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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第十一章

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《傲慢》VS《嫉妬》 

《sideテスタ・ヒュガロ・デスクストス》


 忘れていた。

 我はどうして忘れていたのだろう。

 この狂おしいほどに求める嫉妬心を……。


《私があなたの代わりに引き受けていたからよ。でも、あなたは私を求めた。だから返してあげたの《嫉妬》の業火を、もう止められない。あなたの心は狂おしいほどに燃え上がる》


 アビスの声はそれ以降聞こえなくなった。

 その力を全て受け入れると、我自身にもう一つの魔力回路を手に入れたように魔力が溢れていく。


 ハァー凄い。


 この力が欲しかったのだ。


 プラウド父上やリュークが持っていた力をとうとう我も手に入れることができた。


 だけど、どうしてもこの力を他の者が持っていることが狂おしいほどに妬ましい。


 どうしてこの力は私一人の唯一無二の力ではないのだ?


「グオオオオオ!!!」


 獣のように泣き叫ぶ獅子王デウス・エクス・マキナになったプラウド父上。

 苦しいのですか? それだけ素晴らしい力を得たというのに、あなたの力は偉大だ。

 

 その姿になっても魔王を抑え込んでいた精神にも敬意を払う。


 だが、我はその力が欲しい。


「愛苦しいサクラよ。貴様の力を貰い受ける」

「はい、旦那様。愛しています」


 サクラの体に我《嫉妬》の業火が巻き付いていく。

 それはサクラの穴という穴の全てから体へ侵入して、サクラを蹂躙する。


 そして、サクラの力である《虫》を奪い去る。


 属性魔法だけではない。

 あのゾウフによって作り出された後天的な力も全てを奪い去って、魂を魔力によって飲み込んで我とサクラを一つにしていく。


「父上、いえ。獅子王デウス・エクス・マキナよ。貴様の力を我がもらうぞ」


 《嫉妬》は相手の能力を模して奪う性質を持つ。


 サクラだけでは足りぬ。獅子王デウス・エクス・マキナになった父上の力も我は欲しい。


「どうしました? その駆動音によって放たれた木々は私の手足になってもらいます」


 父上の体を成していた木々を、サクラの虫によって内部から食い荒らして奪い去っていく。


 ああ、なんて素晴らしい力だ。


 サクラを媒体として作り出した虫の一匹一匹が、私の《嫉妬》を再現しているように相手を欲して食い荒らす。


「グオオオオオオオオオ!!!……舐めるなよ。小僧」


 それは獅子王デウス・エクス・マキナとしてではなく、我が知っている父上の声で響いた。


 その瞬間に全身を襲う重圧が、何倍にも増していく。


「ぐっ!」

「我の前にひれ伏すがいい。我は機械神プラウド・ヒュガロ・デスクストスである」


 それまでの獅子王としての人格ではなく、父上を名乗る新たな人格が現れた瞬間に《傲慢》な態度と、重圧を感じるほどに空間に重みを放たれる。


 立っていることもできないほどの重力が全身にかかり、アビスの力を取り込んで、魔力を纏っていなければ危なかった。


「これがあなたの力というわけですか?」

「頭が高い!」


 父上が言葉を発するごとに我の魔力がどんどんと吸収されていく。


 さらに、先ほどまでの獅子の顔は父上の顔に変わって、さらに遺跡のダンジョンは巨大な魔法陣へと姿を変えていた。


「ぐっ!」


 遺跡のダンジョン全体から、我の魔力を吸い上げるような力が働いている。


「サクラよ! もっと力を寄越せ!」


 ゾウフによって作り出された後天的なサクラの力、黒い触手のバケモノが解き放たれる。


 それはもうサクラの命を燃やす最後の手段であり、サクラ自身をダンジョンの化身として生まれ変わらせる。


「全てをあなたにテスタ様」


 我の前に美しいサクラの顔が浮かび。

 次には玄武の姿へと変貌したサクラが、我の周りで魔力を吸い上げる魔法陣と父上の力に対抗して、魔力磁場が鬩ぎ合うような高密度の衝突を繰り広げる。


「ゾウフよ貴様が作り上げた。巫女と幻獣の融合は我が使わせてもらう」

「ウオオオオオオ!!!!」


 玄武となったサクラの上に乗って、我は獅子を模る父上の体を切り裂いた。


 巨大な大木が一刀で真っ二つになるが、すぐに再生していく。


「玄武よ! お前の力を示せ」


 サクラは我の改造も加わって《玄武》の力を持って、切り裂いた父上の体へと侵食を開始する。


 そう《嫉妬》は模して奪うだけじゃない。


 相手の力を全て自分の物とする。


「愚か也」


 《傲慢》な言葉が、プラウド父上の声に乗って放たれると全身にかかっていた重圧が心臓だけに凝縮されて、鷲掴みにされた痛みが走る。


「なっ!」


 我の前にプラウド父上の人型が浮かび上がる。


 透明な父上は、我の胸に手を伸ばして心臓を掴んでいた。


「《嫉妬》が《傲慢》に勝てるはずがないであろう」


 その顔はどこか優しげであり、慈愛に満ちていた。


「父上? グフっ!」


 掴まれた心臓が握り潰される。

 

「バカな息子を愛しているぞ。貴様が《嫉妬》に狂うことなく、リュークと共闘していれば、我に勝つこともできたであろう。魔王の呪いはこのような形で成就されてしまったか、我の手で息子を殺させるとはな」


 父上に抱きしめられる。

 生まれてから一度も抱きしめられたことはない。


 頭を撫でてもらった記憶もない。


 だけど、初めて父上から抱きしめられた感触は、とても暖かくて心地よかった。


「テスタ兄さん!!!」


 リュークが我に向かって手を伸ばしている。


 だが、もういいのだ。


 心臓は潰れ、父上の胸で眠ることができる。

 

「あとは頼む」


 我は父上を抱きしめて離さぬまま取り込まれた。

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