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あくまで怠惰な悪役貴族   作者: イコ
第十章

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前夜 1 

《sideテスタ・ヒュガロ・デスクストス》


 帝国宣戦布告の報告を受けて、久しぶりに王都にあるデスクストス屋敷に戻ってきた。

 我を妻であるサンドラが出迎える。


「お帰りなさいませ。テスタ様」

「……」

「ハゥ!」


 何も言わない我の視線によって、サンドラは顔を火照らせて座り込んでしまう。

 連れ帰ったサクラが、サンドラの様子に驚いている顔を見せるが弁明はしない。


「ハァハァハァ! 幸せ!」


 サンドラはあれで幸せを感じる人種なのだ。


 ビアンカはいつものことだと、我関せずといった様子で、先に部屋の中へと入っていった。


「テスタ様、お帰りなさいませ」


 執事のバートンに荷物を預けて、サクラに専属メイドをつけるように命令を出す。


「かしこまりました。サクラ様、執事長のバートンです。よろしくお願いします」

「はっはい! よろしくお願いします」


 我の足は息子の眠る部屋へと向かう。

 長男のルークスは小柄ながらに、堂々とした雰囲気で眠っている。


「うむ。愛苦しいな」

「あっ、あぁ。あなた」

「サンドラ、よくやった」


 後からやってきたサンドラに子を産んだことを褒めて、我は部屋をでた。


 デスクストス家の当主は、子を抱くことはない。

 我も尊敬する父と同じく、子を抱くことはないだろう。


「少し出てくる」

「はい。いってらっしゃいませ」


 我は用意されている馬車に乗って王城へと向かった。


 すでに日は傾き、王城の謁見が終了している時間だ。

 城の前にガッツが立っていた。


「やっときたのか?」

「ずっと待っていたのか?」

「当たり前だろ。お前は今日戻るとしか言わなかった。謁見が終わった時間になれば、お前を出迎えられる者は俺ぐらいしかいないだろ」


 デカい図体をしたガッツ元帥に出迎えられて、我は王城の中へと入っていく。

 

 久しぶりにやってきた城は、随分と殺風景な装いに様変わりしていた。

 派手は装飾はなくなり、質素な飾り付けがなされた廊下を過ぎればテラスへと案内される。


「よくぞきた」

「やぁやぁ、テスタ。久しぶりだね」


 ユーシュン・ジルク・ボーク・アレシダス王。

 セルシル・コーマン・チリス侯爵。


「これで、アレシダス王立学園の同級生が揃ったわけだ。嬉しいな!」


 小柄な体をして、やかましく話し続けるセルシル。


「黙れ」

「ひぅ! てっ、テスタ君はあいかわずだね」


 ビビって座ったように見えるが、この男はそんなに弱くはない。

 ガッツが《不動》と呼ばれるのに対して、この男は《匠のセルシル》という二つ名を持つ。油断できない奴だ。


「だが、本当に久しぶりだな。それに、私たちの呼び出しに君自身が応えてくれたこと心から感謝する」


 セルシルに変わってユーシュンが立ち上がる。

 手慣れた様子で、我を席へと誘導した。


「此度の相手は帝国だ。王権派、貴族派だといっている場合ではない。貴様らの話を聞きにきた」

「……それを聞いて安心したいところではあるが、君の《《支配》》する貴族派は、父君が《《統治》》していた時とは違うように感じられる。大丈夫なのだろうか? 実際に、ゴードン侯爵、カリビアン伯爵はほとんど機能していないと聞く」


 ユーシュンの言葉に我は内情を話すつもりはない。


「問題ない」

「本当にそうか? 王国の物資の七割以上はカリビアン領からもたらされている。鉱物や武器はゴードン領からだ。本当に大丈夫なのだろうか?」


 後方支援を心配するユーシュンの言葉に我は沈黙で返した。


「ふぅ、テスタが来てくれたことは何よりも喜ばしいが、貴族派の者たちは何を考えているのかわからないからな。アクージ家は裏切りの可能性があり、ブフ家は人を動かす気はあるのか?」


 話している間にユーシュンの言葉に熱を帯びていく。

 次第に声を荒げて、怒鳴っていた。


「見苦しいな」

「なんだと!」


 我の言葉に、ユーシュンが怒りを表す。

 普段なら、聡明で冷静な男だが、帝国からの侵略によって緊張状態に入り、余裕がなくなっている。


「返答はしたのか?」

「まだだ」

「期限は?」

「十日後だ」


 ユーシュンは端的に答えたことで、先ほどの怒りも多少は落ち着いたようだ。

 ストンと座ってテーブルに置かれたワインを口にする。

 

「ユーシュン、そろそろいいだろ」

「あっ、ああ、すまない」

「テスタにお願いしたいことがあるんだ」


 ユーシュンに変わってセルシルが真剣な顔で我を見た。


「……断る」

「まだ何もいってないじゃない!」

「貴様のいうことなど想定できる。我は総大将はしない」

「なっ! なんでわかるんだよ!」

「貴様らの魂胆など見え見えだ。我を総大将にすることで、貴族派にいうことを聞かせようと思っているのだろう。そんな浅はかな思考でどうにかなるのか?」


 我は深々と椅子へ座り込んで足を組む。


 三人は暗い顔をして、策を全て無くしたような顔になる。


 これがアレシダス王国の重鎮たちかと思うと羨ましく思う。

 平和ボケしすぎている頭しかないことが、妬ましいほどに。


「貴様らと肩を並べることで、安心できることを示さなければ、我々は我々で動くだけだ。今日、ここに来たのは貴様らの覚悟を問うためだ。貴様らは本気で帝国と戦う気があるのか?」


 我の言葉に三人は顔をあげる。


「ある!」

「もちろんだよ!」

「当たり前だ!」


 戦う意志を示す三人だが、我は深々とため息を吐いた。


「口だけでなく、自分たちに何ができるのかを示せ。貴様らは何もしていない! 何かをして欲しければ、まずは自分たちで無償で示してみよ。求めるなら差し出せ。我々が貴様らのために動きたいと思うほどの相手になってからだ、話をするのは」


 我はそれ以上語ることなく席を立った。


「テスタ!」


 セルシルだけが立ち上がって追いかけてくる。


「待ってよ。僕らも何もしていないわけじゃないんだ。だけど、帝国の脅威に僕らだけではどうすればいいのかわからなくて、どうしようもないって……」

「本当にそうか?」

「えっ?」

「お前たちは普段から、努力が足りぬのだ。迷いの森近くだから、戦っている《《だけ》》で、偉いと思っている節がある。だが、それぞれの地域で大変なことを抱えているのは同じだ。自分たちだけが被害者顔した、そんな貴様らのいうことを誰が聞く?」


 セルシルが、ぐっと拳を握る。


 あの中ではセルシルは奮闘している方だ。

 だが、貴族派が生まれた意味を理解していなければ始まらない。


 この王国は滅びるだろう。


「貴様は参謀を務めているのであろう。ならば考えよ」


 我は王権派に対して、決別を口にして王城を去った。


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