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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第二章

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すれ違い

《sideダン》


 マーシャル家で過ごした日々は、俺にとってとても充実したものだった。


 同じレベルで競い合えるムーノの存在が大きかった。

 剣帝アーサー師匠の教えを二人で受けることで、互いに競って鍛えることで強くなれた。

 俺たちよりも強いガッツ様や師匠が、稽古を付けてくれたおかげで戦いの幅が広がり、新年に変わってからは、シーラス先生もやってきて魔法の訓練も行うことができた。


 魔法は知識を増やすだけでなく、魔力を増幅させる必要があり、厳しい修行の日々だった。

 だけど、その甲斐あって俺は確実に強くなっている。


「くっ!」


 地面に倒れるムーノ。ちょうど100戦目の戦いは俺が勝利を収めた。


「ふぅ~ボクよりも強くなったか……悔しいよ」


 剣と魔法を合わせた戦いなら、俺の方がムーノよりも強くなった。


「ガッツ様、お願いします!」

「こい!」


 休みが始まったばかりの頃は、ガッツ様に圧倒されて何もできなかった。


 だけど、今は……


「くっ!ふふ、やるじゃないか」


 ガッツ様の足に一撃を入れることができた。


「だが、そこで油断したら同じだろ!」


 攻撃が決まった瞬間にカウンターを決められてしまう。


「うわっ!!」


 肩に剣を落とされて膝を折る。


「うむ。大分強くなったな」

「ありがとうございました」


 ガッツ様は強い。それでもアーサー師匠やマーシャル様ほどの差は感じない。


「うむ。ダンも着実に強くなっておるな」

「当たり前だ。俺様が教えてるんだからな」


 すっかり仲良くなったアーサー師匠とマーシャル様に見守られて稽古を続けている。


 ただ、最近になって気になることが出来た。


 いつもなら、俺と同じように剣を振るっていたもう一人が姿を見せなくなったことだ。

 いや、稽古をしてないわけじゃないことはわかっている。だけど、どうして一緒にやらないのか……もうすぐ学園が始まる。大丈夫なのか気になる。


「ガッツにダンが居てくれれば、マーシャル家は安泰だな」


 マーシャル様の言葉に、俺はふと屋敷を見た。姫様の部屋には明かりが付いていていることは間違いない。


 ……一度話してみよう。


 そう決めた日の夜。


 俺は姫様の部屋を訪ねた。


 ――コンコン


「誰だ」

「ダンだ。姫様」

「……少し待て」


 そう言って、しばらく待っていると姫様が動きやすい服に外套を羽織って現われた。


「どこかに行くのか?」

「部屋に入れるわけにはいかないからな」

「そうか……」

「うむ。少し付き合え」


 姫様に言われるがままに、夜の屋敷を歩いて稽古場までやってきた。


「話があるのだろう?どうしたんだ?」


 その口調も、態度も今までと何も変わらない。

 変わらないはずなのに、学園に入る前に比べて随分と二人の距離が遠くなったように感じるのは俺だけなのだろうか?


「どうして?最近は訓練に来ないんだ?師匠も居るし、ムーノもいる。良い稽古が出来るはずだ」

「私は……私に出来ることをしているだけだ」

「それでいいのか?それで強くなれるのか?俺は確実に強くなっているぞ!」


 もどかしい気持ちが勝っていた。学園に入る前は共に強くなることを誓ったはずだった。


 だけど、俺たちはリューク・ヒュガロ・デスクストスに敗北を味わわされ……剣帝杯では互いに別の相手に負けた。


「ダン。お前は強さとはなんだと思う?」

「そんなの決まっている!折れない心だ。負けても、負けを認めないで、挑み続けることが出来ればいつかは勝てるはずだ」


 俺の答えを聞いて姫様は顔を背けた。


「……私もそう思っていた。だが、心だけでは勝てない相手がいることを知った。それを私は思い知らされた」


 剣帝杯の敗北で心が折れちまったのか?それなら……


「剣を取れ姫様。そんな弱った心。俺が叩き直してやる」

「そういう意味ではないんだがな……だが、いいだろう。身体を動かすのも一興か……こい」


 姫様の構えを見れば剣を握っていなかったわけじゃないことが分かる。

 いつ稽古をしているのか知らないが、毎日剣を持つ者の気迫を感じる。


「ハァァァァァァァ!!!!」


 俺は自らの身体に肉体強化をかけて、全力の一撃を繰り出した。それはこの数ヶ月で俺が身につけた最強の一撃だった。


 姫様は……


「なぜ避けない!」


 一切動きを見せない姫様に俺の剣が……すり抜けた。


「はっ?」

「陽炎」


 吹き上がる炎の渦に俺は閉じ込められた。


「ウワァ~~~!!!」

「炎舞」


 炎の渦によって吹き飛んだ俺が見たモノは、美しい炎と共に舞を披露する美しい姫様の姿だった。


「ダン、今の私とお前の差だ」


 刃を潰された剣が、落下する俺の胸へ打ち込まれる。

 凄まじい衝撃によって壁へと激突させられた。

 ガッツ様と戦ったときよりも、明らかに感じる力量差……なぜだ?俺は強くなったはずだろ?


「お前は確かに肉体を強化して、魔法を使った戦いにも慣れている。直線的だった戦い方も改善され、搦め手にも対応できる魔法障壁も得た。

 それでも……越えなければいけない領域には達していない」


 姫様は俺を見下ろして、見たことがないほど冷たい瞳を俺に向けていた。


「越えなければいけない領域ってなんだよ!どうして姫様は越えられたんだよ!」

「私は……一番近くで、あの戦いを見ていたからだ……そして、その魔力を目の前で感じてしまったからだろうな。大罪魔法」

「大罪魔法?なんだよそれ?」

「ダン、世の中には属性魔法を越える魔法が存在する。

 それに対抗するためには、今のやり方では決して対抗できない。ダン、私は自分なりの方法で先に行く。剣帝アーサー様も父上も領域を越えられた人たちだ。お前は……二人から何も感じないのか?」


 なんだよ越えるって、二人がメチャクチャ強いことはわかるけど……領域なんて……


「まだ二年ある。学園を卒業するまでに……領域を越えなければ、お前は動乱を生き抜く事はできない」

「動乱?」

「そうだ。世界は動き始めている……私は井の中の蛙だった。今までのやり方ではダメなんだ。あいつに並ぶためには……」


 姫様はそれ以上語ることなく訓練所を後にした。


「なんなんだよ!」


 俺は胸の痛みで立ち上がることができなかった。

 姫様に置いて行かれている。心配したはずだったのに、俺の方が弱いなんて信じられるかよ。


「ウワァァァァ!!!!」


 俺はいつの間にか叫んでいた。


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