出会い4
「ところでさー、ちょっといい?」
イスに座って話に混ざっていたキーラが、もう片方の手に持っていた紙を広げた。
それはギルドの依頼書と同じ物だ。
書いてあるのは薬草採集の依頼、ムーンティアーとは別の物で、シェイド、という名前らしい。
「これからギルドに持ってこうかと思ったんだけど、あなた達もう一仕事やらない?」
「おいおい、急だな」
確かに急だが、報酬は8000ペリンと倍額であったため、魅力は感じた。
しかし、それなら他のギルド員にとってもそうではないのだろうか?
「なんで僕達に?」
「シェイドは繊細だから、あたしも一緒に行って採集しなきゃダメなの。で、あなた達とならやりやすいかなーって」
(やりやすいかなーって…)
そんなに簡単に決めて良いものだろうか。
採集場所も何も知らないフィールだが、状況によっては護衛をしなくてはいけない事になるだろう、そう考えると複雑だ。
勿論ロキは慣れているだろうが、フィールとしては怖い。
もしもの事があったら…取り返しのつかない事になる。
「それに、急いでるしね」
「やっぱり、病人…?」
ただの商売とは思えない気迫を感じる。
きっと重病人がここにいるのだ。
「…師匠の奥さんが難しい病気なの」
ポツリといった言葉から、悲しみが溢れていた。
それ以上は語ってくれないようだが、強く思ってしまっているようで、[声]が聞こえた。
[…間に合わないかもしれない。…助からなかったらあたしは…]
これまで自分の力を便利だと感じたことはなかった。
だが、語られるはずのない言葉を聞いて、何かをしてあげられないのかと、初めて強く思った。
便利とは言わない、けれど聞こえるならば聞こえるなりの行動をしたい。
「シェイドだと…洞窟だな、近くだと北東か」
ロキが薬草の採集場所を口にする。
前に確認した通り、キマーナのすぐ近くは平原だ、森はあっても山や洞窟は少ない。
「うん、ルーレ山に洞窟はないから、トルディル山にある洞窟」
「歩きなら往復で六日ってとこか…」
トルディル山と言うのが北東に見えた山の名なのだろう。
ルーレ山より遠いため、時間がかかるのは仕方ない。だが、
「急ぎって言ってたけど、どの程度まで大丈夫なの?」
「…多分七日が限界だと思う、一人で行ければ良かったんだけど、ちょっと危なくてさ」
つまり、依頼をどうするかは決まったようなものだ。
ここで断って時間切れになる事も、彼女一人を危険な目にあわせる事も、嫌だった。
「ロキさん」
「わかってる、すぐ出れんのか?」
共に行くならば、彼女の準備もあるだろう。
「急げばすぐに…受けてくれるの?」
「ああ、急ごうぜ」
キーラは本当に嬉しそうに笑って、すぐに家の二階へ走って行く、その途中で階段から顔だけ出した。
「5分待ってて!」
「わかったから、気をつけなよ?」
「大丈夫!」
そして走っていって。
…派手にこけた音が、頭の上から響いた。