山に登る4
月影は白く花々を映す
山の覇者は眠り
旅人にささやかな時間を与える
闇の時に訪れ
光差す前に去れ
さもなくば命の保証は出来ぬ
山道の立て札より
道を黙々と登りながら、フィールは何度目かわからない溜め息をついた。
体感では五時間、いや六時間程であろうか、何の会話も無くただ歩き続けていたためか、微妙に話しかけづらい雰囲気が漂っている。
実際歩いていたのは三時間くらいだったのだが、彼にとっては長い時間がたったように感じられた。
普通山は魔物が多いらしいのだが、ここはそうでもないのか未だ遭遇していない。
少々拍子抜けだ。
おかげで歩く以外に何もする事がない、とも言える。だが安全第一が重要なのだ。
何しろ自分はただの『新米』なのだから。
「…少し休むか?」
「は、はい」
太陽は真上をとうに過ぎた。
時間で言えば2時か3時頃だろう、昼食時は過ぎてしまっていた。
「お昼食べますか?」
朝パンを食べたとは言えここまでですっかりお腹が空いてしまった。山道は真っ直ぐでは無いのもあり、まだまだ歩きが続くだろう。そう考えると出来れば食べたい。
「昼?…あんま食う気無かったなー」
「え!」
「町中ならまだしも、外で昼を食べる旅人は少ないんじゃねぇか?」
フィールは知らなかったが、旅をしている人間は目覚めてすぐと、安全な寝床を見つけてから食事をする事が多い。
昼に食べる場合でも歩きながらや中級時空魔法で結界を張る、それが出来ないならば命懸けの食事となるのだ。
魔物が現われやすい場所は多々ある、だがまったく現われない場所は早々無いのだ。
が、フィールにとってはかなりの衝撃であった。
「…そうだったんだ…」
「腹減ったのか~?」
正直言ってかなり空いている。
ちょっと前まで普通の村人だった感覚は中々抜け無いものなようだ。
だが、それを言える程あつかましくもない。
我慢しようと思った瞬間。
グ~
…気の抜ける音が、あろうことか自分のお腹から聞こえた。
「えっと」
気まずい事この上ない。
「…悪いな、パンしかねーぞ?」
「すいません…」
いっそ大笑いされたなら自分も笑い飛ばせただろうに、真剣に心配されてしまったようだ。
朝と同じ形のパンがいつくか差し出され、頭の中で自分の腹に文句を垂れつつ、しっかり頂いた。
形は同じだったが、このパンの中にはクリームが入っていた、とても甘い。
「美味しい!」
「良かったな」
2個目をパクつきながら顔を上げる。
するとロキがただこちらを見ていた。
一緒に食べるのかと思っていたのでつい怪訝な顔をすると、察してくれたのか、苦笑いしながら教えてくれた。
「オレは昼はいらないんだ」
旅慣れているからか、昼はとらないようになったのだろうか。
「そうですか…」
少し寂しい気もするが、それが普通なのだろう。
そう思う事にして三個目のパンを食べる。
この世界に魔物などいないかのような静けさの中で食事をすると、ピクニックのようだった。