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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第二章

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漢たちの年越し

《Sideダン》



 剣帝杯の準決勝で敗北した俺は王都中の笑い者になった。


 俺自身はどんな戦いをしたのか記憶にない。

 ただ、気づいたときには腹をアイリスに向けて「ワン」と吠えていた。


 審判は俺の状態を見て敗北を宣言した。

 それからは学園でも、王都を歩いていても笑われることがある。

 姫様とは学園に入ってから疎遠になりがちで、剣帝杯以降はお互いにあまり話をしていない。


 それは俺の敗北だけじゃなく、姫様が戦ったアクージをリュークが倒したことにも意味があるように思えた。

 俺はムーノ王子戦で傷つき、療養を受けていたので姫様の戦いを見ていない。

 壮絶な戦いだったということは噂で聞いている。


 姫様はあの戦いを語りたがらないので、こちらも聞こうとはしなかった。


 ただ、噂で聞いた話では、一時は姫様がアクージの首に剣を当てて勝利したかに見えた。しかし、アクージがそこから逆転をしたという。


 どんな戦いだったのか俺も見たかった。


 剣帝杯が終わったことで、各自が実家に帰ったり、ダンジョンで修行に向かう者がいる中で、俺は王都にあるマーシャル家の屋敷にいた。


 姫様の護衛として、マーシャル家の騎士見習いとして帰還したのだ。


 年越しを迎える貴族様たちは、年を越すと王様への謁見が待っているので、王都に集まっている。


 そのためマーシャル家の人々も王都へ来ていた。

 姫様が家族で集まっている間に、俺は客人の案内をしていた。


 今回は、俺と姫様を鍛えるために師匠が同行してくれたのだ。

 姫様が師匠も一緒にどうかと声をかけたため、師匠は姫様の申し出を快く受けた。


 ちなみに俺の敗北を見ていた師匠は「ブハハハハッハ、ポチ……ワン!だってよ」と笑い転げていた。一時期は俺の顔を見るたびに笑われていた。


 シーラス先生からは「精神魔法に対しての強化もしていかなければなりませんね」と冷静に今後の課題を言い渡された。


 二人の師は俺の敗北をそれほど気にした様子はなく、これからだと言ってくれた。


 今回の同行者で意外だったのは、帝杯で友になったムーノ王子も一緒にやってきたことだ。


「私も剣帝アーサー殿、不動のガッツ殿、激震のガウェイン殿に剣を習いたいのだ」


 そう姫様に熱弁したことで、同行を許された。


 ソファーに座ってお茶を飲むムーノは、さすがは王子様という様子で落ち着いていた。


「おいおい、王子様は優雅かよ。こんなデカい屋敷だと落ちつかねぇな。こちとら自由人で家無し子だっつうのに」

「先生は、王国から剣帝として家の提供があったはずですが?」

「うん?ああ、そんなもん要らねぇって言って金だけもらった。俺は自由だからな、縛られるのは性に合わん」


 師匠は相変わらずな人だ。


 ――コンコン


 扉が叩かれ中へ入ってきた人物を見て、俺は膝を突いた。


「ガウェイン様!ガッツ様、ご機嫌麗しゅうございます」


 俺以外の二人は様子を見ながら立ち上がっただけだった。


 ムーノ王子は元々位が上であり、剣帝の称号は王以外に礼を尽くす必要がないため、二人ともそれが許された人物たちだ。


「よいよい、ワシとダンの仲ではないか。お前のことは息子のように思っておるのだ」

「ありがとうございます!!!」

「それで、そちらが剣帝アーサー殿とお見受けするが?」

「如何にも、俺がアーサーだ」

「ほう、私はマーシャル領を預かるガウェイン・ソード・マーシャルと申す。娘と息子同然のダンがお世話になっておる」


 ガウェイン様が俺のために頭を下げてくれる。

 感動して胸が締め付けられるぐらい嬉しい。


「いいさ。俺も凡才が天才を越えるところを見たいからな。まぁ、まだまだだけどな。ポチ」

「ポチはやめてくださいよ!師匠!」


 俺は情けない声を出してしまう。自分は覚えていないと言っても、王都中に見られていたと思うと恥ずかしい敗北を味わった。

 魔法はやっぱり奥が深い。アイリス嬢が放ったチャームに対して、俺は抵抗するための魔法障壁を張っていた。

 しかし、アイリス嬢の魔力量の方が多くて、あっさりと精神支配を受けてしまった。


「ふふふ、あの負け方は……私も笑ってしまったな」

「ムーノもやめてくれよ」

「コラ、ムーノ王子にタメ口で話すなど」


 ガッツ兄様に叱られてしまう。


「いや、ガッツ殿。気にしないでください。私が望んでタメ口で話してくれと言ったのだ」


 ムーノが庇ってくれたので、ガッツ兄様は何も言わなくなった。ただ、弁えろよと苦言を呈された。


「ふむ。ここには男が五人おる。それも騎士や武芸者ばかりじゃ。ここは互いを知る上でも手合わせといかんか?」


 ガウェイン様は無類の戦闘好きだ。強い者がいるとすぐに手合わせをしたがる。

 師匠はやれやれと言った様子で、ガウェイン様の言葉に応じた。


「仕方ねぇから付き合ってやるよ。ダン、今日は手加減なしだからな」

「えー!!」


 師匠とは、ほぼ毎日組み手をするが明らかに手加減をしてもらって太刀打ちできていない。それが今日は手加減なしとなると、後で医務室か、回復薬のお世話になるのが決定した。


 訓練所に来た五人で総当たりを行った。


 さすがは元帥閣下というほかない。

 ガウェイン様は師匠と互角に打ち合っている。

 剣帝アーサーと呼ばれるだけあり師匠は強い。


「見ているだけで勉強になるね。やっぱりダンについてきてよかったよ」


 隣ではムーノが汗を拭う。

 ガッツ兄様にムーノが敗北したところだ。

 結局、俺とムーノは互角の引き分け、それ以外には惨敗だった。


 体中に傷ができて痛い。


「うむ。ここまでにしておこう。私の敗北だ」


 決勝戦とでも言うべき、剣帝アーサー対元帥閣下の戦いは、ガウェイン様が敗北を宣言して決着を付けた。

 ただ、どちらも傷らしい傷はなく、魔力も闘気も充実しているように見えた。


「ハァ~マジでこの国は化け物が多すぎるだろ」


 師匠は疲れたように溜息を吐いて愚痴を呟いた。


「ワシなどまだまだ可愛い者よ。王国には名も知らぬ強者がまだまだ存在するぞ」


 強さには果ては無いのか……


「おや、こんなにも雪が積もっていたんだね」


 ムーノの声で外を見れば、確かに雪が積もっていた。


「ふむ。ならば二回戦は外で行うとしよう」

「なんだよ。まだやるのかよ」


 ガウェイン様は思いついたように鎧を脱ぎだした。


「今度は、剣も鎧も無しじゃ!男ならば裸一貫で拳で示せ」


 そう言って上半身裸になったガウェイン様にガッツ兄様が付き従う。


「え~こんな寒いのに?」


 ムーノは躊躇っていたが、俺は二人に習って鎧と上着を脱いだ。


「バカばっかじゃねぇか。あ~もうやってやるよ」


 師匠も後に続いて、ムーノが最後に「仕方ないなぁ~」と言いながら裸になって出てくる。


 そこからは雪で寒いはずなのに、総当たりで裸で殴りあった。

 動くたびに熱くなる体から血しぶきが飛び、生きていることを実感できる。


 そのまま酒を飲みにいくぞ~というガウェイン様の言葉で飲み会が始まった。

 いつの間にかマーシャル家の騎士たちも集まってきて、みんなで宴会という流れになり、裸の漢たちによる喧嘩大会が始まっていた。


 あ~やっぱり楽しいな。


 強さを求めることも男同士でバカな話をするのも本当に楽しい!


 だけど、いつか強くなってリュークを倒す。


「おい、見ろよ!ポチがいるぞ!」


 騎士の一人が悪ふざけで俺をポチと呼ぶ。

 だから、俺は腹を向けて言ってやった。


「ワン!」

「「「「ガハハハハハ!!!!」」」」


 情けない俺も俺だ。みんなに笑い飛ばしてもらえばいい。


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