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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第十章

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天魔対戦 20

《sideタシテ・パーク・ネズール》


 私の家は昔から諜報活動と同じく、暗殺術にも力を注いできた。

 暗殺業は身を守る自衛のためであり、危険な相手もいるからだ。


 我家がそれを生業にすることはないとは言えない。


 だけど、それは情報を扱う際に、やむに止まれない事情がある時だけだ。

 残念ながら裏工作などを行う上で、そういう手段を得意として学ぶ機会は多くなってしまう。


「ナターシャ。私は暗殺術を解禁します」

「あれほど〜、嫌っていたのに〜。よろしいのですか〜?」

「ああ、ずっとリューク様の後ろに控えて、影から敵を倒すだけなら、封印したままでもやりようはいくらでもあった。だけど、戦場に出て出し惜しみした挙句に、リューク様の奥方様たちを傷つけたとあっては顔向けができない」

「ふふふ〜。やっぱり〜、タシテ様の〜一番は〜リューク様なのですねぇ〜」

「悪いな」

「いえいえ〜萌え萌えなので〜私はいいです〜」


 それにリューク様は、私の方がダンよりも攻撃力が劣ると考えられたようだ。

 リューク様が冒険に行く時は、常に一緒に連れていた獣人三人娘を私につけてくださった。


 しかも分析とリーダーシップも取れるリベラ嬢をつけてくれたことで、私が指揮を取らなくても判断できるようにしてくれている。


「リベラ嬢」

「なんです。タシテ様」

「実は私はチームで戦うよりも個人で、戦う方が得意なのです。それも撹乱と暗殺が攻撃手段になります」

「なるほど」

「ですから、シロップ様たち獣人の皆様をリベラ嬢の指揮下で四人チームを組んでいただき、私を自由にしてもらっても大丈夫ですか?」

「構いせんよ。ナターシャさんはどうされますか?」

「私は〜救護班なので〜、皆さんが傷ついた時は治療をします〜」


 方針を決定した私たちを嘲笑うように、シド宰相が頭上へ現れた。


「おや? 通人族の方々、私はイシュタロス帝国宰相シドと申します。お見知りおきを」


 一瞬、本当にシド叔父様の意識があるのかと思った。


 だが、陶酔するような瞳はシド叔父上のものではない。

 一瞬だけの邂逅ではあったけれど、私たちネズール家の血筋を引いている瞳をしていた。


 どこまでも気苦労をする気遣いをしてしまうことが、身に沁みついている瞳だ。


「私は、タシテ・パーク・ネズールと申します。どうぞ初めましてイシュタロス帝国宰相のシド殿。私があなたを終わらせにきました」

「ほう、私を? ふふ、この宰相シドの力をみくびるなよ。通人族!」


 膨大な魔力が溢れ出して、圧倒的な力を味わうことになる。


「どうです? 我が力は《支配》。皆、我の力によって使われ操作されてしまうのだ」

「そうですか。教えていただきありがとうございます」


 《支配》は強力な属性魔法です。


 ですが、私との相性はそれほど悪くないです。


「さぁ、《支配》力よ! 私に従いなさい! 私に従えば全ては救われるのです」


 魔力がそのままに、私たちに命令するように首輪が勝手に巻き付くように、首を締め上げられる。


「ふふ、残念ですね」


 シドが見ている私たち六人は全てが《幻覚》です。


「何?!」

「天使様は異常攻撃が効かないのかと思いました。どうやら安心してあなたを殺せそうです。そうそう、私も実は幼い頃に神童と呼ばれていたんですよ。リューク様に出会って、私などただの凡人だということを知りました」


 シドの背後に回って、首に短刀を突き刺す。


「ぐっ! 何をする! 痛いではないか?!」

「はぁ〜その程度なのがショックですよ。短刀には、A級の魔物を一撃で殺す毒が塗ってあるんですけどね」

「ああ、確かに首あたりがピリピリしますね。鬱陶しいので死になさい!」


 翼が広げられると、刃のように襲いかかってくる。


「残念」


 《幻覚》は私の姿をシロップ殿へと変化させる。


 翼の刃を全て剣で受け止める。


「力だけの刃など、剣術ではないわ!」

「落ちるにゃ!」

「蹴り上げます!」


 シロップ様が両方の羽を開くように切り裂き、ルビー殿が私よりも上空からナイフで全身を切りつけ、落ち始めたシド叔父上を地上から蹴り上げて、三段攻撃を決める。


「グフっ!」

「私の攻撃よりも効いたようですね。ですが」 


 パチン!


 私が指を鳴らすと、三人の姿が消えて《支配》される前に消えていく。


「小賢しい!」

「そうでしょ。褒め言葉だと受け取っておきます」


 私の戦い方は小賢しい戦い方です。


 相手の嫌なことを積み重ねていくことで、ダメージを蓄積していく。


「あなた方が《支配》できないというなら」


 シドが我々から距離をとって地下迷宮へ意識を向ける。


「良い者たちがいるではありませんか」


 視線の先には地下迷宮のスケルトンたちが映っている。


「さぁ! 兵士たちよ。私の《支配》を受けなさい!」


 召喚されたスケルトンたちが、反転してシドの配下に収まっていく。


 ソレイユ殿、ゼファー殿、レベッカ殿の三人は救うことができましたが、スケルトトンたちは奪われました。


「さぁ、我が軍勢の力を見なさい! ミカエル!」


 シドが声を掛ければ、帝王カウサルが呼びかけに応じてシドの隣に並ぶ。


「《勇者》の力よ!!!」


 カウサルが力を誓えば、スケルトンが一体一体の力を増幅させていく。


「おいおい、どうなってんだよ」


 ダンがこちらに合流してくる。


「どうやらそれぞれの力が共鳴して、スケルトンを強化しているようです」

「チッ、厄介なことだな」


 二体の大天使の魔力に押しつぶされそうになるが、リューク様に任されて負けていられません。


「リュークに任されたんだ。情けねぇ姿を見せられるかよ!」


 ダンと同じ考えになったのは、癪ですが同じ考えです。


 負けていられません!


「うおおおおおおおお」

「あああああああああ」


 魔力を爆発させて押し返す。


「「絶対に負けねぇ」ない」」


 それぞれの大天使に向かって跳び立つ。

 申し訳ありませんが、スケルトンたちは彼女たちに任せて、私とダンは大天使に挑みます。

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