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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
最終章

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着の身着の儘

 これは夢だ。


 わかっているのに、それでもこんな光景が実際に記憶にあったら良かったと思ってしまう。


「何をしているリューク」

「えっ? テスタ兄さん?」

「ほら、肉が焼けたぞ」


 まだ幼い頃に見ていたデスクストス家の屋敷。

 その庭で、テスタ兄さん、アイリス姉さん、プラウド父さん、カリン、シロップとともにバーベキューをしていた。


「ありがとう。テスタ兄さん」

「当たり前だろ。我はお前の兄なのだ」


 いつも向けていた嫉妬心を含んだ瞳ではなく、死ぬ前に見た優しい瞳をしたテスタ兄さん。


「ワタクシがとってあげますの」


 串からアイリスが肉を取り分けてくれる。


「プラウド旦那様! とても美味しいのです!」

「シロップは肉が好きだな」


 そう言ってシロップの頭を優しく撫でる。


「カリンよ。ちゃんと食べているか?」

「はい! 義父様! 私もちゃんと食べています」


 どんな状況なのかわからない。

 混沌としていて、やっぱり夢だとはっきりわかる光景だけど、もしかしてあり得たかもしれない未来なのかな?


「アイリス、ありがとう」

「リュークが喜んでくれて嬉しいですの」

「主人様、これもあれもそれもとても美味しいのです!」


 少し幼い頃のシロップではしゃいでいる姿が可愛い。


「リューク、プラウド義父様が肉を焼いてくれたのです」

「どうだ? リューク。ガハハハ。ワシが焼いた肉は美味いだろう! ワシが焼いたからな!」


 イケオジが嬉しそうに肉を両手に持って喜んだ姿を見せる。

 こんな人だったのかな?


「テスタ様、こちらも食べてください」

「わっ、私のも」

「ふん、焼いたのですから食べてください」


 テスタ兄さんの横には、サクラさん、サンドラ義姉さん、ビアンカ義姉さんがテスタ兄さんを囲んでいる。きっと大罪魔法がなければ、幸せな家族だったんだろう。


「どうしたの? リューク」

「えっ?」


 カリンの言葉に自分の瞳から雫が落ちていくのを感じた。


「はは、なんでだろう?」

「リューク」

「テスタ兄さん?」


 泣いているボクをテスタ兄さんが抱きしめてくれる。


「全てをお前に任せてしまってすまない」


 ボクの体はどんどん子供になって、テスタ兄さんに抱きしめられて泣いてしまう。


「リュークよ!」


 プラウド父さんもやってきて、ボクとテスタ兄さんを抱きしめた。


「我らが悲願を託すこと、すまない。だが、お前が我々の誇りだ」


 傲慢がなければ、豪快で快活な人だったのかな? もっと話をしていたら楽しく笑えたのかな? プラウド父さん、あなたのことを尊敬していました。

 

「リューク、我はお前を見ていた。ずっと愛苦しいと感じていた。愛おしくて、その思いが苦しくて、ずっと愛していた」

「リュークよ。ずっと素直になれなかったことを許してくれ。お前も、テスタも、アイリスも3人を愛していたぞ!!!」


 絶対にこれは夢だ。


 夢だってわかるのに、涙が止まらない。


 もう帰ってこない家族。


「戻すことはできる。だけど、いいの?」


 バルニャンに似た漆黒の堕天使がボクを見下ろしていた。


「君が見せたのか?」

「違う。あなたは夢を見ていた。もしかしたら戻れるかもしれない過去。もしくは未来。私は時を司る者、クロノス」


 魔王軍の三魔将最後の一人。


「過去に戻ることはできない。未来に行くのはこれから自分の足でだ。誰かに戻してもらってもう一度やり直すことはできない」

「そう、だけどあなたは資格を得た。もしも魔王カイロスを倒せたなら、私が全ての時を戻す」

「ああ、わかっていた」

「えっ?」

「バルニャン!」


 ボクの呼びかけに応じたバルニャンが、現れてクロノスを捕まえる。


「なっ?! 何を」

「マスター!」

「バルニャン、任せた」

「はい! 全てはマスターのために」


 そう言って二人は時空の彼方へ消えていく。


 夢の続きのように涙が流れる。

 最終決戦に向けて、どうしても排除しなければならない最後のピースを取り除くために……。


 今のボクはリューク・リュー・カリビアン・デスクストス・アレシダスとして、ただ一人の個人に戻った。


 ダンジョンを出たボクをオウキが待っていた。


「ブルル」

「おいおい、お前にもダンジョンを任せたはずだろ?」

「ブルル」

「えっ? 眷属に任せたから大丈夫だって? くくく、お前は要領がいいな。バルニャンにダンジョンを任せて足がなかったんだ。ボクを運んでくれるか?」

「ヒヒーン!!!」

「ありがとう」


 ボクは全ての準備を終えて、魔王城へ向かって向かうためにオウキへ乗り込んだ。


 最終決戦の地へ向かうために。



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