならば早く進んでしまった方が早く会える。

どうせ引き返せないのだから。


「わ、かった…」


新米は気圧されたのか、微かに頷く。

それだけ確認し、歩き出した。



何も喋らないままひたすら進む。

沈黙のせいか、さっきの出来事が頭の中をぐるぐる回る。

突き飛ばして貰わなければ自分は生き埋めに…いや、圧死していたはずだ。

けれど、その為にロキは危険な目にあっている。

自分のせいで、だ。

まだ彼の事をほとんど知らないのに、彼も自分の事など知らないのに、なぜここまで助けてくれるのか。

どうして、どうして?どうして!


「…止まって」


突然の彼女の声で、フィールは我にかえった。

そして、目の前の光景に戦慄した。


「魔物の死骸…」


あまりにも多い骸と血は、今のフィールには恐怖でしかなかった。

赤い血には、恐ろしいイメージがわいてしまう。

まるでその中に彼がいるのではないかと…。

だが、実際にいるのは別の人物だった。

見覚えのある黒衣と槍、それとキツい視線の持ち主。

そう、ルーレ山で出会った男性だった。


「君は!」

「…」


何も言わずに、煩わしそうに見てくる。

あの時はよく分からなかったが、フィールとそう年は変わらなそうだ。

辺りの死骸からして、ずっと前を歩いていた人物、なのだろう。

だが礼を言うのも何か違う気がし、彼も答えないだろう、そう思っていたら、


「…ロキはどうした」


低い静かな声で話しかけられて、驚いた。

しかし、フィールはその言葉にすぐ答えられず、うつむいてしまう。


「落盤ではぐれたわ」


変わりにキーラが答えた。

多くは語っていなくとも、それが自分に関わっているのは一目で分かるだろう。

そのまま顔を上げれずにいたが、強い何かを感じて、思わず跳びずさった。

一瞬遅れて光が一閃する。

さらに遅れてその光が槍先だったと、首を狙っていたと、わかった。


「いきなり何すんのよ!」


なんでキーラが怒るんだろう、なんて頭の隅で感じながらも、黒衣の少年の動きに目をこらす。

けれど、それきり彼は動かない。

ただ憎たらしげな目をして、睨み付けて来るだけだ。

嫌な空気のまま数分経ち、再び彼が口を開いた。


「貴様がいなければ…」


それは突き刺さるような敵意を言葉にしたかのようだった。

原因はわかる、でもなぜそれで彼がこのような反応を見せているかが分からない。

[声]も聞こえない…。

誰も動かない、それに耐え切れなくなったのか、突然キーラが両手を打つ。


「やめやめ、何にも話さないならこうしてても無駄でしょ」


彼女はそう言うと歩きだしてしまう、その道を黒衣の少年がふさいだ。

彼はキーラの耳には全く驚いていない、知識があるのだろうか。


「何?」

「……」


数秒、睨み合いをしたかと思ったら、急に彼も歩きだした。

展開が分からず、途方に暮れていると、振り向いてこちらを見る。


「探しに行く。…半ばで最奥を通る、貴様らは好きにするがいい」


遠回しだが…一緒に行くという事だろうか?

だが前に会った時の事を考えると、どうしても不思議な反応だ。

彼の真意をはかりかねていると、さっさと行ってしまった。

キーラもあっさりついて行ってしまい、慌てて追いかけるはめになった。

またもやただついて行く状態で、少し歯痒い。


「ねえ、あなたの名前は?」

「……」


用が無ければ話す気は無いようだ。


「じゃあ勝手に呼ぶわよ、根暗」

「クライドだ」


だが気に食わない事にはすぐ訂正を入れる、というのが分かった。

こんな様子では他の質問は難しいだろう、と分かりつつも聞いてみる。


「ロキさんとは…どういう関係?」

「貴様に語る事などない」


凄まじい嫌われようだ。

無視されないだけましなのかもしれないが、複雑な気分だ。

話しかけなければ良いという説もあるが、この状態で沈黙するのは怖いものがある。


「…後どれくらいで最奥なの?」

「すぐよ、多分10分くらい」


仕方なしにキーラに話しかけてはみるが、それ以上話す事も無い。

二人とも前だけを見て歩き続けていて、急いでいるのが分かる。

勿論フィールも急いで戻りたい。

けれども今、歩いていると、自分の不甲斐なさで苦しい。

もっと周りを見ながら動けば、魔物の知識があれば…力があれば、ただ助けられるような事にはならないだろう。

ちょっとした魔物と戦えるだけでは、やって行けないのだ。

…甘く、見ていた。

自分だけが、危険な間に合うんだろう、なんて。

頭を巡る思考に捕らわれ、いつの間にか二人が立ち止まっている事に気がつかなかった。

ぶつかる寸前でつまずき、なんとか立ち止まる。


「ここね…」


そこには暗い水辺と、黒草の生える広い空間があった。

きっとあれがシェイドなのだろう。

採集をするのかと思いキーラを見るが、全く動こうとはしない。

それどころか、クライドすら辺りを見回していて、1人で進む事もない。

どうしたのか、とフィールも辺りを見回す。

すると、何かが水面に小さな波紋を作ったのが見えた。


「…魚?」


何気ない一言に、二人の視線がそこへ集中する。

いや、違う。

さらに多くの視線を…感じる。

さらに目を凝らしてると、波紋が段々大きくなって来た。

明らかに魚とは違う動きをしている。


「やっぱりいたのね…」

「何がいるの?」

「今回の本当の護衛目的、よ」


波紋が波に変わった時、それは現れた。

ゆっくりと岸辺から這上がって来た姿は歪で、固体とも液体とも言いがたい。

そもそも生物かどうかもよく分からない。

それが一匹現れたかと思ったら、後ろからぞろぞろと似たようなものが現れて来た。

その全てが足下へ這寄ってくる。


「ブルースライム大量発生…の時期なのよ」

「…時折現れるシェイカーに比べればましだ」


嫌な言葉を聞き体が竦んだ。だがそれも一瞬の事で、目の前の敵と戦うために、剣を取り出した。

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