決して忘れない~僕はこれまで生きて身に付けた記憶と能力を引き継ぐことが出来るのだがそれが幸せとは限らない~
久しぶりに書いて見ました。短編になっておりますのでお気軽に読んでいただけたら幸いです。
「おっちゃん、これを少しまけて欲しいんだけど……なぁ聞いているのかよ」
「あぁすまないね、それで君はいくらにして欲しいんだい」
「君って、気持ち悪いな、あぁごめん、あのさぁこの前の依頼を失敗しちゃったからさ大銀貨5枚とか……駄目だよな」
「…………この世界の価値だと……あぁもういいや、それでいいよ」
「本当かい、何だい今日は随分と気前がいいじゃないか。もしかして奥さんが戻って来たのかい」
「余計な事は言わなくていいから早く帰りなよ、もう店を閉めたいんだよね」
身体の大きさに合っていないバトルアックスを格安で手に入れる事が出来た冒険者の少年は店主の気が変わらない内に急いで店から出て行った。それを見届けると入口の扉に鍵をしてその場に座り込む。
あ~もう、記憶を思い出すのは慣れたけどいつもいきなり何だよな、いきなりだと混乱するから出来れば一人だけの時に思い出してくれた方が助かるんだけど……まぁそんな都合よくはいかないか。
私はいくつもの世界で生まれ変わった記憶を持っている。世界と言ってもそれぞれが異なる世界の可能性があるのでいくつのも異世界を渡り歩いたという事だろう。
ただし身体はこの世界の物なのでいくら記憶の中では魔法が使えても素質が無ければ使えないし、剣技などの技をいくつも知っていても身体がついて来れなければ意味が無い。
私がこうなったのはスキルが恩恵で与えられる世界で貰った【自己継承】の影響だ。あの世界ではいくら調べても使用方法やその意味が誰にも分からなかったが次の世界でようやくその意味を知る事が出来た。
ただその世界では死ぬ寸前だったので思い出しても何の意味も無かったのだが。
さて、この世界の私はどんな風に暮らしていたのだろうか。
深く深呼吸をして目を瞑り自分の中にあるこの世界の記憶の紐をほぐしていく。すると身体に水が染み込むかのように全てが理解していく。
名前はエルマーか……まぁ普通だな。
年齢は43歳か……ん~外れだよな。
仕事は武具店の店主か……随分と小さな店だよな。
家族は妻に逃げられて独り身か……ううっ、情けないぞ私よ。
あまり幸せであったとは言えない半生を思い出すと悲しくなってくるが、家族がいないのであれば変に気を使う事がないのでそれは幸運と思うしかないだろう。
さて、それではこの世界はどんな世界なのかな?
んんんんんんんんん? 何だこの世界は、他種族が混ざり合っているせいか純粋な者達が少ないじゃないか。まぁどうでもいいか。
私はどうやら純粋な人間と言う事か、今までも人間としか生まれていないが何かあるのかな?
……何だか疲れてきたな、今日はもう寝てしまうとするか。
……おいっ、エルマーよ、何で倉庫が2階にあって寝室が地下なんだよ。馬鹿じゃないのか。
~~~
「ジリリリリリリリリリリリリリリ」
五月蠅いな、何だよこの音は……ふ~ん、時間を知らせる魔道具か、意外と面白い物がある世界じゃないか。
部屋の中には今までの世界で見た事の無い魔道具が無造作に置いてあり、それらを手に取って色々と試していると店の方から大声で叫んでいる声が聞こえて来た。
「ねぇ、ちょっと早く起きなさいよ、こっちだって忙しいんだからさ」
誰だこの声の持ち主は……あぁ隣で小さな食堂を営んでいる未亡人のベルタか、そういや毎朝朝食を運んで来てくれるんだっけな。
狭い寝室を抜け出して階段代わりのはしごを登っていく。綺麗に整頓された武具の横を通って店の扉を開けるとそこにいたベルタは記憶の中よりも魅力的な女性がお盆の上に朝食を乗せて立っていた。
朝日に輝いた白くて長い髪は先祖に兎型獣人族がいるせいかとても美しく見える。
「綺麗だな」
「えっちょっと何よ、どうかしたの」
思わず口にしてしまったのでお互いに気不味くなってしまったのかベルタはお盆を渡してくると直ぐに走り去ってしまった。
「あっごめん、変な意味じゃないからさ」
自分の店の中に入って行くベルタに大声で声を掛けたがその声が聞こえたとしても朝からこんなおっさんの私に言われたのだから気を悪くしたのかも知れない。
苦い顔をしながら店の中に入り、普段なら地下室で食べている食事を今日は店のカウンターの上で食べる事にする。
少し薄味のスープを飲みながら今の私に出来る事を確認していく。
魔法は……魔力があるから使えるか、まぁ1流には程遠いが我慢できる範囲だな。
身体は……運動をしていない割にはいい方かな。まぁこの年の商人と言った感じだろうな。
もっと早くに記憶を取り戻していれば肉体改造や魔力を増強訓練をするだろうがこの年からではやる気がおきない。このまま武具屋の店主として生きるのもいいだろう。
この世界の私はかなり綺麗好きらしいので朝食を食べ終えるといつもと同じように店の中を掃除し始めた。
元から綺麗なので達成感は得られないが満足していると入口の扉が勢いよく開いてドワーフのおやっさんが木箱を抱えたまま中に入って来た。
「あれっどうかしましたか、私の店に来るなんて珍しいじゃないですか」
「はぁお前は急に貴族に憧れたのか、私なんて気持ち悪いこと言いやがってよ、まぁいいやそれよりこの中の物を買ってくれねぇか」
いつもなら工房に顔を出しても中々作った物を売ってくれないのに自ら持ち込んでくなんて取引を開始して10年以上過ぎるが初めての事だ。
大きな木箱を開けるとその中にはぎっしりと武具が中に入っている。
「こんなにあるんだ。おやっさんの武具ならそりゃ嬉しいけど、どういう風の吹き回しなんだい」
「いやよ、馬鹿な弟子が酷い怪我をしちまったから上級ポーションを買わなくちゃいけなくてな、それで金が必要になったんだ。たまたま高い買い物をしちまったばかりだから手持ちが無くてな」
この世界で怪我を治すには道具屋でポーションを買うか神官にお願いするしか無いが価格はほぼ同等なのでどちらを利用するかはそれぞれだ。
「ったく、売るのを渋っているからそうなるんだよ」
「うるせぇよ、良いから早く査定をしやがれ」
木箱の中にある武具はどれもが1級品なのでこの機会に全てを買いたいがこちらもそこまでの金は無い。
どうしたらいいかな……そうだ金なんて必要ないじゃないか。
「おやっさん、そいつは俺が治すからこの剣と弓をくれないか」
かなりい提案をしたつもりなのだがおやっさんはかなり不機嫌になり身体全体から怒りの炎が燃え上がって来ているようだ。
「ああん、テメェ、こっちは遊んでいる場合じゃねぇんだ。もういい、二度と俺に関わるんじゃねぇぞ」
「ちょっと冷静になってくれよ、ほらっこれを見て」
木箱を持って帰ろうとするおやっさんの腕を掴むと青くて淡い光が身体を包み始めた。
「おいっこれは何をしているんだ」
「おやっさんの古傷を治しているんだよ」
「ああん、なんだと」
光は直ぐに消え、おやっさんは腕に出来ていた数々の火傷の跡が消えているのを驚いた表情で見ている。
「お前は神官だったのか」
「そんな訳ないでしょ、しがない武具店の店主だよ」
「だったらこれは何だ……」
「そんな事はいいからこれで信じてくれたでしょ」
「あぁそうだな、悪いが急いで来てくれ」
店を出ておやっさんの馬車の荷台に乗り込むと直ぐに馬車は動き出した。荷台の中には店に持ってきた木箱以外にもいくつか置いてあるのでかなりの酷い怪我かも知れない。
そんなに慌てるなら神官に見せている間に……無理か、神官はドワーフ族が嫌いだからな。まぁ私に任せれば大丈夫さ、なにせ聖者と呼ばれた事もあるんだからね。
数分後に馬車が工房に到着するとおやっさんは一刻も早く治して欲しいのかエルマーの身体を抱えてそのまま工房の中に走り出した。
工房の中に入るのは初めてだな、まさかこんな形で入るとは思わなかったよ。
おやっさんの工房は狭いながらも3つ炉が壁に沿ってあり、中央の作業場の上には弟子のアルゴが寝かされていた。
抱きかかえられた状態から見えるアルゴは身体全体が赤くただれ右手は炭のように黒くなっている。一目で酷い状態だと分かるのだが、何故かそのアルゴにもう一人の弟子のビヒタが無理やり酒を飲ましていた。
それを見たおやっさんは私が近くにいると言うのに鼓膜を破る位の大きな声でビヒタを怒鳴りつけながら迫って行く。
「おいっ何してやがんだ」
「何って痛がるから酒を飲ましてるんですよ、ほらっおかげで気持ちよさそうに眠りましたぜ」
「おやっさん、あの馬鹿をどかしてください」
俺がそう言うと顔を赤く染めながら思いきりビヒタを殴り飛ばしてアルゴから離した。
「馬鹿なのかオメェは、こいつはドワーフ族の血よりも人間族の血の方が濃いんだぞ、んな事したら死んじまうだろうが」
ビヒタは殴られた頬を抑えて必死におやっさんに何度も頭を下げながら謝っている。歯が何本か折れてしまっているようだが優先はあくまでもアルゴだ。
愚か者はおやっさんに任せて私はこっちだな。
両手を身体の前で擦りながらエルフ語を唱えて始める。こんなに酷い状態の怪我を治すためにはちゃんとした詠唱魔法を使わないと治す前に私の魔力が枯渇してしまうだろう。
言葉を繋いでいくとエルマーの身体から魔力がアルゴに向かって流れ始める。それが球体になりアルゴを包み込むとその姿は黒い液体によって見えなくなった。
「なぁおいっ、俺の時とは随分と違うじゃないか、なぁってよぉ」
「おやっさん五月蠅いんだよ、邪魔だから黙ってて」
思わずおやっさんに怒鳴ると予想外の事で委縮したのか黙ってその場に座ってくれた。この工房の中には俺の詠唱の声とビヒタの痛みで呻くとアルゴのいびきの音が聞こえている。
その状態のまま30分ほど経過すると球体の中の黒い液体がどんどんと透明に変化していってそして消えて行った。
ほどなくして目を覚ましたアルゴは怯えたように上半身を起こし自分の身体を見るとその動きを止めた。
「えっ、どうなってんの」
ほぼ崩れ落ちていた腕も元に戻っているのを見たおやっさんはアルゴの抱きつきながら涙を流しているが当の本人はまだ状況が理解できていないようだ。
お次はビヒタの崩れた顔を治してやるかな。
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「エルさんが治してくれたんだってな、いやぁあの時はどうなるかと思ったよ、全部あの馬鹿のせいなんだけどな」
アルゴの視線の先には地面に頭を擦りつけてずっと謝っているビヒタの姿がある。事故が起こった原因はアゴルが飲む水の中に冗談半分で幻覚剤を混ぜたせいだった。
「まさか自分から炉に飛び込むなんて想像する訳ねぇだろ、おかしくなるお前を見て笑おうとしただけなんだよぉ」
「俺にそんな物を飲ませるんじゃねぇよ」
元気になったアルゴはビヒタの顔を思いきり蹴り上げたのでまた怪我をしてしまったようだが私はもう治す気はないし、おやっさんも無視している。
今度は殴りかかり始めたアルゴを視界から外したおやっさんは真剣な表情で頭を下げて来た。
「本当に有難うな、報酬だが剣と弓だけじゃなくて木箱の中身を全て貰ってくれ」
「いやいやそこまでの事はしていないんだから最初の条件で良いよ、ちょっと疲れただけだからね」
「それだと俺の気持ちがよぉ」
「いいんだって」
「そうか、だったらよぉ今後困った事があったら儂の所に来い。いくらでも協力してやろうじゃねぇか」
私とおやっさんが話していると、ようやく怒りが静まったアルゴがやって来る。
「エルさんよ、聞きたいんだけでさぁどうして神官みたいに回復魔法がつかえるんだ?」
「う~ん、まぁ色々あるんだよ、だから誰にも言わないでくれよ。いいかい秘密だからね」
知りたい気持ちは理解出来るが、まだその嘘を考えていないので苦笑いだけして店に戻った。
これでおやっさんは武具を今までよりも多く売ってくれるだろうな、だとしたらやはりこの人生は武具店の店主で生きていくか。
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次の日になるとおやっさんから報酬で貰った剣と弓をどこに置こうかレイアウトを考えているとベルタが朝食を運んできた。昨日の失言があるので多少気不味いがあえて普通を装う。
「お早う、見てくれよこの剣と弓は素晴らしいだろ」
「あのね、第一声がそれなの? まぁいいけどさ、ほらっそれよりも外にお客さんが並んでいるよ」
「えっ……もう情報が流れたのかな」
「良く分からないけどたまには良いんじゃないの、頑張ってね」
昨日の分と合わせて朝食代を支払い見送るついでに外を覗くと6人もの人達が並んでいるがどの顔も初めて見る顔だった。
新規の客か、だとすると多少高めでもいいかな。急いで食ってから店を開けるか。
この二つが売れたらと思うとにやけてしまうのだが、急いで朝食を胃袋の中に流し込んだ後で表情を引き締めて時間より早く店を開ける事にする。
「お待たせしました。どうぞ順番にお入りください。昨日入荷した商品をご希望でしたらお声を掛けて下さいね」
すると先頭の男が中に入らずに目の前にやって来る。
「商品なんてどうでも良いんだ。それよりもあんたは怪我を治せるんだろ、一体いくらでやってくれるんだい? 神官に見せるよりも遥かに安いって聞いたんでな」
「えっ何を言っているんです? ここは武具店ですよ」
「いやいやあんたはアルゴを治したんだろ、当の本人がそう言っていたんだよ、死に位の大怪我だったのに報酬は剣と弓だけだってな、なぁ頼むよオイラは怪我を治して冒険者としてまた生きて行きたいんだ」
店の前にいる人達も必死の形相で頼んでくるのでこれ以上騒ぎになる前に何とかしなくてはいけない。
あの野郎、治してやったのにこれか、落ち着いたらどうなるか思い知らせてやるからな。
「分かりました。怪我を見てから金額を伝えます。それとですが頼むから静かにして下さい」
「「「おおおおぉ~」」」
「だから五月蠅いんだよ」
怒鳴ると直ぐに静かになったので店の中に招き入れる。彼等の怪我は誰もが中々の状態でこれらを治すとなると上級ポーションが必要になってしまうだろう。冒険者としてランクが高ければ買えるとは思うが治せないと言う事は此処にいるのは低いランクの者達に違いない。
神官も薬草屋も談合しているからズルいんだよな、もう少し価格を下げればいいのに。
私が治した後で貰った報酬は中級ポーションと同じ額である金貨1枚に設定した。それを告げる時少し高すぎるかもと思ってしまったが誰もがその価格に驚き涙を流しながら喜んで支払ってくれた。
並んでいた人達を全て治すと頭がクラクラするし吐き気もあるので倒れたくなるが、それ以上に怒りの炎が身体を突き動かす。
よろよろと動きながらおやっさんの店を目指し、到着すると勢いよく扉を開け中にいるおやっさんの奥さんとばっちりと目が合った。
「そんなに慌ててどうしたんだい、それに顔色が悪いじゃないか」
「私の事はどうでも良いんです。それよりもおやっさんとアルゴはいますか」
「そりゃいるけどさ、あんた、呼んできてあげるからそこで座っておきなよ」
奥さんは不思議な顔をして裏に下がって行ったので、エルマーは倒れ込むように椅子に座って出て来てくれるのを待った。すると直ぐにおやっさんとアルゴがやって来ると怒りの炎が燃え上がる。
「おいおい、どうしたんだよ随分と具合が悪そうじゃねぇか」
「全てはそこのアルゴのせいですよ、何処で言いふらしたのか知りませんがそのおかげで何人も治療したんです。なぁお前には秘密にしろと言ったよな」
直ぐに理解したおやっさんは問答無用でアルゴを殴り飛ばした。
「テメェ、恩人をいきなり裏切るとはどういうこった。この馬鹿野郎が」
「いや、俺は何も言ってない……言ったのかな? 昨日の夜は回復記念に酒をたらふく飲んだからどうも記憶が無いんだよ」
馬鹿な言い訳をしてくるアルゴを殴りたくなったが一度座ってしまったので立つ事が出来なくなっている。
「すまねぇな、それで騒ぎになったのか」
「えぇ大変でしたよ、さっきは6人だけで済みましたが、それでもそのおかげでこの有様です」
「今からそいつらに口止めしても無理かもしれんな。こりゃなるようにしかならねぇぞ」
本当に余計な事をしてくれた。よくよく考えると安く治してしまった私も悪いとは思うが明日以降も怪我人がやってくるようならいつかは神官達や薬草屋の耳に入ってしまうだろう。商売を邪魔する店だと認識される前に早急に対策を考えないといけない。
「悪かったよぉ、つい口を滑らしたんだよ」
「本当に悪かったな、何かあったら直ぐに言って来いよ、何も無いのが一番なんだけどな」
「その時はお願いします」
この街のドワーフ族の頂点に立つおやっさんの後ろ盾があれば少しは何とかなるかも知れない。
この世界でものんびり暮らすのは無理なのか?
翌日になるとやはり店の前に治療目的に人達が並んでいた。これ以上大事にはしたくないので実は中級ポーションを飲ませただけですと言って誤魔化そうとしたがその前に父親といる痛々しい少女を見てしまったのでその言葉は胸の中に押し込めてしまう。
「あの、娘さんはどうしたんですか」
「3ヶ月前に盗賊に襲われてしまって右手を失くし身体中にも傷があります。神官様には多少の怪我を治して貰ったのですがこれ以上の治療は最低でも白金貨3枚は無いと駄目だと言われてしまいましたのでこのままです。あれから必死に働いたり家財を売ったりして今は大金貨8枚まで貯める事が出来ましたが貴方様の方で治せないでしょうか」
そう言う父親も片方の足は壊死しているようで黒ずんでしまっている。娘の怪我も酷い状態だが父親もそれに負けていないように見えた。
「最初に治すので中に入って下さい。二人とも治してあげますよ」
「本当ですか、あぁ」
父親はまだ治してもいないと言うのに涙を流しているが娘は泣く事も話す事も出来ないのか虚ろな目でどこか遠くを見ている。
心の問題じゃ無ければ良いんだけどな、それはやってみないと分からないか。
親子を優先して店の中に入れると並んでいた人達から驚きの声が上がった。あの状態を見ていた人達はまさか受け入れるとは思っていなかったのだろう。
親子を店の奥の部屋で寝かせると直ぐに詠唱を唱え始め魔法の光が二人を包みこむ。
状態が状態だけに治療には時間が掛かったが2時間程経過すると身体は全て元通りに戻す事に成功出来たし少女にも感情が戻って来たようで涙を流しながら笑顔を見せくれている。
しばらく二人の様子を見ていると落ち着きを取り戻した父親が硬貨の入った袋を渡してきた。
「これが精一杯なのですが、本当にいいのですか」
「ん~そんなに要らないかな、そうだなかなり疲れたので大金貨1枚でいいです」
「えっ…………」
かなり疲れているので挨拶もそこそこにして店から出て行って貰うと外から歓声が上がっているのが聞こえてきた。
「これはもう腹をくくるしかないかな」
次の人を呼ぼうと思い立ち上がろうとしたがいきなり世界が暗転してしまい何も考えられなくなった。
「あっこれは駄目だ…………」
~~~
目を開けると心配そうな顔をしたベルタが顔を覗き込んでいる。
「ねぇ大丈夫なの、お客さんが騒いでいたから様子を見にきたら倒れていたんだよ。何で無理をするかな」
「ちょっと張り切り過ぎただけさ、それにただの魔力切れだから心配しなくて大丈夫だよ」
「本当にそれだけなの? また前みたいな事をしたんじゃないでしょうね」
「あの事は忘れてくれよ、反省しているんだからさ」
ベルタの言う前みたいと言うのは元妻が若い冒険者と駆け落ちした時に私は眠れなくなってしまい普通は使用してはいけない薬に手を出してしまった。そして私は1週間ほど意識を失っていたそうだがその当時の記憶はあまりない。
「信じて良いんだよね」
「あぁもうあんな馬鹿な真似はしないさ、さて、起きないとな」
病気では無いので立ち上がるが予想以上に魔力が回復していなかったようでよろめいてしまい思わずベルタにもたれかかってしまう。
「ちょっとやはり無理じゃない」
「あぁすまんな、私はもう若く無いって事か」
「あのねぇ、そこまでの年じゃないでしょ、ほらっもう今日は諦めて休みなよ、私も店が終わったら何か持ってきてあげるからさ」
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「う~ん、頭が……痛すぎる」
昨日はあれから直ぐに回復したので夜にやって来たベルタとかなりの量の酒を飲んでしまった。似たような境遇の私達は元妻や元旦那に対してかなりの不満があり相乗効果で話が盛り上がってしまったようだ。
このままでは仕事にならないので直ぐに毒消しの魔法を自分に掛けるとスッキリするとの同時に記憶が鮮明に蘇ってきて一気に血の気が引いて来る。
あ~どうしたんだ私よ、ベルタは妹のような存在だったじゃないか、馬鹿か。記憶を消す魔法何てものがあったらよかったのに。
実は酒に酔った私はベルタを口説き始めてその結果が今隣で裸同然の恰好でベルタは寝ている。
過去の記憶を取り戻した私にとっては久し振りだからか、つい暴走しちまったな。
「んんんんんんっ、えっ何この状況?」
目を覚ましたベルタは目を大きく開き、急いで毛布で体全体を隠し始めた。
「何ってそういうことらしいね、もしかして記憶が無いとか」
暫く下を向きながら考えたベルタは顔を赤くしながら私の目を見つめて来た。
「…………思い出しちゃった」
決して無理やりの行為ではないし今のベルタの様子を見てもそれは理解している様なのでここは今後の事を考えると答えを間違える訳にはいかない。
「あのさ……」
エルマーの記憶に中にあった封じ込めていた思いをそのままぶつけてみた。もう年齢がどうのだとか言ってはいられない。するとベルタはただ黙ってうなずいてくれる。
「あのさもう少し考えさせて貰ても良いかな」
「そうだよな、こんなおやじでは迷惑だよな」
「そうじゃなくて、外が騒がしいでしょ、早く店を開けた方が良いんじゃないの」
急いで服を着替えて店の外に出てみるとこれまでよりも多い数の人達が並んでいる。
やはりこうなってしまったか。
「どんな怪我でも治してくれるんですよね」
「それに向こうに比べてかなり安いと言うじゃねぇか、本当なのか」
「お願いですから助けて下さい」
これまで治療したくても金銭的に出来なかった人達が溢れている。よくもぁこの国の神官や薬草屋はこの状況を無視してまで金儲けしていたと逆に感心してしまうが今は嘆いている場合ではない。
「分かりました。ただし私の指示に従う事と今日中に全員は治せないと言う事は理解して下さい」
それだけ言うとこの列の中ほどにいる一人の男が目に入ったので最初に店の中に一人だけで入って貰った。
「オイラが最初で良いのかい。よろしく頼むよ」
「いやそうじゃ無くてだね、君は私の力では治せないから早く自分の国に帰る事をお勧めするのさ」
「どうしてだよ、まだ傷口も見ていないじゃないか」
「悪いが君は人間に化けている魔族だろ、私はね君に傷をつけた誰かさんと同じ聖属性なんだよ、いいかいだから君は自然治癒が出来ないんだ。私が他の人にするように回復魔法を掛けたら君は消滅してしまうだろうね」
「魔族と知っていて見逃すのか」
「面倒だからな」
一瞬だけ魔族の顔に戻ったが直ぐに諦めた様な顔をして魔族の青年は黙って出て行った。何の目的でこの街に紛れ込んでいるのか知らないが今の私には関係の無い事だ。
もう勇者でも兵士でも無いからな。
「その次の人ど~ぞ~」
店の外に向かって大きく声を張り上げると老人と一緒にベルタが入って来る。
「どうした? 何をしているんだい」
「私の店の前まで列が出来ているから開けようがないんだよ、だから手伝って上げようと思ってさ」
「それは悪かったな、だったらさ並んでいる人の中で病気の人は帰ってくれるように言ってくれるかな、私は病気の治療は出来ないんだ」
「りょ~かい」
~~~
あの日から1ヶ月過ぎたがずっとベルタは店の手伝いをしてくれている。ベルタの助言もあってちゃんと治療費を設定する事にしたが子供は大人の半分の料金にしてあるし、お金の無い者は人を見て口止めをしてから無料で治す事にしている。
ただしこの身体の中にある魔力はそれほどないので1日に10人程度と決めてあるし回復魔法の内容によってはそれ以下もある。
実働時間は朝だけの極僅かだがそれだけで本来の武具店の売り上げよりも遥かに超えてしまうのでそろそろ看板の名前を変えるべきか悩んでいる。
「あなた、次で最後になりますよ」
ベルタとは結婚の話こそ出てはいないが【あなた】と呼ばれるような関係にまで発展したのは照れ臭いが嬉しくもある。
思わず顔がにやけてしまうがそんな私の前に恰幅のいい象型の獣人が入って来た。
「さて、怪我の場所を見せて下さい」
「そうでは無いんです実は私は薬剤協会の会長をしておりますレアンドロと言います。こちらに何度も使いの者を送ったのですが返答が無いのでこうしてやって来ました」
笑顔を見せながら話してくるが心の中は全く逆だろう。お偉いさんが直々にやって来るとはやはりもう避けている場合ではない。
「わざわざこんな場所まですみませんね、私が返答しなかったのは手紙を持ってきた者は誰もが横柄な態度だったので読む気にもなれませんでしたよ」
直球で嫌味を言ったのだがレアンドロは笑顔の表情を変えようとはしない。
「それは大変失礼いたしました。ただ分かって欲しいのはその者達は必死なんですよ、なにせここがあまりにも安い金額で治療をしているせいで回復薬の売り上げがかなり下がってしまっていますからね。せめて適正な価格にしたらどうですかな」
徐々にではあるが表情は真顔に変わって行き、威圧するような気配も出してきている。
まぁ全然怖くは無いんだけどな、魔王に比べたらもう何も怖くはないさ。
「あの、理解はしますが私は合わせる気はありませんよ、それにこの町にある全ての薬草屋の売り上げが私だけが原因で下がる訳はないじゃないですか。治せるのは私しかいませんし1日に限られた人数しか治せませんからね、そんな事よりも先ずはちゃんとした原因を考えた方が良いと思います。例えば私ならダンジョンの管理者の所に行きますけどね」
この町に薬草屋が一つしか無いのなら完全に私のせいだがそんな訳はない。だからこれはただの八つ当たりだろう。客からはかなりの文句を聞いているはずだ。
「ダンジョンですか……確かに意味は分かりますがそれだけで納得すると思いますか」
「さぁそれはあなた次第ですね、確かに私は多少の客を奪ってはいますがそれだけです。それにいいですか携帯出来る回復薬とは違うんですよ。あそこがちゃんと運営されたら売り上げは回復するんじゃないですかね」
この町はそもそも冒険者の数が減りつつある。それはダンジョンの管理が甘く冒険者は稼ぐ事が出来ないので他の町に移る者が多いからだ。そのせいで本業の武具店も年々売り上げが下がっているので記憶を戻す前の私は他の町に行こうかとすら考えていた。
レアンドロは苦々しい表情をしながら目を瞑り少ししてから再び目を開けた。
「やはりそっちの方が優先ですよな。だが中々難しくて……」
「やるしかないですよ、協会が一致団結すれば少しは管理者も動くんじゃないですかね、早くしないと増々冒険者は離れると思いますよ」
「……分かりました。やるしかないですな。ただ価格の事は考えて下さいよ。あなたに何かをする者が出てくるかも知れませんので」
「どうでもいいですよ、ただ何かあった場合には私の後にはドワーフ族が付いていますので彼等に何かを言ってしまうかも知れませんね」
ドワーフ族は低級だとはいえ仕事柄ポーションを大量に購入している。かなりの大口の顧客なのでこの名前を出せば少しは効果があるだろう。
勝手に名前を使わせて貰ったけど大丈夫だよな。
「そういえばあなたはヒッグスさんと仲が良いようですな、あながちはったりでは無いと言う事ですか……分かりました。ダンジョンの件が片付いたらもう一度話し合いをさせて下さい」
「別に構いませんが、その時にはもう一つ情報を差し上げましょう」
「ほぉ~まだありますか、それは楽しみですな、それでは帰る事に致しましょう」」
レアンドロは自分の膝を叩いて立ち上がると頭を下げて店を出て行った。
これで暫くは大丈夫かな、こっちも時間が稼げるし本当に冒険者が戻って来たらこんな小さな治療院は見逃してくれる……かな?
~~~
あれから薬剤協会の方からは何も言って来なくなりもう一つの懸念も動きが無いようなので油断しているといきなりその日はやって来た。
数日前から一緒に暮らし始めていたベルタの入浴中に店の扉を激しく叩く音が聞こえたので急患かと勘違いして扉を開けるとそこにいたのは険しい顔をした兵士の一行だった。
「ちゃんと居るとは感心な奴だな」
そりゃ居るに決まっているだろ、此処を何処だとこいつは思っているんだ?
「どなたか怪我をされたんですか」
「ふんっお前が怪しげな方法で市民を騙しているエルマーだな、いいか教皇様がお前を連れて来いとの命令だ。いいか無駄な抵抗はするなよ」
そう言いながらも後ろの兵士達がいきなり掴み掛って来て地面に投げ倒されて無理やり身体を縄で縛られてしまう。
「ちょっと何なんですか、何も抵抗していないでしょ」
「五月蠅いんだよ、おいっその口も塞いでしまえ」
汚い布で猿轡をされ、身体中を縄で縛られながら無理やり引きずられるようにして連れて行かれそうになると店の中から半裸のベルタが飛び出してきた。
「待ちなさいよ、うちの旦那をどうしようっていうのよ」
「う~う~う~」
私の事はいいから服を着てくれよ、見えてるぞ。
「こいつは市民を惑わしている罪で教皇様の前に連れて行くのだ。それ以上近づくとあんたも同じような目にあうぞ、まぁその姿だとこの町の年増好きには目の保養になるかもな」
その男はベルタの身体を嘗め回すように見ながら下衆な笑みを浮かべているので焼き殺してやろうかと思ったがグッとこらえて我慢する。
悔しそうな顔をしているベルタはまだ何かを言おうとしたので必死に顔を横に振るとその場でただ兵士を睨みつけていた。
~~~
乱暴に連れていかれたせいで身体中に擦り傷を負いながら神殿の中に入り奥にある小部屋の中に無理やり投げ込まれてしまう。
「此処で大人しく待っていろよ、下手な事をすると二度と外に出れなくなるからな」
「ん~ん~ん~」
お前の顔はしっかりと覚えたからな、覚えていろよ。
怒りで全身が燃え上がりそうだが屈強な兵士にこの場で抵抗するほど馬鹿では無いので言われた通りに大人しくする。床に転がされたまま放置され、約一時間後にようやく白いローブを身に纏った好々爺のような老人が部屋の中に入って来た。
「おやおや酷い有様だねえ、そこの君、彼の縄を解いてあげなさい」
「はっ」
一瞬だけ味方になってくれるのかと期待してしまったが、その目には侮蔑するような冷たい目を向けてくるので安心する事は出来ない。
ようやく布が外されると血と布の汚れが混じった唾をその場に吐き捨てた。
「いくらなんでもやり過ぎだろ。何でこの私がこんな目に遭わなきゃならないんだ」
「貴様、教皇様に無礼だぞ」
側にいる兵士にいきなり殴られたので壁にまで吹き飛ばされてしまう。さらに他の兵士も殴りかかってきたが教皇は暫く見てからようやくその行為を止めさせた。
「もう彼は自分の立場が理解出来ただろう、二人で話すから君達は此処から出て行きなさい」
「しかし、この者が何をするか分かりませんよ」
「あのな、この私に何かをするのならばその者はどうなってしまうのか赤子でも分かる事じゃないのかね」
赤子に分かる訳ないだろうが、まぁそれだけの権力があるのは知っているけどね。
「左様ですね、あの男みたいに家族もろとも……」
「それ以上は言わなくてよろしい」
「はっ失礼致しました」
おいおい何があったのか知らないがそんな奴が教皇かよ、この国はどうなっているんだ?
呆気に取られていると兵士達はこの部屋を出て行き、今では薄気味悪くなった教皇と二人だけになった。
「それで君は何処に所属していたのかね? 調べていても分からんでの、君をそんな風に教育した支部には厳重に注意しないといけないな」
「何を言っているか意味が分からないけど、私は何処にも所属していなかったですよ」
「ふ~ん、そうかだとすると小遣い稼ぎをした神官がいると言うのだな」
冷たい目を隠そうともしないで睨みつけて来るがそれぐらいで動じる私ではない。
「そんな人はいませんよ、独学で魔法を覚えたんです」
「あのな、守りたい気持ちは理解出来るがその作り話はいかんよ、この世界のどこにそんな者がいると思うのだね……まぁよい、もう分ったよ、君が話すまで我慢するとするか、ただしあ奴らに言って君が話しやすいように拷問をするがね、ただ私も苦しんでいる姿を見たく無いから死ぬ手前になったら治してあげるよ、それを何度も何度も繰り返すのさ、君に本当の生き地獄を教えてあげよう」
残忍な笑みを浮かべる目の前の老人はとてもではないが聖職者には見えずただの変態野郎にしか見えない。
「落ち着いたらどうです。私が安く治すのが気に入らないだけでしょ」
「それもそうだが、君みたいな男に魔法を勝手に教えた奴も罪人なんじゃ」
こんな事になる前にもっと対策を考えておけば良かったが、今更後悔しても始まらない。この場で暴れて逃げるのは簡単かもしれないが今の私には守らなくてはいけない人がいる。
「分かったよ、言いますよ。いいですか、私に魔法を教えたのはあるエルフです。だからあなた方が使う魔法とは少し違うんですよ」
「馬鹿な事を申すな、エルフが人間に魔法を教える訳がないだろ。それになこの国のどこにエルフがいると言うんだね」
そう言えばエルマーの記憶に中にエルフに姿は見た事が無い。これだけ他種族が共存しているというのにエルフな何故いないんだ。だとしても……。
エルマーは教皇の見ている前でエルフ語で詠唱を唱え始めると身体の周りに風が集まり始めて身体を徐々に浮かせ右手には炎の球を浮かべ左手には水の球を浮かべる。エルフの世界では遊び程度の魔法だがこれは火と水と風の魔法の力を同時に発動させたことになるのである程度の魔法使いでは無いと出来ないはずだ。
思惑は的中したのか教皇は目を見開いて見上げている。そして体が震え始め教皇は興奮したように叫び出した。
「そうかっ分かったぞ、貴様は人間ではなくハーフエルフだな」
興奮したように足元にやって来た教皇を見ると何だか馬鹿馬鹿しくなってきた。
「そんな訳ないでしょ、エルフが他種族と交わっても子供が生まれないのは常識じゃ無いんですか」
「だったら今のは何だ#%%&’%$#」
言葉にならなくなった教皇は意味の分からない事を喚き散らしているのでその間に魔法を解除して地上に降りる。
「だから言ったでしょ、エルフから教わったって、まぁ彼等の気まぐれじゃないかな」
「まさか貴様はエルフが人間に化けているのか? もしかしてエルフ族のスパイではないのか?」
「あのさ、エルフが化けられるなんて聞いた事あるのかい? それにさスパイだったら魔法を使うなんて目立つ事をする訳ないだろ」
「それがまた我々を欺く……」
教皇はブツブツ呟いているが、私にはこれ以上の説明はする気がない。私に魔法を教えてくれたエルフはもしかしたらまだ生きているかも知れないがこの国では無いしこの世界でも無いかも知れないのだから正直に話しても無駄だろう。
何故か正気を失っているように見える教皇にどうやって納得させられるか考えていると扉が勢いよく開いて焦った顔の兵士が飛び込んできた。
「何だね、この部屋から出て行けと言ったではないか」
「教皇様それどころでは無いんです。実はトロールが3体もこの町に迫っているとの情報が入りまして、是非とも聖騎士様のお力をお借りしたいのですが」
「何を言っとるんだ。そんなのは貴様らだけで何とかしろ」
手に持っていた杖を兵士に顔に投げつけるがその兵士は避ける事もしないで顔で真っすぐ教皇を見ている。
「教皇様の命令でこの町には少数の兵士しか今はいません。代わりが来るのは3日後でしょう。ですがその兵士達よりも聖騎士様の方が戦力になるではないですか、だから領主様も兵士を先に戻す事をお認めになったんじゃないですか」
詳しい事は分からないけどそんな人がいるなら良いじゃないか、何をしぶっているのかね。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ、あ奴はこの町におらんのじゃ、他の町に行かしたからの」
「どう言う事ですか? それでは約束が違うではありませんか。もういいです。この事は領主様と王都にいらっしゃる法王様に報告いたします」
「その必要は無い。この儂がいるでは無いか。だから落ち着きなさい」
言葉とは裏腹にかなり困っているらしく額から汗を流しながら視線がかなり激しく泳いでいる。
全てはこいつが元凶だな、そうなるとこの爺さんに恩が売れるかもしれないぞ。
そっと兵士の後ろに回って教皇の目に留まるように手を振ると、自分の胸を叩きながら頭に上にいくつかの魔法の剣を浮かべてみた。教皇は一瞬だけ首を傾けようとしたが直ぐに理解したらしく、先程までの情けない爺さんから尊厳のある教皇へと再び変えて行った。
「教皇様、早くお願いします」
「分かっておる。たかがトロールが3体如きでそのように慌てるなんて情けないぞ、聖騎士がいなくとも問題が無い事を見せてやるわい」
教皇は威厳に満ちた声で兵士に指示を出してこの部屋から出て行かせた。すると直ぐに教皇はエルマーの両肩を掴んできた。
「どうしました」
「何を呑気な事を言っているんだね、まさか私を嵌めたのか」
「いやいやちゃんと倒して見せますよ、その代わりちょっとやって欲しいんだよね」
願いはいくつかあるがこの場で出来る事が一つある。教皇にその事を告げると少しだけ嫌な顔をしたが諦めるようにエルマーを連れてこの部屋から出る事にした。
思った通りに先程の兵士達は部屋の前で待っているので教皇はその者達に向けて言い放つ。
「あ~君達は兵士として失格だな、彼に聞いたが随分と侮辱したり手荒な真似をしたそうじゃないか、よって君達は私の権限によって解雇する。不服があるなら王都の本部に訴えるがいい。だが訴えたり今から反論したらもう今後は君を含め親族達も教会とは縁を切ってもらうから良く考えるように」
その言葉を聞いた兵士達はかなり動揺して、ある兵士は教皇に文句を言いそうになったが周りの兵士に口を塞がれた。この国での教会は生活の一部となっているので親族を巻き込む訳にはいかないだろう。彼等はその場から動く事が出来ず、歩き始めたエルマー達をただ見送る事しか出来なかった。
「なぁ君、あれでいいんだな」
「今は時間が無いからあれで良いですよ、それより私が貴方の立場を守った暁には私に協力をして下さいね」
「あぁその代わりにちゃんと倒すんだぞ」
~~~
教皇と一緒の馬車に乗り南の城門を目指している。兵士からの情報ではトロールは二手に分かれてしまい2体は南の城門に確実に向かっているがもう一体は進路を変えてしまったので東門かそれとも街には来ないのかまだ分からない。ただ何があっても良いようにこの町にいる殆どの兵士にはそちらを対応してもらう事にした。
教皇は窓を完全に閉めるとそれだけでは不安なのかエルマーに近づき出来る限り声を小さくして話始めた。
「なぁこれが解決したら儂に仕えないかね、いくら君に力があってもそれを引き上げる人間がいないと意味が無いからの。儂は何年かしたら法王になるんだ。その時に側にいたら決して悪いようにはしないぞ」
「上手くいけばですよね、このまま私が逃げたら失脚したりしして…………冗談ですよ、ちょっと妻に相談します」
軽く気分を害したようだがそれでも教皇は作り笑いを浮かべている。
こいつの下か、う~ん、たまには長い物に巻かれるだけの人生も良いとは思うけどベルタは嫌がるかな? 初めての経験になるからちょっと面白そうなんだけど。
「ドンドンドンドン」
前の扉を激しく叩く音がしたと思ったら直ぐに小窓が開かれ焦った様子の兵士から声が掛かった。
「教皇様、もうトロールが城門を破壊し始めています」
「何じゃと、先程の報告ではまだだと言っていたでは無いか」
「そう言われても……ご自身の目で見て下さい」
窓を開けて前を見ると固く閉ざされている城門が低い音を奏でながら激しく揺れている。
そして城門の内側では数人の兵士と冒険者と思われる10人ほどの冒険者が各々武器を手にして構えていた。
「なんじゃあの数は、いくら何でも少なすぎないか」
「そうなるように指示を出したじゃないですか、どうせやるのは私なんだから彼等には城門を開けるように言って下さいよ」
教皇は直ぐに馬車をその場に止めさせ、彼等に城門を開けるように指示を出すと再び馬車に乗り込もうとする。
「それじゃ後は任せたぞ、幸運を祈る」
「あのねぇ何が幸運を祈るだよ、あなたも一緒に戦う姿勢を見せないと駄目でしょうが、それとも良いんですか見ている人がいるんだから手柄は全て私の物になりますよ、それを頭に入れたうえで馬車に乗るんですか?」
「うぐぐぐぐぐぐぐ」
教皇は馬車に此処から離れるように言うと本当に嫌そうな顔をして城門の方を見始めた。
「ほらっ教皇なんだから杖を前に出して魔法を使っている振りをしなよ、いいかい兵士や冒険者だけじゃなくて市民も隠れて見ているって事を忘れないようにな」
教皇の後ろに回り肩に手を置いてから詠唱を唱え始め教皇の持っている魔力を吸い取って行く。
「おいっ貴様、何をしているんだ。身体から力が抜けていくぞ」
「動くなって、あんたの魔力を借りるのさ、私だけだと辛いんでね、いいから静かにしてなよ」
再び詠唱を始めていくと私達の頭の上に黒い渦の塊が出現してそれがどんどん大きくなっていく。
「なんじゃあれは、あんな魔法は初めてみたぞ」
「後で説明するから今は良いでしょ」
五月蠅いな、派手にやった方が良いと思うから誰もが知っている魔法を使う訳ないだろうに。
城門は更に悲鳴のような音を奏でながら上の部分から折れ曲がって来ている。そしてついにトロールの顔が見えて城門は内側に向かって倒れると同時にトロールが中に入って来た。
1歩踏み出してきたトロールは両手を大きく広げて空に向かって咆哮を上げ、その後ろには棍棒とは名ばかかりの大木を肩に担いでるサイクロプスがいた。
「おいおい後のはサイクロプスじゃないか、情報は正確に流して欲しいよね」
「そんな事を言っている場合じゃないだろ、サイクロプスがいるんじゃもう駄目だ。やはりもう終わりじゃないか」
教皇はエルマーの服を掴んで逃げようとするのでその肩にそっと手を置いた。
「落ち着きなってほら部下も見ているだろ、あんなのは誤差でしか無いから心配するなよ、それにさ今から何処に逃げるって言うんだい。もう諦めて早く前を向いて杖を構えなよ。堂々としないと駄目だからな」
「クソっ、何で儂がこんな目に遇わなくてはいけないんだ」
涙目になりながらも教皇は前を向き意味の無い杖を魔物に向かった構えだした。
「ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
今度はサイクロプスの咆哮が聞こえるとそれに合わせるように教皇の悲鳴が口から漏れ始める。
「ほらっそんな声を出したら駄目でしょうが。風雷神、行ってきな」
黒い渦が素早く動き出し前にいるトロールに触れるとその部分から削り取られ肉片に変わっていく。胸から顔を消し飛ばすと、後にいたサイクロプスは直ぐに背中を見せて逃げ出そうとしたが【風雷神】はそれを許さずサイクロプスも上半身を肉片に変えて周囲にばら撒いた。
「どうです。終わりましたよ」
「…………みたいだよな、あまりにもあっけなくないか」
「でしょ、それよりも勝利宣言でもしたらどうです」
「そうだな」
教皇は両手を上げて此方を見ている人達に手を振ると歓声と共に風に乗った声が微かに聞こえてくる。
「すげぇやはり教皇様だな」
「あんなに簡単に倒すなんて」
「なぁ本当にそうか? 何か違うような」
「でしょ、後の人がやったんじゃないの」
「それは違うべさ」
「う~ん、何か怪しいぞ」
「あれが出来るなら聖騎士になっていたんじゃないのか」
「聞こえると問題になるから黙れって」
やはり演技が下手な教皇のせいで疑惑が持ち上がっているが、私としてはあの魔法を使う為の魔力は全て教皇から奪ったというのに平然としている教皇は本当は凄い人物なのかも知れないと思い始めている。
「君のおかげ儂の評価はもっと上がりそうだな、さぁこの勢いで東門にも行こうじゃないか、いるかどうかは分からんがな」
「この町に入らないで通り過ぎていたら私はやりませんよ」
「まぁそう言うな、追いかけて倒せば儂の評判がもっと上がるんだぞ、それが君の為にもなるんだからな、ほれっ行くぞ」
やけに元気になった教皇は我先にと馬車に乗り込んだので後ろからついて行くと確かに私の耳には教皇を疑う声と本当は私なのでは無いかと言う声がチラホラ耳に入って来る。
ちゃんと教皇がしっかりとしないからいけないんだよな、こっちは杖を持っていないんだからさ普通にやってくれたら問題ないのに。
馬車の中ではこの私を右腕として使いたいらしくかなりの好条件を言ってくるがもう手遅れの様な気がしてきている。
下手に教皇に従ってしまうともしかしたらこの町で暮らしにくくなりそうなので今ならまだ間に合うと思うので見切りをつけてもいいかも知れない。
教皇の話を聞き流していると並走していた兵士が窓を叩いて来たので開けてみる。
「どうかしましたか」
「トロールが東門を突破して暴れているそうです。申し訳ありませんが教皇様は此方に乗り換えて下さい」
その言葉を聞いた途端に教皇はみるみる機嫌が悪くなって、舌打ちをして窓から顔をだした。
「東門には兵士の殆どを向かわせたでは無いか、それなのに何をしとるんじゃ。貴様らはそこまで頼りにならんのか」
「お言葉ですがこの町には最低限の兵しかいないんですよ、それも新兵ばかりではないですか全ては教皇様の指示だと聞いておりますが、どうなんでしょうか」
教皇は窓を力まかせに閉めて杖を床に叩きつける。
「交代要員を待てから帰らせれば良かったか、くそっ、あいつらが余計な事を調べようとするからいけないんだ…………」
ブツブツと呟く教皇を見ていると何となくではあるが状況が掴めてきた。
こいつは今の段階では権力があるかも知れないけどやはり泥船だな、初めての経験が出来そうだから少しは面白くなると思ったんだけど、残念だな。
後ろの扉を開けると兵士を手招きする。教皇は爪を噛んでイライラしているがもう気にしてはいられない。
「君、この教皇には無理だ、だから私が行く」
「えっ貴方がですが、大丈夫ですか」
「あぁさっきのトロールを倒したのも実は私だ。教皇の顔を立てるつもりだったが間違いだったようだね。君も思い返せば教皇の魔法ではないと分かるはずだが」
「確かに、薄々おかしいとは思ってはいましたが」
「ではいいな」
馬車を止めることなくそのまま飛び乗ると、ようやく気がついたのか教皇が扉から姿を見せて怒鳴ってくる。
「貴様~この儂を裏切るとどうなるか分かっているだろうな、教会を敵に回して良いと思っているのか~」
「私の心配よりも自分の心配をした方がいいんじゃないか」
捨て台詞を残して兵士の背中にしがみ付き東地区を目指して行く。もうこうなったら何時ものように実力を見せつけて何も言わせないようにするしかない。
前の方から激しい音が聞こえて来ると同時にトロールの頭だけが建物越しに見えてきた。
急いで左手を伸ばして詠唱を唱えると雷を纏った炎の槍が何もない空間に現れ始める。
「あっ」
兵士が叫ぶと同時に前方の家が破壊され破片が此方に向かって飛んで来た。
「大丈夫だ、このまま進め」
浮かんでいる槍から雷が網の様に飛んで行き、破片を包み込むようにするとバリバリとした音と共に砂の様に粉々になって振り注いだ。
「すげぇ、あっ、こっちを見ています」
壊された家のすき間からトロールの上半身が見え、ゆっくりと此方に身体を向けるとその太くて短い脚で家を踏みつけながら乗り越えようとしてくる。トロールとの距離はまだ30mほどあるがもう一瞬で終わるだろう。
「さぁ派手に散ってくれ」
伸ばした左手で【炎雷棒】を押し出すように手を振ると一気にトロールに向かって飛んで行き途中の雷の網に触れると5つの【炎雷棒】が分散しながら円を描く様にトロールに突き刺さった。
直ぐにエルマーは広げた掌を握りしめると【炎雷棒】は破裂し、そこに残ったのは太ももから下の脚だけとなりそしてその足も火柱を上げて燃え始めている。
そのままトロールの残骸に近づき馬から降りると両手を広げて胸に前で交差する。すると風が巻き起こり火柱が消えてトロールの痕跡は全て塵となって消えていった。
ふぅ~、派手にやったおかげでもう魔力は殆ど残っていないな、さて回りの反応はどうかな。
首を軽く回してから片手を上に上げる。少しの間は風の流れる音しか聞こえなかったが直ぐに隠れて見ていた者達の歓声が怒涛の様に聞こえて来た。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
「「「トロールが消えたぞ~」」」
「「「すげぇ~」」」
ぞろぞろと人が周りに集まり始め、拍手をしたり同じように片手を上に上げている者もいる。
教皇があまりにも使えないので当初の予定とは全然違う方向に進みだすてしまったがここまで人に見られたらそう簡単に手は出せなくなると信じたい。
駄目なら別の街に逃げるのも選択肢に入れないとな……あっ。
急に大事な事を思い出したので近くにいる兵士に向かって行く。
「悪いんだけど馬を貸してくれるかな」
「どうぞお好きにお使いください」
「そうだっ回復薬で治せない人がいたら後から来る教皇にやらせなよ、このままだと立場が無くなりますって言えばやってくれるだろうからさ」
「どうですかね、あの方に対する不満は根深いですから、せめて街を守ってくれたら我慢するしか無かったんですけど」
そこら辺の事情は知らないがそれよりもまず馬を走らせることにした。その途中でおやっさんを見かけると私を呼んでいるようだが今は構っている暇は無い。
落ち着いたら謝りに行けばいいよな。
~~~
ようやく自分の店に戻って来ると馬から飛び降り、勢いよく扉を開けて大声でベルタを呼んだが中からは物音ひとつしない。家の中を探してもベルタの姿は無く隣の家を探しても見つからなかった。
まさかまだ捕まっていると思って神殿に行ったのかな?
あまり行きたい場所では無いが心当たりがそこしか無いので放置していた馬に飛び乗ろうとした途端に背中に抱きつかれた。
「あなた無事だったのね」
「あっおう、何処に行ってたんだ」
ベルタの顔を見ようと振り返るとそこにはおやっさんもいていきなり頭を叩かれた。
「この馬鹿が、儂が呼んだのに無視するから行き違いになるんだ。いい加減にしろよな、こっちは心配していたんだぞ」
「あぁそうか、おやっさんの所に行っていたのか、でもどうしてだい」
ベルタに優しく話し掛けるが涙が止まらずに言葉にならないのでおやっさんが説明をしてくれた。
どうやら神殿に行ってもらちが明かずそこでおやっさんならどうにかしてくれると思ったらしい。話を聞いたおやっさんは鍛冶協会の幹部を招集し神殿に乗り込もうとしたそうだがそこにトロールの情報が入って来た。
ベルタを連れて地下室に避難していたが様子を見に外に出たところ馬に乗っているエルマーを見たので止めようとした結果がこうなった。
「どうやらトロールを撃退出来たみたいだな。向うはお祭り騒ぎになっているぞ」
「まぁあれぐらいは簡単だったよ」
「えっ、何を言っている?」
おやっさんも鍛冶協会の幹部を集めてくれるなんて昔だったら考えられなかったな。
段々と身体がしんどくなってきたので家の中に入ろうとしたがおやっさんもベルタも時間が止まってしまったのかの様に動かない。
「あなたっ何を言っているの? 意味が分からないんだけど」
「お前はただの……そうかっ貴様はエルマーではなくて魔族だな、だから魔法が使えるのか」
「ねぇそうなの? いやだっ私の旦那を返してよ」
おやっさんはいきなり殴りかかって来るし、ベルタは手で顔を覆って泣き出し始めた。
エルマーはおやっさんの手を必死に掴むと同時にベルタに向かって叫び始める。
「何泣いてるんだよ、魔族の訳無いだろ、信じてくれよ」
はぁどうやって説明しようかな? 全部は言わない方がいいよね。
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結局私が作った物語は10代の頃に遠くの町の武具店で修業をしていた頃に森の中で倒れているエルフを見つけてそのエルフの怪我が治る迄はずっと一緒に暮らしていたことにした。勿論魔法はそのエルフから教わった事にしている。
これは別の世界で実際にあった事で実はそのエルフとはそののちに私の妻になっている。二人にはそこまでは話していないがこの世界ではエルフはいる事は分かっていても見た事が無い人が殆どなので絶対に嘘だとは言えないだろう。
少しの間2人とも戸惑っていたようだがどうにか自分の中に落とし込んで納得してくれたようだ。魔族が化けた姿よりかはエルフと会った方が確率的に高いと思ったのだろうし、普段の様子を思い出せば魔族とは結び付かないのだろう。
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あれからもう5年が過ぎてしまった。
教皇は聖騎士や罷免された兵士が法王に訴え、法王自らがこの町を訪問した事によってその立場を全て失った。あの頃は見るからに失意のどん底だったが今では隣町で新たな宗教を開いて信者を続々と増やしている。いつかは教会を巻き込んだ何かが起こりそうな予感がするがそのおかげで未だに関係の悪い教会側はこっちよりもそっちの対策に追われているので私にとっては良い方向にに向かっている。それが無くとも私の後ろには鍛冶協会と領主がいるので表立っては何も出来ないだろう。あくまでもこの街の中ではだが。
私は領主から認められて正式に【治療院】を開くとともに兵士に基本魔法をたまに教えている。最初は色々な問題がおこりかなり大変だったが落ち着くと同時にベルタと結婚する事になった。
今では4人の弟子が回復魔法を使えるようになったので私は弟子が手に負えない状態の患者が来るまで何もしない。いや、他にやる事を見つけてしまったのでそちらに時間を使いたい。
「ぱぱぁ~、今日は川に行くんでしょ」
「そうだよ、だけどちょっとだけ待っててね、アルゴに行く場所を知らせて来るからさ」
「うん分かったよ、お外で待ってるね」
アルゴはおやっさんの工房を3年程前に辞めて今は此処で働いている。今の私より魔力を持っているとは驚きだったがアゴルは直ぐに調子に乗るので言ってはいない。
「あなたっ本当に今日は川遊びだけでしょうね、もう玩具とか買って来ないで下さいよ。甘やかすのもほどほどにして下さい」
「あぁ勿論だよ、信じてくれよな」
この年になって出来た我が息子だし、子供が生まれるのも随分と前の出来事だ。ベルタに何を言われようとも甘やかすに決まっているじゃないか。私が怒られれば良いだけの話さ。
今回の人生はこのまま穏やかに終わるかな。
最後までお読みいただきありがとうございます。今後の参考に致しますので良かったら評価とブクマ登録をお願い致します。
さてどうなるかな。