割り込み
ボクらがモースキーに教えてもらった情報を下に、皇国との国境を目指していると歓声が上がり出した。
馬に揺られて数日で、やっとの思い出たどり着いた場所は、すでに戦場と化していた。
偵察に赴いたタシテ君の報告では、すでに帝国と皇国の戦いは激化しており戦いは始まっている。
「リューク様」
タシテ君が膝を折ってボクへ礼を尽くす。
「どうしたの?」
「どうか私に帝国への使者をさせていただけないでしょうか?」
「使者?」
「はい。私にイシュタロスナイツ第五位 ジュリア・リリス・マグガルド・イシュタロスの相手を任せて欲しいのです」
「ほぅ〜」
タシテ君の申し出にボクは眉を顰める。
「何かあるのかい?」
「……こちらを」
ボクはタシテ君が差し出した書状に目を通す。
「ふ〜ん、なるほどね。ここまで来ることが君の目的だったわけか」
「はい。そして、リューク様を連れてくることが目的でした」
「ボクを?」
「はい! あなたは英雄になられる方です!」
アツい眼差しを向けられる。
その瞳に曇りはなく、彼は始めて話した時からずっとこの瞳をしていた。
「面倒だ。ボクはただダラダラしたいだけだよ」
「もちろんです。リューク様の望みのままに。ですが、そのために必要なことであればリューク様はその歩みを止めることがないこともわかっています!」
タシテ君は、カリンと同じようにボクを働かせることが好きだね。
一年次の学園剣帝杯の時もそうだった。
ボクはやる気がないっていったのに、決勝リーグまでタシテ君の力で残ってしまった。今回も、彼の思惑に乗せられることになるんだね。
「いいだろう。タシテ・パーク・ネズール。ジュリアを止めてみろ」
「はっ! 嬉しきお言葉!」
「クウ! クロマ! タシテ君を頼む。もしも、死んだならボクの下へ連れ帰ってくれ」
「「はっ!!」」
二人が戦闘スタイルであるメイド服へと着替える。
「ありがとうございます!」
タシテ君は死んだならと言っているのに、感動した顔を見せる。
うん。君も変だよ。
「あとはナターシャを見つけたら、やってもらいたいことがあるから。クロマ、ちょっと」
「はい?」
「あの魔法は使えるかな?」
「はい。できますよ」
「なら、それをお願い」
「かしこまりました」
ボクはクロマに下準備をお願いして、ナターシャの救出もお願いした。
「いいさ。なら、ボクはクーガと皇国の軍勢だね。エリーナ。アンナ。付き合ってもらうよ」
「ええ! どこへでも」
「お任せください!」
全身タイツ姿になる二人。
その姿にもならなくてもいいけど、気に入ったのかな? 仮面をつける意味ってあるのかな?
全員の準備ができたので、あとは突入に向けてタイミングを待つ。
♢
《sideクーガ・ビャッコ・キヨイ》
帝国が戦いを先延ばしにしていることが見てとれた。
「俺たちは舐められてるんだろうな」
「皇王!」
「わかってんよ」
三人の将軍たちの思いは俺と同じだ。
皇国が舐められているなんて許せねぇよな。
前回は、俺一人で苦戦した。
だが、今回は皇国が誇る武士が揃ってんだ。
「先陣は俺がいかせてもらうぞ」
ムクロに調べてもらった情報を下にして、俺たちは奇襲をかけることにした。
どうやら奇襲は成功した様子で、帝国兵が混乱する中で乱戦が始まった。
俺の前に美しい女が現れる。
「皇国の王よ。我こそは帝国イシュタロスナイツ第五位ジュリア・リリス・マグガルド・イシュタロス将軍だ」
「おうおう、帝国の大将ってことかよ。いいねぇ〜いい女だ。俺が勝ったら一晩の相手をしてくれよ」
「お前が私に勝てるのなら、この体好きにすればいい」
「いいねぇ〜面白い」
俺は白槍を肩に担ぎ、白虎に跨って将軍をを見下ろす。
半身になってレイピアを構えた瞬間に、圧倒的な威圧感を放ち始める。
面白い!
「いざ!」
「いざ!」
「「参る!」」
互いに高速で動き始める。
いや、俺は相手の動きについていけていない。
白虎が対応してくれなければ、一撃で終わっていた。
「なっ!」
「ほう、よいペットをお持ちのようだ」
「ペットじゃねぇ! 守り神だ!」
「そうか、ならば将を討つために、馬を倒させてもらおう」
俺は白虎に守られている。
悔しいが強さは向こうが上だ。
白虎と帝国の将軍が睨み合う。
青き雷鳴が木霊して、白虎が雷の速さで動くのたいして、帝国の将軍が全く同じ速度で対応する。
爪と剣がぶつかり合う音が響き合い。
俺は肉体強化を施して、白槍を振るう。
「くっ!」
強者同士の衝突に力場が生じて弱者は近づけない。
俺の白虎にしがみついているのがやっとになってきた。
「どうした神獣よ。その程度の力しか持ってはいないのか?」
「グルルルル!」
戦いは帝国の将軍が押している。
俺が白虎の背にしがみついているせいで、本来の力が出せていない。
だが、ここで白虎から降りれば、俺は確実に殺される。
どうすれば? どうすればいい!
「うおおおおおお!!!!」
帝国陣営から歓声が上がる。
将軍の誰かが討たれのたか? 帝国を消耗させることはできた。
ここは引く方が得策だ。
だが、簡単に引かせてくれるか? くそ、歳は近いはずなのに、老師に近い力を持ってやがる。
リュークの兄貴にしても、どうして世の中には強い奴が多いんだ。
「どうやら皇国の将軍を討ったようだ。神獣を足止めしていれば、こちらの方に分があるようだ」
「くっ! 白虎!」
ここはなんとしても逃げなければならない。
俺が捕まるわけにも、武士たちを失うわけにもいかない。
「甘い!」
帝国の将軍のレイピアが、こちらの油断をついて襲いかかる。
「邪魔するよ」
突然、俺と帝国将軍の間に仮面をつけた男が割り込んできた。
それに続いて、二人の仮面の女たちが現れる。
「くっ! 邪魔だてするとは何者!」
「ボクはバル! 冒険者をしている。故あって皇王の助太刀をさせてもらう」
「だっ誰だか知らないが、恩にきる!」
「なっ!」
一目散に俺はその場を離れた。
ちゃんと見ていなかったが、あの声はもしかして……。
「退却だ! 退却しろ!」
俺は武士たちを連れて、国境へ向かう。
帝国の将軍でないのなら、白虎の雷で近づけさせないようにできる。
俺は殿の役を任されて、武士たちが逃げる時間を稼いで、門を閉じさせた。
「あばよ!」
白虎は山を駆け上がって国境を越えた。




