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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
最終章

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482/493

迷いの森攻略戦 5

 俺は《暴食》ワニとかした得体の知れない化け物を相手にどうすれば良いのか、わからなくなっていた。


「おいおい、弱気になってんじゃねぇよ」

「えっ?」

「お前はリュークに認められて、ここにいるんだろうがい」

「あっ」

「そんな奴が、一番に諦めるのか?」


 俺は何を弱気になっていたんだ。

 自分が優位な時は得意げに、ルピナスに完全体になれと偉そうなことを言っていた。ハヤセが不意打ちを受けて、ムーノが殺された。


 それなのに、俺はどこかで自分が強くなっているということによって、自分よりも強い化け物が現れた途端に弱気になってしまっている。


「すみません。ですが、どうやって倒せば良いのかわからなくて」

「そんなことは俺も同じだ。だがな、《暴食》ってことは食うことに特化しているんだろ? 今、あいつの側にいるだけで、俺も腹が異常に減っている感覚がある。そんで、お前が大量のエネルギーを放った際に、こいつは全てのエネルギーを食っちまった。つまりはこいつは食うことが目的で、常に腹が空いているってことだ」


 アクージ元帥の推測はなんとなく理解できるが、何を言いたいのか理解ができない。


「つまりどうすればいいですか?」

「餓死させればいい」

「えっ?」

「暴食っていうのは暴れるぐらい物を食う。それは同時に、耐え難い空腹感が、あいつ自身も味わっているからだろう。だから、なんでもいいから食べたい。それを食べさせなくすればいい」

「そんなことどうやって」

「そうだな……。それが俺にはできると言ったらどうする?」

「えっ?」


 バドゥ・グフ・アクージ元帥の言葉に俺は耳を疑った。


「そんなことが可能なのですか?」

「可能とは少し違うが、犠牲は必要になる」

「犠牲?」

「そうだ。お前はその犠牲者になれるか?」

「俺が犠牲者?」

「そうだ。俺の属性魔法は《雲》と《迷路》だ」

「《雲》と《迷路》?」

「そうだ。俺が作り出した空間に、相手を迷い込ませることができる。だが、ただ迷い込ませるだけでは、その空間すら食べて、あの化け物は外に出てくる恐れがある」


 アクージ元帥閣下に協力する。


 化け物と化して、こちらを喰らいつくために何度も突進を繰り返す《暴食》の化身と閉じ込めてやる。


「……。わかりました。アイツが餓死するまで、俺も一緒に迷路に閉じ込められます」

「いい度胸だ」

「その前に、死んだ妻を一緒に連れて行ってもいいですか?」

「死んだ妻?」

「はい。ルピナスの一撃で胸を貫かれて、衛生兵に避難させてもらったんです」

「いいぜ。しばらく、こいつの相手は俺がしてやる。亡骸を連れてきな」


 俺はアクージ元帥の許可をもらって、ハヤセの元へと急ぐ。


「ダン君?」

「ナターシャ。ハヤセは? ハヤセはどこにいる?」

「ハヤセちゃんはもう……」

「わかってる。だけど、死ぬ時は一緒に死にたいんだ。ハヤセを一緒に連れて行きたい」

「どこに誰を連れていくつもりっすか?」

「えっ?」


 救護所のカーテンが開いて、ハヤセが顔を見せる。


「なっ! なんで生きているんだ?!」

「ハァー、私が死んでる方が、力を発揮できると思って死んだふりをしてたっす。それなのに亡骸の私に助けを求めるとかどこまで私が好きなすか?」

「いや、ハヤセは死んで。だから、俺も最後の決戦に向かう場所にハヤセの亡骸と閉じ込められようと」


 動揺したが、ハヤセが起き上がっている姿を見て、俺は自然に体がハヤセに近づいて抱きしめてしまう。


「くっ、苦しいっす」

「だけど、どうして?」

「ああ、リューク様がくれたペンダントのおかげっす」

「ペンダント? だけど、完全に胸に穴が」

「それも凄いのリューク様っすね。ペンダントに魔法陣が編み込まれていて、死んでなければ、再生してくれる魔法をかけていてくれたっす。それでナターシャが私が再生しているのを見つけてここまで運んでくれたっす」


 リューク!!!!


 どこまでもお前ってやつは凄すぎだろ?!


 死んでいる人間を生き返らせるって……神様じゃねぇか?!


「それならムーノは?!」

「それは無理だったす。リューク様にペンダントをもらっていたのは私とフリーだったっす。もしもあの時に死んでいたのが、ムーノさんじゃなくて、フリーなら、生き返っていたかもしれなかったっす」

「くっ」


 ムーノは死んだのか、それは変わらない。


「それでもハヤセが生きていてくれてよかった。今から迷路に奴を封印しなくちゃ」

「それなんすけど、私に考えがあるっす。マルリッタ協力して欲しいっす」

「わかった。任せろ」

「ナターシャもお願いっす」

「いいわよ〜」


 同級生である三人娘が立ち上がる。


 俺が絶望を感じた暴食のルピナスに、ハヤセが立ち上がることに、失ったはずの自信が湧き上がってくるのを感じた。


「あ〜その前に。ダン」

「うん?」

「お仕置きっす。泣き言なんてカッコ悪いっす」


 そう言って一番強力な魔弾で、俺の股間と眉間、さらにルピナスに噛み付かれた傷口を撃ち抜いた。


「イッ!!!」


 ルピナスにもそれほどの痛みを感じていなかったのに、ハヤセから強烈な痛みと共に、全身が回復していくのを感じる。


「ダンにはこれで十分っす」


 そう言ってハヤセが天幕を出ていく姿に、俺は後を追いかける。

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