遺跡ダンジョン攻略 終
ボクらが調査を途中で切り上げて、外へと飛び出すと森が一箇所に集まるように地面から木々が引き抜かれていく。
「バルニャン!」
このまま入り口に止まっていては危ないと判断して、全員を連れて空へと逃げる。
遺跡が変貌していくダンジョンを上空から見上げていると、テスタ兄さんたちが外へと飛び出してきた。
同行した騎士三人はいなくなっているので、どうやら中で何かあったようだ。
「テスタ兄さん」
「リュークか」
テスタ兄さんはサクラさんの手をしっかりと握っていた。
「どうなっているんだ?」
「あれは父上であり、傲慢の化身、獅子王デウス・エクス・マキナだ」
「獅子王デウス・エクス・マキナ!」
完成した巨大な化け物は、まるで雲から吊るされた人形のような姿をしている。
顔は獅子、体は巨木と石で作られ、機械のロボットのような駆動音を響かせている。
「挑戦者よ。獅子王デウス・エクス・マキナの全力を持って貴様を試してやろう。挑戦に耐えられない場合は、その命だけでなく、この世界の滅びを持って償ってもらう」
塔のダンジョン以外にも世界を滅ぼす仕掛けは存在した。
天王や塔の試練。
ゲームの知識では足りない存在が他にも存在していたことに驚きを禁じ得ない。
「これは、とんでもないことになったね。魔王よりも強い聖なる木の化物というわけか、世界樹を相手にするようなものだね」
「それでも倒すだけだ」
「ああ、その通りだ」
まさかこんな形で、テスタ兄さんと共同で戦うことになるなんて思いもしなかった。
いや、この世界に来てゲームをプレイしていた者としては、テスタ・ヒュガロ・デスクストスとは相入れない人間だと思ってきた。
それが今では隣に立って戦っていることが奇跡のように思える。
「だが、今のままでは勝てない」
「えっ?」
「サクラ、我は我ではなくなる」
「はい。テスタ様の望まれるままに」
「ああ、ありがとう。リュークよ」
「うん?」
「我は今から《嫉妬》をこの身取り込む」
「えっ?! 危ないんじゃないの?」
久しぶりに会うテスタ兄さんは、どこか清々しい顔をしていたから、克服した人間だと思っていた。
だけど、自ら魔に手を染めるという。
レベルは同じく限界突破をしているのを感じる。
しかもレベルはボクよりも高い。
「危険がなんだいうのだ。父上を超えるためならば使える力は全て使う」
その覚悟を込めた瞳に、ボクは何もいうことができなかった。
テスタ兄さんは剣を抜き放つ。
「アビスよ。貴様の力を取り込ませてもらう」
《あら、随分と大言壮語なことを言うじゃない!》
獅子王デウス・エクス・マキナを超える巨大な蛇が現れる。
世界中に届くほど巨大な蛇と言われたヨルムンガンドを思わせる蛇は、テスタ兄さんの体の中へと入り込んでいく。
ボクはテスタ兄さんと共同戦線で戦うのだと思っていたが、テスタ兄さんは違ったようだ。
最初からダンジョンを手に入れる試験として、自らの力でプラウド父さんを超える戦いを仕掛けるつもりだったのだろう。
「羨ましい、妬ましい、狂おしい」
蛇の体が全てテスタ兄さんの中へと入っていくと、幼い頃から見ていたテスタ兄さんが現れる。
いつもボクへ向けていた瞳が戻ってきた。
ああ、これだ。
テスタ兄さんに、久しぶりに会った時に感じた違和感。ずっと昔からテスタ兄さんがボクへ向けていた瞳をしていなかったんだ。
嫉妬と憎悪。
家族に向けられる視線ではない。
「サクラ、なんて貴様は愛苦しいのだろうか」
「テスタ様! ふふ、お慕い申し上げております」
嫉妬にその身を焼かれ、緑色の魔力を放出したテスタ兄さんを見て、サクラさんが恍惚とした表情を見せる。
そこには二人だけの世界が作り出されていた。
「リューク。良いのですか?」
「エリーナ、今は引くんだ。ここはボクたちの戦場じゃない」
ボクはエリーナたちをバルニャンに乗せて、その場を離れる。
緑色の魔力は、先ほど見た巨大な蛇を象って、テスタ兄さんの体を魔力の巨大さで浮かび上がらせる。
「傲慢なる獅子王よ。貴様のその力が羨ましい」
「グオオオオオオオオ!!!」
獅子王が吠えると共にテスタ兄さんを殲滅するために遺跡全体の木々が武器となって襲いかかる。
だが、その力をテスタ兄さんはまるで吸収して真似るように、細かな虫がテスタ兄さんから発せられて、木々に襲いかかる。
「あれはなんだ?」
「わかりませんわ」
「ひっ!」
「クロマ?」
「あれは虫です!」
「虫?」
クロマの指摘で目を凝らしてみれば、無数の虫がサクラさんを媒体にテスタ兄さんの魔力に反応して、木々を襲う触手のように蠢いている。
「木と虫の戦いということか」
完全に遺跡ダンジョンから、ボス戦へと変貌を遂げた戦場から距離を取って戦いを見守っている。
そして、遺跡ダンジョンの核であろう獅子王デウス・エクス・マキナが現れてから、デスクストス領に魔力が充満していく。
どうやら、全ての魔力を獅子王デウス・エクス・マキナが吸い上げていたから、デスクストス領は魔力が枯渇していたんだ。
「この戦い次第で動くよ」
「はい!」
ボクはどっちが勝っても動かなければいけない予感を感じていた。




