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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
最終章

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488/504

出陣の時

《sideカリン・シー・カリビアン》


 海の音は聞き慣れたものであり、私の故郷だと思える。

 それは落ち着く音であると同時に、リュークがどこかに行ってしまっても、ここが帰る場所だって思える音。


「リューク?」

「うん。ここにいるよ」

 

 朝日が差し込む部屋で私たちは裸で抱き合っている。

 彼の温もりを感じて、あと何度こんな時間を過ごせるのだろうと何度も考えた。

 それほどまでに彼は常に危険の中にその身を投じてきた。


 彼は強い。人よりも多くの才能を持っている。

 だけど、心は怠惰を求めて弱い人。


 だから、私が、私たちが彼を支えなければ彼は立ち上がってはくれない。

 

 彼はいつも私たちとは違う景色を見ている人だった。


 初めて会った時から、考え方が普通の貴族とは違っていて、何をするのも「めんどう」だと動くことを嫌っていた。


 そんな彼を外へ連れ出したのは正解だったのかな? もしも、私が外に連れ出さなければ、ミリルの弟さんが助かることはなかった。


 学園に行かなければ、リンシャンやエリーナと出会うことはなかった。


 リベラとも、アカリとも、ルビーとも、そうしたらリュークを危険な目に遭わせる事なくシロップと二人で独占できていたのかな?

 

 子供の頃はとても楽しかった。


 面倒だと言いながら、彼は私が声をかけると必ず一緒にお出かけをしてくれた。

 どうしてだろうと何度疑問に思ったのかわからない。


 だけど、彼にとっての私の存在はとても大きくて、いつか二人で話しているときに彼は話をしていた。


 人に対して優先順位があるのだと……。


 聞く人によっては、人をランキングが付けするなんて酷い事だというかもしれない。


 だけど、彼に取っては人は信用できない人だから、基準を作っておかなければいけないんだと言っていた。


 シロップは何をおいても自分に尽くしてくれるかけがえのない家族。


 だから、いくら私がシロップを断罪しようとしても彼はシロップだけは殺さない。

 実は、私よりも彼の中ではシロップが上なんだと謝られたことがある。


 だけど、それがなんだか嬉しかった。


 彼は私を正妻にしてくれる。

 身分も立場も関係性も気にしないで、私を正妻だと言ってくれた。


 だけど、優先するランキングでは私は二番で、一番はシロップと言われたとき、少しだけホッとした。


 彼の全てを背負うことが私一人でしなくても良いのだと思えたから。


 その頃から、少しずつ乖離が生まれ始めていた。


 彼はどんどん大きな存在になっていく。

 それに追いつこうと領主の仕事をしたり、妻たちのまとめ役をしたり、自分でも似合わないと思いながら頑張ってきた。


 私の役目は正妻で彼の背中を押すこと……。


 でも、本当は誰よりも彼に甘えたくて、彼と一緒にいたくて、彼のことが一番大好きだって言いたい。


 きっとリュークは、ボクもだよって優しく笑いかけてくれる。


 決戦前夜かもしれない夜でも、シロップではなく。

 私の隣に寝てくれる人。


 それは嬉しい、出来れば私はもっと我儘になりたい。


 もっとリュークに抱きしめて、キスをされて、甘やかされたい。


「カリン」

「リューク」


 だけど、それを言うことができないのが私なんだ。


 リュークは言うことを許してくれる。

 それを許されてしまったら、私は自分を許せない。


 朝日が差し込んで、リュークが起き上がり窓へと向かう。


「リューク様」


 そこには、タシテ君の使いであるコバトちゃんがいた。

 

「来たか」

「はっ! ダン・D・マゾフィスト将軍により、《暴食》のルピナス討伐。マーシャル軍によって迷いの森は壊滅状態に向かい、ディアスボラ・グフ・アクージ将軍によって魔王の住処との境に砦の建築完了しました」


 全ての準備が整った。


 それは最前線にリュークが向かうことを意味している。


「ありがとう。タシテ宰相に今後の方針は伝えてある。作戦は継続で」


 コバトちゃんの姿が消えて、リュークが振り返る。


「行ってしまうの?」

「ああ、家族と過ごす時間は終わりだね」


 彼が行ってしまう。


 その背中に手を伸ばそうとして、思いとどまる。

 だけど、そんな私の手を彼が掴んだ。


「えっ?」

「カリン。ごめんね。少しだけ抱きしめてもいいかな?」

「ええ、もちろんよ」

「ボクはね。怖いんだ」

「怖い? リュークが?」

「ボクは臆病で、めんどくさがりやな性格だよ」


 私を抱きしめていたリュークの体が震えていた。


 だから私は彼の体を優しく包み込む。

 今、求められているのは彼の背中を押すことなんだ。

 

 だけど、私の口から出たのは……。


「なら、逃げちゃおうか? 私と、カレンと、シロップと、ドロップと五人で」


 今まではずっとリュークが逃げてもいいと言っていた。だから、今度は私がリュークにその言葉をかけてあげる。


「それもいいね」

 

 私の言葉にリュークの震えが止まっていた。


「ありがとう。カリン。やっぱり君が大好きだよ」


 そう言ってキスをされる。

 きっと彼は本気にしていないのだろう。

 だけど、今の私は本気で彼にその言葉を告げた。


「それと前にランキングの話をしたのを覚えている?」

「ええ」

「今は、シロップと君がボクの中で同率一位なんだ。ボクの中で君を二位と言ったことを後悔していたから告げておきたくて、世界で一番君が大好きだよ」


 彼は強く私を抱きしめた。


 私はギュッと胸が熱くなるような感覚を覚えてリュークに告げる言葉がある。


「世界があなたを待っているわ。いってらっしゃい。リューク」

「君はやっぱりボクを送り出すんだね。ハァー、君に言われたら行かないとね。うん。ちょっと魔王を倒しにいってくるよ」

「はい! どうか世界を軽く救ってください」

「はは、うん。行ってきます」


 散歩にでも行くような軽さで、リュークは魔王を倒す宣言をしてみせた。

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