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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第十章

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手紙の内容

 あの日、ボクらの道は別々の道を歩むことになった。

 互いにそれぞれの国から離れることができなかったから、ボクにはカリンやシロップがいて、リューの街があった。


 ジュリアには、帝国という国の内戦を終わらせるという目標があった。


「ジュリア、今一度問おう。ボクの手を取る気はないかい?」


 帝王は帝国を統一したにも関わらず、戦争をやめなかった。

 それはジュリアの思いとは異なるはずだ。


「……あなたに問いたいことがあります」

「なんだい?」

「どうしてこんなことを? あなたなら正面から帝国を奪うこともできたはずだ。こんな回りくどいことをして、大きな戦争なんて起こさなくても」


 彼女は何を聞きたいのかな? ボクは元々何かに干渉するつもりはなかった。

 ボクが愛したゲームのヒロインや主人を助けるため、そして自らが迎える破滅を回避して自分が生き残るために努力してきた。


 本来なら、死ぬはずだった二十歳を超えることができた。

 今では、結婚して子供も生まれた。

 それはボクに取って幸福で穏やかな日々を送る場所ができたということだった。


 だけど、世界には魔王が存在している。

 魔王は世界を滅ぼすために動き出す。

 その前に本来であれば、ダンが世界を一つにして気持ちを整えることが必要だった。


 それは叶わなかったが、起こるはずだった王国の内乱を止めて魔王を迎えるはずだった。

 

 だけど世界を巻き込む戦争は、帝王カウサルの手で起こされてしまった。


 どこかで歴史が歪み、本来もっと後で起こるはずだったことが、早く起きてしまっている。


 それは王国の内戦によって生じた小さな摩擦や。

 通人至上主義教会によって迫害されてきた亜人や魔人が受けていた差別。

 

 そんな人々の不平不満を魔王が暴発させて起こす出来事とは異なるスタートを切った。

 

 通人至上主義教会はアイリス姉さんを聖女としたことで王国内で改革が起こった。

 皇国はテスタ兄さんの侵略を受けて弱体化した。

 教国は教皇と聖女が対立をやめて手に手を取り合うことで、迫害を止める方向に向かっていた。


 世界は魔王の思惑からズレて混乱しないはずだった。

 だが、帝王カウサルによってボクの思いとは別の方向に動いてしまった。


 その事情を知ったのは、先ほどのタシテ君の手紙だったけどね。


「帝王の病」


 ピクッとジュリアの方が震える。


「お父様は!」

「長くはないだろう」

「そんなことはない! 私が出立する時のお父様は元気な姿をしていた!」

「信じたくない気持ちはわかるが、これは事実だ」


 本来の帝王はダンが成長して魔王と戦う頃には亡くなっていたはずだ。

 つまり、そこまでは帝国は統一されることなく、内乱を続けていたことになる。


 お姉様もゲームでは登場するキャラではない。

 プラウド父上も、魔王を倒す前のボスとして登場するだけだった。


 本来、貴族派の指揮を取っていたのはテスタ兄上だったはずだ。


 少しずつ変化した未来は、帝王カウサルを暴君へ仕向ける準備を整えてしまった。


「嘘だ! 今、父上が倒れれば帝国はどうなる!」

「アウグス・バロックク・マグガルド・イシュタロスが帝位を簒奪するだろう」

「兄上が!? そんなことシド様が許すはずがない!」

「すまないな。そこまでの事情はボクも詳しくはなくてね」


 もしかしたら、タシテ君が関わっているかもしれない。 

 だが、ボクはそこまでの事情を知りはしない。


「リューク、あなたには何が見えているというのですか?」


 ボクは大人向け恋愛戦略シミュレーションゲームの結末を覚えているだけだ。

 この世界に数年を過ごしたことで細部までは覚えていない。

 経った時の分だけ、曖昧になってしまっている。

 ただ、重要ストーリーやイベントの分岐点は今でも覚えている。


「ボクはこの世界の未来を見ている」

「それは私だって!」

「ああ、だからだよジュリア。君は選択を迫られている。君の選択によって多くの者たちが死ぬことになるかもしれない。選べ! ボクの手を取って共に戦うのか? それともボクの手を振り払い大勢の犠牲を出すのか?」


 ボクがジュリアと協力できるなら、大勢の者たちを救うことができる。

 それは今後の帝国を大きく変えることができることを意味している。


「……教えて欲しい」

「何だ?」

「あなたは帝国を滅ぼすと言った。そんな相手と私はどうやって手を取り合えるのだ?」


 ジュリアの瞳には決意が込められていた。

 だから、ボクは最後の言葉を重ねる。


「民主制にすればいい」

「はっ?」


 ボクから出た言葉の意味がわからなかったようだ。

 決意を込められた瞳が意表を突かれたように、揺らめいた。


「帝国はこれまで多くの悲しみを背負ってきた。それは互いに互いを理解できない他人だったからだ。だが、帝国の帝王は、全て民を帝国の国民にした」


 統一は無駄じゃない。


「だが、様々な種族が入り乱れる現在では、絶対に納得できない者たちが現れる。その者たちは反発するだろう。反旗を翻してレジスタンスを作るだろう。いつか革命を夢見て自由を求める。それを何度も何度も潰すことが何年も続くだろう。それは帝国として安定しているのか?」


 ボクはさらに言葉を重ねてジュリアの思考にはない話をする。


「だが、互いを知り。棲み分けができるなら、お互いができないことを知ることで、互いに歩み寄る方法を考える民主制度をつくればいい。だがどれだけ完璧な制度も永遠ではない。いつかは崩壊するだろう」

「それじゃダメじゃないか!」

「ダメじゃないさ。ボクらの体は永遠じゃない。未来は未来の子達が考えることだ。ボクらができるのは土台を作ってやることだけだ」


 ボクは伝えたい言葉を全て言い終えた。


「帝国を潰して民主制に……本当に上手くいくのか?」

「わからないさ。ただ、巨人が、聖霊族が、魔人が、通人族が、本当に一緒に暮らすことが幸せなのか? それぞれの種族が交流することはいいことかもしれない。だけど、思想や崇める神も違う。風習や生き方、食べる物や量も違う。それでも一緒にいる意味は何だ?」

「それは……手に手を取り合って笑い合えれば……」

「もうわかっているんじゃないのか? それは通人族のエゴだ。他の種族は望んでいない。いや、仮に望んでいたとしても自分たちの生活を守りたいと思ってもいるはずだ」


 ボクは大きく息を吐いた。

 ここまで伝えても、ジュリアの心が折れないのであれば、ボクはこれ以上重ねる言葉を思いつかない。


「リューク。あなたは私以上にこの地に住まう者のことを考えているのだな」

「別に、ただ一緒にいるだけで面倒なことになるのに、どうして一緒にいたがるんだろうって思うだけだよ」


 面倒ごとを起こして後始末に駆り出されるのは本当に勘弁してほしい。


 ボクがため息をつくとジュリアは頭を下げた。


「まだ、リュークがいうことが正解なのかはわからない。だけど、あなたが理想を持って行動していることは理解できた。その理想を見極める間、一緒にいてもいい」


 素直ではないジュリアの言葉にボクは苦笑いを浮かべてしまう。

 

 ただ、ジュリアから伸ばされた手を今度は掴むことができた。



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