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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第十章

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帝国潜入 7

《sideタシテ・パーク・ネズール》


 私は夢を見ているのでしょうか? 白い羽を生やした大群が空から舞い降りてきて、宮殿の周りに着地していきます。


 女性も男性も帝都に住んでいた全ての民に羽が生えているのです。


 ですが、その一団の中に見たことある人物であるムーノ様はどうなってしまうのか? この場で通人族として存在している自分の方が異常な存在に思えてしまう。


「おやおや随分と集めたものですメェ〜。天使族を憑依させるのに犠牲になった人たちにお悔やみ申し上げますメェ〜」

「お前がそれをいうのか?」

「うむ。どうやら私の力をご存知のようですメェ〜。ならば、隠す必要もありませんメェ〜」


 ヤギの顔をした《邪淫》のバホットと名乗った魔王の手下は、どこからともなくベルを取り出して鳴らし始める。


「我が軍団よ! 目を覚ましなさい!」


 軍団などどこにいるのかと思っていると、帝都中から腐敗臭のような嫌な匂いが鼻を察す。


「臭いです〜」


 ナターシャはナプキンを取り出して、自分と私にマスクを作って渡してくれた。


「この匂いは?」

「死体の腐敗臭〜です〜」

「えっ?」


 ナターシャに言われて、私たちはシド叔父上がおられるバルコニーへ飛び出した。


 広いバルコニーから帝都を見下ろせば、ゾンビのような死人達が地面から這い出てくる。


「ふふ、あははははははははは!!! 一体どれだけの怨念や死霊が集まっているのですか? この地下にはダンジョンがあると言われていましたね。随分と大勢の人を殺したようだ」


 まさか、これが魔王の配下の力? 死体を呼び覚ます? これではネクロマンサーではないか?!


「こんなこんなものが!」

「ふふ、通人の生き証人ですメェ〜。いいですメェ〜。お二人は生かしてあげますメェ〜。面白いですメェ〜」


 ヤギの頭をした魔族は異質な力を持っている。


 天使族の魂に乗っ取られたシド叔父上は、それをわかっていたようにバホットを睨みつけている。


「通人族が作り出した通人至上主義教会という名称はあながち間違いではないのですメェ〜。天王は通人族を自分が作ったと思っているメェ〜。しかし、魔王様も通人に作用ができるようになっているメェ〜。通人族は他の種族と子を成すこともできるメェ〜。亜人族は同じ亜人としかできないのにですメェ〜。これって不思議に思ったことはないですかメェ〜?」


 気持ち悪い笑みを浮かべるヤギの顔。


 私は理解が追いつかなくて、シド叔父上を見ました。


「簡単なことです。魔王と天王様を作り出した創造神様が、作り出した存在。それが通人であり、魔王や天王様の出来損ないが通人族です」


 シド叔父貴の言葉に私は愕然としてしまう。

 失敗作? 私たち通人はすべて?


「そう! そうだ! 通人族とは、全てに通じることができる人という意味だ。普通の人ではなく。様々な可能性を持ちながら二人の王から失敗作だと思われ続けた存在。だけど、たまに生まれるイレギュラー。魔王様は特別な者たちに《大罪》を授け、実りが完成する瞬間を待っている。そして、天王は聖なる武器を渡して自らの駒を作り上げる」


 シド叔父上とは逆にバホットは可能性の塊だという。


 二人の言い分は正反対に見えて、似ていると感じてしまう。


「ですが、魔王様が自らの配下ではない者たちの抹殺計画を発動された。それは天王との決着をつけるということです。どうやら新しいオモチャを見つけられたのかな。ふふ、我々配下は魔王様の望みを叶えるまで……。おや、私の弟たちが何者かに殺されたようですね」


 リューク様だ! 巨人に会われて倒されたのだ。


 ただ、たちということは他にもいたのか?


「ですが、丁度いい。天使族を倒すのに駒が足りないと思っていたのです」


 バホットがベルを鳴らすと二体の異形が姿を現した。


 虫のような体をした化け物と、毛の塊を纏った巨人。


「死してな、力を失わない。流石は魔王様です。さぁ、存分に力を振るうがいい。《暴食》よ。《欺瞞》よ」


 虫の体をした《暴食》と呼ばれた化け物が巨大な口を開いて天使族に喰らいつく。

 それを合図にして、天使族とゾンビによる全面抗争が開始される。


「タシテよ。私はシドであってシドではない。シドにこの体をもらい受ける代わりに、貴殿らの命を助けることを約束した。この場では見逃そう。どこへなりといくがいい」


 天使族と魔族。


 二大勢力の司令官から、見逃す宣言をされて通人族唯一の存在。


 どうやら街中を見にいっていただいた方々の命はもうないのでしょう。


「ナターシャ。すみません」

「タシテ様〜?」

「私はリューク様の第一の手下として、バカにされたままこの場を去ることはできないようです」

「ふふ〜、タシテ様は〜昔からカッコ良い方でした〜」

「ありがとう。ただ、正面から戦うわけじゃない。私たちの戦いは情報を集めることだ。この戦いを見させてもらう」

「かしこまりました〜」


 私たちは覚悟を持って、この場に残ることを選んだ。

 それはこの場に訪れるであろう、あの方に一つでも情報を渡すために。


「おや、立ち去らずに見守るのですかメェ〜」

「勇敢だが、無謀なことだ」


 シド叔父上も、バホットも、私たちの行動に話題に上げながら、視線はもうこちらを見ていない。

 互いを滅ぼすために、力を使うタイミングを図っているのだろう。


「死ぬがいいメェ〜」


 先に動いたのは、バホットだった。

 ベルを鳴らすと宮殿内にもゾンビが溢れかえる。


「そんなものか?」


 シド叔父上は雷を迸らせて、現れたゾンビたちを全て灰へ返してしまう。


「お見事メェ〜」

「小細工が通じると思うなよ」


 天使族と魔族の人智を超えた戦いに息をするのも忘れそうになってしまう。

 怖い、足が震えてこの場にいたくない。

 それでも、自分はリューク様が望むがままにこの戦いを見届ける。


 全ては彼の方のために……

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