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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第十章

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帝国潜入 終

《sideダン》


 魔王の手下を倒した俺たちは周囲の調査を行なって、異常に数を減らした帝国民を確認した。

 生き残った帝国の民を見つけられたことで、《暴食》のルピナスによってほとんどの帝国民の命が失われてしまったという。


 帝国民だけでなく、魔物や生きている生命体はほとんどが襲われたそうだ。

  

 調査を終えたことで、帝都に帰還するルートの途中。


「聖女ティア殿よ。貴殿のおかげで多くの民を救うことができた。感謝する。そして、絆の聖騎士よ。貴殿の力があったからこそ奴を倒すことができた感謝する。我から貴殿に感謝をこめて、帝国の男爵位を授けよう」

「それは?」

「正式なものではない。今は名を授けるだけだ」

「わかりました」


 帝国式の礼を尽くして、カウセル王が勇者の剣を俺の肩に置く。


「帝王カウサル・バロックク・マグガルド・イシュタロスが認める。絆の聖騎士ダンよ。貴殿に帝国での地位である男爵位と我が勇者の剣を授ける」

「えっ! はっ! 謹んでお受けします」

「うむ。そなたにはマゾフィストという姓を授ける。これよりダン・D・マゾフィストと名乗るがいい」

「ありがたき幸せ」


 カウサル帝王から略式で男爵位を授かってしまった。


 さらに礼を告げられて、俺たちは驚くと同時に疑問に思うことになった。

 今の帝王からは、王国へ強行して戦争を仕掛けるような人物には見えない。


「どうして三カ国に強引な戦争を仕掛けられたのですか?」


 代表して聖女ティアが言葉をかければ、カウサル帝王は疲れたような顔を見せる。


「まだ、我には時間があると思っていたからだ。だが、いつからか我の体に別なる存在が入り込んだように病魔が我の体を侵食していく。出される薬を飲んでも気休めにしかならなくなった」


 こんなにも歳を取っていただろうか? マーシャル様やゴードン侯爵はカウサル帝王と同じ歳だが、これほど老けてはいなかった。


「カウサル帝王様!」


 遠くから聞こえてきた声によって、帝国軍がこちらに向かってくる。

 

「うん? お主はジュリアのところの」

「はっ! イシュタロスナイツ第五席ジュリア・リリス・マグガルド・イシュタロス部隊、歩兵部隊隊長ゼファーです!」

「うむ。このようなところにどうした?」

「はっ! ジュリア様の命により、爆発の原因を解明するために参りました。必要であれば、救援なども兼ねて力仕事ができる者たちを引き連れて参りました」


 屈強な歩兵部隊がゼファーに率いられてやってきた。


 だが、ここにきて俺は危機感を覚えていた。

 ゼファーとは王国剣帝杯の時に対戦して顔が割れている。


「うむ。こちらは教国の聖女ティア殿。そして、聖騎士のダン・D・マゾフィストだ」

「えっ? ダン・D・マゾフィスト? 聖騎士ダンと言われましたか?」

「そうだ」


 ゼファーが回り込んで俺の顔を見ようとする。

 だが、それは兜を深く被って難を逃れようとするが、動きの速さはゼファーの方が上だった。


「やはり! カウサル帝王様! こやつは王国のスパイです!」

「うむ。知っておる」

「えっ?」

「はっ?」


 カウサル帝王の言葉に俺とゼファーが驚いた声を出す。


「知っておられたのですね」

「うむ。教国には聖騎士は居れど聖なる武器を持つ者はいない。そして、絆の聖騎士として名を売っているダンという青年が王国にいるという話はジュリアから聞いている」


 カウサル帝王は最初から俺たちの存在を知っていたというのか? ならどうして勇者の剣を俺に?


「いつから?」

「貴殿らが帝国に入った時から、疑ってはいた。だからシドに探らせていたのだ。それに大罪持ちの女性。あれは男だ。まぁ男にしておくのは惜しいと思うほどに美しくはあったがな。だが、現在の大罪持ちの動向は常に帝国でも監視している。その中で《怠惰》を口にできる女装した男は一人しか我は知らん」


 どうやらリュークの存在もカウサル帝王は看破していたようだ。


 じゃどうしてリュークたちを逃して、俺たちを連れ出したんだ?


「貴殿らはラグナレックという言葉を聞いたことはあるか?」

「ラグナレック?」

「世界の終末だ。 神々と怪物が壮絶な戦いを繰り広げたのち、全世界が炎に包まれ、大地は海に没する。そうやってラグナレックは完成する。我は魔王こそが怪物であり、壮絶な戦いを引き起こす存在だと思っていた」


 カウサル帝王様の話の途中で帝都に向かう馬が足を止める。

 空は黒い雲に覆われて、白い羽を持った一団が降り注ぐ。


「だが、我は判断を誤った。いや、誤らされた。シドによってな。あれの侵食はもっと遅いと思い込んでいた。まさか、シドの体を、心を奪うほどだったと」

「カウサル帝王様! あれはなんなのです?!」

「神々の使徒だ。天使族と呼ばれている。かつて、世界を支配していた種族だ。そして我の祖先」

「カウサル帝王の祖先とは、どういうことですか?」

「かつて、我々イシュタロス族は戦闘民族と呼ばれていた。だが、それ故に危険視されて小国家郡の罠にハマり絶滅寸前まで追いやられた。だが、我が力を手にしたことで状況は一変した。そして、シドが情報を集め新たな力の目覚め方を知る方法を手に入れたことで、我々は破滅への道を突き進むことになってしまった」


 カウサル帝王は、先ほどよりも老け込んでおり、頭は白くなってシワが増えていた。


「シドは触れてはいけない過去の魂に触れて、呪われてしまった。そして、我もまた本来は体を蝕む魂を消滅させたことで力を……」


 話の途中でカウサル帝王は座り込んで、黙り込んでしまう。


「聖女ティア様?」


 ゼファーの声にティアは首を横に振った。

 どうやら、先の戦いで力を全て使い果たしていたのだろう。

 カウサル帝王は、事切れておられた。


「……お悔やみ申し上げる」

「いや、カウサル様は俺たちに何かを託そうとした。それは全て帝都にあるのだろう」

「いくのか?」

「もちろんだ。絆の聖騎士ダン・D・マゾフィスト殿、あなたはどうする? これは帝国の問題だ。あなた方には関係ないことだ」

「何を言っている? カウサル帝王は言われていたじゃないか。世界の滅亡だと。もう帝国や王国などと言っている場合じゃない! 俺もいくぞ」

「ありがとう。一人でも強き者がいてくれることは心強い」


 ゼファーに握手を求められて、カウサル帝王の埋葬を数名の帝国兵が行い。

 聖女ティアが弔いの祝詞を告げる。


 カウサル帝王の武器である勇者の剣を腰に納め、進軍を開始した。


 目指すは帝都! そこに全ての答えが待っている。

 

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