迷いの森攻略戦 終
《sideハヤセ》
迷いの森攻略を命じられた際に、私はリューク様に個人的に呼ばれていたっす。
「リューク王様、どうされたっすか?」
「すまないな。君一人を呼び出して」
「構わないっす。リューク様にはたくさんの恩を感じているっす」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。今回の戦いは、魔王に続く戦いだ」
リューク様は、二人で話をされる際に、私を椅子に座らせて、ご自身は立ったまま語り始めたっす。
それは、リューク様が抱えていた想いだと思ったっす。
「はいっす。これが最後の戦いになると私も思うっす」
「ああ、長年、マーシャル領を苦しめ、王国の脅威でありつづけた。危険な最高ランクダンジョンを攻略する。そして、その勤めをダンに託す」
「リューク様は来られないのですか?」
「もちろん、最後の時には駆けつけるつもりだ。だが、お前たちが迷いの森で戦っている間、俺は別の戦いをしなくてはいけなくてな」
別の戦い? 魔王以外にまだ倒すべき敵がいるってことっすか?
「ハヤセ、ダンの力を引き出せるのはお前だけだ」
「ダンの力?」
「そうだ。ダンの力は絆の力であり、何も考えない強さだ」
「絆の力と何も考えない強さ」
「ああ、絆の力は、もちろんハヤセを想う気持ちであり、何も考えない強さは、ダンはボクでも勝てるのかわからないほど強くなっているのに、最後の自信がどうしても持てていない。だから、それをお前が背中を押してやってくれ」
リューク様は、ダンを眼中にも留めていないと思っていた。だけど、違ったのだ。
ずっと前からリューク様は、ダンのことを認めてくださっていた。
それは帝国の時にも、そして迷宮都市の時でも同じだった。
いや、もしかしたら学園であった頃から、リューク様はダンにだけは厳しかった。
その時からずっとダンを認めていたのかもしれない。
戦場には、常にダンの助けだけはしなかった。
むしろ、塔のダンジョンでは、ダンに戦いを任せて自分は控えておられることの方が多かった。
「わかりましたっす。私がダンの背中を押すっす」
「ありがとう。《暴食》の倒し方だが」
そう言って、語ってくださったリューク様の戦い方は、ダンが導き出した答えと同じだった。ただ、戦い方はリューク様ができることと、ダンができることは違うと説明してくださったっす。
「ダン、あなたはリューク様が認める強さをちゃんと持っているっす。だから、自分に自信を持つっす」
私はダンの心が折れそうになった時に、支えるための役目をするだけっす。
♢
《sideダン・D・マゾフィスト》
不思議だ。
《暴食》のワニとして暴走を開始した時は怖くてたまらなかったのに、ハヤセが背中を支えてくれている。
その後ろにリュークがいるような気がして、二人に支えられていると想うだけで、俺は負ける気がしなくなる。
「GYAAAAAAAA」
もう叫びにも強さを感じない。
突進してくるパターンを覚えて、切りつける。
ルピナスなった頃なら、多彩な技や、攻撃を仕掛けてきたが、今のワニは単調で、ただただ俺を喰らうことしか考えていない。
どうして、こんな奴を怖いと先ほどまで思っていたのか、忘れてしまったほどだ。
「ルピナス。お前はそこにいないのか? お前だったなら、もっと手強かったと想うぞ」
最初の頃よりも、ワニは小さくなって、その身は巨大と呼ぶほどではなくなった。
その辺にいる魔物と変わらない大きさになり、逃げ出そうとするが、アクージ元帥の迷路によって、この場に戻される。
マルリッタさんの魔力無効も効果を発揮できるようになり、俺の聖剣で斬れるほど弱っていった。
「もう終わりにしよう」
すでにボロボロで動くことも出来なくなった《暴食》のワニ。
トドメを刺すために俺は聖剣の光を纏わせる。
大罪魔法にとっては本来もっとも効果のあるエネルギーであり、《暴食》のワニが力を強めている時なら吸収することも出来たのだろうが、今のこいつにそれは出来ない。
「GYU」
最後の鳴き声を発して、魔石が砕け散る。
これで完全に《暴食》のルピナスが復活することはない。
「お前は、完全体になるには心が弱すぎた。自分を過信したことが敗因だ」
俺が迷いの森の主人を倒したことを告げると、各地で歓声が上がる。
どうやら、マーシャル様、ガッツ様も大物を討ち取ったようだ。
マーシャル家の悲願が、やっと達成されようとしていた。
「どうやら、終わったようだな。俺は魔王の住処へ進軍する拠点に戻るぜ」
「アクージ元帥。あなたが来てくれて助かりました。ありがとうございます」
「いいってことよ。これもリューク王の命令だからな」
「えっ?」
「じゃあな」
アクージ元帥が去っていく姿を、俺は唖然とした姿で見つめる。
代わりにやってきたハヤセを見る。
「リューク王の命令?」
「ダンは難しいことは考えないでいいっす。次は魔王っす。だから、今日はたっぷり癒してあげるっす」
「うっ、そっそんなことよりも生きていてよかった。お前が死んだと思って……俺は」
「私はそう簡単に死ぬ女じゃないっす。嘘っす。今回はリューク様に命を救われたっす。だけど、今度はちゃんとダンに守って欲しいっす」
「任せろ!」
リュークの手のひらで踊っていた気がするが、それでもマーシャル家の悲願が達成できたのも、ハヤセが生きていたのもリュークのおかげだ。
やっぱりあいつの背中は俺には、遠すぎるな。




