挑発する仮面
皇国の者たちが退却したことで、ボクの元へと帝国の将軍や兵士たちが集まってくる。
全員を寝かせてしまってもいいが、ここはタシテ君を待つことにしよう。
「貴様ら! 何者だ! 皇国の味方をしたことは明確である。この人数を相手に勝てると思うなよ!」
ジュリアの隣にいる美人が毅然とした態度で告げてくる。ボクとして眠たい話だ。
時間稼ぎをしているだけなので、名乗る気も起きない。
エリーナとアンナを見れば、エリーナが前にでる。
「ふふ、あなた方は誤解しておりますわ!」
ビシッとポーズを決めて将軍達を否定する。
「そうですね! 我々はどちらの味方もいたしません。ただ、無駄な争いを止めたにすぎないのですから。誤解しないでいただきたい」
エリーナの横に並ぶ豚の仮面をつけたアンナ。
二人の行動が面白くて、ついつい見入ってしまう。
「なっ、なんだと! 貴様らは一体何者なのだ!」
「ふふふ、よくぞ聞いてくださいました! 私たちは正義の使者!」
「そうですね。我らが主人様の奴隷」
「正義の使者で奴隷? 意味がわからない!」
「ふん、愛の奴隷という意味では間違いではありませんわね」
うん。二人とも仮面をつけて、別人になったつもりでノリノリだね。
「頭の硬い人と話すのは面倒ですね」
「そうですね。話すだけ無駄ではありませんか?」
うんうん、凄く煽るね。
「貴様ら! たとえ敵じゃないとしても許さぬぞ!」
どうやら煽りは成功したようだ。
兵士たちがボクらを攻撃しようと武器を構える。
「戦いを〜やめて〜くださ〜い!」
そんなボクらの時間稼ぎが成功したようだ。
ナターシャが空一面に現れて、戦いを止めるための叫び声を上げる。
彼女が回復術師として活躍していれば、帝国兵はある程度の人数がナターシャの声で戦意喪失するはずだ。
アレシダス王立学園の頃から、彼女はそういう人気は高かった。
「なっ! あれはどういうことだ! どんな原理で!」
「ハァー、もういい。兵士たちに武器を収めさせるように言いなさい。皇国はすでに逃げた後。事情もわからないおかしな奴にナターシャのあのインパクトでは、兵士たちも戸惑ってしまうことでしょう」
ジュリアがため息混じりに命令をする。
どうやら彼女はボクに気付いたかな? 忌々しい相手を見るようにボクが睨まれる。
「かしこまりました」
「あいやまたれよ!」
「なっ! 君はどこかで?」
ジュリアはタシテ君の顔を覚えていないのかな? まぁアレシダス王立学園ではあまり交流は持っていなかったからね。
「我が名はタシテ・パーク・ネズール。イシュタロスナイツ第五位ジュリア・リリス・マグガルド・イシュタロス様にお渡ししたい書状があります!」
「私に?」
「どうやらボクの出番は終わりのようだな。なら、ボクは皇国に向かうとしよう」
「おい! 待て! 貴様は何者なのだ?」
「ジュリア将軍。いずれまた必ず会うことを約束するよ」
ボクはエリーナとアンナを抱き上げて、バルニャンによって引き上げてもらう。
魔法などで攻撃されることを考慮して、バリアを張っておいたけど。
タシテ君の申し出。
ジュリアの命令。
それにナターシャの活躍で戦場からは戦う気力が失われているようだ。
ボクらはそのまま皇国と国境を超えて、皇国が誇る砦に降り立った。
武士の鎧を纏った者達をボクらを取り囲む。
「待て待て待て! その方は大事な客人だ!」
クーガが現れて武士達を止める。
その後ろにはムクロと、知らない者達が二名並んでいた。
「クーガ皇王に謁見を申し込みたいんだけどいけるかな?」
王様に対する態度とは思えない、バルに乗ったままの姿勢で問いかける。
皇国の陣営はピリッとするが、クーガは朗らかに笑う。
「もちろんだ! むしろ、あんたを待っていたぐらいだ。書状は何通も送っていたからな」
「そうだったのか? それはすまないことをしたな」
「いいさ。自分なりに考えて行動することも大事だ。それに、俺たちは俺たちの力を示すことができた」
ボロボロの顔をした武士達がクーガの言葉に誇らしい顔をする。
皇国は普通に帝国に戦えば、大国である帝国に勝てなかっただろう。
今回のような奇襲を続けてもいつかは限界がくる。
大量殺戮兵器でも変わるかも知れないが、そんなものを許すほど魔法という技術は甘くない。
科学の発展がしているであろう帝国や、王国であってもエネルギーを貯める魔高炉の爆発でしか高出力のエネルギー爆発は生み出せない。
だが、そんなことをすれば、残るのは人が住めない荒野だけしかないのだ。
それこそ魔王が住むと言われる《魔王の住処》ような場所になってしまう。
「まずはこっちにきてくれ。そんな格好をしているのにも意味があるんだろ?」
クーガなりの配慮を受けて、ボクらは将軍達が陣を構える天幕へと案内された。
「改めて、リュークの兄貴! お久しぶりです!」
そう言って頭を下げるクーガ。
それに続いて、ムクロも地面に膝を折って頭を下げた。
「おいおい、皇王自ら頭を下げるのは良くないんじゃないか?」
「何を言ってんすか。リュークの兄貴は、ある意味で俺たちの主人みたいなもんだ。俺は任された城を守っているだけだって思ってるぜ」
ボクはクーガの態度に諦めて仮面を外す。
仮面を外したところで初対面の人間達はわからないだろうが、一番老人だと思っていた人物がムクロと同じように膝をおり、残っていた二人もそれに習う。
「うむ。なら話は早いね」
ボクはバルニャンを椅子にして腰を下ろす。
「停戦しろ」
「なっ!」
ボクの命令に全員が唖然とする。




