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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第一章 

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社会復帰

 ボクは半年ぶりに太陽のまぶしさを味わっている。

 シャバの空気は美味いなぁ~……引きこもっていただけですが……なにか?


 研究をしている間は、研究以外の全てのことをカリンやリベラに任せていた。


 朝起きて洗顔、着替え、食事はカリンが全部してくれる。シロップばりの働きっぷりだ。

 魔法の研究や実験はリベラが動いてくれるので指示を出すだけ……学校の勉強はミリルがノートを取ってきてくれるので寝たまま頭に入れる。


 ボクは唯々頭を働かせて、魔力を流し続けていただけだ。


 たまにルビーを撫でてはグルグルと気持ちよさそうな喉の音を聞く程度には動いていた。


「ふむ。意識を外へ向けるのは本当に久しぶりだな……ボクは真理に気づいたかもしれない。集中するって怠惰なことなんだ」


 と言っても半年間も部屋にこもっていたので……太陽の光が怠い。


「バル」


 ボクが呼ぶと実体を持ったレアメタルバルがボクの身体を受け止めてくれる。

 感触は最高で、このまま寝てしまいたくなる。


「ダメだ。なんのやる気も出ない」


 達成感というか……楽しいことをやりきった後の燃え尽き症候群とでも言えばいいのか……やる気が起きない。


「リューク・ヒュガロ・デスクストス」


 ボクがバルに乗って日向ぼっこをしながら漂っていると、リンシャン・ソード・マーシャルに呼び止められた。


「君か…何?」


 今は誰かと話をするのもめんどうなんだけど、厄介な相手に会ってしまった。


「リューク……貴様に聞いておきたいことがある」

「だから、何?」

「貴様はデスクストス公爵家がしていることを理解しているのか?」


 真剣な雰囲気で聞いてくるリンシャンは、戸惑いと不安、その奥に覚悟のような思いが込められていた。


 最近は誰かにしてもらうことに慣れていたボクは、漠然とした質問に頭を働かせる新鮮さを思い出す。


 そして、自分が大人向け恋愛戦略シュミレーションの中に転生していたことを思い出した。

 そう言えば、ここはゲームの世界だったね。


 リンシャンが聞いてくるデスクストス公爵家のしていることについて、思考を巡らせ……まったくわからないという結論に至った。

 多分、キモデブガマガエルであるリュークも、家から悪事の内容を聞かされてはいないはずだ。

 どちらかと言うと好き勝手に悪事を働いていただけだしね。ゲームの学園編では、デスクストス公爵家はリュークに対して関与してこない。リュークの悪さが目立っていただけだ。

 立身出世パートでは家から誘導されていた節があるが、今は何も知らない。


「う~ん?家が何かしてるの?」

「……そうか!やっぱり貴様は関係ないんだな」


 どこか安心したような顔をするリンシャン、あれほど敵意を向けていたはずなのに、チームを組んでから随分と態度が変わってしまった。


「何をしているのかは知らないけど……悪いことでもしているの?」

「うん?いや、知らないならいい。私も詳しくは知らん。ただ、貴様は関わらないでほしい。やっぱり私は家族を裏切ることはしたくない」


 なぜ、ボクが悪事に荷担しているとリンシャンが家族を裏切ることになるのだろう?関係ないと思うけど……


「ふ~ん。よくわからないけど、ボクが家族に協力することはないよ」

「何故だ!?家族なんだぞ!」


 意外にも家族を否定すると、リンシャンの方が驚いた顔をする。きっと、家族に愛されてきた子なんだろうな。


 ボクが転生者ということもあるけど……あの家族に情は全くない。

 アイリスだけはカリンの友人として、カリンが望めば助けるかな?姉として優しくはしてくれたこともあるしね。それ以外の家族には何も感じない。


「君は幸せ者なんだね」

「何?」

「世の中には君が思っている幸せな家族ばかりじゃないんだ。君が進む道とボクが進み道は交じり合うことはないさ。ボクはただ自分のことだけを大切にするつもりだからね」


 話は終わった。


 ボクはリンシャンから距離を取るために浮かび上がる。


「交じり合うことはない?それはわからないじゃないか!貴様は私の……」


 リンシャンが何かを言いかけたけど、最後まで言葉を紡ぐことはなかった。


 ボクはバルを作ったことで満足していたけど……物語はまだまだ序盤に過ぎない。

 やっと学園編の一年目が、剣帝杯に向かって動き出したに過ぎない。


 気を抜きすぎていた。


「ハァ~本当にめんどうだけど……怠惰な生活を送るのはもう少し先になるね」


 リンシャンのお陰だと言うのは嫌だけど、ゲームの世界で怠惰に生きるために頑張ってきたことを思い出して、モーニングルーティーンを始めることにした。


「バル、今日は実体がある君と組み手をしようと思う。バトルフォームにチェンジしろ。バル!」


 ボクが呼びかけると、紫のクマは、その姿を人へと近づけていく。髪は紫に、身体はレアメタルボディへ。ミスリルの羽を生やした美しい幼女が完成する。


「さぁ、戦おう」


 ボクの中にいるバルと、対峙するレアメタルバル。


 二体のバルが拳法の達人同士が行うように、組み手を取り合う。

 それは動きを確かめ合うように、ゆっくりと技をなぞり合うことで、互いの力量を確かめ合う。

 次第に攻防が激しくなっていくに連れて、両者の身体に傷が出来る。


「魔力は無限に使えるからね。レアメタルバルには負けてあげられないな」


 地面に倒れたのはレアメタルバルだった。


 バルがボクの魔力を保持していることで《睡眠》や《怠惰》など属性魔法の効果がない。

 しかし、肉体強化や補助魔法、生活魔法の一部を駆使してレアメタルバルの意表をついたことで勝利を収められた。


「ふぅ~魔法を使うのも集中力がいるから疲れるね」


 一息吐いて休息を取っていると名を呼ばれる。


「リューク!」


 声を弾ませてやってきた相手に驚いてしまう。

 ダン?……半年前よりも逞しくなった身体は、レベル以上に鍛えていたのだろう。


「うん??ああ、ダンか……何か用か?」

「俺は剣帝アーサーに戦闘術を習って闘気を習得したぞ!!!それに魔法の深淵を知る魔女シーラス先生に師事して魔法も強化した。もうすぐ行われる剣帝杯では絶対にお前に勝つからな!」


 剣帝と精霊の魔女に鍛えてもらったか……それは強くなっていることだろう。

 レアメタルバルの試運転の相手としては申し分ない。


 それに闘気……そんな力もあったな。


「そうか……闘気か見てみたいな……そうだな。試運転にはいいかもしれんな。よし、ダン。模擬戦をしてやる」

「いいのか?お前でも、今の俺には勝てないぞ」


 ボクが模擬戦をしてやると言うと、満面の笑みを浮かべる。わかりやすい奴だ。自分の力を示したかったのだろう。いいさ、レアメタルバルとどちらが強いのか見せてくれ。


「ご託はいい。かかってこい」


 ダンは剣を構える。

 半年前よりも遙かに様になっている。

 それに青白い魔力?いや、オーラとでも言えばいいのか闘気を纏っていた。

 闘気は、魔法とは別の力で、生命力を力に変換する……だったか?


「いくぞ!」

「ああ。こい」


 ダンが地面を蹴って向かってくる。

 速い!が……直線的過ぎる。

 レアメタルバルの動きの方が速い……ダンの頭部を殴打した。


 弱い……


「うむ。実験は成功だな。闘気は理解できたか?」


 意識を失って倒れるダンを放置して、バルに問いかける。


 理解は出来たが、バルは闘気を使えなかった。

 生命エネルギーという概念がバルには当てはまらないのかもしれない。


 感覚を共有しているボクが、バルが得たデータを使って闘気を発動すれば……


「ふむ。出来たな。元々、数年に渡って身体を鍛えてきたから、基礎は出来ていたようだ。あとはきっかけが必要だったということだろうな……ダン、ありがとう。君のお陰でバルとボクがまた強くなれたよ」


 お礼として回復魔法をかけてから、ボクはその場を立ち去った。


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