ドレスを買いに行こう
船上パーティーに参加するときに、同席者を連れて行っても良いと言うことで、シロップ、ミリル、ルビーを同行させることにした。
「ふぇ!私がパーティー?」
「パーティーにゃ!私、参加したことないにゃ!飲み会とは違うのかにゃ?」
「礼儀作法を仕込まなければなりませんね」
参加させることを伝えると、三者三様の反応を返してきて面白い。
「二人はシロップからパーティーの礼儀作法を習ってね。ボクはバルにお任せするからよろしくね。バル」
「(^^)/」
紫クマバージョンで手を上げるバルはテディ……言っちゃいけないね。
「「はい」にゃ」
「まぁその前に三人のドレスを作りに行こうか」
「リューク様、使用人にドレスなど」
「TPOだよ」
「ティー?えっ、なんですか?」
「つまり、その場にあった服を着ないとね」
「はっ、はぁ~」
「よくわからないけど嬉しいにゃ。ドレス着てみたいにゃ」
戸惑うシロップ、喜ぶルビー、あわあわしているミリルを引き連れて、ボクは街へと赴いた。
馬車の運転はシロップがしてくれて、ルビーがシロップの横に座っていた。
ボクと共に馬車の中にいたミリルは揺れを心配していたけど、バルが優秀で凄い!
馬車の椅子にクッションとして変化してもらえば、一切の揺れを感じない。
みんなバルを作ればいいと思うよ。
「リューク様、到着しました」
「うん。ありがとうシロップ」
シロップの声で馬車を降りれば、毎度お馴染みマイド大商店の前についていた。
ドレスを作るなら服飾店のイメージだが、残念ながら貴族のパーティーに出るドレスを作ってくれる服屋をボクは知らない。
むしろ、ここにいるアカリに紹介してもらうぐらいの方が丁度良い。
そう思ってマイド大商店の扉を開くと……巨大な肉の壁が扉を塞いでいた。
「うん?」
「おっと、誰かいらしたようですね。ぶひひ、それでは私は失礼させて頂くとしましょう。どうかお考えくださいませ」
そう言って肉壁が動き出して、ボクはバルへ命令する。
「退けて」
「(^^)/」
バルは紫クマモードで肉壁を押し始める。
「おっ、おっ!なっ、なんですかな?私は出るところなのですよ。押さないで頂きたい」
肉壁が何か言っている。マイド大商店の店内が見えたので、ボクは店内へと入っていった。完全に肉壁が扉の前からいなくなったのでスッキリした。
「バル」
ボクはバルを呼びかけてクッションに身体を預けた。
「これはこれはリューク様、よくぞおいでくださいました!」
肉壁の向こう側にはマイド親子が唖然とした顔でこちらを見ていた。
「いつもの頼むね」
「はっ!かしこまりました!」
「ちょっと待ちなさい!この私に無礼な事をしておいて、なんですかその態度は!!!」
肉壁が何やら叫んでいる。ボクは見るのも嫌なので、アカリに案内するように促した。アカリは戸惑っているようだったが歩き出そうとする。
「いい加減に!」
肉壁がこちらに近づいてこようとして、シロップとルビーに止められる。
「なっ、なんですあなた方は!獣人?ふん、下等な亜人が、私に楯突くなど!ヒッ!」
ボクの前で今君は何を言ったのかな?
「ねぇ、今、何か言った?おい、肉。お前はボクの物に何か言ったのか?」
バルから降りたボクは、肉の壁を見下ろす。
横にこそ広いが、身長はボクよりも低い。
醜く太った身体は肉の壁を作るほど存在が邪魔でしかない。
「りゅっ、リューク様、どうか怒りを鎮めてください」
意外にもボクを止めたのは、アカリだった。
「アカリ?」
「どうか、堪忍です。ホンマに洒落にならんと思います。お二人が揉めるのはアカン」
「アカリ嬢……失礼。ふむ、あなた様は高貴な方とお見受け致しますが、どちらのお家のご子息でしょうか?」
肉壁が、アカリの言葉を聞いて冷静な物言いをしてくる。
「デスクストス公爵家だ」
「!!!もっ、申し訳ございませんでした!!!」
肉壁は家の名を聞いて掌を返した。
その巨体を床に倒して謝罪を口にする。
権力に対して弱い奴か?
「わっ、私はブフ家の者でございます」
ブフ家と言われて、ボクはゲーム世界の知識が呼び起こされる。
エロゲーの世界には奴隷を扱う商人がいて、主人公ダンが奴隷解放をするエピソードがある。
その際に出てくる悪役の名が確かブフ伯爵家だ。
つまりは、デスクストス公爵家の配下に当たる家ということになる。
「なんだ、父上の部下か?」
「はっ、はい!まさかデスクストス公爵家のご子息様とは知らず……無礼な口を聞いてしまい申し訳ございません」
「なら、訂正しろ?」
「へっ?」
「亜人を下等と言ったな。デブ」
「デブではなくブフです。いえ、もちろん訂正させて頂きます!亜人は友でございます。決して下等ではありません」
脂汗をダラダラと流す肉の壁を見ていることすら不快だ。
「もういい。次はないと思えよ。ボクの前で亜人を蔑むな」
「はっ!ブフ家の名に誓って」
ボクは不機嫌になりながらも、これ以上肉壁を見たくないので、バルに乗ってVIP専用の外商ルームへ向かう。
「リューク様、本日は不愉快な思いをさせて申し訳ありません!」
店主自ら謝罪に来て、アカリも申し訳なさそうに頭を下げる。
「もういいよ。でも、今日は買い物に来たつもりだからサービスはしてよね」
「もちろんでございます!アカリ、本日はリューク様に最上級のサービスを」
「はい!任せといてください!」
アカリは、自身の大きな胸をドンと叩いて太鼓判を押す。
「今日は三人のパーティー用のドレスを買いに来たんだ。ドレスとアクセサリーを彼女たちに似合うようにオーダーメイドで頼むね。お金はかかってもいいけど、サービスは忘れないように気合いは入れてね」
ボクの後ろで控える三人に、似合うオーダーメイドドレスを注文した。
「任せといてください!最高級の生地と最高級のデザイナーで作らせてもらいます!」
アカリはすぐに寸法を測るスタッフを呼んで仕事を開始した。
ボクは三人がスタッフにメチャクチャにされているのを眺めて楽しみながらお茶とお菓子をもらう。
「リューク様、ホンマにさっきはすいません」
そんなボクにアカリが改めて謝罪を言いに来た。
「別にいいさ。あれはボクとあいつの問題だろ?」
「それはそうやねんけど。あの人がしつこく居ったんはウチのせいやから」
「ウチのせい?」
「そや。ウチに求婚しに来てん。ウチはまだそんなこと考えてないし、それにあの……伯爵家の人はちょっと」
見た目がダメかは別にして、ボクも人によって態度を変えるあいつは好きにはなれない。
「ハァ~もういいよ。ボクには関係ないことだ」
「関係ないことあらへんよ」
「関係ないことない?」
「そや、リューク様、ウチのこともらってくれへん?」
「うん?」
「ウチ、お金稼ぎ上手いと思うよ!リューク様の力になれます!属性魔法かて【金】やから売れるよってどない?身体もなかなかええと思うねん。優良物件やで」
胸を寄せて前屈みになるアカリに、ボクは深々と息を吐く。
「ボクにはカリンがいるからダメ」
「なんでや!シロップさんに、ミリルちゃん、ルビーちゃんもリューク様の虜やろ?」
「シロップはまぁそうだけど。他の二人は違う」
「はっ、は~ん、わかったで……そういうことやな」
「うん?なに」
「今日はええよ。気にせんといて、三人のドレスはあんじょう気張らせてもらいます」
ボクから離れていったアカリはルビーとミリルに近づいて何やら話をしていた。
めんどうなことにならなければいいけど……




