今後の方針
ボクはジュリアの説得が叶ったことで、タシテ君たちを呼び寄せて天幕を二つ建てた。
さらにバルニャンには偵察を兼ねて、爆発が起きた地域の確認に向かってもらった。
「クロマ、拡声の魔法を頼めるかい?」
「はい!」
ボクは眠ってしまっていた12000人の帝国兵を目覚めさせた。
「ジュリア」
「ああ」
「我が兵たちよ。状況は変わった。この場で休息を取る天幕を張って休息せよ!」
ジュリアの声が12000人の帝国兵へ伝えられる。
本来であれば、あれほどの大きな声を出せば魔物が寄ってくるが、ボクがオートスリープを使って全てを退ける。
唯一建てられた二つの天幕には、タシテ夫婦と、ボクと四人の妻たちで別れて使う。
我々の下へジュリアが訪れた。
その後ろには四人の三人の人物が付き従う。
「邪魔をするぞ」
「ああ、いらっしゃい」
十人ぐらいが使える三つの天幕を繋いだ巨大な物なので、四人がやってきても広々として使える。
「いらっしゃい」
「ジュリア様」
ジュリアの隣にいた美しい女性が怪訝な顔をしてボクを睨みつける。
エリーナは顔が帝国でも顔が知られているので、今回は奥で隠れてもらっている。
「ええ。彼はアレシダス王国カリビアン伯爵の夫、リューク・シー・カリビアンよ」
結婚してからは、正式名称で名乗るのは初めてなのでむず痒いね。
皇国があんなことになったから、ボクが死を偽装する必要もないからね。
ジュリアには正式にカリンの婿になっていることで、名乗ることにした。
今は、カリンが第一正妻。シロップを第二正妻。リンシャンを第三正妻に迎えている。
ノーラやアイリスは妻という括りに縛られなくていいということで、正式な妻ではないけど愛し合っている。
エリーナは正式な妻ではないけど、妻として迎えるのであれば第四正妻として扱うことになる。
ココロも立場的には皇国の皇女ではあるが、死んだことになっているので王国では平民で妾扱いだ。
この辺はボクとしては正式なことはどうでもいいと思っている。
彼女たちに何かあれば何があっても駆けつけるつもりだし、守ると決めているから。
「お初にお目にかかるアレシダス王国伯爵代理、リューク・シー・カリビアンだ」
「伯爵風情が!」
どうやら肩書きを気にする女性のようだ。
こういう女性の扱いは上手くはないけど、先に力関係は見せておいて損はない。
「頭が高い」
ボクは指を振り下ろして三人を膝をつかせる。
ジュリアを除いて、三人に向かって無属性魔法を発動する。
マルサ師匠から様々な無属性魔法を習ってきた。
ボクとして、イタズラ心で魔法を使う。
「さて君たちの動きや呼吸を止めさせてもらった。このまま三分も心臓の動きを停止していれば死ぬことになる。それまで待とうか?」
ボクは椅子から立つこともなく、三人の人間を殺せる魔法をリベラの父であるマルサ師匠から学んでいる。
今まで力を行使して戦う際には、ボクはほとんど戦うのが嫌だから、最後の強敵ばかりとしか戦ってこなかった。
だから、《怠惰》に頼ってしまっていた。
それ以外の場合は、ほとんどがバルニャンに圧倒してもらうことが多かった。
だが、レベルがかなり上がっていて、彼女たちに三人ぐらいならば指を鳴らすうだけで相手ができてしまう。
「リューク、もういいだろ」
「わかったよ」
ジュリアに咎められるような視線を向けられてボクは三人の拘束を解いた。
いきなり呼吸と体が動くようになった三人は地面に手をついて息を荒くしている。呼吸だけじゃない。心臓も肺も全てが止まっているので、全身に血液が回っていないためにいくら、ボクに対して攻撃を仕掛けようと思っても身動きが取れない。
脳が働かないのはもちろん、体へ血液が回っていないので筋肉も稼働しない。
それからさらに三分ほど経って、三人の呼吸が落ち着いたところで、ボクはジュリアに椅子を薦める。
「リュークの力が理解できたわね」
「……ジュリア様。この者は危険です」
一人だけ睨み続けていた女性がなんとか言葉を発する。
軍服をきて拳銃を持った女性はぐったりと倒れ込み。
グローブをつけた男性はボクへ闘気を向けてきたので力の差を見せつける。
「ええ、そうね。私も重々承知しているわ。だけど、彼の力が必要なのも事実よ」
「どうしてですか?! 我々だけでも!」
何か反論をしようとした女性に、ジュリアが無言で圧力を放つ。
「我々12000人は、先ほど彼の魔法によって眠らされた。その間に死んだということです。それもわからないままに、そしてあなたたちは彼が力を示して脅威を教えてくれたことを否定するのですか?」
「ぐっ」
ジュリアの言葉に先ほどから反抗的な態度をとっていた女性が諦めたように息を吐く。
「失礼をした。私はジュリア様の副官を務めるソレイユと申す。すぐに人を信頼してしまうジュリア様のことを思って疑うことを口にしてしまった非礼を許してほしい」
言葉と表情は申し訳なさを表しているが、手はグッと握り込んでいるとろこを見れば彼女は頭を下げることを良しとは思ってはいないんだろう。
彼女が何かを抱えているようだが、それを解決するのはボクの役目じゃない。
「ああ、それじゃこれからの話をしようか?」
「これからの話?」
「ああ、ボクの手の者が偵察に向かっている。その結果次第だが、今後の方針を決めていこうと思う」
「一体どうやって?」
「それは」
ボクが説明する前に、バルニャンが戻ってきた。
突如現れた女性にジュリアたちが驚くが、バルニャンはそのままボクの額に額を当てて見た景色をトレースしてくれる。
「なるほどな。ふぅどうやら魔王ではないようだね」
「どう言うことです?」
「魔王の眷属が、帝国に降り立ち帝国内で暴れているようだ」
バルニャンが見たのは、全身毛むくじゃらの巨人だった。
街を薙ぎ倒して海へ向かって走っていったそうだ。




