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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
序章
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愚弟

《Sideテスタ・ヒュガロ・デスクストス》


 我の名はテスタ・ヒュガロ・デスクストス公爵令息である。

 我は日々、次期公爵となるべく研鑽を積んでいる。


 自分で言ってしまえば、我は天才ではあるが、天才だとしても努力は怠らない。

 それは我が負けるのが嫌いだからである。


 生まれながらにして希少属性魔法である《鉄》を有しており、剣術や学問においても同年代と比べて我は一歩も二歩も先を歩いている自覚がある。


 天才である我が努力を怠らなければ、


 誰も追いつくことはできない。

 誰にも負けるはずがない。

 誰かに負けることなど考えたくもない。


 もしも負けることを考えれば、それが例え王族であろうと許しがたいほどに狂おしい嫉妬が我の心を埋め尽くす。


 だからこそ、妹や弟が生まれた際、その愛苦しさに嫉妬した。

 生まれながらに可愛いなど妬ましい以外の感情などありはしない。


 そんな折り、弟は我とは違い研鑽しない人種だった。

 ワガママに振る舞い、暴飲暴食をしてブクブクと醜く太り、見るに耐えない存在に成っていった。


 何と醜く醜悪なのか……研鑽もしないでただただ落ちぶれていく者に興味などない。

 あんな奴が公爵家の跡取りの座を奪い合う敵になり得ない。


 最後にあれを見たとき、愚弟はさらに頭がおかしくなっていた。


 魔法の勉強を今更ながら始めたようだが、それ以外にも女性のように顔を丁寧に洗い、化粧水や乳液まで使って美しくあろうとしていた。


 洋服なども気にして自らを着飾り始めたのだ。


 理解が出来ない人間、我にとって嫉妬の対象外となった。


 あれは敵ではないアホウだ。


 弟が生まれたとき、その愛らしさで父上は後継者を弟に譲るのではないかと疑心暗鬼になって嫉妬したものだ。

 だが、あんな頭のおかしい者を後継者に選ぶはずがない。


 実際、父上は変なことを始めた愚弟への興味を失った。


「あれのことは放っておけ」


 いつかの夕食時に言っていた言葉だ。


 父に代わり、妹のアイリスが愚弟に興味を持ちだした。


 我にとって唯一の心の癒しであり、愚弟とは違った愛らしさ……いや、情欲とでも言えばいいのか、三つ下のアイリスが愛おしい。


 もしも血が繋がっていなければ、そう何度思ったことか。アイリスが、愚弟の話をするたびに我の心は嫉妬に狂う。


 アイリスだけでなく、今度は母上まで愚弟と同じように美容や日光浴をするようになった。


「母上!おやめください。どうしてあんな奴と同じことをなさるのですか?」


 あまりにも目に余るので、母上に進言したことがある。


「そうね……あなたは男性だから理解できないのかもしれないわね。でもね、テスタ。女とは欲深き者なのよ。いつまでも美しさや自ら着飾る欲は尽きないの。

 それが強欲と言われようと欲してしまうものなの」


 母上から返ってきた言葉は、我には理解できないものであった。


 男のくせに女性のようなことをする愚弟も、愚弟を真似るアイリスや母上も……理解できない者に我が嫉妬することはない。


 15歳になった我は学園に通うことが決まっている。


 四つ下の愚弟のことなど、これ以上構っている余裕はないのだ。

 何せ、学園には我と同い年で入学してくる第一王子と、王国第一騎士団団長の息子が在籍することになっているのだからな。

 負けるわけにはいかない。

 それは、学業であれ、剣術であれ、魔法であっても。


 研鑽を積む我の日課は、


 朝早くに起床して剣を振り。

 朝食を取り勉学に励み。

 昼食を取り魔法を使い。

 夕食を取り一日のおさらいをしていく。


 その合間に父上の仕事を見学させてもらい。

 将来の公爵としての仕事を覚える。

 父上は傲慢な方で、決して丁寧に教えてはくれない。

 だが、我はその背中を見るのが好きだ。


 目標にしていると言ってもいい。


 我は天才であり、父上から認められている。

 それだけで満足な日々を過ごせている。


 だが、ふとしたきっかけで……我の気を満たしてくれる会話が聞こえてきた。


 昼食を終えて、魔法を使うために修練場へ向かう途中、公爵家の騎士たちが話している声が聞こえてきた。


「なぁ、聞いたか?」

「あん?なんだよ?」

「リューク様の属性魔法だよ」

「ああ。希少魔法じゃなかったんだろ?」


 興味もなかったが、聞こえてくるものは仕方ない。


「らしいな。なんでも人体強化の延長に過ぎなかったそうだぞ」

「まぁ属性魔法が使えるだけ凄いけどな」

「そりゃそうだ」


 騎士たちの話を聞いて、我の口元は笑みを浮かべていたことだろう。

 愚弟はどこまでいっても愚弟でしかない。


 最後に気がかりにしていた愚弟の属性魔法はたいしたことないようだ。

 我が公爵家の後継者として、盤石であることは疑いようがない。


 取るに足らない愚弟のことなど考えるだけ無駄だったのだ。


 これからは学園を共にする者達をライバルとして研鑽を積む日々になる。


 我は嫉妬に狂うことなく、その日は上機嫌で訓練を終えた。


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