天魔対戦 終
ダンジョン全体が震える。
《太陽》の属性魔法は七大大罪魔法よりも格が上の属性魔法だ。属性魔法の中で最上位に位置する。
大罪魔法を正面からぶつけても勝つことはできない。
天王オーディアヌスが最強の一角である所以は、この魔法にあると言ってもいい。
魔王が正面から天王オーディアヌスと戦うことなく、相手にしなかったのも、それが厄介だったからとも言える。
ダンジョンは天王の力からすれば副産物だ。
他者に力を与える行為も創造神によって生み出された力の一端にすぎない。
そんな裏ボスも倒せない相手じゃない。
「ティア。ボクだけに全ての力を注いでくれるかい?」
《太陽》の一撃を防いだことでタイムラグができた。
その間に、ボクはティアを抱き寄せてキスをする。
「んん、もう強引なのですね」
「嫌だったかい?」
「いいえ。むしろ、とても嬉しいです。あなたに私の全てを捧げます」
ティアの体が魔力で溢れ出す。
《聖》なる属性魔法は、最強の補助魔法を誕生させる。それこそが聖女たる力だ。
己が愛した者にしか使えない力。
女神が聖女を通して、愛する一人のために力を貸す。
ボクは聖女ティアの前に膝を折って礼を尽くす。
「女神様、どうか愛しき人をお守りください」
テイアがボクを抱きしめる。
柔らかな感触と、甘い香りがボクの顔を包み込む。
「ありがとう。最高の補助魔法だ」
「わっ、私もできる限りのサポートをいたします」
エリーナが、ティアに負けないように意気込んで声をかけてくれる。
こんな時でも態度を変えないエリーナの胆力は流石は王族だ。
少しポンコツで天然なところは、場を弁えないところがエリーナらしくて素敵だね。
「ああ、ありがとう。エリーナ。行ってくるよ」
「はい!」
エリーナにキスをして、ボクは天王の前に立つ。
「バルニャン! バトルフォームだ」
バルニャンを装備して、空へと飛び上がる。
巨大な体になった天王オーディアヌスは神のような出立ちで、白いローブに身を包み。錫杖を携えてボクを迎える。
「ほう、どうやら最後は自ら戦う気になったようじゃな。女神アフロディーテよ」
化け物の姿になった女神アフロディーテは、蛇のように細く長くなり天王へと纏わりついていく。
その姿は次第に硬化を始めて、天王オーディアヌスの鎧へと変化を遂げた。
「女神アフロディーテよ! 力を食らえ!」
鎧から管が現れ、天使族やスケルトンたちを吸収していく。
「なっ! 退け!」
ボクはダンたちを含めたティアやエリーナを静かなる森ダンジョンへと飛ばす。
残ったのは、ボクとジュリアだけだ。
残されていた大天使キーロは怯えながら喰らわれ、最後に残った大天使が問いかける。
「父上! これはどういうことですか?! どうして皆を!」
「もう必要ないからだ。貴様らは所詮出来損ないであった。我が戯れに作り出してみたが、通人族などに負けるような存在など最強の戦闘民族と言えるか? いや、言えん。所詮は駒の役目は我の糧となるだけにすぎん。貴様も我の糧となれ!」
天王オーディアヌスが手を伸ばして、最後の大天使を喰らう。
「父上ーーー!!!!」
悲痛な叫びが聞こえてきたが、天王は眉ひとつ動かすことなく全ての天使やスケルトンを喰らい尽くした。
「待っていてくれたのか? 優しいことだ」
「どうせ攻撃しても意味がないと判断しただけだ」
「うむ」
天王オーディアヌスが錫杖を掲げれば、雷が発生して大量の熱が生まれる。
「力が制御できなくてな。どうだろうか?」
一撃で死を予感させるほどの攻撃が、辺りを通り過ぎる。
《怠惰》が通じない相手であり、ティアの補助魔法がなければ天王の前に立っているのも危なかった。
ジュリアは聖なる武器を装備しているから、同属性で対応はできているようだが、そもそもレベル差がある。
「さて、それではすぐに死んでくれるなよ。この姿になったということは、貴様を殺した後に魔王をそのまま殺しにいく。その肩慣らしになってくれ」
高出力のイカズチが、帝国全土を火の海に変えていく。ダンジョンの中だと言っても模倣した大地は少なからず影響を受けてしまう。
「やめろ! やめろーーー!!!」
ジュリアが涙を流して、傷つく帝国の大地に対する攻撃を止めようとするが、無謀でしかない。
イカズチへ飛び込もうとしたジュリアを抱き止める。
「離せ! 離してくれ! 私はあいつを!」
「ジュリア」
ボクは子供のように暴れる彼女を抱きしめる。
「後はボクが終わらせる」
「お前に! お前に何の関係がある! ここは私の故郷だ。お前にはたくさん助けてもらった! 感謝している、だけど決着は!」
ジュリアの口を、ボクの口で塞いだ。
「惚れた女がいる国ぐらい、ボクが守ってやるよ」
「惚れた女?」
呆けるジュリアを抱きしめる。
「ボクの大切な人にならないか?」
「こんなときに何を言っているんだ!」
「こんなときだからだよ。相手は天王、ボクでも勝てるかわからない。だけど、君が戦えばイカズチの一撃で死ぬだけだ」
今も鳴り響く雷鳴は、帝国の大地とボクを焼くために荒れ狂う。
「リュークなら勝てるのか?」
「絶対なんてないさ。だから、最後の一押しを君がくれないか? ジュリア」
ジュリアを抱いてイカズチから逃げ続ける。
「頼む、リューク! 帝国を! 私の故郷を救ってくれ」
「その言葉を待っていた!」
もう一度、ジュリアとキスをして、彼女を静かな森ダンジョンへ転移させる。
死を感じるのは何度目だろう。
転生してすぐに、首に感じる断罪の痕跡。
次に毒殺。黒龍の時も死ぬかと思った。
ルビーの両親が生み出した竜巻でも、暴食と初めて会った時も、塔のダンジョンでもそうだ。
ダンから受ける断罪を回避するために、怠惰に過ごしたいだけなのに随分と死にかけたものだ。
出来ればこれが最後にしたいな。
後は子供たちと余生を送れれば満足だ。
「そろそろ審判の時だ!」
「そうだな。バルニャン最終形態!」
全身がバルニャンに包み込まれる。
「おい、天王。お前のレベルは今いくつだ?」
「999だ。 限界突破しても、そこまでが限界よ」
「そうか」
イカズチが鳴り止み錫杖に力が集約されていく。
「よかったよ」
「何だと?」
「お前が格下で」
バルニャンがボクを包み込んだことで、全身が武器になる。
錫杖を破壊して、鎧として装備したアフロディーテを殴り破壊する。
「なっ! 何じゃと!」
「ボクのレベルは9999だ!」
装備を破壊されて丸裸になった天王の顔面を殴り飛ばす。蹴りを鳩尾に、浮き上がった足を砕き、心臓に一撃を叩き込む。
「武器の力は認めてやる。だけど、お前は愛を知らない。聖女の補助魔法はボクの全てを十倍にしてくれる」
慣れるまで逃げ回っていたが、ジュリアと話している間に落ち着いた。
「言っただろ。帝国ダンジョンはボクがもらう」
起き上がれないほどのダメージを与えて、ダンジョンコアへ手を伸ばす。
「やっ! やめろーーー!!!」
ダンジョンコアに触れた瞬間、眩い光に包まれた。




