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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第十章

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王国陣営 2

《sideテスタ・ヒュガロ・デスクストス》


 世界が揺れるほどの巨大な爆発が帝国北西部で起こり、それは王国の国境沿いにも変化をもたらすのに十分な地震と火柱を見せつけた。

 

 それは世界を滅亡させるのではないかと思えるほど強烈な力を秘めていた。


 あの火柱は、自分の命を刈り取るに十分な力を秘めている。


「なんだあれは!」

「おいおい、マジで世界の滅亡か? てか、帝国は自国の領土で何やってんだよ」

「わからぬが、あの規模の爆発となれば、相当な人命が失われたか、もしくは高ランクの者が抑えつけたのか、意外に被害は大きくないようだ」

「そんなこともわかるのかよ。相変わらず出鱈目な感度だな」


 バドゥは最近馴れ馴れしくなってきた。

 確かにここ数年は共に行動することが多くなっているが、帝国との戦争で無理難題を押し付けたことで、砕けたようだ。

 こちらとしては、その人懐っこしさが嫉妬するほどに羨ましい。


 我にはできぬことを簡単にやってのける。


「五十万の軍勢もどうやら、動きを止めたようだぜ」

「そのようだ。こちらとしても物資の補給に休息が取れる」

「相変わらず合理的だな。まぁいい。俺も休ませてもらう。代わりに弟を呼んでおくぞ」

「うん? ディアスボラ・グフ・アクージだったか? 体調を崩していたのではないのか?」

「チューシン・シータゲ・ブフの治療を受けて、十分に回復しているよ」

「そうか、ならば仕事を頼むしよう」

「あいよ」


 我は国境に立って帝国陣地を見下ろす。

 五十万の軍勢たちは、戸惑いどうすれば良いのかわからないようになっているようだ。


 北西の領土を故郷に持つものもいるだろう。


 帝国軍と戦って分かったことは、帝国は食糧も与えず、百万の軍勢を使い捨ての駒のように扱っている。

 それはある意味で合理的でありながら、遺恨を残すことになるだろう。


「ディアスボラ・グフ・アクージ。ここに」

「よくぞきたな。我の依頼を継続してくれているようだな」

「はっ、すでに一生遊んで暮らせるほどの金額を請求しても良いと思っております」

「くくく、言いよる。いいだろう」


 我が帝国陣営を眺めていると、腰まで伸びた真っ赤な髪をした巨大な男が歩み寄ってくる。


 その身長は三メートルに手が届きそうなほど大きく。

 その肩には同じく巨大な槍が担がれている。


「王国の将軍よ〜!!!」


 巨大な声が国境を震わせる。

 先ほどの爆発によって混乱していた帝国兵も、あまりにも大きな声によってその動きを止めて声に耳を傾ける。


「俺こそイシュタロスナイツ第一位アウグス・バロックク・マグガルド・イシュタロスである!!! 帝国の総大将が前線に来てやったぞ〜!!!」


 なんと非合理的な行いをするのか?!

 将軍自ら前線で自らの居場所を知らせるなどあり得ない所業だ。


「貴様らも〜先ほど爆発を見たであろう!!! あれは帝国を揺るがす大事件である!!! 本来であれば時間をかけて王国を消耗させた上で侵略をするつもりであったが、もう時間がない!」


 巨大な声に全ての者たちの注目が集まる。


 なんという存在感。

 なんというカリスマ性。


 帝国の次代の王は、確かに奴であると知らしめている。


「そこで俺自ら国境を破壊させてもらう。ただ、一言申す。すまんな」


 そういうとアウグス・バロックク・マグガルド・イシュタロスは、担いでいた槍を投げるための構えをとる。


 炎のように揺れる赤い髪が逆立ち、その巨大な体から離れる一撃は重かろう。


 だが、それでも魔力によって強化された国境線は、そう易々と破壊できる物ではない。むしろ、どれだけ強い武器で攻撃しようとしても破壊できないように作られているのだ。


「イシュタロスナイツ第一位アウグス・バロックク・マグガルド・イシュタロスが命じる聖なる槍よ。俺の力を示せ、我が力は《破壊》全てを破壊できる力を持つ者なり、いくがいい《デストロイ》」


 放たれた槍は勢いそのまま国境へ向かって飛来する。


 だが、破壊できるはずがない。

 どれだけ強い衝撃で攻撃しようと、魔法を放とうと国境は存在を示し続けるように作られているのだ。


「なっ!」


 しかし、崩れ去る足場に宙を舞う我が身。

 

 そして初めて知ることになる帝国イシュタロスナイツ第一位の強さ。


 嫉妬せずにいられようか? いや、無理だ。


 あの力は我がどれだけ望んでも手に入れることができなかった力。


 このような呪われた力とは違う。

 聖なる武器を覚醒させた、通人としての最高到達点に達したものだ。


「ぐっ!」

「テスタ様!」


 ディアスボラの糸によって作られた、ネットによって着地した我は仁王立ちするアウグス・バロックク・マグガルド・イシュタロスを見上げる。


 他の帝国兵とは明らかに違った強さを持つ異質な存在。

 

 それは三メートルの大男であり、その後ろから巨人と魔人の軍勢が侵攻を開始しようとしていた。


「すまない、王国の民よ。ここからは戦争ではない。蹂躙だ。恨むならば、弱い将軍と王を恨んでくれ」


 アウグス・バロックク・マグガルド・イシュタロスは王国兵へ恐怖を与えて戦場を後にする。


 国境という境をなくした王国は、帝国の大軍に留める壁を失う。


「ディアスボラ!」

「無理難題でしょうな。あれを止めるのは、ですが数秒は持たせましょう」


 いくら大罪魔法使おうと、あの人数を相手では魔力が続かない。


 むしろ、限界を超えて大罪魔法に飲まれるのはこちらの方だ。


「狂おしい! 狂おしいほどに嫉妬するぞ! アウグス・バロックク・マグガルド・イシュタロス!!!」


 それでも我は王国を維持しなければならぬ。


「テスタ。今こそ手を取り合う時だ」


 絶望に近い感情を抱く我に声をかけたのは、王国の増援を連れて現れたユーシュン王であった。


 

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