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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第二章

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ヒロインたちの会話 その6

《sideエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス》


 私は登校してくる生徒たちが見えるテラス席で、彼ら、彼女らを見下ろしながらお茶を楽しんでいます。

 目の前には友人であるリンシャンが座って、一緒にお茶を飲んでいました。


「あなたのところの騎士はどうしているの?」

「騎士?ああ、ダンのことか……彼は剣帝アーサー様の元で修行をしているよ」

「今年もデスクストスに挑戦するつもり?」

「……そうなんだろうな」


 歯切れの悪いリンシャンの態度が気になりますね。

 ただ、リンシャンのことよりも今の私は心穏やかでいられることを喜んでいました。

 リューク・ヒュガロ・デスクストスに婚約の申し出を断られたことで、王宮内では腫れ物を扱うような態度で、王都の民も何故か知っていて憐れんだ目を私に向けてきました。


 それらから逃れるために向かった秘境の温泉では、リューク・ヒュガロ・デスクストスと出会ってしまい、彼の言葉は私の中で怒りを与えました。

 今でも考えていますが、何故怒りが湧いてくるのか理解できないことばかりで嫌になりますね。


「ねぇ、リンシャン」

「どうしたのだ?」

「あなたは人を好きになったことがあるのかしら?」

「ブッ!」


 リンシャンが珍しく動揺した姿を見せました。


「なっ、なんだ急に……エリーナから恋愛話が出るなんて思わなかったぞ」

「そうね、ごめんなさい。リンシャンには恋愛なんて関係ないわよね。あの騎士と結婚するのでしょ?」


 相手が決まっている者はいいわね。


「何があったのか知らないが……恋愛は……恋に落ちるものだ」

「はっ?」


 リンシャンから発せられた言葉があまりにも意外過ぎて、私の方が動揺してしまいました。


「なっ、何を言っているのリンシャン?あなたがそんなこと言うなんて」

「所詮は……私も人……なのだろうな」

「どういう意味かしら?」

「私たち貴族には、義務と責任が存在している」

「そうね。平民の子たちのように好きに恋愛が出来るわけじゃないわ」

「そうだ、自由に恋愛をすることは難しいだろう。だが、突然に誰かを好きになる。それこそ落ちるように……それを経験することは義務の中には含まれないということだ」


 リンシャンから恋愛論を語られるなど思ってもいなかった。


 ただただ、唖然としてしまう。


「……ねぇ、リンシャン。あなたは恋に落ちたのかしら?」

「!!!……それはまだわからない。ただ、いつの間にか奴のことばかり考えるようになっていたんだ。奴のために何かしてやりたい。そう思える相手はいる」


 顔を赤くして語るリンシャンは、恋愛に疎い私でも恋をしているのだと理解できてしまう。


「そう……ねぇ、相手は誰なの?騎士の子ではないのはわかるけど。あなたの周りって男性ばかりだからわからないわ。騎士も大勢いるでしょうし、剣帝アーサー様やムーノ兄様もお世話になっていたわよね。みんな男らしくて、将来有望でしょ」


 リンシャンの周りには好きになれそうな男性が多い。

 人格者や、優しい男性なども多いが、リンシャンなら強い男の人を好きだと言いそうだ。側にいる男性たちは誰でも当てはまってしまう。


「エリーナは結婚したい相手などはいないのか?まだ婚約者はいなかったと思うが、有力なのは我が兄か?」


 リンシャンは、私がリューク・ヒュガロ・デスクストスにフラれたことを知らないのかしら?元々情勢に疎い子だったけど、礼節や格式、武術だけでは世の中は生きていくのは難しい。


 リンシャンは悪い子ではないけれど、得手不得手の差が有りすぎるわね。


「そうね。ガッツ様は……とても魅力的だと思うわ。王権派としても心強いでしょうしね」


 ただ、リンシャンと同じくガッツ様は政治に疎い。

 テスタ・ヒュガロ・デスクストスを相手にしたとき、あまりにも弱く……不安でしかない。


 平和な世であれば、結婚しても良い相手だと思える。


 でも、これから訪れるのは……きっと王族を、王族とは思わない情勢がやってくる。

 それはお父様の時代なのか、兄様の時代なのか……将来を見据えたとき……私が生きるための道はどうしても一つしかない。


「リンシャン、あなたからすれば敵で嫌いな相手でしょうけど。リューク・ヒュガロ・デスクストスのことをどう思うかしら?」


 返ってくる答えはある程度予想できる。


 きっと、リンシャンはデスクストス公爵家は敵だとか、リューク・ヒュガロ・デスクストスは人の気持ちを考えない最低な男だというのだろう。


 私だってリンシャンと同じ気持ちだ。


 デスクストス公爵家が居なければ、ここまで私が悩む必要はなかった。

 リューク・ヒュガロ・デスクストスが、私を受け入れて居れば簡単な話だった。

 あんな奴は最低の男でしかない。


「リューク・ヒュガロ・デスクストス?」

「そうよ。あの男に私は年明けに結婚を申し込んだの、それなのにあっさりと断られてしまったのよ。ハァ~本当に最低な気分だわ」


 ついつい、自分で愚痴を溢してしまったわ。


「結婚を!そうか……全然知らなかったな」

「そうでしょうね。リンシャンは政治や情勢を、もう少し勉強した方がいいと思うわ。あなたが好きになった人のためにも、政治や情報は武器になるから勉強しなさいよ」

「……ああ、エリーナの言うことは、もっともだな」

「でしょ。ハァ~私のような高嶺の華が婚約を申し出てあげたのに、もったいないことをしたわね、リューク・ヒュガロ・デスクストスは」


 私の発言にリンシャンは何故か笑顔になっていた。


「何?リンシャンも私を笑うの?」

「あっ、いや、違うんだ」

「何が違うと言うの?あなたは今笑っているじゃない」

「いいや。本当にそういう意味じゃない。エリーナが羨ましいと思っただけなんだ」

「羨ましい?」

「ああ、エリーナはガッツ兄様やリューク・ヒュガロ・デスクストスを天秤にかけることが出来るのだろう?私には選択肢がないからな。むしろ、私よりも自由だと思うと……ついおかしくなってしまったんだ」


 リンシャンの言葉に。私は少しだけリンシャンへの配慮が足りなかったと悪い気がして黙りました。

 笑顔は、私を笑ったのではなく自分の状況を笑ったものだったのですね。


「エリーナの立場ならば、確かに政治的なことも含まれているだろう。

 だが、政治を抜きにして、エリーナが生き残る道は無限にあるんじゃないか?それこそ王国を出てもいい。他国の王子に嫁ぐのもありだろう」


 そんなこと……言われなくてもわかっている。


 ただ、それでは逃げたようで嫌なのだ。


 王国に生まれ、王族として生き、王国の動乱がわかっていて、自分だけ逃げてしまうことが私にはどうしてもできない。


 そうか……私は王国を愛していたのだ。


 だから、リューク・ヒュガロ・デスクストスの言葉に怒りが湧いてきたんだ。


 私は王国のことを想っている。

 誰かのことを考えていないわけじゃない。

 やっぱり、あいつは最低な男だ。


「一つだけ、私がリューク・ヒュガロ・デスクストスについて言えることは……」


 嫌いとでも言うのかしら?それとも最低?


「奴は、信念を持っている男だ」


 えっ?本当に今日はリンシャンに驚かせられてばかりだ。


 まさか、リンシャンからリューク・ヒュガロ・デスクストスを認めるような言葉が発せられるなど思いもしなかった。


「どうしたのリンシャン?あなたらしくないわ」

「そうかもしれない。ただ、私は強さの本質を奴に教えられただけだよ」

「……そう」


 リンシャンが語る強さの本質とはなんなんだろう?だけど、強さを求めるリンシャンらしい答えに思えて納得してしまった。

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