デスクストス長男 2
《sideテスタ・ヒュガロ・デスクストス》
目が覚めた我はリハビリから始めることにした。
心はどこかどんよりと重たさがあったのに、今では気持ちは軽くて人に対して《嫉妬》を向けることもない。
玉座の間に入れば、ガッツとセルシルがユーシュンの両脇を固めて我を出迎える。
周りには兵士がおり、バドゥ・グフ・アクージの姿もあった。
「よくきてくれた。我らが英雄よ」
「英雄?」
「そうだ。朕は、そなたになんと礼を述べていいのかわからない。すでに領地を持ち、貴族としては公爵位を持つ、そなたは我よりも裕福であり、金銀財宝では其方に報いられぬ。帝国から奪った領地はデスクストス卿の好きにしもらって構わない。そして、我々から送れるのは褒章としての英雄の名誉を声高らかに叫ぶことだけだ」
ユーシュンが玉座を降りて、我の前に立つガッツから剣を、セルシルから勲章を受け取って、我に渡す準備をする。
膝を折ることはない。
対等な立場として、ユーシュンが説明をする。
「剣は貴殿を元帥とは違う最強の騎士として、勲章はアレシダス王国の政治を司る者として、王位を明け渡すことも考えたが、貴殿がそれを望むのかわからぬ。そのため、アレシダス王国の権力と武力を委ねる。もちろん、貴殿が面倒だと言えば我が代行を務めよう。受け取ってくれるか?」
ユーシュンは玉座を受け渡すと言う。
デスクストス家が奪うことを考えた玉座を自ら我に委ねると言うのだ。
「王はそれでいいのか? 今より貴殿は飾りの王となるのだ」
「わかっている。それでもデスクストス卿に王国を委ねた方が、この国は強くなれると判断させてもらった」
ユーシュン王が我の前で膝を折って、剣と勲章を差し出す。
王冠でないのが、ユーシュンなりの気遣いなのだろう。
「よかろう。その申し出受けよう。後悔するなよ」
「しない! 朕は、いや俺は最後のアレシダス家の王としてこの選択を絶対に後悔しない」
我はユーシュンから剣を受け取って、ユーシュンの肩へ剣を添える。
「今日よりアレシダス家は一家臣だ。だが、こんなものもらってもなんの意味もない」
そう、もうなんの意味もない。
帝国が潰れ、皇国が弱体化して、世界に敵はいない。
我が求めるのは絶え間ない渇望であった。
喉の渇きはアビスに吸い取られたように感じない。
唯一気がかりなのは魔王だが、果たしてそれは我の求める物だろうか?
「すぐに何かを命令することはない。貴様らの政治で進めていけ。セルシル、今日より貴様が宰相だ。政務を取り仕切れ。ユーシュン王とよく話し合うことだ」
「いいのかい? デスクストス家として、取り潰したい家や法の整備は」
実際に、取り潰しを行うとすれば、真っ先にマーシャル家とチリス家だと思っているのだろう。
もう、そんな小物を相手にしても意味はない。
「時代は、変わるのだ。これよりアレシダス王国は変わり始める。それは武力によって支配する時代から金や法によって整備される時代がやってくる。アクージ」
「はいよ!」
「今日をもってアクージ家は戦争一家として軍事行動をしていたのを全てやめさせる」
「ほう、それで? 俺たちに何をさせる?」
「今後は王国の正式な軍人として生きることだ。お前を元帥に任命する」
俺の人事異動に驚きの声が上がり、視線がガッツに注がれる。
「ガッツ、お前に王を守る理由は無くなった。自らの領地に帰ってマーシャル領で指揮を取れ。王国の近衛兵をする必要はない。今後は帝国を相手に戦争をしていたアクージ家が王国の軍として王を守る」
デスクストス家の息がかかったアクージが元帥になれば、公爵として、格下の侯爵に地位を奪われたことになる。
それに反論するのであれば……。
「委細承知仕った。このガッツ・ソード・マーシャル。元帥の任をお返しして、マーシャル領の守護に当たれる名誉。感謝致す」
ガッツは反論することなく、我の命令に従った。
それが何を意味しているのかも理解しているようだ。
「ただ、一つ。ユーシュン様の側近として我が義弟であるダン・D・マゾフィストを残していくことを許してほしい」
「ダン? 誰だそいつは?」
名前を聞いたこともあるが、覚えがない名前にセルシルを見る。
「ガッツの家に養子として引き取られた子でね。今回の帝国戦でも活躍して子爵位を授けることになった子だ。領地はマーシャル家から与えることになっていたが、ガッツ殿が退くのであれば、近衛隊長として任命すれば領地を分け与える必要もない」
「よかろう。ならば、ダン・D・マゾフィストを残して、マーシャル家は領地の護衛に回れ」
「はっ!」
ユーシュン王が自ら、我に権利を委ねた以上、反論はないと思うが、どこにでもバカはいる。
ユーシュン王を立てて己が権力を得ようとするようなバカが。アレシダス王国にはいないと思うがな。
「以上! 我は一度デスクストス領に帰り、戻ってきた暁には正式に政務に就く。それまで皆の者に頼んだ!」
「「「「はっ!!!」」」」
我が王の間から出るとアクージが横に並ぶ。
「よう、随分と甘い汁を吸わせてくれるじゃねぇか」
「そうか? 戦争屋が戦争がなくなって、どう生きるのか、貴様の方が大変ではないか?」
「そうかもな。家の奴らを規律が厳しい軍人に育てるのは骨が折れるぜ。だが、裏の世界から表の世界に出ていけるんだ。喜んで元帥をさせてもらうぞ」
アクージ家の悲願が叶ったというわけだ。




