マルコ・グリコ
《Sideマルサ・グリコ》
私は魔法省属性管理委員会管理局局長を勤めるマルサ・グリコと申します。
この度、公爵家の第二子息であらせられる。
リューク・ヒュガロ・デスクストス様の属性魔法検査のために公爵家へやってまいりました。
これでも局長という肩書を持つ身として、貴族に名を連ねております。
魔法省では優秀な部類に分類されております。
貴族の頂点たる公爵家から要請を受けて、無下に出来るはずもなく。
また、第一子息であるテスタ・ヒュガロ・デスクストス様は希少属性魔法と呼ばれる《鉄》という属性をお持ちだと言うこともあり、私は興味本意から今回の依頼を受けました。
属性とは、自然に存在するモノであれば貴重で魔法の扱いが難しくなります。
逆に人が作り出した物やイメージしやすいものであれば扱いやすく希少性が落ちるのです。
近年の研究結果について思い出してみれば……。
《火》という属性は自然の物であり、人が道具を使わずに生み出すことが不可能に近いので希少属性として分類されております。
さらに《炎》や《溶岩》など、《火》の上位的な希少属性魔法も発見されていることから、一つの属性でも下位や上位が存在しております。
《水》は血液という液体を体内に持つため、尿や汗として水を生み出すことが出来て、人工的なイメージがしやすいモノです。
そのため《水》の属性魔法を使える者は多く存在していて希少とは分類されません。
ですが、多く発見されているということは応用も多く存在します。
《水》だからと言っても侮ってはいけません。
結局は、魔法を理解して研鑽する者にしか、習得することは出来ないのですから。
《水》ではなく、《氷》となれば、人は温度を調整して生み出すことができないため、《氷》は希少属性として認可されています。上位互換ということですね。
さてさて、属性魔法のことを考えていると何時間でも時間が過ぎてしまいます。
私がやってきた公爵家の第一子息であるテスタ様が宿した《鉄》は、天然の鉱物を指しており、ご自身が理解された鉱物を好きな形で生み出すことが出来るというのです。
これは、かなりレアな希少属性魔法と言えるでしょ。
貴族方は、属性魔法を持つ者同士で結婚を繰り返していることもあり、属性魔法を受け継ぐ可能性が極めて高くあります。また配合によって新たな属性魔法が誕生するのは本当に喜ばしいことです。
リューク様はどのような属性魔法をお持ちなのか、誰よりも早く知りたくて楽しみで仕方ありません。
ふふふ、私も魔法省に勤める者として魔法が嫌いではありません。
むしろ大好きです。
それも属性魔法は、持って生まれた才能であり、個人が神より授けられたギフトです。
知りたいと思う欲求の方が強くなるのは仕方ないことでしょ。
「本日はお越しいただきありがとうございます」
私を招き入れたのは獣人族のメイドでした。
王国では亜人は蔑まれる傾向にあり、公爵家でメイドをしているのは異例のことです。
ですが、事前調査でデスクストス公爵家には数名の獣人や精霊族を雇っていることは知っていましたので驚くことはありません。
「失礼します」
私はそれほど宗教家ではないので、獣人を蔑むという概念は持ち合わせておりません。魔法を使う者は知能ある者だと証明しています。
知能があるならば蔑むことはないと考えます。
「こちらへ」
公爵家の主人であるデスクストス公爵へ挨拶を済ませることになったのですが、なんとも迫力あるお方でした。
鋭い眼光は歴戦の戦士を思わせる威圧を含み。
執務に忙しそうにされていながら、こちらへ向ける態度はどこまでも貴族らしく。
私のことを取るに足らない者として、本当に挨拶だけでした……
「息子を頼む」
それだけを告げて挨拶は終わりを迎えました。
冷や汗、背中がビッショリと濡れてしまうほどの緊張感でした。
あまり第二子息様にご興味がないのか、立ち合いなどもなされないようです。
第一子息のテスタ様のときは立ちあわれていたと言うのに、リューク様とテスタ様の扱いが違うと言うことでしょう。
テスタ様のお母様は《石》
デスクストス公爵は《砂》
リューク様のお母様はすでに亡くなり属性魔法については秘匿されておられるのでわかりません。
テスタ様のご両親はそれぞれが自然からなる希少属性を持って生まれた方々なので、テスタ様の《鉄》も納得できるというものでした。
さてさて、公爵家のお家事情は私には関係ないことです。
私の興味はあくまでリューク様が授かる属性魔法のみです。
いったいどんな属性をもっておられるのか、本当に楽しみで仕方ありません。
メイドに案内された部屋に入る前にデスクストス公爵様の威圧を思い出して少しばかり緊張してしまいます。
ですが、扉が開かれると私はあまりの衝撃によって固まってしまいました。
人が宙に浮いている。
《飛》、《跳》、《羽》などの希少属性の存在は確認されている。
それらの属性魔法ならば浮く魔法があることは証明されております。
頭では理解は出来るのです。
しかし、私が知るどれとも違う。
・《飛》は自分や他の物を飛ばすことが出来る浮揚の性質を持ち。
空を飛ぶと言うよりも数センチ浮くことが出来る魔法です。
今の現象に一番近いと思いますが、それは魔力の消費が激しいため、11歳の子供が出来るとは思いません。
何より鑑定していないので属性魔法は使えないはずです。
・《跳》は下半身の強化を意味して跳躍力をアップさせるため強化の発展版として考えられています。
・《羽》は魔力で羽を作り出して、羽ばたき、羽を攻撃に使うことが出来るのですが、ただ宙に浮いていることが維持出来るかと言えばそうではありません。翼を持つ動物のように自由自在というわけには行かないのです。
その全てが研鑽と魔力量によって発現できる事柄が変化することもわかっています。
しかし! 私の目の前では……。
「クッション?」
「うん?誰?」
クッションに乗って本を読む美少女が浮いている。
いや、リューク様は第二子息なはずだ。
つまり、目の前の綺麗な顔をした子供は男の子なのか?
「リューク様。魔法省属性管理委員会管理局から来られた局長のマルサ・グリコ様です」
なっ! 獣人族の女性には一度しか自己紹介をしていないのに、一度で覚えたのか?このメイドは優秀なのですね。
私ですら、何度か頭で復習しなければ自分の肩書きを名乗るのは難しいと言うのに。
「ああ。そういえば今日だったね」
リューク様はクッションと共にプカプカ浮いていた体を私の高さまで降りて来られました。
「やぁ、マルさん。リューク・ヒュガロ・デスクストスだよ。長い名前だからリュークでいいよ。よろしくね」
「マルさん?!」
気怠そうに愛称で呼ばれ、自己紹介されました。
私はただただ圧倒され続けております。