天魔対戦 22
《sideタシテ・パーク・ネズール》
ダンの大技が放たれて、大天使が真っ二つに切り裂かれる。
しかし、首を切っても死なない大天使が、いくら胴体が別れようと、その程度で死ぬはずがない。
案の定、体を真っ二つにされて、私が拘束していた道具から抜け出してダンの元へと向かっていく。
帝王カウサルの上半身が一瞬で姿を消して、ダンへ攻撃をしかけた。
シド叔父上の大天使をすぐさま抑えて、さらに私の攻撃手段を阻まれないように、魔力を流し込む。
「通人族が調子に乗るなよ!」
押さえ込もうとした大天使が力を暴走させる。
しかし幸いだったのは、帝王カウサルを模した大天使がダンに向かってくれたことだ。
ダンを一瞬で《幻》に変えて、攻撃を成立させる。
ギリギリだったこともあり、ダン本人にも幻覚がかかってしまった。
自分の心臓が貫かれたように感じていることだろう。
実際は無傷なのに、口から血を吐く。
完全に幻覚が現実だと思っている証拠です。
「ダーーーン!!!」
ハヤセ嬢がそれを気づかせようと声を発しますが、ダンは単純な男です。
搦め手に弱いことは調査済みであり、私はダンを倒す方法を熟知しています。
それと同じく、ダンの使い方も熟知しています。
ここからは私の操作で動いてもらいます。
「なっ、心臓を貫かれたのに、痛くないだと! しかも動ける!」
単純なダンはやはり操りやすいです。
あの素晴らしい力を持っていても、お頭が足りていないと常々思っていました。
それを私の《幻覚》で誘導することで、戦わせればダン本来の力が発揮できるはずです。
「ただ力を闇雲に使うだけの存在など、本物の強者ではありません」
力を暴走させるシド大天使。
ダンを倒したと思い込んで、次なる標的を探すカウサル大天使。
そんな二人の大天使がオジさんである以上、ダンの力が半減してしまいます。
そこで、ダンから見える二人の大天使を絶世の美女へ変化させて、さらに受ける攻撃に対して快感を増すように設定します。
「なっ! 大天使が美女に変わっているじゃないか!」
「何を言っているっすか?! 正気を取り戻すっす」
ハヤセ嬢には悪いですが、今のダンは頼りになる戦力になってもらいます。
私によって正しく誘導して使うことで、敵を殲滅することに役立ってもらいます。
大天使を倒すのに刃ではいけないのです。
彼らは、多少の傷では回復してしまいます。
「ぐっ! ダメージを受けても痛くない! むしろ、キタキタキタ!!!」
帝王カウサルとシド宰相がらボコボコにされているのに、笑顔で快感を訴えるダンには正直ドン引きです。
ただその力が先ほどよりも強く、光が聖剣に集まっていく様は見事です。
「さぁ、あなたに新たな技を授けましょう」
切ってもダメなら、全てを消滅させてしまえばいい。
「パレードを開始します!」
私は全ての魔力を使って、幻想的な光景をダンだけでなく、カウセル大天使、シド大天使へプレゼントします。
これは私独自の魔法であり、これまで私が培ってきた技術と言ってもいい。
人を夢の世界へと誘う。
快楽と欲望だけの世界。
「最高な気分のままで消滅してしまいなさい」
カウサル大天使とシド大天使を倒すだけの力は、私にはありません。
リューク様の判断は間違っておられません。
ですが、力と能力は使いようです。
ダンが持つ聖なる剣に力を集約されて、圧倒的なエネルギーを使うことで、大天使を消滅させるほどの力を生み出すことは私にもできます。
「なっ!」
「何を!」
遊園地を模したフィールドで、ジェットコースターに乗って楽しむ二人の大天使。
トンネルを抜けた先は光の放流が待ち受けている。
本来は高い山の上から一気に滝を下る急流滑りとして、スプラッシュ・マウンテンと命名します。
しかし、大天使たちには夢の中でスプラッシュ・フラッシュとでも言いましょうか? 光が飛び散る放流へ飛び込んでもらって、全てを消滅させていただきます。
《幻覚》で出来たジェットコースターは消え失せて
それになっていた大天使も消滅してしまう。
「これにて閉幕です!」
夢物語から覚めて、戸惑いながら辺りを見渡すダン。
観客はおられません。
大勢のスケルトンたちが見守る前で、一礼する私。
「タシテ様〜凄いです〜。カッコよかったです〜」
ナターシャが何が起きたのかしっかり理解して褒めてくれる。
私はナターシャのそういうところが大好きですよ。
「さて、私は役目を果たしました。あとはリューク様のお望みのままに」
私は天王と相対するリューク様を見上げで、一礼しました。
しかし、魔力も体力も使い果たして前のめりに倒れました。
「むちゃを〜しましたねぇ〜」
ふと、目を覚ますとナターシャが膝枕をして私の頭を撫でてくれていました。
「表舞台に立つのは大変です」
「それでも〜かっこよかったですよ〜」
私は一言だけナターシャに伝えて意識を失った。
あの方がいれば安心して眠りにつくことができる。
「おやすみ〜なさい〜あなた〜」
暖かな魔力が全身を包み込んで心地よい睡眠があたえられた。




