帝国陣営 6
《sideカウサル・バロックク・マグガルド・イシュタロス》
我は突如として巻き起こった爆発の前に、邪悪な魔力を感じ取っていた。
それは友であるプラウドを彷彿とさせる《大罪》魔法から発せられる気配と同じものを感じものだ。
帝国内に招き入れた者かと危惧したが、それとは違う。さらに禍々しい気配に我は、勇者の剣を手にとる。
「帝王様!」
「シドか。どうやら魔王、もしくはそれに連なる者が現れたようだ」
「なっ! 魔王の眷属だというのですか?」
「うむ。かなりの強さを持った邪悪な存在に、勇者の剣が反応しておる」
「それでですね」
シドは苦悩を表す表情を見せる。
「どうかしたのか?」
「私のダンジョンから貸し与えておりました、ゴッドマン殿、イレイザー殿の気配が消滅しました。それに伴い聖なる武器もダンジョンに戻ってきております」
「……そうか、我よりも先にあやつらが先に逝ったか」
「侵入を許してしまったのは私の失態です。私自ら」
「ならぬ」
「しかし!」
「今は、王国との決戦も迫っておる。現在の総指揮官はアウグス・バロックク・マグガルド・イシュタロスに一任しておるが、シドが王都を離れては、統率が難しくなる。アンガスは何をしていおる?」
このような時のためにアンガスを王都に留めていたというのに、肝心な時におらぬ。
「侵入者を追いかけて未だに帰ってはおりません」
「それもまた魔王の策略かもしれぬな」
「ならば、我がいくしかあるまい」
「帝王様自ら!」
「護衛として、聖女ティア殿と、聖騎士がいると言っておったな。そやつらを連れていく。数名の世話係を頼む」
魔王に一矢報いるために、これまで力を温存してきたが、それも時がなくなってきてしまった。向こうから来てくれたのであれば、温存した力を振るう時よ。
「かしこまりました。物資と馬車。それに医療班も付けさせていただきます」
「うむ。シドには世話をかけるな」
「何を言われますか、私と帝王様の仲です。最後の時が穏やかであれば良いのですが、どうかお戻りのなることを願っております」
温存した力を使うということは我の寿命は尽きることだろう。シドと話すのは最後になる。
だが、それを知ってもシドは我に戻ってこいという。
くくく、意地の悪いやつだ。
「準備をせい」
「はっ! アンガスに連絡が取れ次第向かわせます」
「うむ。シド」
「はっ!」
「もしもの時は、お前が帝王になれ」
「なっ! 私は器ではございません」
「そう思うならば、貴様が思う人物を帝王につけよ。我が子に遠慮する必要はない」
「……かしこまりました」
シドは最後まで我に忠義を尽くしてくれた。
その信頼があるからこそ、我は旅立つことができる。
♢
シドが早急に用意してくれた馬車に乗り込むと医療班の主治医カンヌが乗り込んでいた。
「カンヌよ。貴様は王都にいても良いのだぞ」
「カカカ、何を言われますか、帝王様! あんたの病気を見てきたのはワシじゃ。あんたを生かすも殺すもワシ次第じゃ!」
「ふっ、随分と傲慢なことだ」
「生い先短いジジイ同士。あとは若い者に後を継がせますじゃ」
「すまんな」
「なんの。帝王様の苦労を思えば何も何も」
昔馴染みはどんどんといなくなる。
帝王になった我は孤独になった。
対等に話せるものはほとんどおらず、立場や苦悩をわかるものはいない。
それでも立ち続けなければならない日々は、疲労が積もる日々であった。
頭痛がしない日はない。
体調が戻らなくなったのはいつだったか? リセットを使っても力は衰えるばかり。
もしかすればこれが我が力を使ってきた代償なのかもしれぬな。
「帝王様、共に旅をさせていただきます」
「聖女ティア殿、急な討伐依頼を出してしまって申し訳ない」
「何を言われるのですか! あのような災害を起こす者を捨て置くことはできません。必ず我々で討伐いたしましょう」
「貴殿も?」
「はい。邪悪な存在を感じました」
「うむ。さすがは聖女だ」
我と同じ感覚を鋭利に感じ取れる。
さすがは聖女だ。
聖なる武器を持たず、その身こそが聖なる武器と同じ価値をもつだけある。
「ならば、我らが進むべき道を示してくれ」
「はい! まずは北西部へ」
「うむ。同意である」
二十名ほどの少ない人数ではあるが、我々は行軍を開始した。
一つ気になるのは、大罪持ちの女性がいないことだ。
こちらに来た当初に会って、此度の行軍でも共にしてくれれば強力な力を発揮してくれたであろう。
「大罪持ちの女はどうしているのかね?」
「彼女は……いなくなりました」
「なっ! そうか。大罪持ちは短命であると聞いたが、失礼なことを聞いた」
「いえ、力を尽くしましたが、今回の旅に同行してくれただけでもありがたく思っております」
「うむ。手厚く葬れたなら良いのだが」
「彼女は慎ましやかな葬儀を望みましたので」
「そうか……。この旅が終われば……」
自らの死を予感して、言葉を詰まらせてしまう。
「敵は魔王に連なるものだと思う。どうか力を貸してほしい」
「もちろんです」
我々の先頭を走るのは教国の聖騎士ダンだ。
帝国に来た時よりも強い力を感じる。
何かを守ろうとする者は強くなる。
我の勇者としての力と同じ、もしくは衰えた我よりも、高まりつつあるように思う。
「アンガスが気にいるわけだな。どのような力に目覚めたのであろうな」
我は勇者として、力を振るえただろうか? 最後の旅を聖騎士と聖女を共にすることで、私が勇者として旅に出るとはな。
ここに魔導士がいてくれれば勇者パーティーとして伝説の話のようだ。
夢物語に縋ろうとする、我は心が弱っているのだろうな。




