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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
最終章

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想い

《sideバルニャン》


 昔々の記憶が少しだけ残っている。


 その記憶の中では、体の中に入ってきた遺物を取り除くことばかりをしていた。

 何度排除しても入り込んでくる異物に対して、強い力で押し返そうとするのに、何をしてもダメで嫌だ嫌だって思ってるのに誰も助けてくれなかった。


 だけど、体の中に感じていた嫌な感覚がなくなって、目を覚ますとバルと呼ばれた。


 あの日、初めて私はハッキリとした意識と人格を持ったんだと思う。


 そして、マスターに出会うことができた。


 それからの日々はとても楽しかった。

 ご主人様と共に毎日一緒に行ってたくさんのことを経験した。


 次第に世界を知るようになって、バルニャンという人としての名前をもらうことは、魔法で作られた生命体じゃない。


 私としての名前はとても嬉しくて体をもらった時と同じように私の心は温かくなった。


 魔法のエネルギーだった私は命令されるだけの存在だった。

 ダンジョンのコアだった私はいつも何かに怯えて暮らしていた。

 

 もしも、マスターがいなければ、私が誕生することもなくて、ダンジョンコアだった私と一つになることもなかった。


 今の私は一つの人格と体を得られたことで、一つの生命体になった。


「マスター、どうして私にここまでしてくださるのですか??」


 素直な疑問だと思う。

 私は元々人でも、生物ですらなかった。


「そうだね。もしも、ボクに何かを生み出せる力があるとしたら、ボクが一番最初に作り出したのは、他でもない君だったからだよ。それはボクにとって君が一番の娘であり、ずっと隣でボクを支えてくれたパートナーだったからね」


 マスターの言葉は私の《《心》》を包み込んでくれる。


 これほどの幸福があっていいのだろうか? ご主人様と共にダンジョンに帰ってきた時、家に帰ってきた気がした。


 そして、ダンジョンマスターにマスターが成られて、私はマスターのパートナーに認められたんだと思えた。


 もう体に嫌な感覚が入ってくることもない。

 

 ずっとマスターが私を守ってくれていたから。

 どんどん、姉妹たちが増えてダンジョンを管理する長女へと私は成長を遂げていった。


「バルニャン、君にお願いしたいこともあったんだ」

「お願いですか? マスターの頼みであれば、どんなことでも」

「ありがとう」


 これまでマスターがくれた物一つ一つが私にとっての宝物だ。


「ダンジョンを全て君に預けたい」

「えっ?」

「破棄するわけでも、放棄するわけでもない。だから誤解しないでほしい。ただ、魔王を倒すために必要なことなんだ」


 一瞬、私はマスターとの関係性が崩れて、捨てられるのかと思ってしまった。


 だけど、マスターはそんな私の不安を取り除くように、捨てないと言ってくれた。


 胸がとても痛い。


 私にはこの人しかいないのだ。

 私の全てはマスターと共にある。

 

 この身を頂いたからわがままを言いたい。


「全てを聞かせていただけますか?」

「もちろんだ。先ほども言ったが、バルニャン。君がボクのパートナーだからね。他の誰にも全てを話さなくても、君には全てを話すつもりだ」


 それはマスターの過去であり、マスターが知る真実。


 とても悲しくて、とても切ない物語。


 ♢


《sideある過去と現在》


 物語は、世界ができるほどに古い記憶。


 二人の力を与えられた存在がいた。

 彼らは光と闇に別れ、世界を構築していく。

 

 だが、いつしか光は太陽の影に隠れ。

 闇は魔王と呼ばれるようになっていく。


 いつひさしく忘れられた存在たちは、幾千の時代を生きて破壊と滅びを見てきた。

 滅びた世界の痕跡は残り、新たな世界が構築されては滅ぼびていく。


 いつしか隠れた光は狂い。


 また、一人になった闇も狂い始めていた。


 もう終わらせたい。


 そんなことを考えるようになった闇はある計画を始める。


 新たな人類が生まれたときに、自分を殺せる種を混ぜることだ。

 それに気づいた光は、対抗手段を考えるようになった。

 だが、長年引きこもりをしていた光よりも、一人で滅びと再生を司っていた闇は、強かった。


 いつの間にか二つの存在には力の差が圧倒的に開いてしまっていた。


 それでも闇は全てを終わらせたいから、手を抜いて殺されることを望む。

 しかし、それは破壊の始まりでしかない。


 塔のダンジョンに封印された裏ボスの復活。

 天王の暴走。

 邪神の復活。


 魔王の思惑とはどんどん形を変えて、闇が気づいた時には世界は再生して……。


 自分の肉体すらも再生されてしまう。


 光は心が壊れて、全てを忘れたバグった神の成り損ないとして。

 闇は全てを諦めて、全てを終わらせる神そのものになった。


 別れた光と闇は、混じり合うことなく何千、何万の時をただ無作為に過ごした。


 だが、やっと全ての準備が整った。

 

「本当に終わりが来るのか?」

「マスター」

「クロノスか」

「私が終わらせない」

「今まででは起こり得なかったことが起きている。すでに塔のダンジョンも天王もおらぬ。この世界を破壊するものは存在しない」

「まだ、まだあなたと私がいる」

「そうであった。そう、この《憤怒》の魔王カイロスがいたな」


 忘却の魔王は、ただその時を待った。


 王座に座る魔王の前には、魔王に挑んだ《強欲》の亡骸を前にして……。


 

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