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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第十章

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王国陣営 3

《sideユーシュン・ジルク・ボーク・アレシダス》


 帝国との戦争が始まってすぐに、我々王国兵五千は崩れて侵入を許してしまった。

 すぐにテスタ・ヒュガロ・デスクストとバドゥ・グフ・アクージの二人によって、国境は閉じられて防ぐことに成功した。


 これまで朕は多くの政治的な政策を行なってきたが、いざ戦争になった際に、こんなにも無力なのかと自分に絶望してしまう。


「ユーシュン王よ」

「なんだ、ガッツ」

「ダンを潜入させる許可をもらいたい」

「潜入?」

「そうだ。ダンは個人で十分にイシュタロスナイツを倒せる実力を持っている。やつなら背後から敵を討てるかもしれない」

「討ったところでどうだというのだ?! 朕は無力だ。好きにしろ」


 朕はどこかで自分は優秀な人間だと思ってきていた。

 だが、今の朕は王国の貴族をまとめることもできない。戦争で活躍することもできない。


 人材も、物資の流通も、戦争の指揮も……。

 何一つ上手く行っていない。



 帝国との戦争は、テスタを総大将として任命した。

 居るだけの朕は邪魔になると判断して王都に戻った。

 ムーノは、ダンと共に潜入するためにいなくなり。

 エリーナもいつの間にか王都を離れていた。


 兄弟姉妹たちが、王都を離れ残されたのは何も残らない玉座の椅子だった。


「ユーシュン王」

「なんだ。セルシル侯爵」

「お客様です」


 敗北を味わった数日後……。


 私の元へガウェイン・マーシャル様が会いにきた。


「マーシャル様。どうかされましたか?」

「迷いの森に異常が起きたので、やってきたのだ」

「異常?」

「うむ。魔物がいなくなった」

「なっ! そんなことが起こり得るのですか?」

「わからぬ。だが、それと同じ時期にベルーガ辺境伯から書状が届いた。我々も王国の大戦争に参加して欲しいという内容だった」

「オリガが?」


 懐かしい名前に、私は顔を上げてガウェイン様を見た。

 オリガは私でも及ばない優秀な人間であることはアレシダス王立学園時代からわかっていた。

 先を読む力に、卓越した知識はテスタも認めるほどだ。


「うむ。どうやら迷いの森、その先にある魔王の住処に何者かが、何かを仕掛けているようだ」


 魔王に仕掛ける? 何も聞いておらぬが?


「私もわかってはいない。ベルーガ辺境伯が、今なら我々も動けると断言してくださった。そして、ベルーガ辺境伯は皇国を説得して帝国との和平に繋げる動きをするとも書かれていた」

「はっ? ここまできて和平? はは、そうか朕の首を差し出すのだな? 貴様らは貴族のプライドを捨て、朕を……。いや、朕は敗北した。処刑されるのであればそれが一番王国の民を救う方法か……」


 お笑い種だ。少しでも抵抗しようとした自分の浅ましい考えが民を苦しめたのだ。


「いい、好きにしろ」


 項垂れる朕にガウェイン様が近づいてきた。


 そして、襟元を握って体が持ち上げられる。


「ぐっ! なっ、何をする!」

「ユーシュン王よ。貴様は戦いを諦めているのか?」

「なっ! それは貴様らであろう。朕を差し出して和平をしようとしているのであろう!」

「何をバカなことを言っておられるのか? ベルーガ辺境伯様が言われておったわ。現在帝国に、王国と教国の最高戦力が帝国に潜入している。さらに、帝国の一部を懐柔している最中である。つまりは帝王と、それを支持する者たちを倒せば和平は成功する。ユーシュン王よ。貴様の役目は和平交渉であり、和平がなった後の外交であろう。自分の仕事を見誤れるな」


 玉座へと押し付けられた体は震えていた。

 恐さではない。自分の不甲斐なさにだ。


 テスタ・ヒュガロ・デスクストスは、総大将として今も戦っている。

 ガッツは帝王を倒すために弟分を潜入させてた。

 オリガ・ベルーガは、策を使って王国を生かそうとしている。


 同級生たちが、自分が諦めた王国を建て直そうとしているのに朕は何をしているのだ……。


 いや、何もできていない。


「ユーシュン王よ」

「セルシル侯爵?」

「軍はすでに我々が整えました」

「えっ?」


 ガウェイン様とセルシル侯爵に導かれ、バルコニーに向かえば、王都に大勢の人々が集まっていた。


「王を支持する、マーシャル家、チリス家の精鋭たちです。さらに、ベルーガ辺境伯から兵を借り受け。カリビアン伯爵から物資の提供も受けました。さらにはデスクストス領の聖女アイリス様より回復術師の提供も受けています。総勢十万の軍勢です」


 朕が声を上げた時、テスタに否定された。

 貴族派を頼りにした朕では誰も動かないと。


 だが、セルシル侯爵が、ガウェイン様が朕のために兵を集めてくれたのだ。


「マーシャル様、私に軍を指揮する技量はありません。実質の指揮をお任せしたい」

「任されよう」

「セルシル。参謀として朕と歩んでくれるか?」

「喜んで」

「ガッツ、朕を今でも信じているか?」

「王に忠誠を」


 三人の顔を見て、朕は涙を流す。


「ありがとう。情けない王ですまぬ。だが、皆の旗としての役目は果たして見せる」


 朕はバルコニーから兵たちに声をかける。


「王国は未曾有の危機に直面している。帝国は巨大であり、王国を飲みこうもうとしている。だが、そのような暴挙を許すわけにはいかぬ。どうか朕に力を貸してほしい。帝国の悪意を振り払い! 王国の地を守ってくれ!」


 朕の言葉に兵士たちから反応がない。

 不安に思って彼らを見れば、槍を持った騎士たちが地面を叩き。剣を持つ兵士が足踏みをする。

 それは次第に盛大な音となって、彼らの戦意が伝わってくる。


「「「「ユーシュン王、万歳」」」」

「「「「ユーシュン王、万歳」」」」

「「「「ユーシュン王、万歳」」」」


 ありがとう。


 朕はもう一度、立つための資格を得られた。


 軍勢を率いて、国境に到着した。


 朕が見たのは破壊された国境の壁と、押し寄せる巨人と魔人の軍勢だった。

 その前に立つテスタの姿に、申し訳なさと……共に戦える誇りを胸に朕は号令を放つ。


「全軍進め!!!」


 朕の声に、帝国兵五十万に対して、王国兵三十万の大乱戦が始まる。


「テスタ」

「……」

「遅くなった。朕はこれより王などという肩書きではなく、一人のユーシュンとして共に戦いたい。同じ王国の民として戦わせてほしい」

「ふん。遅かったな。だが、少しはマシな顔になったようだ」

「よくぞ、百万の軍勢を五十万まで減らしてくれた。感謝する。これよりは我々王権派や貴族派の垣根を超えて、王国の民は力を合わせて帝国を討ち果たす」


 テスタと共に戦えることを喜ぼう。


 肩を並べられる朕であることを見せる。

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