天魔対戦 20
《sideタシテ・パーク・ネズール》
私の家は昔から諜報活動と同じく、暗殺術にも力を注いできた。
暗殺業は身を守る自衛のためであり、危険な相手もいるからだ。
我家がそれを生業にすることはないとは言えない。
だけど、それは情報を扱う際に、やむに止まれない事情がある時だけだ。
残念ながら裏工作などを行う上で、そういう手段を得意として学ぶ機会は多くなってしまう。
「ナターシャ。私は暗殺術を解禁します」
「あれほど〜、嫌っていたのに〜。よろしいのですか〜?」
「ああ、ずっとリューク様の後ろに控えて、影から敵を倒すだけなら、封印したままでもやりようはいくらでもあった。だけど、戦場に出て出し惜しみした挙句に、リューク様の奥方様たちを傷つけたとあっては顔向けができない」
「ふふふ〜。やっぱり〜、タシテ様の〜一番は〜リューク様なのですねぇ〜」
「悪いな」
「いえいえ〜萌え萌えなので〜私はいいです〜」
それにリューク様は、私の方がダンよりも攻撃力が劣ると考えられたようだ。
リューク様が冒険に行く時は、常に一緒に連れていた獣人三人娘を私につけてくださった。
しかも分析とリーダーシップも取れるリベラ嬢をつけてくれたことで、私が指揮を取らなくても判断できるようにしてくれている。
「リベラ嬢」
「なんです。タシテ様」
「実は私はチームで戦うよりも個人で、戦う方が得意なのです。それも撹乱と暗殺が攻撃手段になります」
「なるほど」
「ですから、シロップ様たち獣人の皆様をリベラ嬢の指揮下で四人チームを組んでいただき、私を自由にしてもらっても大丈夫ですか?」
「構いせんよ。ナターシャさんはどうされますか?」
「私は〜救護班なので〜、皆さんが傷ついた時は治療をします〜」
方針を決定した私たちを嘲笑うように、シド宰相が頭上へ現れた。
「おや? 通人族の方々、私はイシュタロス帝国宰相シドと申します。お見知りおきを」
一瞬、本当にシド叔父様の意識があるのかと思った。
だが、陶酔するような瞳はシド叔父上のものではない。
一瞬だけの邂逅ではあったけれど、私たちネズール家の血筋を引いている瞳をしていた。
どこまでも気苦労をする気遣いをしてしまうことが、身に沁みついている瞳だ。
「私は、タシテ・パーク・ネズールと申します。どうぞ初めましてイシュタロス帝国宰相のシド殿。私があなたを終わらせにきました」
「ほう、私を? ふふ、この宰相シドの力をみくびるなよ。通人族!」
膨大な魔力が溢れ出して、圧倒的な力を味わうことになる。
「どうです? 我が力は《支配》。皆、我の力によって使われ操作されてしまうのだ」
「そうですか。教えていただきありがとうございます」
《支配》は強力な属性魔法です。
ですが、私との相性はそれほど悪くないです。
「さぁ、《支配》力よ! 私に従いなさい! 私に従えば全ては救われるのです」
魔力がそのままに、私たちに命令するように首輪が勝手に巻き付くように、首を締め上げられる。
「ふふ、残念ですね」
シドが見ている私たち六人は全てが《幻覚》です。
「何?!」
「天使様は異常攻撃が効かないのかと思いました。どうやら安心してあなたを殺せそうです。そうそう、私も実は幼い頃に神童と呼ばれていたんですよ。リューク様に出会って、私などただの凡人だということを知りました」
シドの背後に回って、首に短刀を突き刺す。
「ぐっ! 何をする! 痛いではないか?!」
「はぁ〜その程度なのがショックですよ。短刀には、A級の魔物を一撃で殺す毒が塗ってあるんですけどね」
「ああ、確かに首あたりがピリピリしますね。鬱陶しいので死になさい!」
翼が広げられると、刃のように襲いかかってくる。
「残念」
《幻覚》は私の姿をシロップ殿へと変化させる。
翼の刃を全て剣で受け止める。
「力だけの刃など、剣術ではないわ!」
「落ちるにゃ!」
「蹴り上げます!」
シロップ様が両方の羽を開くように切り裂き、ルビー殿が私よりも上空からナイフで全身を切りつけ、落ち始めたシド叔父上を地上から蹴り上げて、三段攻撃を決める。
「グフっ!」
「私の攻撃よりも効いたようですね。ですが」
パチン!
私が指を鳴らすと、三人の姿が消えて《支配》される前に消えていく。
「小賢しい!」
「そうでしょ。褒め言葉だと受け取っておきます」
私の戦い方は小賢しい戦い方です。
相手の嫌なことを積み重ねていくことで、ダメージを蓄積していく。
「あなた方が《支配》できないというなら」
シドが我々から距離をとって地下迷宮へ意識を向ける。
「良い者たちがいるではありませんか」
視線の先には地下迷宮のスケルトンたちが映っている。
「さぁ! 兵士たちよ。私の《支配》を受けなさい!」
召喚されたスケルトンたちが、反転してシドの配下に収まっていく。
ソレイユ殿、ゼファー殿、レベッカ殿の三人は救うことができましたが、スケルトトンたちは奪われました。
「さぁ、我が軍勢の力を見なさい! ミカエル!」
シドが声を掛ければ、帝王カウサルが呼びかけに応じてシドの隣に並ぶ。
「《勇者》の力よ!!!」
カウサルが力を誓えば、スケルトンが一体一体の力を増幅させていく。
「おいおい、どうなってんだよ」
ダンがこちらに合流してくる。
「どうやらそれぞれの力が共鳴して、スケルトンを強化しているようです」
「チッ、厄介なことだな」
二体の大天使の魔力に押しつぶされそうになるが、リューク様に任されて負けていられません。
「リュークに任されたんだ。情けねぇ姿を見せられるかよ!」
ダンと同じ考えになったのは、癪ですが同じ考えです。
負けていられません!
「うおおおおおおおお」
「あああああああああ」
魔力を爆発させて押し返す。
「「絶対に負けねぇ」ない」」
それぞれの大天使に向かって跳び立つ。
申し訳ありませんが、スケルトンたちは彼女たちに任せて、私とダンは大天使に挑みます。




