ルビーの強さ
エリーナ・シルディー・ボーク・アレシダスとの会合を終えたボクは気分の悪さを感じていた。
午前中にアカリから熱烈な告白を受けた後だったので、余計にエリーナがつまらない人間に見えて、彼女に冷たく当たってしまった。
彼女なりに今の情勢を打開したいと思ってきたのはわかるが、そこに彼女の心があるようには思えなかった。
「リューク様にゃ。どうかしたのかにゃ?」
ボクがバルに乗って自室に戻る途中に、清掃をしていたルビーが話しかけてくる。
「ああ、ちょっとイヤな気分になってな」
「そうにゃ……にゃら、撫でるかにゃ?」
そう言われて頭を突き出すルビーに自然に手を伸ばす。
柔らかな髪の間にある耳が気持ちいい。
やっぱり、獣人はいい。シロップもだが、モフモフは癒やされる。
「ふにゃ~気持ちいいにゃ~」
ボクが癒やされていると、ルビーも気持ちよさそうな声を出して、尻尾が嬉しそうに揺れている。
「ルビーはどうしてメイドになったんだ?ミリルはボクに恩義があるって聞いてはいるけど、ルビーの理由を聞いていなかったな」
初めてクラス内チームを組んだときから、ルビーの好感度は高かった。
本来のゲーム仕様であれば、ルビーは冒険者として強者を求めている。
そこで剣帝杯でダンと戦って負けることで、ダンを強者として認めて仲間になるという流れだ。
だが、ボクはルビーと戦っていない。チームを組んだ最初から好感度が高かった。
剣帝杯では、ボクと戦うことを避けて降参まで宣言していた。
「リューク様が……一番恐いからにゃ」
「恐い?」
今まで恐いと言われたことはない。
それはボクには似合わないような言葉だった。
「そうにゃ。あっ、別に悪い意味じゃないにゃ!なんて言えばいいかわからにゃいけど……そうにゃ!寝てて夢を見ているときに、夢の中でどうしようもないほどの絶望を味わうとするにゃ。いくら起きたくても起きられなくて、地面もなくなって、自分は終わってしまうって思う夢を見ているようにゃ!」
全然わからない。
説明が下手なのか、言いたいことがまとまっていないのか……まったくわからん。
「とにかく、ルビーはボクが恐いから側にいるの?」
「そうであってそうじゃないにゃ?」
「そうであってそうじゃない?」
「そうにゃ!私のここが、リューク様こそが番の相手だと言っているにゃ」
そういって小振りながらも自己主張をしている胸元を叩いて。ルビーは自信満々に宣言をした。
「番?」
「そうにゃ。私はリューク様の子が産みたいにゃ。そんでお母さんとお父さんも助けてほしいにゃ!」
「子供に両親ね……よくわからん」
「今はいいにゃ!私は、自分で強くなって助けにいくつもりにゃ。もしも、そのとき一緒に来てくれたら嬉しいにゃ!」
「両親は大丈夫なのか?」
「絶対大丈夫にゃ!大丈夫じゃなくても、二人は一緒に死ねるなら本望にゃ!そのときは一緒に埋めてあげるのにゃ」
何を言っているのかは全然わからない。
わからないけど……ルビーは自分の中に信念があって、ボクの助けを求めているようで、助けを得られなくても自分で成しとげる意思の強さを持っている。
「そうか。もしもルビーがボクに力を貸してほしいと思うなら、手伝ってやる」
「いいのかにゃ?」
撫でていた手を払いのける勢いで立ち上がったルビーは、そのままの勢いでボクの上に倒れてくる。
「ふにゃ!ごめんにゃ」
そういって胸に顔を乗せて、上目使いに見上げてくる顔は可愛い。
「ふにゃ~リューク様は良い匂いがするにゃ~」
ボクの胸に鼻を近づけて、匂いを嗅ぎ出すルビーは幸せそうな顔をしている。
手を伸ばして顎を撫でてやると、グルグルと喉を鳴らして気持ちよさそうにしていた。
猫耳メイドを可愛がる時間は、ボクを癒やしてくれる。
「あ~ルビーちゃん!ズルい!」
そういってやってきたのはミリルだった。
「ミリルもリューク様に撫でてもらうにゃ?」
悪気なく問いかけるルビーの言葉に、ミリルの顔が真っ赤に染まる。
「そっそんなこと~!!!でも~いっ、いいのでしょうか?」
うるうるとした瞳で見上げてくるミリル。
「別にいいけど」
「あっ、ありがとうございます!!!」
何故か美少女二人に挟まれて頭を撫でさせられている。
今日は女難の相でも出ているのかな?アカリに始まり、エリーナ、ルビー、ミリルまで、ダンお前のヒロインたちが集まってるぞ!ハァ~バルに揺られてゆっくり寝たい。
「そうだ。リューク様。今晩はカリン様がパーティーをするって言ってましたよ」
「パーティー?」
「はい。先ほどコバトちゃんがカリン様から言伝を預かったって言って、教えてくれました」
「なんのパーティー?」
「なんでも、リューク様に承諾を取り付けたからとか」
アカリが報告をしたのかな?メイド隊設立パーティーか?
「みんな綺麗にしておくようにって言ってました」
「そうか、ミリルもまたドレスを着てくれるのかい?」
「はい!頑張ります!」
「ルビーも着るにゃ!」
二人ともそろそろ撫でるの止めて良いかな?ボク部屋に帰りたいんだけど……。




